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    ひさし

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    ひさし

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    白くて大きな犬の実弥と小さな黒猫の義勇。まとめ

    農家を営む匡近の家には、白くて大きな犬の実弥がいる。飼っているわけではない。この村に暮らしている犬で、首輪もせずに自由に歩き回り、好きな所で日向ぼっこをしているのだ。村人にとっては家族であり、また守神のような存在でもあった。実弥は最近、匡近の家の縁側を気に入ってるようで、よくやってくるのだった。
    ある日、そんな実弥が小さな黒猫を口に咥えて現れた。青い瞳をした黒猫は、右腕を失っている。怪我をしているのかと思った匡近は、黒猫を見せて貰おうと近づくけど、黒猫に指一本でも触れようとすると実弥が「ぐるるる」と唸った。そして実弥は黒猫を咥えたまま縁側に座り、そのまま黒猫を自分の身体で包むようにして丸くなった。大きな舌で黒猫の身体をぺろぺろと舐める。黒猫は「んにゃ……」と小さな声を漏らした。
    暫くぺろぺろし続ける実弥に、匡i近は刺激しないようにゆっくりと近づいた。「実弥、その子を見せてくれよ。怖がらせるようなことはしないから」と説得すると、実弥は黒猫を包む足を少しだけ緩めてくれる。匡近は「ありがとうな」と礼を言って、そっと黒猫に触れた。右腕の傷跡を慎重に確かめてみるけど、もう塞がっているようだ。軽く押しても痛がらないし、炎症を起こしている様子もない。ひとまず大丈夫そうだ。
    けれど、黒猫は今まで何処で暮らしていたのか、酷く汚れている。毛も絡まって固くなっていて、きっと苦しいだろう。匡近は「風呂に入れてやらないとな……」と呟いた。それに対して実弥はぴくりと耳を揺らし、黒猫は不思議そうに丸い瞳で匡近を見上げる。「実弥、いいか?」と尋ねると、実弥は少し悩んだようだった。何かを確かめるように黒猫の頭をぺろぺろと舐める。そうしてから、黒猫を口に咥え直してゆっくりと立ち上がった。きっと了承してくれたのだろう。匡近も立ち上がって風呂場へ向かう。
    実弥も近所のお婆さんに何度か洗って貰ったことがあるようだが、どうにも風呂は苦手らしい。「水浴びは好きみたいだけど、ごしごしされるのは嫌みたいで。実弥ちゃん、滅多にお風呂場に近づかないのよ」と話を聞いていたから、途中で帰るかと思っていたのだけど、実弥は黒猫を咥えたまま風呂場の中にまで入ってきた。そして、水にびっくりして「みぃみぃ」と鳴く黒猫を安心させるように鼻先をぺろぺろと舐めてやる。実弥は本当にこの黒猫のことが大切なのだ。匡近は(不思議なもんだ……)と思いながら、黒猫の負担にならないように、なるべく手早く黒猫を洗ってやるのだった。


    □□□


    大きな白い犬の実弥と小さな黒猫の義勇。義勇は身体が小さい上に右足も失っており、そのせいで他の猫に比べて細い。「みゃあみゃあ」と鳴く声も小さく、離れていたら聞き逃しそうだ。何かあった時に困ると思い、匡近は義勇の首に鈴のついたリボンを結んでやる。水色のリボンが義勇の青みがかった瞳によく映えた。すると、可愛らしく着飾った義勇の姿を大層気に入ったらしい実弥が、義勇の首根っこを咥えて、まるで皆に見せびらかすかのように村の中を歩き回るのであった。実弥が大きな歩幅で歩くたびに、義勇の首の鈴が「ちりんちりん」と鳴る。通りがかったお婆さんやお爺さんが「あらあ、義勇ちゃん可愛いわねえ」「よく似合ってるねえ」と褒めると、実弥は満足げに「ふん」と鼻息を吐いて、義勇を咥えたまま、また次の村人に義勇のことを見せびらかしに行くのだった。


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    大きな白い犬の実弥と小さな黒猫の義勇。義勇は右足を失っているが、全く歩けないわけではない。ひょこひょこと拙いけど、ゆっくり歩くことは出来た。日頃は義勇の首根っこを実弥が咥えて移動していることが多いが、村ではたまに、ひょこひょこと歩く義勇を見かけることが出来る。そんな時はいつも実弥がそばにいて、数歩先に進んで、そこで振り返ってじっと義勇を待っているのだった。歩きすぎないでいると、それはそれで義勇の身体に悪いと実弥は分かっているようだ。義勇はひょこひょこと歩いて、やっと実弥に追いつく。そして、実弥の足にすりすりと頭を擦り付けた。「待たせてすまない」と言っているのか、それとも「ここまで歩けた」と自慢しているのか。そんな義勇を見下ろした実弥は、藤色の瞳を柔らかく細める。そして、自分も答えるように義勇の頭をぺろぺろと舐めるのだった。
    ちなみに、村の者なら平気なのだが、実弥のよく知らない行商人や旅人がひょこひょこと歩いている義勇に「めんこい猫だねえ」「お前、足がないのかい?」などと声をかけようものなら、実弥は素早く義勇の元に戻ってきて、こいつは渡さないと言わんばかりに「ぐるるる」と唸る。実弥の恐ろしい形相に驚く旅人たち。村人が「だめよお。義勇ちゃんが一人でいるところに近づいちゃ。義勇ちゃんは、実弥ちゃんの宝物なの。可愛い伴侶に馴れ馴れしく話しかけられたら、そりゃあ怒るわよ」と旅人たちに教えてやると、彼らは「そうだったのか。そりゃ悪いことをしたなあ。ごめんよ」と実弥に謝るのだった。


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    大きな白い犬の実弥と小さな黒猫の義勇。義勇が「けぽ」と毛玉を吐き出したと思ったら、そのほとんどが白い毛だった。(実弥のことをいっぱい毛繕いしてやったんだなぁ)と、匡近は温かい気持ちになりながら後片付けをする。義勇の口元も拭いてやろうと手を伸ばして、その小さな顔に触れる。「にゃう」と声を漏らす義勇。すると、縁側に座っていた実弥が立ち上がって、のしのしと近づいてくる。実弥は鼻先で匡近の手を退けると、そのまま義勇の首根っこを咥えて、また縁側に戻っていった。匡近が用意してやった座布団の上に丸くなると、義勇を腕の中に閉じ込めるようにしながら、匡近に代わって義勇の口元をぺろぺろと舐めて綺麗にしてやるのだった。実弥の大きな舌にぺろぺろされて、義勇は「んみゃ……みゃう」と小さく鳴く。二匹の様子を見守る匡近は、仲が良いなあと思ってほんわりと微笑むのだった。


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    大きな白い犬の実弥と小さな黒猫の義勇。「義勇ちゃんの遊び道具にならないかしら」と、村のお婆さんが小さな手毬を作ってくれた。「喜んでくれるといいのだけど」と微笑むお婆さん。受け取った匡近は「きっと喜びますよ!」と大きく頷いた。
    その言葉の通り、どうやら義勇は手毬を気に入ったようだ。左足で手毬をちょいちょいと突いて、ころころと転がるとそれを追いかける。てちてちと手毬を追いかける義勇の首元では、ちりんちりんと鈴が鳴っている。その姿はとても可愛らしい。これだけ遊んで貰えれば、お婆さんも嬉しいだろう。
    そう思ったけど、どうやら実弥はその手毬が気に食わなかったようだ。義勇が手毬にばかり気を取られているから。だから、実弥は義勇が目を離している隙に大きな口で手毬を咥えて、それを押入れの隙間に隠してしまった。手毬が見当たらないことに気づいた義勇が不思議そうに「にゃう」と鳴く。「みゃあみゃあ」と鳴きながら、机の下や部屋の隅を探した。すると、実弥が大きな歩幅でのしのしと近づいてきて、義勇の首根っこを咥えた。そのまま、縁側に置いてあるお気に入りの座布団に向かう。そこで義勇を足の間に閉じ込めるように丸くなった。そして義勇の身体をぺろぺろと舐めて毛繕いをする。いなくなってしまった手毬のことは心配だが、実弥の大きな舌に舐められると、義勇は安心して身体の力が抜けてしまう。気持ちいい。お日様もぽかぽかと温かくて、義勇は「みゃう」と蕩けた声を漏らした。その様子を見守っていた匡i近は彼らの邪魔にならないように声を殺して笑った。
    後日、手毬を作ってくれたお婆さんにそのことを話すと、お婆さんは「あらまあ。ふふふ、実弥ちゃんは本当に義勇ちゃんのことが大好きなのねえ」と嬉しそうに微笑んだ。


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    大きな白い犬の実弥と小さな黒猫の義勇。義勇が見当たらなくて、匡近は「ぎゆう〜?」と名前を呼ぶ。そんな時は大抵実弥の近くに義勇はいる。今日も、座布団に座る実弥の足の間からぴょこりと義勇が顔を覗かせた。どうやら実弥のお腹に顔を埋めて丸くなっていたようだ。義勇の頭の毛が少し跳ねている。「にゃう」と鳴く義勇を見つけて、その可愛らしさに匡近は思わず頰が緩んだ。でれでれ。「そこにいたのかあ」と間延びした声で言うと、義勇は匡近が呼んでいると思ったようで、もぞもぞと実弥の足の間から這い出てくる。でも、実弥が義勇の首根っこを軽く噛んで、それを阻止した。実弥に引き寄せられた義勇は体勢を崩して、実弥の身体に寄りかかる形になって「ころん」とお腹を見せた。ピンク色の愛らしいお腹だ。すると、実弥はそのお腹を大きな舌でぺろぺろと舐める。とても気持ちいい。義勇は思わず「ふにゃ……」と蕩けた声を漏らした。


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    大きな白い犬の実弥は、匡近や村人なら義勇に触れるのを許してくれるけど(見知らぬ旅人や行商人が義勇に触れようとするとめちゃくちゃ吠える)、なでなでして貰った義勇が気持ち良さそうに「みゃあ」と鳴いて自ら仰向けになってピンク色のお腹を見せたりすると、実弥は物凄く不機嫌そうに「ぐるるる」と唸る。そして義勇の首根っこを咥えて、風のような素早さで山に入って行ってしまう。きっと山の中には実弥の本来の巣があるのではないかと村人たちは思っている。義勇が自分以外の誰かにお腹を見せたことが相当嫌だったようで、実弥は三日もの間、義勇を巣に閉じ込めたまま山から降りてくることはなかった。


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    大きな白い犬の実弥と小さな黒猫の義勇。ひとりで散歩に行ってきた実弥。途中で迷子の子猫を見つけたから、匂いを辿って母猫の元まで届けてやった。そうして一通り村の中を見回って、それから匡近の家に帰ると、てちてちと義勇が部屋から出てきた。出迎えてくれるのだろうか。けれど、義勇は実弥を見た瞬間に「ぼわわ」と尻尾の毛を逆立てた。素早く実弥に近づいてきて、すんすん、くんくんと匂いを嗅ぐ。やっぱり自分以外の猫の匂いがする。それを確かめた義勇は「ふにゃあ」と不機嫌そうに鳴いた。そして、実弥の身体に頭をぐりぐりと擦り付けたり、小さな舌で実弥の毛並みをぺろぺろと舐めた。そうして自分の匂いを移す。
    義勇の小さな小さな舌で舐められるのはくすぐったいし、小さすぎるせいで毛繕いをするだけで小一時間はかかるし、何より義勇は毛繕いが下手だから、終わる頃にはいつもボサボサになってしまう。それでも、実弥はじっと動かずに義勇の好きなようにさせている。こんな風に義勇が独占欲を露わにするのは珍しい。他の猫に嫉妬しているのか。そう思うと、実弥のふさふさの尻尾が勝手に揺れるのだった。一生懸命に毛繕いをする義勇が可愛くて愛おしくて、藤色の瞳を細めた実弥は、我慢できずに自分も義勇の頭をぺろりと舐める。すると、邪魔するなと言わんばかりに「てしっ」と義勇に猫パンチをされるのだった。


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    大きな白い犬の実弥と小さな黒猫の義勇。「みうみう」と切なげに鳴く義勇の小さな声が聞こえて、匡近は部屋の中を覗き込む。すると、座布団の上にちょこんと座っている義勇が、何やら足元を気にしていた。そこには一輪の花がある。確か、少し前に山に出かけた実弥が持って帰ってきた物だ。動物に踏まれて茎が折れているのを見つけたようで、実弥はそれを口に咥えて帰ってくると、まるで義勇の頭に飾るように押し付けたのだ。可愛らしい小ぶりな花が義勇に似合うと思ったのかもしれない。その花を義勇は今まで大事に取っていたようだ。
    だけど、日にちが経って花は萎れかけている。義勇は「みう」と鳴きながら、花を看病するように小さな舌でそっと花びらを舐める。「みゃあ、みゃう」と鳴く声は、花のことを心配しているかのようだ。元気出して、どこか痛いのかと聞きながら、義勇は一生懸命に花をぺろぺろする。だって、実弥から貰った大事な大事な花だから。花が枯れてしまうのが悲しいのだろうと伝わった匡近は、可愛すぎる義勇の姿に胸がきゅうと締め付けられる。本当に可愛いなあ。そう思いながら、そっと義勇に近づく。そして「なあ義勇。その花、押し花にしてやろうか?」と優しく声をかけるのだった。義勇は青みがかったまあるい瞳をぱちりと瞬いて、「にゃう?」と不思議そうに一鳴きした。
    それから数日が経って、押し花の栞が出来上がる。栞の先っちょにつけたリボンを小さな口に咥えて、義勇はてちてちと実弥の元に行く。そして自慢げに栞を見せびらかすのだった。実弥は、気まぐれで渡した花を義勇がそんなに大事にしてくれていたとは知らなくて、そのことが嬉しくて嬉しくて胸がきゅうとなった。ふさふさの尻尾が勝手に大きく揺れる。実弥は「ぐる……」と声を漏らしながら義勇の頭に鼻先を擦り寄せ、それからぺろぺろと舐めた。実弥の大きな舌にぺろぺろされて、気持ちよくなった義勇は「ごろごろ」と喉を鳴らすのだった。


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    大きな白い犬の実弥と小さな黒猫の義勇。天気が良いから河原を散歩するふたり。義勇がてちてちと川に近づいて水面を覗き込むと、きらりと魚が光った。思ったより大きい。これを取って、実弥に食べさせてやろう。きっと「すごいな」と褒めてくれる。いつも実弥には助けて貰ってばかりだから、義勇だって恩を返したかった。そう思って、義勇は左足でちょんちょんと水面を突く。狙いを定めるためにもっと身を乗り出した。
    でも、片足のない義勇の身体は不安定で、体勢を崩してそのまま「ぽちゃん」と川の中に落ちてしまう。少し離れた岩の上で日に当たっていた実弥は、すぐにその音に気づいた。
    義勇が川に落ちた。そのことを理解して、実弥の全身の毛が「ぶわわ」と逆立つ。実弥は「わんっ!」と大きく鳴いて、全速力で川まで走った。そして大きく跳躍して、勢いよく水面に飛び込む。ばしゃん!と激しく水飛沫が上がった。だけど…。水の中に入った実弥は、水深が自分の腹より下までしかないことに気づいてハッと我に返った。そうだった。この川は浅いのだ。足元を見下ろすと、川底の石に足をかけた義勇がしっかりと水面から顔を出していて、全身をびしょ濡れにした実弥のことを不思議そうに見上げている。
    義勇は「にゃう?」と鳴く。実弥は自分が早とちりして、義勇が川に落ちたと思ったら動揺のあまり水深のことも忘れて飛び込んだなどと言えなかった。恥ずかしい。実弥は全身が熱くなる。黙ったままでいる実弥を心配して、義勇が再び「みゃう」と鳴いた。それに対して、実弥は誤魔化すように足を蹴って、ほんの少しだけ義勇に水をかけた。「ふにゃ」と鳴く義勇。それから義勇は「何をするんだ」と抗議をするように「みゃあみゃあ」と声を上げた。実弥はそれを見下ろして、自分の早とちりだったけど、義勇が無事だったことに心の底から安堵する。その気持ちを伝えるように、背中を丸めて義勇の頭に鼻先を近づけると、まるで人間が口付けを交わすかのように義勇の頰を優しく舐めた。ぺろぺろ。
    急に川に飛び込んできて、こちらに水をかけたと思ったら、今度は宝物のように舐められる。今日の実弥は変だ。でも、実弥の大きな舌にぺろぺろされるのは気持ち良くて、嬉しくて、胸がほわほわする。義勇は嫌がることなく、全てを実弥に委ねるように目を閉じるのだった。


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    小さな黒猫の義勇が、手毬をころころと転がして遊んでいる。村のお婆さんが義勇のために作ってくれた手毬は、義勇のお気に入りだった。義勇は「みゃう」と鳴きながら、転がる手毬をてちてちと追いかける。
    そうして暫く遊んでいたけど、義勇はそのうち遊び疲れてしまったようで、手毬を胸に抱くように丸まって、その手毬に桃色の鼻をくっつけながら「すぴすぴ」と寝息を立て始めた。
    その時、外に出掛けていた実弥がちょうど帰ってきた。実弥はのしのしと部屋の中に足を踏み入れて、義勇の寝顔を見下ろす。気持ち良さそうに「ふにゃ……」と小さな声を漏らす義勇を見つめる藤色の瞳は、自然と柔らかく細められた。実弥は背中を丸めて、その場で円を描きながら、義勇を包むように腰を下ろした。そして、鼻先で手毬を突いて遠くに転がす。触れていた手毬が無くなったことに気づいた義勇が、微睡の中で寂しそうに「にゃぅ」と鳴く。
    義勇は手毬を探すように左足を伸ばして、そうしたらふわふわの物を見つけた。ふわふわで温かい。義勇はもぞもぞと体勢を変えて、そのふわふわに擦り寄る。それは実弥の胸の毛だった。実弥の胸に顔を埋めた義勇はとても安心したようで、また「すぴすぴ」と寝息を立てた。実弥は義勇を起こさないように気をつけながら、そっと義勇の頭を舐める。まるで宝物に触れるかのように、優しくぺろぺろと毛繕いをしてやるのだった。


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    大きな白い犬の実弥と小さな黒猫の義勇。とある冬の日に、村には雪が降った。こんな日は、雪で村人が足を滑らせて転んでしまうことだろう。怪我をする者がいないか心配だ。そう思った実弥は村の様子を見るために外へ出かける。積もったばかりの新しい雪を踏み締めて、のしのしと歩いた。庭に降りて、奥にある勝手口から外へ出ようとする。
    すると、後ろからてちてちとついて来る足音が聞こえた。振り返ると、義勇が黒い毛に雪をくっつけながら後を追いかけてきている。それなりに雪が深いから、身体が沈まないように「ぴょこぴょこ」と実弥のつけた足跡の上を歩いていた。実弥の足跡に比べて、義勇の足跡は豆粒のように小さい。それだけのことで、実弥は胸がきゅうとなってしまう。
    だけど、こんな寒い中義勇を外にいさせたくなどない。実弥は「ぐる」と唸って、帰れと言うように鼻先で義勇の身体を押しやる。けれど義勇は「みゃう」と嫌がって実弥の足元に擦り寄った。足に触れた義勇の桃色の鼻先は、すっかり冷えてしまっている。実弥はもう一度「ぐるる」と鳴いて、義勇の首根っこを咥えると、大きな歩幅で来た道を戻る。そして、縁側の座布団の上に義勇を乗せた。「てめぇはここにいろ。ついてくんじゃねぇ」そう言い聞かせるように、義勇の小さな頭をぺろりと舐める。
    そうして今度こそ村を見回るために踵を返すけど、後ろから「みゃあみゃあ」と実弥を呼ぶ声が繰り返された。実弥は足を止めて肩越しに振り返る。すると、義勇が縁側から身を乗り出して、また庭に降りようとしているではないか。右足の無い義勇は上手く体勢を保てなくて、今にも転がり落ちそうだ。あいつ……くそ、じっとしてろって言ったのに。実弥は慌てて義勇の元に戻って、その首根っこを咥えた。そして、仕方ないからそっと地面に下ろしてやる。義勇は「みゃう」と鳴いて、甘えるように再び実弥の足元に擦り寄った。どうしても離れたくないらしい。まったく……。実弥は呆れつつも、喜びと愛おしさで胸がいっぱいになった。そうして、仕方ないから義勇を背に乗せて村を見回ることにした。義勇の桃色の肉球を霜焼けにさせるのだけは絶対に嫌だったから。
    そんなわけで、実弥の上に乗った義勇は、実弥の首元のもふもふの毛の中に埋もれているのだった。雪かきに勤しむ村人たちは、そんな彼らを見つけて「あらまあ。実弥ちゃんと義勇ちゃんは今日も仲良しねえ」「ふふふ。あったかそうねえ」と笑って、胸がぽかぽかと温かくなった。
    ちなみに、義勇が実弥について行こうとした理由は、自分でも少しは実弥を温めてやれるのではないかと思ったからである。村人たちのために外に行く実弥の力に少しでもなりたかった。だから、実弥のもふもふの毛に埋もれている義勇だけど、本人は自分が実弥を温めているつもりなのであった。


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    この時期になると、小さな黒猫の義勇が庭先でちょうちょを追いかけている姿が目撃される。左足を一生懸命に伸ばして「んみゃ、にゃう」とちょうちょと戯れる。ちょうちょも、まるで義勇と遊んでやっているかのように義勇の周りをふわふわと飛んだ。
    その姿があまりに可愛くて、匡近は縁側に座って義勇のことを眺めるのだった。匡近の頰はでれでれと緩んでいる。でも、気をつけなければならない。あまり義勇を見つめすぎると、実弥が「俺の物を見すぎなんだよ」と言わんばかりに「ぐるる」と唸って、義勇の首根っこを咥えて、本来の巣がある山の奥に引っ込んでしまうのだ。
    ひと月前には、匡近が義勇の桃色のお腹に顔を埋めて「すう」と匂いを嗅いだら、実弥が「わんっ!」と怒って、三日も山から下りてこなくなってしまった。


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    大きな白い犬の実弥と小さな黒猫の義勇。暖かな春の陽気になって、ふたりは川に入って魚を取る。今日のご飯にするつもりだった。黒い毛並みをびしょ濡れにした義勇が、左手で器用に水を掻いて「てちてち」と川から上がってくる。その口には、匡近の小指ほどの大きさの魚が咥えられていた。義勇にとっては大物だ。実弥にも一口食べさせてあげよう。この魚は丸々と太っているから、きっととても美味しい。義勇は、実弥と魚を半分こするのを想像して、尻尾をぴんと立てた。
    その時だった。遅れて川から上がった実弥が、のしのしとこちらに近づいてきたかと思うと、義勇の身体より一回りも大きい魚を「びちっ」と地面に置いた。こんなに大きな魚を近くで見るのは初めてで、義勇は尻尾を「ぶわわ」と膨らませて、思わず「みゃっ」と鳴いた。
    魚の正気のない瞳と目が合って、義勇は急いで実弥のお腹の下に隠れようとする。頭だけは実弥の白い毛に埋まったけど、義勇の愛らしいお尻は外から丸見えだ。かわいい。実弥は胸がきゅうとなって、藤色の瞳を細める。そして背中を丸めて、義勇の濡れた身体を乾かしてやるためにぺろぺろと舐めた。そうすると義勇は少し安心したようで「にゃう……」と小さな声で実弥を呼ぶのだった。


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    大きな白い犬の実弥と小さな黒猫の義勇。村のお婆さんが実弥と義勇のためにいろんな物を作ってくれる。彼女にとってふたりは孫のようなものだった。
    今日は、お婆さんに貰ったリボンを首につけている義勇。レースがあしらわれていて、とても可愛らしい。そんな義勇を見て、村の娘たちは「きゃあ、義勇ちゃん可愛い!」と黄色い悲鳴を上げた。「もっとよく見せて」「こっち向いて」と言う娘たちに囲まれて、義勇はあせあせした。義勇は、賑やかな場所があまり得意ではない。娘たちのことが嫌いなわけではないが、皆でじいぃっと見てくるのはやめて欲しい。
    義勇は堪らずに「みう」と小さな鳴き声を上げた。すると、少し離れたところで縄張りの匂いを確認していた実弥が、大きな歩幅でこちらに歩いてくる。実弥は鼻先で娘たちを押しやるようにして義勇に近づくと、その首根っこを咥えて持ち上げた。そのまま、娘たちを振り返ることなく歩いて行ってしまう実弥。その実弥の首には、義勇とお揃いのリボンが巻かれている。実弥が足を踏み出すたびに、レースがふわふわと揺れた。
    それを見て「本当に可愛い!」「あー行っちゃったわ。実弥ちゃんってば、義勇ちゃんの騎士さまみたいね」「じゃあ、義勇ちゃんはお姫さまかしら?」と娘たちは嬉しそうに話すのだった。


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    大きな白い犬の🍃と小さな黒猫の🌊。🍃が縁側に置いてある座布団の上に座って日向ぼっこをしていると、🌊がてちてちと近づいてくる。🌊は「にゃう」と鳴いて、🍃の首元に頭を擦り寄せた。愛らしい。🍃は藤色の瞳を細めて、🌊の身体をぺろぺろと舐めてやる。すると、🌊は気持ち良さそうに寝転がって無防備に桃色のお腹を晒した。🍃は遠慮することなく、🌊のお腹に顔を埋めてぺろぺろと舐める。「みゃ」と声を漏らす🌊。かわいい。愛おしい。堪らなくなった🍃は、🌊のお尻に鼻先を近づけた。そして、くんくんくんと匂いを嗅ぐ。すると、🌊が尻尾の毛を「ぶわわっ」と膨らませて、いつになく大きな声で「みゃあ!」と鳴いた。伸ばした左足で🍃の顔に猫パンチを食らわす。🍃が少しだけ離れると、🌊はするりと隙間から抜け出して、急いで🍃と距離を取った。そして、十分に離れたところで振り返り、もう一度「にゃう!」と鳴く。どうやら「こんな昼間に何をするんだ!匡i近もいるのに!」と怒っているようだ。🌊はぷいっと顔を背けると、てちてちてちっと部屋の中に入っていってしまった。🍃は心の中で「ちぇ」と呟き、また座布団に座り直す。足の上に顎を乗せながら、今夜は山にある自分の巣に帰ろうかと考えた。もちろん🌊を連れて。そこでなら、存分に🌊に触れることが出来るから。


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    大きな白い犬の🍃と小さな黒猫の🌊。たまに🍃が他の動物の匂いをつけて帰ってくると、その日はずっと🌊が離れようとしない。縁側に置いてある座布団に丸くなった🍃は、🌊が一生懸命に下手くそな毛繕いをするのを好きにさせてやっていた。暫くして、喉が乾いた🍃が立ち上がる。すると、歩く🍃の足元に🌊がくっついてくる。身体を擦り寄せてくるものだから、小さな身体を踏んづけてしまいそうだ。🍃は仕方なく鼻先で🌊を押しやる。そんなに力を入れたつもりはなかったが、小さすぎる🌊の身体はころんと床の上に転がった。仰向けになった🌊の桃色のお腹が愛らしい。🌊は抵抗することなく転がったまま、むしろ「毛繕いをしてくれるのか?」と言わんばかりに青みがかった瞳をきらきらしている。「みゃう」と鳴いて、ねだるように左足を伸ばしてくるのが可愛すぎた。ずりぃ。そんな無防備に可愛らしい🌊を放っておけるわけがなくて、🍃は堪らずに🌊の桃色のお腹に顔を埋めてぺろぺろと舐めるのだった。


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    大きな白い犬の🍃と小さな黒猫の🌊。鞠のように小さな🌊が、これまた小さな花を「ちょん」と口に咥えている。道に落ちているのを見つけて、何だか気に入ったようだ。花を咥えたままてちてちと歩く🌊が可愛すぎて、村人たちは「ぎゆうちゃん、可愛いねえ」「そのお花どうしたの?」と声をかける。すると、🌊は足を止めて、まるで花を見せびらかすように顔を上げる。かわいい。皆は更に「可愛い、可愛い」と口を揃えて、🌊の頭を優しく撫でた。🌊はごろごろと喉を鳴らす。そうしたら、少し先を歩いていた🍃が振り返って、不機嫌そうに鼻の頭に皺を寄せた。🍃にとっても村人たちは大切な存在だから吠えたりはしないが、流石に🌊に触りすぎだと思ったようで、のしのしと村人に近づくと、鼻先で彼らの手を🌊の頭から退かすのだった。臍を曲げた様子の🍃に気づいて、村人たちは「おやまあ」「あらあら、さねみちゃんは本当にぎゆうちゃんのことが好きねえ」「ふふ、さねみちゃんも可愛い」と言って、ほわほわと微笑んだ。


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    大きな白い犬の🍃と小さな黒猫の🌊。居間に置いてある座布団で🌊が丸くなって寝ている。「みうみう」と小さな声で寝言を呟いているから、どうしたのだろうと思う匡i近。すると、縁側にいた🍃がのしのしと近づいてきて、まるで🌊を包むようにしながら伏せる。どうやら🌊は寝言で🍃の名前を呼んでいたようだ。🍃に包まれた🌊は、鳴くのをやめて安心した様子で「すぴすぴ」と寝息を立てる。可愛らしい。思わず頰が緩んでしまう匡i近と同じように、🍃も藤色の瞳を優しく溶かして🌊の寝顔を見つめていた。


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    黒猫🌊が自分の肉球をぺろぺろと舐めている。桃色の小さな舌が動いているのが愛らしい。可愛いなあと思いながら、匡i近が戯れに「ぎゆう」と呼んだ。すると🌊は顔を上げて、舌をちょびっと出したまま匡i近のことを見る。「?」と小さく首を傾げる仕草がまた可愛い。匡i近はでれでれと頰を緩めた。もう一度「ぎゆう〜」と呼んで、伸ばした両手で優しく🌊を抱っこする。そして「お前って本当に可愛いなあ」と言って🌊の小さな頭に頬擦りをすると、🌊が「みう」と鳴く。そうしたら、のんびりと畳に伏せていた🍃が立ち上がって、触りすぎだぞ匡i近と言わんばかりに「ぐるる」と唸った。そして匡i近の服の裾を咥えてぐいぐいと引っ張る。やきもちを焼いているのだろう。「ぎゆうを離せって? ははは、さねみも可愛いなあ」と言って、匡i近は満面の笑みを浮かべる。幸せそうだ。🍃は不機嫌さを隠しもせずに鼻の頭に皺を寄せて「いいから、ぎゆうを返せよ!」と言いたげに「わんっ」と鳴いた。その後、触りすぎた匡i近の痕を消すように、🍃は🌊の全身をぺろぺろと舐めて毛繕いをした。お尻まで舐められた🌊は「みうみう」と鳴いて、足をぱたぱたして抵抗していたけど、大きな🍃に敵うはずもなく、全てをぺろぺろされてしまうのだった。


    □□□


    大きな白い犬の🍃と小さな黒猫の🌊。朝から降っていた雨が上がって、ふたりは散歩に出かける。すると、道の真ん中に大きな水たまりがあった。🍃はそれを軽々と飛び越える。跳躍に合わせて、ふさふさの尻尾が揺れた。そんな🍃の背中に向けて、🌊が「みう」と鳴く。🍃が振り返ると、🌊は水たまりを飛び越えられずに、小さな声を一生懸命に張り上げて「みうみう」と鳴いていた。「置いていかないで」と言ってるようだ。🌊は勇気を出して足を踏み出すけど、爪先が水に触れると「ぴゃっ」と飛び上がった。早く🍃の元に行きたいのに、この水たまりは大きすぎて怖い。「にゃう…」と泣きそうな声を漏らす🌊。でも🍃のそばにいたいから、頑張らないと。🌊は再び恐る恐る足を伸ばす。すると🍃が尻尾を翻して、また軽々と水たまりを飛び越えて🌊のところに戻ってきてくれた。青みがかった瞳の中に星を散りばめて「みゃう」と鳴く🌊の頭に鼻先を擦り寄せてから、🍃は🌊の首根っこを咥えて小さな身体を持ち上げた。そして、今度は🌊を連れたまま水たまりを飛び越えた。向こう側に着いて、🍃は🌊を地面に下ろすと、先ほど水たまりに触れて少し濡れてしまった🌊の左足を優しく丁寧にぺろぺろと舐めてくれる。やさしい。だいすきだ。🌊は小さな胸がきゅうぅと締め付けられる。その気持ちを伝えたくて、🌊も首を伸ばして🍃の耳元に鼻先を埋めると、小さな桃色の舌でぺろぺろと下手くそな毛繕いをするのだった。


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    小さな黒猫の🌊の肉球が、愛らしい桃色なの可愛いなあ。大きな白い犬の🍃は🌊の肉球が気に入っていて、よく🌊のお腹を優しく鼻先で押して、🌊をころんと寝転がらせると、桃色の肉球をぺろぺろと舐める。気持ち良いけど少しくすぐったくて、🌊は「にゃう」と声を漏らして短い足をちたぱたと揺らす。でも🍃は「大人しくしてろ」と言わんばかりに🌊の頭を大きな舌でぺろりと舐めて、それから再び肉球に鼻先を埋めて、柔らかい桃色を思う存分に愛でるのだった。


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    小さな黒猫の🌊が自分の尻尾を追いかけて遊んでたりするとめちゃくちゃ可愛い。「みゃう」と鳴きながら、尻尾を追いかけてくるくると回る。そのうち、尻尾を捕まえようと前足を伸ばして、体勢を崩して床に「ころん」と寝転がった。🌊はびっくりした様子で、小さな薄桃色の舌を覗かせたまま「??」とした表情で暫く固まっていた。すると、🌊の愛らしさに我慢できなくなった🍃(大型犬)が近づいてきて、🌊の頭やお腹をぺろぺろと舐めて毛繕いをするのだった。


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    小さな黒猫の🌊が、寝そべっている🍃(大型犬)の首元に擦り寄る。そうすると、🌊の小さな小さな身体は🍃の毛に埋もれてほとんど見えなくなってしまう。飼い主の匡i近は、ぎゆうがいない!と驚いて、うろうろと家の中を探す。あんなに可愛いから、誰かに攫われてしまったのではないか。いや、でも🌊が攫われたりしたら🍃が黙っていないだろう。じゃあ近くにいるのか? 間違えて踏んでしまったらどうしよう。匡i近は不安になりながら、座布団を捲って下を覗き込んだりした。それでも見つからないから、匡i近は「ぎゆう〜。ぎゆう、どこだ〜?」と名前を呼ぶ。すると、何処からか「みゃあ」と鳴き声が聞こえた。振り返ると、🌊が🍃の首元からぴょこんと顔を出して「みう」と鳴いている。なんて愛らしいのだろう。匡i近は先ほどまでの不安など忘れて、でれでれと頰を緩めた。「ぎゆう〜」と蕩けた声で名前を呼ぶ。その声に答えるように、🌊は🍃の足の間からもぞもぞと這い出ようとした。でも、それに対して🍃が「行くな」と言わんばかりに🌊の頭を鼻先で押す。そのまま大きな舌で🌊の頭をぺろぺろと舐めた。🌊が気持ち良さげに「みう」と鳴く。ああもう、こいつら本当に仲良しで可愛いなあと思いながら、匡i近は蕩けるような笑みを浮かべた。


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    小さな黒猫の🌊が、大きな白い犬の🍃に首根っこを咥えられたまま大人しくしてるの可愛いなあ。そのまま巣に持って帰られちゃうんだ。だけど、🍃以外の犬が気安く🌊の首根っこを咥えようとしたら、🌊は「ふみゃあ!」と鳴いて、鋭い猫パンチを繰り出す。そして、どんなに遠くに居ても🍃は🌊の声を聞き逃すことはなく、風のように駆けて🌊の元に向かうのだった。大きくて厳つい🍃に「わおん!」と吠えられて、不届きな犬は慌てて逃げ出す。🍃はすぐに🌊へ近づくと「平気か。何もされなかっただろうな。あいつ、次に顔見せたら喉元に噛みついてやる」と言うように「ぐるる」と唸りながら、🌊の耳の付け根や小さな頭、そして喉に至るまでぺろぺろと舐める。改めて自分の匂いを擦り付けて、🌊が誰の物なのかを知らしめるのだった。


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    大きな白い犬の🍃と小さな黒猫の🌊。飼い主の匡i近が風邪を引いてしまった。布団から起き上がれずに「うぅ…」と唸ることしか出来ない。熱が高いようだ。すると、匡i近の異変に気づいた🌊が「みぃみぃ」と鳴きながら枕元をくるくると回る。やがて「みぅ」と一際高く鳴いて、ぴょんっと匡i近の胸の上に飛び乗ると、小さな舌でぺろぺろと匡i近の頰を舐めた。まさちか、大丈夫?苦しい?と心配するかのように、一生懸命にぺろぺろと舐めてくれる。可愛い。匡i近は、少し楽になった気がした。「ほう」と息を吐く。すると、今度は🍃が大きな歩幅でのしのしと近づいてきた。そして、まるで匡i近を温めるかのように寄り添いつつ、そっと隣に寝そべった。🍃を見て、🌊が「みう」と鳴く。何だか、その青みがかった瞳が微かに潤んでいるように見えた。もしかして、俺のことが心配で泣いちゃったのかな。愛おしくて堪らない。匡i近の胸がきゅうと締め付けられた。一方で、🍃は🌊に顔を近づけて、慰めるようにぺろぺろと🌊の目元を舐めた。まるで「泣くなよ」と言っているかのようだ。少し安心した様子で「にゃぅ…」と小さな声を漏らす🌊。可愛い。さねみもぎゆうも、本当に愛おしくて堪らない。だけど、二匹にくっつかれると熱くて苦しい。匡i近は「うぅ…」と再び唸る。それでも、大事な二匹を追い払うことはしなかった。匡i近が苦しそうにしていることに気づいた🌊が、また小さな舌で一生懸命に匡i近の頰をぺろぺろと舐めてくれた。その後、いつもなら朝から畑仕事をしているはずの匡i近の姿が見えなくて心配した近所の老夫婦が家まで様子を見に来てくれて、🍃と🌊に押し潰されるようにくっつかれたまま「うーん、うーん」と苦しそうに唸っている匡i近を見つけて「あらまあ!」と声を上げるのだった。


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    大きな白い犬の🍃と小さな黒猫の🌊。今日は何だか朝から🌊の調子が悪いようだった。お腹が痛いのか、座布団の上で小さく丸くなったまま動かない。大好物の鮭を焼いてやっても、身じろぎもしなかった。時折り「みう…」と苦しそうな鳴き声を漏らす。そんな🌊を抱きしめるかのように、🍃は大きな身体を丸めて🌊を包むと、足の間に閉じ込めた。そして、少しでも🌊の苦痛を取り除こうと、舌でぺろぺろと🌊の頭や背中を舐める。飼い主の匡i近はとても心配して「ぎiゆう、医者に行こう。この村に獣医はいないけど、医者に診て貰えば何か分かるかもしれない」と言って、🌊を抱っこしようと両手を伸ばす。すると、🍃が「ぐるるる」と唸って匡i近を威嚇した。🍃が匡i近に敵意を向けるなんて、初めて出会った時以来だ。どうやら、命よりも大事な🌊が辛そうにしていることで、🍃も酷く困惑しているようだ。🌊を守らなくてはいけないと、それだけしか考えられなくなっているのだろう。匡i近が必死に「さiねみ、大丈夫だ。ぎiゆうを傷つけたりなんかしない」と説得するけど、🍃は今にも噛み付かんばかりに牙を剥く。どうしよう。匡i近は弱りきった声で「さiねみ、頼むよ」と訴えた。その時、🍃の足の間にいる🌊が、もぞもぞと小さく動いた。🌊はゆっくりと顔を上げると、短い足を伸ばして、皺の寄った🍃の鼻先を「ちょん」と叩く。まるで「さiねみ、だめ」と言っているかのように。「みゃう」と鳴く🌊を見下ろした🍃が、何だか少し泣きそうな顔をしたように見えた。そして🍃は何度か🌊の小さな頭をぺろぺろと舐めると、それから🌊の首根っこをそっと咥えて立ち上がった。そのまま匡i近に近づいて「ぎiゆうを頼む」と言うように、匡i近の手の方に🌊を差し出す。匡i近は急いで🌊を抱っこして、出来る限り負担がかからないように姿勢を整えてやる。そして「任せろ。絶対にぎiゆうを治してやるからな」と言って、🍃に向かって強く頷き返した。それから、匡i近は🌊をタオルに包んで、身体を揺らさないように気をつけながら医者の元へ急いだ。隣を歩く🍃は、何度も何度も匡i近の腕の中で眠る🌊を見上げるのだった。


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    大きな白い犬の🍃と小さな黒猫の🌊。天気の良い昼下がりに、散歩に出かける二匹。🍃が段差をひょいと越えた。だけど🌊は身体が小さい上に右足も失っているため、段差を越えるのに苦労する。何度かチャレンジしたけど上手くいかない。🌊は背伸びをして段差からひょこっと顔を出すと「みう」と鳴いた。「さiねみ、いかないで」と言うように、一生懸命に「みうみう」と鳴く。🍃はすぐに振り返った。そして段差からちょこっと顔を覗かす🌊を見つけて、その愛らしさに胸がきゅうと締め付けられる。🍃は早足で🌊の元に引き返して、その首根っこをそっと咥えて段差を越えさせてやった。🍃の足元に擦り寄って再び「みう」と鳴く🌊。「ありがとう。でも、置いていっちゃやだ」と言っているようだ。可愛くて、愛おしい。🍃は「ぐる」と微かに喉を鳴らして、🌊の小さな頭をぺろぺろと舐めた。


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    小さな黒猫の🌊の肉球は、ぷにぷにの桃色なんだろうなぁ。匡i近や近所に住む老夫婦に「ぎiゆう、可愛いなあ〜」「ぎiゆうちゃん、肉球を見てもいいかしら?」と言われるから、🌊は何だか照れ臭くて、足を引っ込めて尻尾で隠す。恥ずかしそうに「みう…」と小さく鳴く🌊が可愛すぎて、匡i近たちはデレデレと頰を緩める。
    皆が🌊の桃色の肉球を「可愛い」と褒めてくれるけど、🌊は🍃(大型犬)のような大きくてがっしりした肉球に憧れている。いつか俺も、あんな立派な肉球になるんだ!と思っているのだった。


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    小さな黒猫の🌊。匡i近が手紙を書くために机の上に置いておいた墨。来客があったため少し部屋を出ている間に、🌊が「よじよじ」と机に上った。足の先っちょで筆をつんつんしたりして遊んでいると、墨の入った壺が倒れる。墨は机の上に広がって、手紙を汚した。そして、🌊の桃色の肉球にも墨がつく。足が濡れたせいで、むずむずする🌊。「みう」と鳴きながら、部屋の中をてちてちと歩き回った。部屋には🌊の肉球の跡がいっぱい残る。その鳴き声を聞いて慌てて戻ってきた匡i近は、部屋の惨状を見て驚く。そして、🍃が🌊の首根っこを咥えて捕まえると、真っ黒になった肉球を不機嫌そうに見下ろして、それを綺麗にするために舐めようとするから、匡i近は慌てて「わわわ、待て待てさiねみ!」と叫んだ。


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    大きな白い犬の🍃と小さな黒猫の🌊。暖かな昼下がりに、縁側に置いてあるお気に入りの座布団の上で寄り添う二匹。🌊は🍃の首元に顔を埋めて「すぴすぴ」と寝息を立てていた。桃色の小さな舌をしまい忘れて、ちょびっと覗かせたまま寝ているのが愛らしい。その可愛すぎる寝顔を見つめて、🍃は藤色の瞳を細めた。そして、慈しむように🌊の耳の付け根をぺろりと舐める。すると、🌊が「にゃ…ぁ、っ」と甘い鳴き声をあげた。🍃が驚いて瞳を瞬くと、🌊も自分の声に気づいたようで飛び起きる。不意に耳を舐められたのが気持ち良くて、変な声が漏れてしまった。恥ずかしい。穴があったら入りたい。羞恥のあまり、🌊は青みがかった瞳を潤ませる。もし人間だったら、頬っぺたがぽぽぽぽぽぽと赤く染まって、さくらんぼのようになってしまっていただろう。それから🌊は🍃に背を向けると、てちてちてちっと部屋の中へ逃げていってしまった。🍃はすぐに立ち上がって、大きな歩幅で🌊を追いかける。暫くして、部屋の中から「にゃ、ぁ、にゃう」と、更に🌊の甘い鳴き声が聞こえてくるのだった。


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    大きな白い犬の🍃と小さな黒猫の🌊。暖かな昼下がりに、かくれんぼをして遊ぶ二匹。🍃はかくれんぼの鬼が上手だ。今日こそは見つからないぞ!と意気込んで、縁側の下に隠れる🌊。ここならきっとさiねみも分からないはずだ。むふふ。
    そう思っていたのに、🍃はすぐに🌊を見つけてしまった。大きな身体を丸めて縁側の下を覗き込む🍃。「ぎiゆう」と呼ぶかのように「ぐる」と軽く喉を鳴らされて、🌊は青みがかった瞳をきらきらと輝かせた。すごい。さiねみはいつだってすぐに俺を見つけてしまう。すごい、すごい。🌊はてちてちっと縁側の下から出てきて、🍃の足元に擦り寄った。「さiねみ、すごい。すぐに見つかってしまった」と言うために「みうみう」と鳴く。その姿はとても愛らしい。🍃は藤色の瞳を柔らかく細めた。俺は犬だから嗅覚が抜群なんだよ、ばか。てめぇの匂いなら、どんなに離れてても間違うはずがねぇだろォ。と思うものの、子供のようにあどけない瞳で「さiねみ、すごい」と見上げてくる🌊が可愛すぎて、🍃は真相を告げずに、🌊の小さな頭を優しくぺろぺろと舐めるのだった。


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    小さな黒猫の🌊の右足は、🍃と出会う前に凶暴な野犬と争ったせいで失った。森の中で食べ物を探していると、子狸の兄妹が野犬に襲われかけているのを見つけて、🌊は「にゃあ!」と鳴いて小さな身体で立ち向かったのだ。野犬と掴み合ったまま崖を転がり落ちたせいで、あの兄妹がどうなったかは分からない。どうか無事でいて欲しいと思う。その後もいろいろあって🍃と出会ったわけだが、🍃に「右足の傷は事故かなんかか」と聞かれた時に「野犬にやられたんだ」と答えると、なんだか🍃の藤色の瞳が暗く染まった。そして、🍃は黙ったまま🌊の傷の辺りに鼻を近づけてくんくんと匂いを嗅ぐと、いきなり立ち上がって「出かけてくる」とだけ言って巣穴から出て行ってしまった。それから3日経って帰ってきた🍃は、真っ白な毛を血に染めていた。🌊は驚いて、🍃の傷を探して身体中をぺろぺろと舐める。桃色の小さな舌で一生懸命にぺろぺろする🌊を見下ろして、🍃は「大丈夫だ。俺の血じゃねぇよ」と低く掠れた声で囁くと、まるで口付けるように🌊の頭をぺろりと舐めた。


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    小さな黒猫の🌊が、縁側に迷い込んだ蝶を見つけて「みゃ」と鳴いて前足を伸ばした。まるで🌊と遊ぶかのようにふわふわと舞う蝶。「うにゃ、にゃ」と鳴きながら、🌊は一生懸命に背伸びをした。すると背を逸らしすぎたせいで、後ろに転がってしまう。ころんと床に転がった🌊が頭を打たないように隣に座っていた大型犬の🍃は鼻先で🌊の頭を支えた。そっと離れて🌊を見下ろすと、🌊は自分が転がったことに驚いて、桃色の小さな舌をしまい忘れたまま、青みがかった瞳をまあるくしている。可愛い。🍃は瞳を細めて、再び背中を丸めて🌊に顔を近づけた。そして、🌊の耳の付け根を大きな舌でぺろぺろと舐める。くすぐったさと気持ちよさが混ざった声で🌊が「にゃう」と鳴いた。


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    大きな白い犬の🍃と小さな黒猫の🌊。飼い主の匡i近が、暑い日に被るための麦わら帽子を畳の上に置いたままにしていると、気づいたら🌊が帽子の中に収まって、すぴすぴと寝息を立てていた。桃色の小さな舌をしまい忘れていて、かなりリラックスした様子だ。小さい身体が帽子の中にすっぽり収まっているのがあまりに可愛すぎる。匡i近は思わず口元を手で押さえながら「ぐう」と唸った。ぎiゆうが可愛すぎて、堪らない。つい、でれでれと頬が緩む。もっと🌊の愛らしい寝顔を堪能しようと、忍び足で近づいて覗き込む。すると、少し離れた座布団に座っている🍃が顔を上げて「ぐるる」と小さく唸る。「俺のもんを勝手に見てんじゃねぇ」と言っているかのようだ。嫉妬だろうか。さiねみは本当にぎiゆうのことが好きだなあ。それが微笑ましくて、匡i近は笑って「悪かったよ」と🍃に謝った。
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