「おいで」とその目に導かれ 無意識の内に視線がその姿を探して後を追う。声を拾おうと聴覚が研ぎ澄まされる。ほんの微かな匂いを捉えるだけで細胞がざわつく。
いくつもあるその厄介な体質の兆候に、チリチリと苛立ちが募った。乱暴に顔を洗って火照る身体を冷まそうとしても、水道水の温度くらいでどうにかなるものでもない。滴る雫をぐいと拭って、もう今日は帰ろうと籠もる熱を散らすように息を吐いた。
ミツキが俺を受け入れてくれたおかげでか、獣耳や尾が顕現するほど酷い症状が出ることは随分稀になったものの、それでも不定期に訪れるこの波を煩わしいと思わずにはいられない。発情期なんてヒトには必要ない。
後世にこんな血など遺伝子など、紡がない方がいいに決まっているのだ。
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