「貴方に恋したことを誰にも知られたくない」 授業の合間、つかの間の休息。
二人しかいない空き教室に花京院の笑い声が響く。くしゃりと笑った目尻に薄らと涙を浮かべ、大口を開けて笑う姿は今でこそ見慣れたものの、最初は普段見る姿との違いに少し驚いたものだ。
つられて笑う承太郎が学帽の鍔に手をかけたのと同時に、休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。
「あぁ、もう行かないと。じゃあ、また」
軽く手を振った花京院はドアの方へと歩いて行く。その背中を見ながら、もうこの時間が終わりか、と残念がる自分がいることに承太郎は驚いた。
このままここでサボってしまおうか。
自分でも理解出来ない感情に一息入れようと、胸ポケットからタバコを取り出して一口大きく吸い込む。長く吐き出した煙が行き場を探すようにくゆっていくのをぼんやりと見つめ、吸いたい気分では無いのだと靴の底で火を消した。
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