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    となお

    とじくん激おこ「な〜お〜や〜く〜〜ん♡ お、いた。 はい、久しぶり久しぶり」

     玄関扉の開く音。家主である五条悟が帰ってきたのかと思い、顔だけを起こして目をやると、予想に反してそこには甚爾がいた。さながら呪霊のように、ドアの隙間からひょっこりと顔を出し、目をかっと開いて、顔全体に青筋をいくつも浮かべている。顔の上半分は怒りの色で塗り固められているのに、相変わらず口元にだけはにやにやと不気味な笑みを浮かべていた。

     ──やっっっばっ、

     彼の姿を見た瞬間、脂汗がどっと吹き出て背中を冷たいものが伝った。心臓がバクバクと大きく脈打ち、警鐘をならす。

     何故かはわからないが、表情や声色から察するに、甚爾の逆鱗に触れたようである。

     彼の怒りを勝ったのはこれで三回目になる。一回目は「禪院家に戻らへん?」と打診した時。二回目は「死んだ女なんかええ加減忘れろや」と叱咤した時。いずれも甚爾と再会して間もない頃の話だが、逆上したフィジカルギフテッド渾身の拳を全身に浴び、骨は折られ内臓にも損傷を受けた。

     半殺しも三回目となると、いよいよ人生のゴールテープを切ってしまうかもしれない。ただでさえ本調子からは程遠く、ベッドからも起き上がることさえできないというのに。

     しかし何故──。心当たりがまるでない。だって今回は彼と話をしてすらいないのだから。

     俺の緊張や焦燥など関せずといった様子で、甚爾はドアを閉めこちらに向き直り、懐から何かをさっと取り出した。と、靴を投げ出し大股でずんずんと俺が寝ているベッドの脇まで歩み寄る。

    「これ何?」

     口元の笑みは消え、ただの真顔になった男の圧に、さらに背筋が寒くなった。
     視線を彼の指先に落とす。先程甚爾が取り出したものは地方銀行の通帳だったらしい。心許ない残高の下に8,500,000という数字が座していた。俺が女中に入金させた、甚爾との逢瀬料だった。

    「お前だよなぁ?」

     通帳の少し上から覗く眼圧の強さに負け、いよいよ体がガタガタと震え始める。恐怖で縮こまった頭を必死に働かせて、彼の怒りの原因を探す。思い当たったのは、金額に誤りがあったのだろうか、という疑念。すがる思いでそこに賭けた。

    「じゅ……17時間分やったと思ったけど……?」

    「17時間? 何が?」

    「未払金。ほら、20日の13時から起算「?」」

    ドスの効いた低い声にビクリと体がはねる。

    「俺、金はもういらないって言ったよなあ? 何回も。お前とは恋人だって。恋人から金取らねぇって」

     ビリビリと空気全体が怒りを帯びる。うまく動かない体でゆるゆるとガード体勢をとった。

    「何やってんだお前」

     ただの質問なのか、疑問の形をした詰責なのかわからない。体の震えが大きくなっていく。

    「……っか、堪忍……して」

    「何がだよ……」

    「俺、今は、……。今、甚爾君に殴られたら、……ホンマに、死んでまう」

    「殴らねーよ! 何で俺がお前のこと殴ると思ってんだよ!」

    「じゃあ……け、蹴る方……?」

    「……。は?」

    「肘てつならギリ、セーフ……かも……」

    『じゃあ、肘てつで勘弁しといてやるよ……』とため息混じりに言い放った直後、『んなわけねーだろ』と前言を翻し、殴りかかってくる甚爾が──経験に裏打ちされた存在しない記憶が──脳裏に鮮明に蘇る。肩を震わすすぐ隣で、甚爾のため息が聞こえた。

    「……。何もしない。何もしないから」

     少しばかり、いや、完全に怒気が削がれたような声色。まだ、フェイントという線もあるが……。

    「悪かったって」

    「お前の物分かりの悪さは知ってるから」

    「殴らない。蹴らない。肘てつも──。何もしない」
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