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    komaki_etc

    波箱
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    北村Pの漣タケ狂い

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    かみしのリクエスト

    飴玉「男の人って、どうしてああ独善的なもの言いをするんでしょう」
     何故そんなことをここで言うのか、全くわからなかった。俺としたことが言葉に詰まってしまったが、咄嗟に「俺たちは優しくするよ」とウインク出来たことを褒めて欲しい。相手の女性は赤面して黙ってしまった。握手会という場面でそんなことを言われたのは、生まれて初めてのことだった。
    「それは災難でしたね」
     アスランがいないから昼食は簡単に済まそう、と言うと、じゃあそうめんがいいです、と言われた。スーパーで麺と薬味と、ついでに麦茶を買ってきた。東雲がメニューに希望を出すなんてめずらしい。しかもそうめん。夏らしい。
    「なんで握手会でわざわざそんなこと言ったんだろう」
    「あなただけは違う、っていいたかったんじゃないですか」
     お湯をわかして、五分茹でた麺を水で流す。東雲は麦茶を二人分コップに注いだ。誰もいない、二人きりの店内。陽気な装飾が今日は静かだ。
    「そもそも独善的ってなんだろう、性善説とかかな」
    「ひとりよがりみたいなことを言いたかったのかもしれません」
    「俺たちはどうなんだろう、気を付けてはいるけれど」
    「握手会に来る程度にはファンなんでしょう? なら大丈夫なんじゃないですか」
     めんつゆを水で割り、薬味を散らす。二人で手を合わせていただきますをした。カフェパレードの店頭には「close」の札を下げている。夏真っ盛りの昼下がりに、そうめんは爽やかに喉を通っていった。
    「それにしても」
     俺は箸を置いて、麦茶のグラスを手に取った。香ばしい、麦茶独特の匂いに汗が引いていく。
    「男の人、って形容していたからには、何かあったんだろうね」
    「わざわざ神谷に言うのは面白いと思いますよ。ウインクで返すあなたも」
     くすくすと笑う東雲の目元はいつも通り涼し気で、他人事だからと楽しんでいるのが窺える。いっそ配信でもしてそのことについて語ってみたらどうです、なんて言いながら、麦茶のグラスを掲げてみせた。乾杯でもしろっていうのか。俺はやれやれと溜息を吐く。
    「神谷はね、言葉をぶつけたくなるんですよ。どんな言葉も包み込んでくれそうだから」
    「凶暴な欲求だなあ。例えば?」
    「言わせるんですか? 愛の言葉かもしれないのに」
    「それは誰の言葉? ファンの? それとも東雲の?」
    「さあ? どちらでしょう?」
     くすくす。東雲が楽しそうでなによりだけれど、でも、と俺は思う。それじゃあ、俺の言葉は、君にぶつけていいということだな?
     言葉は時に刃になる。砂糖にも、スパイスにも。鋭利なソレで君を傷つける、もしくは燃え盛る炎のような愛の囁きでもした時に、東雲はどんな顔をするだろう。彼の顔を長年眺めてはいるけれど、いまいち輪郭は掴めなかった。
    「……飴玉、くらいがいいなあ」
    「何が」
    「愛の囁きの、大きさとか重さとかの話さ」
    「味も様々でいいですね。作ってみせましょう」
     二人でそうめんをたいらげて、ごちそうさまをした。夏の味は軽やかで、それでいて腹の中でふくらむ。ほどよい満腹感を抱えながら片付けをして、食後の紅茶を淹れた。きらきらした空に合わせてのアールグレイ。そうめんの後味を掻き消すくらいの、華やかな味。午後からは巻緒と咲、遅れてアスランが出勤し、CafeParadeとしての営業がはじまるから、スイッチを入れるために香りの強いものにした。午前中に経理周りの相談が出来てよかった。
    「何味にします? 飴玉は」
    「この紅茶に合うものを」
    「了解しました」
     東雲のことだから、本当に作ってしまうんだろうなあ。どんな言葉をかけてくれるのだろう。砂糖だろうか。スパイスだろうか。次に二人っきりになった時に、その飴玉は渡されるはずだ。二人だけの約束、とっておきの味。
     独善的? どこがだ。こんなにも彼のことを思っているのに。
    「ふふふ」
    「どうしたんだい?」
    「たぶん私たち、同じこと考えてます」
     アールグレイは、明るく贅沢な味がした。俺たちは幸福だ。人々に幸福を届けるためには、自身が幸福でなければ、と思う。俺は架空の飴玉を口の中に放った。
    「東雲」
    「なんですか」
    「好きだよ」
    「ふふ。何味でしょうね、それは」
     さあ、今日も店が始まる。俺と東雲は、空のカップで乾杯をした。独善的。上等だ。全ての人々をしあわせにしたいという思い。
     次にあの人に会ったらなんと言おう。飴玉は甘く、キスの味がした。
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