ふんふんと上機嫌な音符を響かせながらお土産を片手に帰宅したレオは玄関扉を開いた瞬間に弾けるクラッカー音に襲われた。
パーティーなどで使われるクラッカーから飛び出してきた色とりどりのテープや紙吹雪を頭から被りレオは驚きに瞼を開閉させた。
「お帰りなさい、レオさん」
「あ、うん……わはは、急に何だ〜?」
クラッカーの紐を引いた司は悪戯を成功させた子供のように笑いレオの帰宅を迎えるとずいっとレオに顔を近付けた。
「今日が何の日かお忘れですか?」
「え?今日って何か大事な日か?あれ?待って考え……」
「ふふ、良いのですこちらへどうぞ」
空いているレオの手を取って司は部屋の中へと促し、レオは靴を捨てる様に脱ぎながら司に手を引かれるままにリビングへ入ると、テーブルの上にはご馳走が並んでいた。
誕生日でもないし、祝日でもない。一体何の日だと首を傾がせるレオの手を一度離し司はご馳走の脇に置かれていた花束を取ってレオの前で片膝を付いた。
「え?なんだなんだ?」
「レオさん、あなたと出会って10年が経ちました」
「あ、あー……そういう……」
騎士道を謳ったアイドルユニットのリーダーとして過ごしてきた司のあまりにも板に付いた所作が10年という時を伝える。それが『お姫さま』相手ではではなく自分に向けられると少しばかり照れる。外見にそぐわないアラサーと呼ばれる区分に属しているのだ。内面は流石に10代の頃よりは落ち着いているが、それでもやはり特別な愛情を感じれば浮上するものだ。ときめく、という新鮮なメロディーが頭の中に湧いて花束を受け取ると自然と笑みが溢れた。
「レオさん、これからも私と共に居てくださいますか?いいえ、居てくださいね?」
花束の次には再び手を差し出され、両手の塞がったレオはどうしたものかと悩むも、自身もしゃがんで司の掌にチュッと音を立てて口付けた。
「当たり前だろ〜?今更どうやって離れたらいいかなんて分からん」
にっと大きく口端を持ち上げて笑うレオに司も笑みを返し差し出した手でレオを抱き寄せた。どれだけ時が経とうとも司の腕の中が一番暖かくて落ち着く、それだけは変わらないと思う。
「ところでレオさんは何を持ってるんですか?」
「あ、そうだった!意味はなかったんだけどケーキを買ってさ?でも意味が出来ちゃったな?」
「あなたとはいつも偶然が必然のようになってく気がしますね」
「うん、お祝いをしよう!今とこれからに」
並ぶご馳走、花瓶に生けられた美しい花束、フルーツのたっぷりと乗ったケーキ。
向かい合って座りワイン入りのグラスを鳴らす。
一枚絵のような一時で語るは10年後の未来。
また、こんな風に。その時はあんな風に。楽しげな想像がいつかきっと。