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    neno_taro4869

    @neno_taro4869

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    neno_taro4869

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    K新、快新。
    皆さんからお題を頂いて小説を書くということをしました。お題は。
    「ここからはじめよう」
    「約束の日、覚えてるか?」
    「触れたい」
    「ほかのやつには見せない」
    いまはまだ、夢の途中
    この5つです。
    どこにお題が入ってるのか見ていただくのも楽しいかなと思います。

    #K新
    k-new
    #快新
    fastNew

    一年と半分の追いかけっこ いまはまだ、夢の途中──しかし、やわらかな意識の領域を抜け出して、黒羽快斗はゆっくりと眠りから覚醒していくのを感じていた。
     深い水底から浮き上がるように揺らぎながら、しかし明確になっていく自分というものを形作る体感が戻ってくる。
     手足の末端までの感触、繰り返す呼吸。この体に巡らす血液の流れ。すべての感覚を快斗は無意識下から掌握し直す。
     明確になった頭脳に今日の日付と、怪盗を引退してからの日数が浮かび上がった。
    あれから545日。今日で怪盗を引退して一年半になる。
    「さあて名探偵……」
     快斗は上掛けの寝具を勢いよく剥がすと、ベッドから体を起こした。
    「約束の日、覚えてるか?」
     快斗の顔に笑みが浮かぶ。それはまるでプレゼントを待つ子どものように、楽しくて仕方ないといったものだった。
     そう、これは長い時間をかけた大きなプレゼントだ。

     今日この日から545日、一年半前に見た好敵手の顔を思い出す。
     快斗──キッドが引退を宣言したその日、『名探偵』と白き怪盗が愛着を持って呼んだライバルは、青石の輝きの瞳に悔しげな色を滲ませてこちらを見ていた。
    「俺は必ずオメーを捕まえる……! オメーがどこに消えようとだ」
     ゾクゾクした。
     あの名探偵、工藤新一が自分に見せる執着を感じて、愉悦で総身が震えるようだった。
    「では期限を設けよう」
    「期限?」
    「そう、勝負に限りは付き物だ。もしこれから……そうだな、一年半後までに俺を見つけられたら名探偵の勝ち、逃げ切ることができたら俺の勝ち」
     名探偵の瞳が悔しさから隠しきれない好奇心の色に変わった。
    (喰いついた)
     怪盗キッドという謎は消える。だが俺という答え合わせへの欲求にお前は抗えないだろう。
     持ちかけて条件を提示し、それからキッドは思いついたように付け足した。
    「そうそう、勝負と言えば報酬が付き物。敗者は勝者の願いを叶える、これでどうだ?」
    「いいだろう。一年半、それまでにオメーをこの手で捕まえてやる」
     工藤新一の顔は期待で輝いていた。
     それは謎を目の前にしたときの、魂を奥底から発光させるような輝きで、キッドはそれを脳裏に焼きつけた。
     これから一年半はもう直に好敵手の顔を見ることはないのだから、しっかりと記憶に刷り込ませたかった。
    (過去のコレクション箱に仕舞われた、過ぎ去った謎になどなってたまるか)
    「名探偵」
     スイッチを押して、マントをハンググライダーの翼に変える。キッドは飛び立ち、上空から小さくなっていく好敵手を眺めた。
    「ここからはじめよう」
     終わりじゃない。新しいステージはじまりはここからだ。
    ──追い求めろ、俺を。
     地の果てまでも、蒼天の頂きまでも。

    *****

     それが一年半前の出来事。
     今日が期限の日だ。
     あれから快斗は怪盗キッドへの関連と足掛かりを全て消し去り、周囲に疑いを持たれないように的確に身を隠した。
     今日という期限に、もし名探偵が快斗を探し当てなければゲームオーバー。
     だが、あの喰らいついたら離さない、鮫のような探偵が何もアクションを起こさないなどとは思えない。
    (これは確信だ)
     海の生き物に例えるなど精神上よろしくないが、それがしっくりくるのだから仕方がないだろう。
     快斗が身支度を整え終わると玄関チャイムが鳴った。
    (きた……!)
     なんの変哲もない機械音で構成されたメロディが、運命を告げる鐘の音のように響く。
     歩いて向かった玄関のドアから気配が透けてくる。
     かつて快斗の同級生が彼を評して『光の魔人』と言わしめた輝きが、漏れて浸透するように快斗に届く。
    (この気を俺が間違えるはずがない)
     快斗は訪問者を確かめることなくドアを開けた。
     その先に立つのは間違いなく名探偵、工藤新一だ。
     一年半ぶりの再会だが、ここは感動して手を取り合う場面でもないだろう。
    「どちらさん?」
     快斗は開いたドアに手をかけたまま問いかけた。目的の分からぬ訪問者に対するように、そっけなく。
    「それはないんじゃねぇのかな」
     新一が首を軽く右に傾げ、片側の眉毛と瞼を引き上げるようにして快斗を睨め付けた。
    「こっちは一年半も前から約束してたんだけど?」
     そう言った工藤の顔は、以前残っていた僅かな幼さは削ぎ落とされ、大人の男に近づきつつある顔立ちになっていた。
    (それもとびきりの美人ちゃんに成長してやがる、ときたか)
     この一年半、名探偵の動向を知らなかったわけではない。偵察はかかさずにしていたので、ある意味誰よりも詳しいと言ってもいい。最近の顔だって見知っている。
     だが直接目に飛び込んでくる名探偵は強い酒にも似て、快斗の内側から熱くさせるものがあった。
    「なあ、黒羽快斗さん」
     新一に問われて快斗は口角を上げた。人畜無害の青年の顔から、夜の気配が漂う怪盗の色を滲ませるように。
    「結構しっかり足跡は消したつもりだったけど?」
    「ああ、確かに。ここに来るまでいくらか時間は使ったかな。でも……」
     言いかけながら新一は手に下げていた荷物を快斗に差し出した。
    「俺に追えないものなんてないさ。それからこれ、土産」
     ほら、と渡され、快斗が受け取ったコンビニの袋の中にはチョコレートのアイスが詰め込まれていた。
    「へえ……お見通しってことか」
     快斗は薄ぺらの袋の中身を見ながらクスクスと笑う。
     何もかも名探偵は調べ済み、ということだ。
     この潜伏場所だけでなく、好物を持ち込んでくることで、快斗のパーソナルまで把握済み、ということを見せつけてくる。
    「それで? 勝負あったってことでいいのか?」
     新一は快斗を見つめる。その瞳はプレゼントをもらう直前の子どものように期待に満ちている。
    「ああ、そうだよ。お前の勝ちだ」
     快斗は両手を胸の高さにあげて降参の意を示す。新一の顔に満足げな笑みが浮かんだ。
     ここにきた時点で名探偵の勝ちは決まっていたことだが、勝利の確定は必要な儀式のようなものだ。
    「とりあえず中に入ろう、ここじゃ目立つ」
     玄関先で話していた名探偵を家の中に誘う。
     快斗と新一が玄関を入りドアを閉めた。
    「上がれよ、座って話そう……」
    「いや、いい。それよりも」
     新一が快斗の言葉に被せるように言った。なぜかさきほどまであった勝者の余裕が揺らいでいるように見えた。
    「なに?」
     玄関ドアを背にして立つ新一は逆光に照らされてその表情はわかりにくくなっている。
    「願い、叶えてくれるんだろ?」
    「うん……?」
    「あのとき言ったよな? 敗者は勝者の願いを叶えるって」
    「ああ、そうだよ。名探偵は俺になにを望む?」
     快斗に叶えてほしいこととはなんだろう、このまま大人しく捕まって檻に収まることか、それとも──
    「触れたい」
    「え……?」
    「触れたい、オメーに」
    「名探……」
    「ストップ! なにも言いっこなしだ! 笑うのもなし!」
     快斗の言葉を新一が遮った。その声はいつもの強気の響きのままだったけれど、快斗から目を逸らした新一の顔が紅潮しているのが、逆光の中でも分かった。
    「笑うって、そんなわけねぇだろ。ほら! こんなのが報酬になるならご自由に、だ」
     快斗が新一の前で手を広げた。快斗と視線が合えば触りにくいだろうからと瞼も閉じる。
     しかしこれは快斗にとって想定外の展開だった。一年半前、勝負の報酬として申し出た『なんでも願いを叶える』という言葉は嘘ではないが、工藤新一を引き寄せるための指標でしかなかった。
     工藤新一が自分に叶えて欲しいことなど、せいぜい『大人しく捕まって出頭しろ』くらいなものだと思っていた。
     そして快斗は工藤新一の関心を引くためならそれもいいと思っていた。
     怪盗キッドという謎が消えて、『名探偵』の関心が自分から薄れていくくらいならそれでいいと。
     目を閉じた快斗の前に新一が一歩近づく気配がした。
    (すげぇ緊張する……!)
     快斗は耳の奥で血液がドクドクと勢いよく流れる音を聞いた。なぜ名探偵が自分に触れたいなどと言うのか。
     ただこれが、快斗にとって願ってもない状況だと言うことだけが分かることだった。
     指先に温かさを感じた。
     さらりとした新一の指が初めは遠慮がちに軽く触れ、一旦離れた。そして次はもう少し大胆に。
     ゆっくりと確かめるように指から手の甲へと辿り、新一の手の平で快斗の手の甲を温めるように覆われる。
     その感触は優しい慰撫のようであり、俄かに信じられないが親愛の情すら感じられた。
    (次はどうするんだ?)
     しかし、新一の手が次に触れる場所を想像しながら待っていたが、一向にその気配がない。
    「おわり」
    「……えっ!?」
     あわてて目を開ければ、新一はただ静かに快斗の前に立っていた。
    「もういいぜ。十分だ」
     そう言って快斗に背を向ける。その上、玄関のドアノブに手をかけている。帰ろうとしているのだ。
    「おいっ、もういいってなんだ! お前はこれだけの時間をかけて俺を探して、これっぽっちの報酬で満足したっていうのかよ!」
    「……そうだ」
     新一が帰りかけていた体をこちらに向き直る。
    「オメーはキッドの頃から近いようで、それでいて決して正体は掴ませなかった。だからさ……」
     さっきまで快斗に触れていた右手を眺めた。
    「実感したかったんだよ。生身のオメーを。だからもういいんだ」
     そう言って今度こそ快斗に背を向けると、ドアノブを引き下ろした。いや、下ろそうとした。
     ドアは頑固に動かぬままで、新一はその下にある内鍵を捻ったが、やはりドアノブは静止したままだった。
    「おい、これ──」
     新一が振り向くと、その背後には快斗が立っていた。新一をドアと自分で封じるように、両腕で覆って。
    「なにひとりで完結してんだよ、名探偵」
    ──ザワザワと心が揺れる。それは手にした宝石が、この手をすり抜けていくときの感覚に酷く似ていた。
     その焦燥は白い服を脱いだときに閉じ込めた、怪盗の影を快斗の表層に浮き上がらせる。
    「俺が大人しく帰すと思った?」
    「どういう……」
     快斗は腕に囲った新一に、話を続けさせることはなかった。
    「俺がわざわざお前をここに呼び出したのは、俺の正体に辿り着くだろう『名探偵』を拘束するつもりだったとしたら?」
     昏い瞳で快斗が新一を見つめる。
    「俺は所詮しょせん犯罪者だぜ?」
     新一の視線が快斗の瞳を奥を見透かすように射た。そしてごく自然に快斗の顔の前に手を持ってくる。
    「ばぁーろ!」
    「イッテェ!」
     新一が快斗の鼻の頭をピン、と弾いたのだった。
    「っなにすんだよ!!」
     快斗が鼻を押さえて怒鳴る。本当はさほど痛くはないのだが、驚いたのと、渾身の脅しの最中にこれはないだろうと思ったのが強かった。
    「オメーはすぐそうやって偽悪ぶる。そういうの向いてねぇからよせ」
     新一が快斗が押さえていた手を退けた。
    「本当に気持ちを隠してここにきたのは俺の方なんだよ……」
    「なにが……?」
    「本当に欲しかった報酬、もらうな……」
     新一の顔が近づいて快斗の唇に柔らかいものが触れた。新一の唇だった。
    「……」
    「オメーが好きだよ、ごめんな。というわけでここ開けてくれ」
     新一は何食わぬ顔で鍵のかかったドアノブをカチャと下ろそうとする。
    「なんで帰るわけ?」
    「え……それはさ、そうだろ? 嫌だったろ?」
     顔を近づけてくる快斗から今度は新一が距離を取ろうとすると、すかさずそれを快斗が引き戻した。
     新一の顔を両手で挟むと自分の唇を新一のそれに押し当てた。
    「んむっ……んー!」
     ドッ、と新一は快斗を突き飛ばしてその腕から逃れた。
    「ばっ、ばろ! オメーなに考えてんだ!?」
    「なにって、お前こそなに考えてんだよ!? 自分だけ告白して、言い逃げか!?」
     もう訳がわからなくなっている新一に快斗は再び顔を近づけた。この鈍感野郎にはもう強めの行動で示すしかない。
    「えっ、わ……!? ん!? んむっ……! ん──!!」
     新一の唇に快斗の舌で割り入ると、慄く新一の舌を捉えて絡めた。ちゅく、と水分の含んだ音を玄関で響かせて、もがいていた新一の体から力が抜けた頃にやっと解放してやる。
    「わかったか? 俺がさっき言ったこと、半分は本当だって」
    「はん、ぶん……?」
     力が抜けた新一の体を支えながら快斗が新一を見つめる、伝える言葉の一字一句を染み込ませるように。
    「こんな顔したお前を……」
     腕の中でキスの余波でトロリとした表情のままの新一を見て、快斗がきっぱりと言い放つ。
    「ほかのやつには見せない。ずっと閉じ込めておきたいって思うのは本当」
    「なっ……な……!」
     快斗の言葉に惚けていた新一の顔にカッと血が上る。いいぞ、と快斗は心の中で快哉をあげる、このニブチンにはこれくらいの衝撃を与えなければ伝わらない。
    「嘘いって……」
    「嘘だと思うならもう一回するぞ!」
    「ひ……やめろ! あんなのもう一回されたら気ぃ失っちまう!」
     新一が快斗に真顔で言った。それがおかしくて愛しくて、快斗は新一を抱きしめた。
    「好きだよ、お前が好きだ」
     腕の中で新一がギュッと強張るのが分かった。快斗は唱えるようにもう一回、好きだよと言った。
    「俺も……オメーが好き……だ」
     新一から辿々しい声が聞こえた。そして快斗の背に新一の手がギュッと回されるのを感じた。
    「うん……!」
     快斗も強く抱き返す。
     一年と半分かけたゲームが終わるのを快斗は感じた。いや、ゲームにかこつけた盛大な告白が成就したのを実感する。
     新一を腕に抱きながら、これから部屋に入って空白の間を埋める話をしようか、それともと快斗はその優秀な頭脳を悩ませたが、やはりしばらくこのままでいることに決めた。
     やっと手に入れた好敵手を、今は少しでも離したくなかったからだ。

     きっとこれから二人には無限の時間があるのだから。
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