予感俺は人並みの五感しか持たないが、丹念にさわると、生きている身体はたくさんのことを教えてくれる。
赤みがかった柔らかい髪を撫でると、睫毛がふる、と震えた。腕の中の炭治郎が目を覚ます。顎をなぞればほのかに目を細めて微笑んだ。
「義勇さん、それ、好きですねえ…」
いつかよりずっとぬるい体温。
「…うん」
ゆっくりと打つ脈拍。
「好きだよ」
少し乾燥した肌。
「好きだから…」
ゆるやかな呼吸。
「ふふ」
長くなる睡眠時間。
「俺も、好きです」
少なくなる食事。
「義勇さんの手、気持ちいい…」
俺のささくれた指に、炭治郎が頬を寄せる。
触れれば触れるほど、わかってしまう。
近づいてくるそのときが。
炭治郎がぽつんとつぶやいた。
「誰にも迷惑をかけないで死ねたらいいって、思っていました」
「炭治郎」
「でも、さいごにひとつだけ、我儘になってもいいなら…」
手のひらに、かさついた唇がふれる。瞳の表面の水がゆらゆら、揺れている。
「こうやって、義勇さんに撫でられたまま、逝けたらいいなあ」
あ、こぼれる。
瞬きと共に転がり落ちる自分の涙を、他人事のように見ていた。
「そんなの…」
ふたりぶんの涙が炭治郎の頬をすべっていく。
「お前は頑張り屋だから、俺にはもっと我儘になったっていいんだ」
「…俺、頑張りましたかね」
「ああ、ほんとうに、よく頑張った」
「そっかあ…」
涙を拭うのを洗いざらした浴衣に任せて抱きしめれば、暖かい右腕が応えてくれる。
お前が好きだと言ってくれた笑顔は作れているか。きっとくしゃくしゃの、笑っているのか泣いているのかわからないような顔をしているんだろう。だってお前もそうだから。
何もかもお前のものだとどれほどささやいても、あなたの心も体もあなただけのものですよとお前は微笑んで、きっと何ひとつ持ち去ってはくれない。
だから、掠れた声も、丸みの残る輪郭も、上下する胸のはやさも、髪のくせ一本一本も、忘れたくない。忘れない。刻みつけるように触れれば触れるほど、現実を思い知らされる。それでもお前が望んでくれるなら、そのときは必ずそばにいられるように、誰よりも知っていたいと、強く、強く思う。