そこにあった世界A
淡い照明の中、静かに流れる音楽が耳に触れて、ふと目を覚ますとそこはいつものサバイバーのカウンターで、顔を少し上げると隣には趙の姿があった。
「おっ、起きたね。春日くん、もう限界なんじゃない? そろそろ帰る?」
そう自分に小さく笑いかけてくれるのが嬉しくて、春日は身を起こして趙に向き合った。カウンターの奥にマスターの姿はない。ふと見上げた時計はすでに深夜帯にさしかかろうとしているので、いつものように自分たちに鍵を預けて先に帰ったのだろうと思う。
「……なぁ、趙」
「ん?」
趙も少し酔っているのだろう、サングラスの奥の濡れた目が綺麗で、その目の奥を覗き込むように顔を近づける。
趙とは付き合い始めてから、もう何年にもなる。それでもこんな風に二人っきりで向き合い、顔を寄せると心の奥の方に灯るものがある。
1845