羂髙メモ２転生同棲ピンチャン時空羂髙の髙羽が風邪ひいたら、羂索は憎まれ口叩きつつも心配しそうだなと思う。
折角巡り合った相方が、３９度の高熱出してふうふう言ってる様子を見て、平安時代感覚が少し思い出されてしまい、このまま死んじゃうんじゃないかと一抹の不安が拭えない羂索。普段煩い奴が弱っている姿を見て、「おもしろい唯一無二の存在」を失うことへの不安を覚えて、普段より意地悪言っちゃって、そんな自分にびっくりして欲しい。



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「馬鹿は風邪ひかないって言うけどさぁ、君の場合、単純に馬鹿だから風邪ひいてんだよね」
「……ごめんて羂索ぅ」
　万年床から聞こえる弱弱しい声に、げほごほと苦しそうな咳が付随する。先ほど羂索が無理やり脇に体温計をつっこんだ時からさらに体温は上がっているのだろう。崩れた前髪から覗く顔は赤く熱を持ち、眉尻は情けなく下がり、常に芸人魂を忘れないと煩く宣う口からは、ふうふうと熱い息が漏れるばかりである。
　羂索は、はあぁと、病床の相方に聞こえるくらい長いため息をついた。しかし、いつもなら賑やかに返ってくる困ったような抗議の声も、今は聞こえてこない。

「私に黙ってピンの仕事受けて、体張ったネタで風邪ひいてちゃ世話ないよ。今そういうの世間が知ったら制作側が何言われるかわかったもんじゃないのは、馬鹿の髙羽でも知ってるでしょ。出演者が風邪ひいたなんて、上に面倒くさいと思われたら今後ピンチャンとしての活動の場が減るかもしれない、なんてことは考えてなかったのかな」
　羂索の足元に敷かれた布団から、もごもごと謝罪の声が聞こえる。ずび、と鼻をすする音が聞こえた。人の気も知らないで風邪で寝込む相方は、なんとどうやら泣いているらしい。羂索は鼻を鳴らして返事に変えた。

　特級の馬鹿に言ってやりたいことは山ほどある。しかしそれは羂索の心情の表面にとめどなく浮かぶ小さな泡でしかない。苛立ち、焦燥、気泡のように次々と表面に浮かび上がる言葉を、弱っている相方へ思うままぶつけることは容易い。
　羂索は口を開き、閉じた瞼から涙を溢れさす相方を見て、そのまま口を噤んだ。
　深層に沈む感情が、彼の胸を僅かに締め付ける。

「とりあえず劇場には連絡しといたし、バイト先にも言っといたよ。体力だけはある君のことだから、寝てれば治るんじゃない？　まあ明日問答無用で病院には連れていくけどね」

――だから早く元気な馬鹿に戻れよ。

　羂索は濡れたタオルを絞ると髙羽の額に乗せる。
　「冷たい！」と、上がった悲鳴に少し安堵したことに、彼は気づいていない。