Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    kanagana1030

    @kanagana1030

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 25

    kanagana1030

    ☆quiet follow

    春趙ワンドロワンライ
    お題「映画」のSSです。

    久しぶりの参加でなんだかとっ散らかってしまいましたが、どうぞよろしくお願いします。

    #春趙
    springZhao

    あの頃の二人と「俺、これ観たかったんだよなぁ」
     たまの休日。二人で買い物に出た途中、春日が映画館の前で発した一言で、その日は買い物の前に映画を観ようということになった。映画館の暗い階段を二人並んで下りて、春日がチケットを二人分購入する。そんな春日の背中を見ながら、趙は付き合い始めてから二人で映画に来るのは初めてだな、と気がついた。
     付き合う前には、春日に誘われて何度も映画館に足を運んだ。あの時は二人で映画なんてまるでデートみたいだなと浮かれながら、それでも浮かれているのは自分だけだろうと思っていた。
    「これ、趙の分」
    「ありがと」
     買ったチケットを受け取ると春日が趙の思考を読んだように、少しはにかんだように笑った。
    「なんか、久しぶりだな、このやりとり」
    「だね」
     春日の照れが伝染したように、こちらもなんだか気恥しくなる。
     付き合い始めてから、春日はずっと長いこと、趙にアプローチをかけていたのに趙がまるでそれに気がつかなかったことなどを話してくれた。確かに映画への誘いも春日からの好意の表れだったらしい、と趙が気がついたのは付き合い始めてからだ。あの時は春日も自分と同じように自分のことを意識してくれているなんて思ってもみなかった。
    「すぐ始まるな、行こうぜ」
    「うん」
     狭い廊下を歩いて暗い場内に入る。場内は以前と変わらず、上映寸前だというのにほとんど人気が無い。貸し切り状態の館内に前と同じように少しだけ胸が高鳴る。春日と二人、付き合う前にも出かけることは時々あった。けれど、二人っきりを強く意識させられたのはいつもこの映画館だった。
    「ここら辺でいいか」
     春日が腰を下ろした席の隣に趙も座る。映画館の座席は、大型の二人が並んで座るとお互いの肩が触れそうなほどに近い。その近さに、隣にいる春日の熱をただ感じていただけの時を思って、趙はわざと身体を傾けて春日の肩に自分の肩をぶつけた。
    「ん?」
    「いや、別に」
     今はこんな風に惑うことなく春日に触れられる。触れた肩はそのままにして、春日の熱が移るままにしておく。こんなこと、まるで嘘のようだと思う。久しぶりの映画館に気持ちが過去に戻ってしまって春日に触れたくても触れられなかった日々の方が、未だ現実であるような気がしてくる。
     場内が暗くなり、スクリーンに予告が流れ始める。ふと触れている春日の肩が動いて、春日の手が何かを探すように趙のひざ元に伸びてきた。横を向いて春日の顔を伺うと正面を向いたままの顔は少しむくれたように唇が結ばれている。
    「どうしたの?」
    「いや……駄目か?」
    「駄目って?」
     春日の手が趙の手を探り当てて、そのままぐっとその掌に握られる。それで趙も春日の意図を察して、小さく笑い声を立てた。
    「わ、笑うなよ」
    「いや、ごめん」
     可愛い恋人の手を趙からも握り返して、膝の上に置く。そんな趙の仕草で春日が横で小さく息を吐いたのが分かった。その様子にそっと声をかける。
    「春日くん、もしかして緊張してる?」
     図星を刺されたように春日がこちらを向いて、ばつの悪そうな顔をした。
    「わ、わりぃかよ」
    「いや、分かるよ。付き合う前のこと思い出しちゃうよね」
    「……だよな」
     照れくさそうに顔を撫でる春日が可愛くて、手だけではなく、もっと触れたい欲が高まる。
    「ねぇ」
     春日に身を寄せて、声をひそめて呼びかける。
    「ん?」
    「キスしたいなぁ、俺」
     趙が囁くと春日が驚いたように趙の顔を見た。
    「や、やめろよ」
    「ダメかな?」
    「ダメだろ」
     言ってる春日の指が何かを堪えるように趙の手の甲を撫で始めるので、春日も自分と同じような気持ちなのだと分かる。
    「映画終わったら買い物行かないで帰ろうか」
    「……おう。そうだな」
     先ほどより熱を持った気がする春日の手を握り直しながら、趙はこれからの映画は、前のようにきっと頭に入らないだろうなと思うのだった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖💖💖☺☺👏💖💖💖💖💖👏👏💖😍😍😍😍☺☺👏👏👏☺☺☺💯🔜💏‼👬💏💞
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works