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    komaki_etc

    波箱
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    北村Pの漣タケ狂い

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    写真でお題 漣タケ

    捻挫の帰り 気付かないふりをするのも限界かもしれない。
     やってしまったかな、と嫌な予感に冷や汗をかく。右足がじんじんと熱を持つ。びっこを引くまではいかないけれど、でも、体重をかけるのは怖い。
     ダンス稽古の際、どうしてもターンに失敗してしまう個所があり、残って個人練習をしていたら、大きく転んでしまった。アイドルを始めたての頃を思い出し、あの頃もこんなことがあったな、俺もまだまだだなと苦笑し立ち上がろうとしたその時、右足に痛みが走る。この程度大丈夫だろうと思ったけれど、無理をして悪化させるのはよくないと判断できたのも、いろんな経験を積んできたからだろう。治せるものはすぐ治すに限る。少し前の俺だったら、がむしゃらに自分を痛めつけていたはずだ。でも今は、俺を応援してくれる人のために自分を大切にしようと考えることができる。成長した、と思う。それこそダンスはまだまだだけど。
     いつもよりゆっくり岐路についているうちに、日が暮れだす。夕焼けになる前の、柔らかな空の色が好きだ。昼と夜の間の水色の中で、雲がピンク色に染まり、ほのかにオレンジ色に反射しているところ。肺一杯にこの季節の空気を吸い込んだ。陽気だけれど、この時間になると少し肌寒くて、でもコートはもういらなくて。帰るのが勿体ない、少し遠回りして散歩したい気分だった。でも、そんなこと言ってられない。家に帰って、足を冷やさないと。
    「……とろいな」
     わ、と声が出そうになった。完全に意識が浮かれていた。振り返ると、そこには腰に手を当てたアイツが立っている。俺より先に事務所を出た気がしたのだが。
    「全然帰ってこねーから」
    「……俺の家、行ってたのか」
     来るなら来るって言えばいいのに、と続けようとした俺の言葉を遮り、アイツは俺のリュックを奪い取った。何事かと目を見開いていると、片方の肩にリュックを背負いなおし、「行くぞ」と先を歩かれる。
    「……な、なにするんだ」
    「相変わらずドジだな、チビ」
    「な……」
     振り返った彼の後ろから、夕焼けの始まりの黄色と夜の始まりの濃紺が広がりだして、神様みたいだ、と感じた。何をバカなことを、俺から乱暴に荷物を奪って勝手に家に上がろうとしている男だぞ、なのになんで、こんなに満たされるんだ。
    「……オマエ」
    「せーぜーカンシャするんだな」
    「……ああ。サンキュ」
     俺の言葉に満足したのか、鼻をフンと鳴らして、アイツはゆっくり歩きだした。俺の前を歩くのに、俺のペースに自然と合わせて。
     オレンジ色と、濃紺が、頭上をかけていく。足はあいかわらずじんじんと痛むけれど、アイツが荷物を持ってくれたおかげで、随分と歩くのが楽だ。おかげで、この時間の空気を堪能できる。
     春先の、どこか浮かれた陽気。足が治ったら、改めて散歩したい。その時はコイツを誘ってみるか。案外乗ってくれるかもしれない。
     大きく深呼吸しながら、俺の先を行く背中を見つめる。黒いリュックは、アイツの赤いパーカーによく映えた。
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