灰王とカケ王窓の外からハイジさんの声が聞こえる。曇った窓をタオルで拭くと、誰かと話している彼の姿が見えた。窓を開けるとカラカラと軽い音が響く。王子は窓枠に肘を乗せ、その場に腰を下ろす。そこで楽しそうなハイジさんが王子の視線に気づき、チラチラ部屋の方を見て来る。彼は口パクで「かぜをひく、まどをしめろ」とだけ言った。
それもそうだ、と王子はマフラーを巻きコートを着る。今までの笑顔が苦笑いに変わり、ハイジさんは「違う。そうじゃない」とばかり眉をひそめている。早く家に入って欲しい。理由は会話の相手が近所の女子だから、などではない。記念すべきクリスマスの今日、わざわざハイジさんに会いに来たのだろうとか。まさかプレゼントまで渡す気だろうか、とか。決してそういうわけでは。
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