おいしい時間 今日も魔法舎の厨房からはおいしそうな香りが漂う。
晶は入口から厨房を覗き込んだ。結われた空色の髪がトントンという音と共にリズムよく揺れている。
まだ朝食には少し早い。手伝いたい気持ちと、今はこの魔法舎の厨房の主と言っても過言ではないネロの、せっかくのひとりの時間を邪魔することになるだろうかと悩んでいると、がばっと後ろから肩に腕を回される。
「おっ、賢者! いいところで会ったな」
目の前に気を取られていたこともあるが、そうでなくても彼の気配には気づけなかったかもしれないとその人物を見上げながら思う。
「おはようございます、ブラッドリー」
「今日も朝からのんきな顔してるな」
ブラッドリーは朝が遅いわけでもないが、早朝に鍛錬をしているカインやシノなどと違い、まだ朝食の準備をしているような早い時間に現れることもない。肩に回された腕はひんやりしていて、厄災の傷でどこかに飛ばされていて、戻ってきたところなのかもしれないなと晶は察する。
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