Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    Rin

    @suki_rinn

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 14

    Rin

    ☆quiet follow

    いくひよ、寺島と寒河江

    #いくひよ
    manyDays
    #さがてら
    lonelyPlace
    #遠野日和
    faroNiwa
    #寺島湖太郎
    lakeTaroTerashima

    猫舌の男の子「ゲーセン寄っていこうぜ」と寺島が言う。寺島と寒河江、桐嶋と遠野の四人が揃ったのは久々だった。まず昼になにを食べるか……ラーメン派の寺島とパスタ派の桐嶋でひと悶着あり、結局「腹減った。あれは?」と寒河江の鶴の一声により、看板の見えていたお好み焼き屋に決まった。
     てっきり二人の間を取るのかと思いきや、お好み焼きって。そもそも麺類ですらない。また喧嘩にならないだろうか……と日和は不安がっていたけど、二人はすんなり店に向かう。良かったのか。お好み焼きでも。そう思っていると、不思議がっている表情を察した寒河江が「俺はお好み焼きが食いたかったし」と言う。「あの店ならたぶん、焼きそばもあるだろ」と笑った。寒河江の言った通り、二人は仲良く焼きそばを頼んだ。我が儘を聞き入れつつ、結局は自分の食べたかったお好み焼き屋に入る。あまりにも上手な二人の扱い方(あしらい方)に日和は脱帽した。
    きっと、普段もそうして寺島の我が儘を聞いてあげているのだろう。容易に想像がつく。別に郁弥が我が儘を言っている、というわけじゃないけど……後でいくつか助言を貰いたい。日和は内心、そんなことを思っていた。
    「ゲームセンター、僕ら全然行かないよ」
    「うん。ゲームはあんまりしたことないね」
     郁弥と日和が珍しそうにUFOキャッチャーを見つめる。
    「そういうイメージねえな。俺たち家の近くにあるんだよ。こんな新しい感じじゃなくて、古~いボロボロのゲーセンだけどな」
     寺島が慣れた様子で店内を見回す。
    「雰囲気があって良いね。なにするの?」
    「UFOキャッチャー。俺の部屋、寒河江が取ったぬいぐるみばっかで……あっ、これとかいいんじゃね?取りやすそう」
    「アーム緩いだろ。なら右のがマシ」
    「ユーチューブで観ただろっ。今はもうアームとかじゃねえんだって」
     なにやら寺島と寒河江の専門的な会話が始まり、残りの二人はまごつく。店内の騒がしい音。これ程音量を大きくして、なにか意味があるのだろうか。郁弥は暇そうに、分厚いUFOキャッチャーのガラスに寄り掛かる。
    「……これ可愛いね。ゆるキャラかな?」
     寺島の二つ隣に立っている日和が、郁弥の方を振り向き、なにかを指差した。
    「そうかあ?なら俺、こっちの方が欲しいわ」
     一つ隣に移動した寺島が「可愛いだろ」と笑う。寒河江が中を覗くと、小さなぬいぐるみがたくさん積まれている。寺島が指差しているのはペンギンが子ペンギンを抱っこしているぬいぐるみ。遠野はカンガルーで、ポケットから子どもが顔を出している。
    「持ち上げやすそうだな。五百円はしねえだろ、一回百円だし」
    「兄貴に教わったことあるからたぶん大丈夫。ちょっと待ってて」
     寒河江と郁弥がすんなり百円を投入する。
    「えっ、ありがとう」
     見ていた日和は、慌てて郁弥の荷物を受け取る。まさか挑戦してくれるなんて……。取れたわけでもないのに嬉しくなってしまう。郁弥が真剣な表情でボタンを押す。アームの片方がカンガルーの首の根っこを捕まえる。ガラスに両手を付けて、日和は願う。
    「キャーッ!慎くんっ、もうちょっと後ろっ、あっ!惜しいわっ!」
     静かに見守っている遠野と真逆だ。寺島は彼女のフリをして喚く。
    「お前うるせえから黙ってて」
    「ひどい……」
    「あ~こいつ頭より胴体のが重いタイプか」
     寒河江は二度試し、今後の攻略法を考える。ちらっと隣を見てみると、桐嶋はカンガルーを前に転がす作戦に出たようだ。クレーンゲームは筒に落とすタイプではない。幾重も連なっているぬいぐるの前が開いており、そこに落とすだけで良い。
     確かに持ち上げるよりマシか。だが万一他のぬいぐるみに足など引っ掛かれば、身も蓋もない。今までの苦労が水の泡だ。そうだ……ペンギンの首の、タグを狙おう。
    「寺島の家、ぬいぐるみでいっぱいなんでしょ。もうそんなにいらないんじゃない」
    「俺もそう思う。けどこいつ、やっぱり欲しかった、とか後からうるせえんだよ」
    「たぶんこっちは、あと二回くらいで取れると思うけど」
    「そういうのはギリギリで引っ掛かったりすんだって。まあ見とけよ」
     寺島は笑いながら、寒河江の隣からゆっくり後ずさる。
    「……なんかすっげえ頑張ってるな」
     嬉しそうな遠野を呼ぶ。他の人の邪魔にならないよう、二人の背後に立ち辺りを見回す。この近くにカフェとかあったっけ。寒河江がぬいぐるみを取ってくれたとき、大抵その後ジュースなど奢っていた。本当は、そこまでして欲しいわけでもないけど……やっぱり自分のために、と思うと特別感があって嬉しい。
     あいつはもう忘れているだろうけど、一番最初に取ってくれたミジンコのキーホルダーから最近のキチーちゃんまで。我が家には思い出のぬいぐるみばかりだ。
    「たぶん遠野の宝物になるだろうな、あのカンガルー」
     寺島はにやりと笑う。
    「うん。寺島だってそうでしょ。嬉しそうだよ」
    「いやいや。俺はお前程じゃねえよ」
    「寺島が喜ぶだろうって、いつも取ってくれるんでしょ。みさえさんも妬けちゃうなあ……」
     今度は日和がにやりと笑って見せる。寺島は「みさえさんは関係ないだろ!」と恥ずかしそうに言う。気づいていないのだろう。寺島が今、どんな風に寒河江の背中を見つめているのか。本当は教えてあげたいところだけど……やっぱり言ってあげない。
    「なにニヤニヤしてんだよ!俺だって知ってるんだからな」
    「なにを?」
    「俺らのいないところでは、お前が桐嶋にべったりだって」
    「違うよ。誰から聞いたの?二人の方が、いつもべったりしてると思うけどな」
     ああ言えばこう言う。寺島は、遠野に口では勝てまい……と唸る。
    「まあ、でもべったりしたくなる気持ちもあるよ。郁弥はかっこいいからね」
     寺島は、ほう……と言って腕を組む。
    「じゃあ俳優のなんとか賢人より?星川キャプテンより?あいつの兄貴より?」
    「愚問だね。郁弥が一番だよ。僕は出会ったときからずっと、そう思ってるけど」
     そんな質問をされるなんて、思ってもみなかった。日和は声に出して笑う。
    「もしかして寺島の一番は寒河江なの?」
    「ん~、桐嶋は笑うと童顔っぽいだろ。イケメンってなら寒河江も負けてねえよな」
     などと言うものだから。日和は寄り掛かっていたガラスから背を浮かせ、首を振る。
    「いいや。郁弥の方がかっこいい」
    「寒河江ああ見えて女子にめっちゃモテるんだぞ。他のスポーツも満遍なく出来るし」
    「郁弥も運動神経は良いよ。あと、優しくてわざわざ家まで送ってくれたりするし」
    「いやいや、性格イケメンってなら桐嶋より寒河江だろ!優しさなら負けてねえよ」
     と言っても遠野には全く分からないらしい。寺島はマジかよ遠野、と眉をひそめる。
    「郁弥の方が優しくて、水泳もうまくてイケメンです……」
    「水泳挟むのはずるいぞ。い~や、寒河江の方が優しいからイケメンだな」
    それからも、遠野は「郁弥です」としか言わなくなる。お前はなんだ。ロボットかよ。
    「そもそも俺たち何してんの」
    「わかんない。寺島が始めたんでしょ」
    「そっか。もうやめよ」
    「そうだね」
    「……あ。終わったみたいだな」
     不毛な議論をしている内に、向こうの争いも終わっていたようだ。内一方が項垂れ、一方がガッツポーズを取っている。寒河江の明るい声だけが背後に聞こえる。
    「だから言ったろ?そういうのは他のぬいぐるみに足を取られんだよ」
     一足先に寒河江が景品を落としたらしい。次に悔しそうな郁弥が背中を丸める。
    「今日は思ったより時間かかったな。取れたぞ、寺島」
    「時々だと難しいものだね……でも取れて良かった」
     二人がそれぞれのぬいぐるみを手渡す。日和は満面の笑みで、手のひらに収まるほどのぬいぐるみを抱き締める。寺島は早速写真を撮り、自分の鞄に付ける。
    「ありがとう。大切に飾るね」
    「うん。また欲しいものがあったら言って」
    「やっぱ寒河江に頼むのが一番だなっ、ありがと~!」
    「ん。このままどっか座るか……喉乾いた」
     寺島がきょろきょろ辺りを見回す。鞄でペンギンが揺れている。取っているときはなんだこいつの顔、可愛いか?と思っていたけど、間近で見ると可愛いものだ。自分が取ったもの、という一種の愛着もあるのかもしれない。ペンギンが首からぶら下げているリボンを引っ張ってみる。寺島に「取れたらどうすんだよ!」と怒られてしまった。
    「二人はなに話してたの。楽しそうだったよね、日和も」
     カフェの前に着き寺島と寒河江の足が止まる。
    「あ、見てたんだね。あれは……」
     日和がなかなか口にしないもので、郁弥は不審に思う。助け舟を出したのは寺島だった。にやりと笑った寺島が先に口を開く。日和も顔を合わせ、楽しそうに笑っている。
    「霜狼ん中で寒河江が一番かっこいいって、遠野が」
    「寺島は郁弥が一番イケメンなんだって」
    「……はぁ?そんなこと、こいつが言うわけねえだろ」
     寒河江が素朴に言い切る。桐嶋はどんな反応をするだろう。寺島が店に入りちらと振り返ると、「今はそういうことにしておいてあげる」と遠野に呟いている。遠野の頬が赤い。してやったり……だった自分たちが、これではすっかり被害者だ。
    「あ~こりゃ確かに、桐嶋の方がイケメンかもな」
    「だからなんの話だって」
    「いいや。絶対寒河江には言ってやんない」
    「お前なあ……」
     笑っている寒河江が寺島の頬を引っ張る。それでも、俺の中じゃお前が一番なんだって。寺島はカフェメニューを振りかざし、「今日は俺の奢りだから好きに頼みな……」と言いつつ、「これでいいんだろ?」と一番安いホットミルクを指差す。
    桐嶋が飲んだのは日和の奢りのミルクティー。寒河江が頼んだのは、店で最も高値のプレミアムブレンドティーだった。日和はレモンティー。寺島はホットココア。「熱い」「遠野猫舌かよ……あっつ!」「これも熱いよ」「こっちもだな……」と言いつつ、四人でフーフーしながら飲んだ。

    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works