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    柚月@ydk452

    晶くん受け小説

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    柚月@ydk452

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    ミス晶♂短編プロトタイプ
    後日大幅修正予定

    "初めて"を綴る「賢者様、寝かしつける技はもう出し尽くしたんですか?」
    「出し尽くしちゃいましたね…。」
    「全然眠くないんですけど。」
    抑揚のない声でこちらに向き直るミスラの顔は、今日も寝不足で辛そうだ。こちらとしても早く寝かしつけたいのは山々だが、未だにこの賢者の力とやらは気紛れのようで、今日は空振りの日のようだった。
    呪詛だと言われた子守唄も、羊を数えるのも、安眠グッズに頼るのも数知れず。今となっては、もしかしたら眠れるかもしれないという僅かな可能性にかけて、添い寝を続けている。ミスラは握っていた手を離すと、力の抜けた賢者の指先を自身の手と重ねて戯れる。半ば夢心地となっていた賢者は、好きなようにさせていた。
    「他にないんですか。こうなったら呪いでも迷信でもいいので、絞り出してください。」
    そんな無茶な、と言いかけた賢者だったが、突如「…あっ。」と声を上げた。
    「思い出しました?」
    「思い出したというか、本当に呪いや迷信でもいいんですか?」
    「構いません。さっさとやりましょう。」
    目を閉じていても、ミスラの圧力がのしかかってくる。正直もう意識を手放してしまいたいのだが、残っていた気力でなんとか目を開けた。ぼんやりとした頭で、訥々と賢者は語り出す。
    「呪いだと、『白雪姫』が毒林檎を食べて永遠の眠りにつくとか、『眠りの森の美女』に出てくる姫は、糸車の針に刺されて、こっちも永遠の眠りについたとか…。」
    「賢者様の世界の姫は、何でそんなに寝るんですか?」
    「…何ででしょうね…。」
    「まぁ、良いです。それで、毒林檎と糸車はどこに行けば手に入りますか?」
    「…どこでしょうね…。」
    「ちょっと、賢者様、重要な情報を教えてください。」
    童話の世界の話だと伝えるのを忘れていたが、すっかりミスラは乗り気だった。今更訂正するのも、いや訂正する余力が賢者にはなかった。
    「…あとは、よく眠れるように、とおまじないのキスをする人もいます。」
    日本だとあまり馴染みがない文化だが、確か西洋では、親が子に祝福のキスを贈る風習があった気がする。こちらの世界はどちらかと言えば、西洋に近いようだから、もしかしたら似た文化があるかもしれない。
    「そんな事を、人間はするんですか?」
    と思ったが、そうでもなかったようだ。
    不思議そうに問いかけるミスラの声に、賢者の意識は再度浮上する。暗闇の中でも分かる翡翠の瞳は、こちらをジッと見詰めている。
    こちらには無いんですか、と問いかけようとして、賢者ははたと気付く。
    ミスラは千年以上、死の湖で暮らしていた。
    それも、ずっと一人で。
    賢者が思うような、"当たり前の子供時代"とは程遠く、家族の情愛をしっかりと育む機会があったとは言い難い。唯一大魔女チレッタとの交流の中で情緒が育ったにしても、その言動や行動から、未だ発展途上だとも言えるだろう。
    ここは一つ、こちらの世界の文化ということにしよう。
    「そうです。親が子に、良い眠りをもたらせるよう、祝福のキスを贈るんです。」
    「ふぅん。じゃあ、どうぞ。」
    「…ん?」
    聞き間違いだろうか。
    何をどうぞされるのだろう。
    「毒林檎も糸車も、どう手に入るのか分からないんでしょう。だったら、賢者様がキスしてくれるのが、手っ取り早いです。」
    物凄い勢いで話が飛んだ。例え話のつもりが、ミスラはすっかりその気で、強請ってくる。
    美人の無言の圧力は怖い。どうにかして回避しようと、慌てて賢者は一般論や常識を振りかざす。
    「いや、待ってください、ミスラ。これはですね、家族とか親しい人同士で、親愛の意味を込めてやるんです。」
    「俺と賢者様は親しくないんですか?」
    「…親しくないわけではないと…。」
    「じゃあ、問題ありませんね。」
    いよいよ壁際まで追い詰められて、動揺する。長い手足が恨めしい。賢者を逃さないよう、まるで檻のように囲んでくる。

    (まぁ、おやすみのキスくらいなら…)

    体力と気力の限界も訪れ、ついには思考も放棄し出した。ええいままよとばかりに、そっとミスラの額に口付けを落とす。
    「お、終わりです…!」
    あまりの恥ずかしさに、賢者は顔を枕に埋める。傍らのミスラの反応はない。
    恐る恐る見上げると、何か考え込んでいるような、不思議そうな表情を浮かべている。
    「…どうしたんですか?」
    「賢者様、このキスはこういうものなんですか?」
    「だと、思いますけど…。ごめんなさい、俺も初めてやるから、上手とは言えないかもしれないです。」
    「…初めてやったんですか?」
    「はい?そ、そうですね…。」
    賢者の返答に、ミスラは無言だった。何か不快な気持ちにさせてしまっただろうか。不安が募ったが、やがてミスラは無邪気な笑みを浮かべた。
    「あなたの"初めて"を聞くのは、気分が良いです。」
    「それは良かったです…?」
    何故かご機嫌になった彼の姿に、胸を撫で下ろす。このまま眠りに誘えるよう、賢者はミスラの手を握り直した。



    「賢者様、これは食べた事がありますか?」
    「ひえっ、何ですかこれは…?」

    「今暇ですよね。ちょっと付き合ってください。」
    「何処に行くんでしょうか待ってくださ」

    あの晩以来、何かとミスラは賢者に構うようになった。賢者の元へ、珍しい動植物を持ってきたり、ネロでさえも唸るような貴重な食材を持ってきたりとしたかと思えば、突然空間魔法を使って幻想的な世界へと連れ出す。そのどれもが、経験したことのない未知の出来事ばかりで、賢者は驚きの連続だった。
    「これは、"初めて"ですか?」
    「はい、"初めて"見ました!すごいです、ミスラ!」
    「じゃあ、どうぞ。」
    「…ん?」
    見るとミスラは背を折り曲げ、賢者の方へと顔を寄せていた。じっと何かを待つように、賢者を見つめている。
    この流れは、まさか。
    「えーっと…今は、おやすみの時間ではないですよ?」
    「知ってますよ。でも人間は、寝る時以外にも、キスをするんでしょう。」
    「…これは、何のキスを求められているんでしょうか…?」
    「賢者様が、決めてください。」
    幸か不幸か、今ここには誰もいない。いや、別にやましい事をする訳ではないのだから、気にする必要はないはずだ。
    だから賢者は、高鳴る鼓動を落ち着かせ、幾分か上にある、ミスラの額に口付ける。
    「何のキスですか?」
    「…感謝のキスです。」
    そう告げると、ミスラはまた、あの無邪気な笑みを浮かべた。
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