赤い女 異国のリズム。知らない歌詞。けれどもそれらは私を惹きつけて離さず、彼女の踊りの中に誘った。
音楽が次第に聞こえなくなっていく。最早音楽は私の一部となって、私は音楽の一部となった。彼女以外のすべてが色あせて、そして溺れていく。
軽く真紅の布が舞った。まるで彼女の肢体の一部であるかのように、彼女を一番うつくしく見せるために踊っていた。指先が優美に顔の輪郭をなぞって、長い黒髪をかき上げる。その仕草のひとつひとつにどうしようもなく胸が騒いだ。
腰が揺れる。この街角が、今はすべて自分のものだと言わんばかりに大きく足を運んで、彼女は踊った。かろやかにステップを踏んで、揺れる手で何かを誘って。浅黒い肌は太陽の下で輝いて、濃い睫毛に縁どられた目が私を捉えた。
わずかに細められたように思った。その瞳の先にいるのが私でありはしないかと期待しながらも、そうではないと知っていた。彼女の口元を彩る真紅は乱暴に擦ったような跡があって、それは彼女が誰のものにもならないことを示していた。
炎のような熱を持った踊りに見入っていた。音が消えて、拍手が鼓膜を叩いた時、初めて私は彼女の踊りが終わっていたことを知った。
まるで夢のような茫洋とした感覚の中、指先に何かが触れた。赤い口づけが残されたそれは、どこかへと私を導く切符だった。