深夜にて 夜中に目が覚めることは、ままある。歳のせいなのか体質なのか睡眠は浅い方で、寝つきも悪い。明日は朝の仕事が入っていないから、今起きても問題はないだろう。重い上体を起こし、首をぽきりと鳴らす。
時間を見るためにスマートフォンを手に取ると、LINKが数件溜まっていた。見てみれば北村からのメッセージで、夜道での白猫の写真と月の写真だけがぽかんと送られていた。うたを詠むでもなく、おやすみの文字もなく、北村らしい。
なんとなく。なんとなくだが、今電話をかけたら、繋がる気がした。北村ならまだ起きてるんじゃないかと。こんな真夜中に申し訳なさもあったが、好奇心が勝ってしまった。指がすいすいと画面をすべる。
陽気な発信音を数度聞いている間は、どうして自分がこんなことをしているのかわからなかった。声を聞かないと眠れない訳でもなし、寝る前の電話が日課でもなし。やはり迷惑だったか、起こしてしまうだろうか、と電話マークを触ろうとした瞬間、耳に届いた聞きなじみのある柔らかな声。
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