何かが御幸の後ろを着いてきている。
密かに吐き出される獣じみた呼吸音と、人ならざるモノの気配。
先ほどまで出ていた月は厚い雲に隠れ、切れかけた蛍光灯が頼りなく通路を照らす。
室内練習場を出て自販機に寄り、一階の寮部屋を通り過ぎ、階段を昇っても離れない足音に、御幸は小さく息を吐いた。
ここが寮ではなくて自分がか弱い女の子だったならば、それはそれは怯えた顔を見せることが出来ただろうし、それなりに相手の畏怖欲が満たされたのかもしれない。いやまあ、これはあいつの性質としてやっているだけで、あいつ自身には特に畏怖欲がないことは知っているけれど。
それはそれで、どうなのだろう。
そんなことをつらつらと考えていたら、自室のドアに辿り着いてしまった。このまま気付かないふりで中に入ってしまうことも出来るが、流石の御幸もそこまで人でなしではない。これで今週何度目だ、と思いつつも、だらりと後ろを振り返る。
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