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    ついった@117p_
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    雨想

    過去の自分を乗り越えて愛の受け止め方を識る北村の話です。

    ※元カノ、ストーカー(男)の話出てきます
    ※兄村がいる

    #雨想
    fleetingThing
    ##小説

    正しい愛の受け止め方「北村。俺と一緒に住まないか」

     真剣な眼差しで僕を見据えた雨彦さんの手の中には、ポストに投函されても滅多に目を通すことの無い不動産のチラシが数枚。いくつかに蛍光ペンで印がつけられている当たり、何度か目を通しているのだろう。
     動揺した僕は、上手く返事を返すことが出来なくて。とりあえず印のつけられた用紙を受け取って、また改めて考えさせて欲しいと伝えた以降の記憶がだいぶあやふやだ。その数枚の紙を握りしめたまま、いつの間にか僕は自分の家の扉の前に立っていた。


     ……まさか、雨彦さん側からこんなことを切り出されるとはねー。渡された数枚のチラシを見て、ふう、とため息をつく。
     確かに僕達はただのビジネスライクな関係を築くアイドルグループのメンバー同士では無くなっていた。お互いを好きあっていたくせに理由をつけ合って告白せずに居たところを見ていられないと二人してクリスさんに諭され、らしくもなく膝を突合せてお付き合いをする流れに発展したのだが。それでも僕達は二人とも四六時中一緒に居たいと考える様な性格では無かったし、たまの仕事帰りやオフの日に主に雨彦さんの家で二人きりで時間を共に出来るだけで心地が良いと思っていた。
     正直、僕は今のこの距離感に充分満足している。別に今以上の時間を共に過したくない訳では無い。ただ、別に僕達はずっと一緒に居ようとしなくても仕事として時間を共に過ごす時が多い。それはたとえ雨彦さんと二人きりでなくユニットの三人としての仕事で、ましてや周囲から見られる場だから甘い雰囲気にならなくても一緒にいれるのだから嬉しいと思っていた。
     てっきり雨彦さんも僕と同じだと思っていたから、少しばかり拍子抜けだ。あまり感情を分かりやすく表に出さない雨彦さんは、中々本心を言葉に乗せてくれることは無い。勿論その仕草や行動で僕のことを好いてくれているのは分かっているつもりだった。それでも、まさか同棲を視野に入れるほど重い感情を向けられていたなんて。

     ここだけの話。ちょっとだけ重いなー、なんて思ってしまうのも事実で。勿論、本人に言うつもりはないけど。あまり重すぎる感情が僕は得意ではなかった。というのも、わざわざ上京して進学した理由のひとつに高校時代のいざこざがあったからだ。





     ──高校一年の夏に、告白されて付き合った女の子が居た。クラスカースト上位に入る、すらりとしたかわいい少し派手めな女の子だった。僕の何が気に入ったのかはわからないけど、周囲に持て囃されながら半ば承諾を強制されたようなその告白は決して嫌なものではなかった。その子に合わせるようにデートをして、映画を見に行ったり、放課後一緒に勉強をしたり。高校生らしい、初々しい恋愛をしていたと思う。だから、秋の始まりに告げられた別れの言葉はしばらく僕の中で尾を引いた。

    「想楽くんって、案外つまんないね」

     本音を言えなかった僕は、何がつまらないの、と聞くことすら出来ずにその子が立ち去ることにすら気付かないまま立ち竦んでいた。案外って、何がどう案外なんだろう。僕に一体どんな姿を求めていたのだろう。その子にとっての理想を、結局僕は最後まで知ることは出来ずに初めての恋愛は幕を閉じた。

     そうして、しばらく自分はつまらない、という言葉に身を苛まれていた頃。静かに高校生活を送っていたはずの自分に、突然大量の手紙が届くようになった。

    『想楽くんはあんな女と別れて正解だったよ』
    『ずっと見てるからね』

     明らかに男の筆跡であるその手紙の送り主は、結論から言うと僕のクラスメートだった。一日一枚、登校する度に下駄箱に丁寧に入れられているそれを、申し訳ないが純粋な好意として受け入れられるだけの自信も心の強さも当時の僕には無い。ただでさえ自分の魅力が何なのか何もわからなくなっていた頃にそんなことを書かれても困るだけだった。積もっていく嫌悪感と恐怖の吐き出し方が分からなくて、ストレスで食が細くなる。放課後の物静かな図書室で読書に耽けることが好きだったはずなのに、どこの誰に見られてるかも分からないこの環境で本の世界に没頭できるわけもなかった。
     途中から中身を見ることなく帰宅してすぐゴミ箱に投げ捨てていたそれを、ある日、ふと思い立ったように開封してしまった。こんなに毎日飽きることなく送ってきて、今日は何が書いてあるんだろう。どうしてそんなことを考えていたのか自分でも不思議だったが、好奇心には変えられなかった。封を開けてたった一枚封入された便箋に書かれた、想楽くんのことが好きという言葉。綺麗とは言い難いけど丁寧に書かれたその字は、やたらと深く心に突き刺さった。
     ……この人は、僕の何を見て好きだと思っているんだろう。だって、僕は本音を心の中で握り潰して、周りの空気を壊さないように同調することしかしないつまらない人間なのに。
    ──怖い、と思った。相手側の尺度でからっぽの自分を推し量られて、出来上がった偶像の何かを勝手に崇拝されているようなものだ。その 偶像まぼろしに、きっと僕は居ない。

    「……きもちわる、」

     その日から、僕の心はいっそう殻に閉じこもった。つまらない、外側だけの自分を求められているならそのままでいいと思った。だって、本音を出したら出したで嫌がられるんだから、我慢するのは自分だけでいい。時折突き刺さるような重たい感情は未だ怖いけれど、所詮残り二年と少しの辛抱だ。大学だって、兄さんを追いかけて上京すればいい。そうして、僕が本音を塞ぎ続けた短いようで長い約三年間の高校生活は、結局その送り主からの思いを直接打ち明けられぬまま終わりを告げたのだった。最後の手紙で宛名を知った時は、やっぱりか、と思ったけど。僕の方に向けられたそのどろりと甘く熱を帯びた視線を、きっと僕はこの先も忘れることは出来ない。目は口ほどに物を言う、身をもって実感した高校生活だった。







     本音を隠すこと無く、ありのまま。思うがままに言葉を述べることのできる場所を見つけてから、自分に向けられる好奇の目が以前より怖く無くなった。少なくとも今のアイドルとしての僕を好いてくれているファンの子達も、事務所の仲間たちも、言いたいことを言えている僕を見て僕の事を好きだと言ってくれているのだと思っている。……特にその中でも同じユニットの雨彦さん、クリスさん、僕たちをプロデュースしてくれるプロデューサーさんは、僕が言いたいことを言おうとしなかった時にその意見が出るまで僕の口が開くのを待ってくれている。その環境に居られることを、僕は本当に有難いと思っていた。きっと、オーディションに合格していなければこんな風にのびのびと自分らしさを出すことなんて出来なかったから。
     そして、もう一つ。自分の心に嘘をつかなくなって、初めて心から誰かを好きになった。同じグループのリーダーで、僕よりもほぼ一回り歳が違うその人の事を、僕はすごく苦手だと思っていたはずなのに。何をしても読めないその心を知りたいと思っているうちに、その感情はただの好奇心から興味、そして恋慕へと変化していた。知りたい、教えて欲しい、共に感じたい。初めて、相手の意見に合わせる為以外で自分の感情を隠すことを覚えた。でもそれも、もどかしい僕たちを見ていた仲間の手によって、閉じこもっていた殻を破られて。

     そうこうして、話は冒頭に戻るわけだ。……本当にどうしよう。昔のことを思い出せば思い出すほど、やっぱり一方的な重たい感情は今でも少し苦手だと思ってしまう。今でも変わらず雨彦さんのことは好きなはずなのに、どうしてだか凄く逃げ出したいと思ってしまう自分がいるのが怖い。
     リビングの椅子の上で一人、手渡されたチラシをぼんやりと眺める。渡された時よりも随分とよれてしまったそれを見つめて既に十分は経過しているはずなのに、物件の間取りはおろか立地すら頭に入ってこなかった。

    「ここ、出ていくのか?」
    「兄さん?!か、帰ってきたなら言ってよー……」
    「いや、部屋に入る時も声をかけたのに気づかなかったのは想楽の方だろ」
    「うそー」

     いつの間にか、兄さんが家に帰ってきたらしい。その物音にすら気づかなかったなんて。しかも手に持っていたものまで見られてしまったのだから、言い訳のしようがない。……と言っても、別に出ていこうと決めたわけじゃないんだけどー。でも、出ていくとしてまだ雨彦さんとの関係について説明すらしていない兄さんにどう打ち明けるべきなのかもわからない。
     がたん。悩んでいた僕の反対側の椅子に、何故か兄さんが腰をかけた。珍しい。いつもなら、真っ先に堅苦しいスーツを脱いで風呂場にむかうのに。何かあったのー、と軽く問いかけた僕に、兄さんは僕の目を見つめて話し出した。

    「想楽。俺、来月の人事異動で関西の新支部に転勤が決まったんだ」
    「え、」

     初耳だった。確かに、入社して数年、キャリアを順調に積んできている兄ならそろそろそんな話が出てもおかしくない頃だったのかもしれない。……でも、そしたら。

    「僕、この家どうすればいいのー」
    「だから、それについて話さなきゃならないと思ってたんだ。この家の名義だって俺だから、もしお前がそのまま住むにしても手続きが居るだろ」

     こんなに上手く全てが重なることがあるのだろうか。まるで、今日僕が家に帰ってから一人残されることを雨彦さんは知っていたような。そんなわけ、あるはずが無い。だって、雨彦さんと兄さんに直接の面識は無いのだ。退路を断たれているようで落ち着かない。兄さんは何も悪くない。頑張って、言葉をかけるべきはずなのに。

    「想楽?」
    「う、うん。ごめんねー。ちょっと、動揺しちゃってー」
    「突然決めろって言っても、難しい話だとは思う。ただ、なるべく早めに決めて貰えると助かる」
    「分かったよー」

     どうしよう、どうするのが正解なんだろう。ここまで来たら流されてしまえと囁く自分と、こんなマイナスな感情を持ったまま同棲はしたくないという自分で心が埋め尽くされて、あっという間にいっぱいになった心臓の奥からギリギリと不満を訴えるような音がする。手元の紙を持つ手が無意識のうちに震えて、揺れた紙がかさりと音を立てた。

    「まだ、苦手なのか?」
    「え」
    「お前の字じゃないだろ、その紙の」

     そうして、チラシの裏側を指さされる。裏返すと、そこには丁寧な字でメモ書きが残されていた。言われるまで気づかなかった。勝手なことをしてすまない、お前さんと居る時間をもっと共有したいと思った。なんて、直接言うんじゃなくて書き残すのがあの人らしい。でも、こんなことが書かれているのを見られてたなんて、恥ずかしいにも程がある。
     それにしても苦手って、何処まで目の前のこの人はわかっているんだろう。確かに昔のことは唯一兄だけには打ち明けていたから、これに見て悩んでいるという時点で何となく察しはついているのかもしれない。

    「随分と熱烈なんだな、お前の恋人」
    「……聞かないんだー?相手のこと」
    「聞いたところで教えてくれないだろ、想楽は」
    「ふふっ」
    「……まあ。少なくとも、お前よりは大人なんだろうな。恋人と、共に居続ける覚悟を決めてるからそれを渡したんだろ」
    「かく、ご」

     確かに、僕は今が楽しければ良いと。今、幸せならそれでいいと思っていた。……雨彦さんは、その先まで見ていたんだ。大人と子供の差を突きつけられた気がした。相手が自分と同じだと勝手に僕の尺度で決めつけて、満足した気でいたのは僕のほうだ。そんなつもりじゃなかったのに。

    「お前が嫌ならここに住み続ければいい。その時はちゃんと手続きをしてやるから。でも、想楽が一緒に居たいと思ってるから付き合ってるんだろ。本当の、意地っ張りで口煩いお前ごと好いてくれる人の愛情くらい信じて受け止めてやってもいいんじゃないか?」

     少なくとも、高校の時の例のやつとお前の今の恋人が向ける感情の中身は全くの別物だろ。そう言われた瞬間、目の前にあった暗くて濃い霧が一気に晴れたような気がした。そっか。同じ位の温度の熱を帯びた視線だと思って勝手に萎縮してたけど、その視線に乗る感情の先は全くの別だ。雨彦さんはいつだって、僕の内面を見て、僕を大事にしようとしてくれている。その気持ちを、僕は。

    「出来れば来週くらいまでには決めといてくれよ。じゃ、風呂貰うから。……まあ、俺が向こうに行く前にその恋人さんに会わせてくれよ」
    「も、もう!兄さん!」

     言いたいことだけ言い残してリビングを去った兄さんを見送って、小さくため息をつく。会わせろとか。まるで僕がこの家を出ることを既に決めたみたいな言い方だ。……でも、とにかく今は。机に置いていたスマホを開いて、電話帳の上の方にある五文字の名前を押す。早く繋がって欲しい、声が聞きたい。その重くて大きな僕だけに向けられる感情から、逃げるのはもう辞めるから。

    「……もしもし、」
    「あ、雨彦さんー?あの……今から、会えませんかー?」



     同じだけの熱量を向けるには、まだ覚悟は足りてないかもしれないけど。これから時間をかけて向き合って行くために、まずは手元のチラシに全て目をとおそうと思う。不動産巡りに、家具の調達と荷造り。普段のお仕事や大学の授業に加えて明らかに忙しくなりそうな筈なのに、それすらも楽しみだと思ってしまうくらい、僕の心は踊っていた。

     ……ちゃんと受け止めるから。これからもたくさん僕のこと愛してよね、雨彦さん。
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    117p_

    DONE12/24ドロライ「クリスマス」お借りしました。
    だいぶお題からそれだけどクリスマス要素があるので許されたいと思っています
    #雨想版一週間ドロライ クリスマス「あしひきの山の木末の寄生とりて 挿頭しつらくは千年寿とくぞ――」
    「大半家持か。流石だな。お前さん、これが何だか知っているのかい」
     流石というなら、専門でも無いのにさらっと出典元を答えられる雨彦さんの方だと思う。それよりも。
    「髪に飾るにはまだ少し早いけどねー。それ、ヤドリギでしょー?そのリース、どうしたのー?」
     僕が昨日雨彦さんの帰りを待つよりも先に寝落ちてしまった時にはそのリースは飾られていなかったはずだ。
     真っ赤な実が差し色にあしらわれた、ヤドリギの枝をぐるりと丸く形取ったリース。世界中の子供達が真っ赤な帽子のおじいさんの来訪を待ち望んでいるこの時期には確かにこの枝を使ったリースやオーナメントを見かけることがある。でも、僕はもう十九歳でクリスマスプレゼントを待ち望むような年齢でもないし、雨彦さんだってわざわざツリーやオーナメントで家を飾り立てるような性質とは思えない。突然現れたそれは、正直に言って今のこの家の中で結構浮いている。
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