Don't expose him.何だかんだと双子とは仲が良かったと思う。家がお隣同士だった事もあり、生まれた時から兄弟のように育った。
小さい時は毎日のように遊んで、週末にはお互いのお家にお泊まりして……だけどその関係も中学になると変化が訪れた。ジェイドとフロイドにそれぞれ彼女が出来、一緒に居れる時間が激変したからだ。
最初こそ喜んでいたはずなのに、僕の心は数ヶ月もしないうちに別の感情が芽生え始めた。友達をとられた気分にでもなっているんだと、心を落ち着かせようとして1年。僕は気づいてしまった。2人の事を好きなんだと。彼らは異性愛者なので、僕を好きになって貰えるはずがないと諦めるのに1年。僕は双子から逃げるように、別の高校受験をし物理的に離れる事に成功した。僕が通う高校は家からかなり離れた全寮制の男子校。学業と寮生活の両立に、手こずったものの、持ち前の努力でカバーし慣れてきた頃には何故かちらほらと告白されるようになった。告白されて気づいたのだが、僕は同性愛者でもないようだ。毎回丁寧にお断りをしていたのだが、これでは双子への気持ちを断ち切る事が出来ないのでは?と考え、今度は合コンに誘われるままに参加してみた。僕は異性愛者でもないようだ。どうやっても双子が、僕の心から離れていってくれない。どうしたら良いのか悩んでいたら、あっという間に高校最初の夏休みにより帰省が始まった。
双子になるべく会いませんように。そう願いながら家に帰ると
「おかえりなさい」
「おかえり〜」
とジェイドとフロイドが出迎えてくれた。何故僕の家にお前たちが?とは思ったが僕の心でも読みとったかのように
「アズールが帰ってくると聞いたので待っていました」
とジェイドが言った。
表面上はにこやかなジェイドとフロイド。でも何十年も一緒だった僕には分かる。とてつもなく不機嫌であると。
「そうですか」
僕は素っ気なく答え、自分の部屋に荷物を置きに行く。手洗いとうがいを済ませリビングに行くと、双子が食事の用意をしてくれていた。
「アズールのママが先に食べててって〜」
フロイドが僕の為に椅子を引いて座るように即しながら伝えてきた。仕方なく応じると双子もそれぞれ定位置に陣取った。
3人でいただきますと言ってから食事を開始する。早く食べて、双子には早くお帰り願おう。そう結論に達し、黙々とご飯を食べ進める。
「アズール。合コンは如何でしたか?」
唐突のジェイドの問いに、ご飯を詰まらせゴホゴホと咳き込む。コップに入ってるお茶を一気に飲んだ。
「お前は僕の母親か? いや母親でもその話はタブーだろ」
僕が突っ込むと
「学校でもモテてるんだってねぇ〜。告られてるんだって?」
今度はフロイドが追撃してきた。
「黙秘します」
僕は黙々とご飯を食べる。双子は顔を見合せ、僕が話す気が無いことを悟ったのか、食べる事に専念しだした。これ幸いと僕はご飯を急いで食べ終わり、ご馳走様を言うと食器をキッチンのシンクに置いた。
するのジェイドが
「美味しい紅茶の茶葉が手に入ったんです。お飲みになりませんか?」
そう言うので、
「頂きます」
と答えた。
「アズールはお疲れでしょうからダイニングのソファーにでもフロイドと一緒に座ってて下さい。すぐに紅茶をお持ちします」
ジェイドが言うと
「そうしよ、アズール」
フロイドが手を引っ張って強制的にソファーに座らせる。話をぶり返させるなら今日は帰って貰うおと思っていたのに、フロイドは全く別の話をふってきた。僕の嫌がるような話は一つもしてこないどころか、僕が楽しくなるような話をしてくれているのに、何故だかとても眠くなってきた。
「アズール眠いの? 寝ても良いよ」
そうフロイドが言ったと思うが、もうほとんど夢の中で聞き取れはしなかった。
そしてどれだけ眠っていたのか分からないが、気づいたら知らない部屋の知らないベットで眠っていた。眼鏡がないのであまりよく分からないが、キョロキョロと辺りを見回す。
「あはっ、アズール起きたぁ? おはよ」
ご機嫌なフロイドが眼鏡を持って来てくれた。
「おはようございます。ここは何処です? そして今何時だ? フロイド」
僕はスマホを探しながら答えたが、どうやら所持していないようだった。
「ここは僕らが所有する別荘です。時間は午前3時16分。アズールがお食事をしてから、約5時間経過しています」
ジェイドが答えた。
「スマホは没収したからぁ、アズールには渡さないよぉ〜」
ニコニコとフロイドは嬉しそうにしている。
「この状況が理解出来ません。お前たち、僕に何をした?」
「アズールのお母様には了承済みです。僕達は夏休みの間、ずっとこの別荘で3人きりで過ごすんです」
「いつ僕がそんな事を承諾しました? 帰ります。此処が何処だか教えなさい」
僕はベットから出ようとしたが、フロイドに素早く阻止された。
「残念ですがお教えする事は出来ませんし、帰るって言ってもどうやって? 貴方はお金もスマホも持っていないんですよ?」
「ここから出れたら、どうにでもなります。さぁフロイド離れなさい」
抱きついて離れないフロイドを何とか力技で引き離そうとした時、
「アズールぅ? 今、付き合ってるやついるのぉ?」
と全く脈略のない質問をフロイドがしてきた。それに答えるつもりは無かったのに
「居ません」
と僕は答えてしまい、慌てて口を抑える。どうして僕は答える気のない質問に回答しているのかパニックになる。
「アズール、好きな方はいらっしゃいますか?」
今度はジェイドが質問してきた。
「居ます」
やはり僕の意志とは関係なく答えてしまう。
「どうして、勝手に答えてしまうんだ!」
「お薬まだ効いてるねぇ〜。アズールは〜、ちょっと眠くなるお薬とちょっと素直になっちゃうお薬を飲んでるからだよぉ〜」
フロイドが僕の疑問に答えてくれた。それって睡眠薬的なモノと自白剤的なモノを飲まされたって事か? 最悪だ! 僕は慌ててこの家から出ようとする。
「そんなに慌てないで下さい、アズール。貴方と少しお話がしたいだけなんです」
胡散臭い微笑みを浮かべながらジェイドが囁く。
「僕は話なんかない! どけ! 帰る」
「アズール、貴方は僕達の事を好きですか?」
「好きです」
「それってぇ〜、恋愛の意味で?」
「そうです」
「それなのに何故僕達と一緒の高校に入学せず、遠く離れた全寮制の高校に?」
「お前たちが彼女を作る度にしんどくなったんです。僕にはお前たちと付き合える資格がないから。だから遠く離れたくて逃げた。……クソっ、最低だ! 言うつもりなんて無かったのに」
僕は悪態をつく。それに引き換え双子の嬉しそうな顔といったらなかった。
「なんだぁ〜、俺たち両思いだったんじゃん」
「アズールに欲を向けてはと思い、渋々どうでも良い方とお付き合いしていましたが、もっと早くに行動すべきでした」
「ほんとにぃ〜。アズールが急に離れていっちゃったから、他に好きなやつでも出来たのかと焦ったぁ〜」
口々に双子が言っているが、僕は気持ちがついていけず、
「たった今、お前たちの事が嫌いになりました。こんな事をするお前たちは嫌いです。違う。本当は好き。離れないで」
僕は裏腹な言葉を紡ぐ。ままならない思考と感情に僕は苛立ち、ポロポロと涙を流す。
「泣かないでぇアズール」
「泣かないで下さい、アズール」
2人とも僕に寄り添い、涙を拭う。
「言いたくない事まで言ってしまい腹が立ちます。感情が抑えられない」
僕が憤ると
「意図せず俺らに告白しちゃって恥ずかしくて泣いちゃった、とかじゃないところがアズールらしくてウケる」
「アズールらしくて最高です。ところでアズール。僕達は両思いという事が分かったので、身も心も僕達を受け入れて下さいませんか?」
「は? 調子に乗るなよ。受け入れますが……クソ!」
「さっきから品がありませんよアズール」
「お前たちが今から僕にしようとしている行為も品がないのでは? それなら清くお付き合いしていきましょう。……違う、身も心もお前たちを寄越せ」
「仰せのままにアズール」
「いいよぉアズール」
2人は満面の笑みで答えた。
「お前たちは勿論身も心も知識も準備は整ってるんですよね? 僕は全くのぶっつけ本番になります。せめて情報を齎せ」
「承知致しました。それでは僕が情報をお伝えする係。フロイドが実践係として、頑張らせて頂きますね」
「アズール、一緒に気持ち良くなろうねぇ〜」
「腹は括りました。お前たちを受け入れてやりますよ」
僕は高らかに宣言し、ベットへ大の字にダイブした。
その夜どうなったのかは黙りを決め込みたい。
【END】