結婚しよう「なあ、おい」
志那虎が声をかけてきたので、河井はスマートフォンに触れる手を止めた。
「何ですか?」
河井は台所で二葉から送信されてきた新しいレシピをチェックしているところだった。
ソファに座った志那虎は、新聞を膝に置いたまま神妙な顔つきで言った。
「オレたち、結婚しねえか?」
「はあ?!」
河井はぽかんとして、そのまま数秒動かなかった。
「結婚って…今、僕たちとっくに結婚してるようなもんじゃないですか?」
カミングアウト後、東京某区の河井のマンションで2人が同棲を始めてから10数年経っていた。
京都の志那虎陰流本家は伊織に任せてきた。
伊織には妻のオリビエがおり、孫娘が3人もいる。
「志那虎陰流の後継は金髪碧眼の女だ。そんな時代なのだな」
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