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    柚月@ydk452

    晶くん受け小説

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    柚月@ydk452

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    ネロ晶♂短編
    二人きりの食堂で、まだ見ぬ未来を語り合う

    明日世界が終わるなら大いなる厄災と呼ばれる月が襲来すると、世界が滅亡の危機に瀕するらしい。らしいというのは、まだ実際にそうなっていないから、あくまで可能性の話だ。最も、滅亡していたならば、今この世界は存在しないのだが。
    賢者として召喚された晶は、21人の魔法使いを束ねて、厄災を追い返す役目を持つ。

    (あの綺麗な月が襲ってきたら、本当はどうなるんだろう)

    平和な日本で生まれ育った晶にとって月は美しく、風情さえ感じる。
    夜空に浮かぶそれをぼんやりと眺めていると、コトンと目の前にマグカップが置かれた。
    「そんなに眺めて楽しいか?賢者さん。」
    「あ、ネロ。お疲れ様です。」
    温かなホットミルクが差し出され、晶はありがたく受け取る。書類仕事を片付けていたら遅めの夕食となってしまったが、ネロはきちんと取って置いてくれた。
    食休みも兼ねてぼんやりしていたら、ネロの方も片付けが終わったらしい。
    「お疲れ様。で、何考えてたの?」
    こうして時折、食堂の片隅でネロと語り合うのが、晶は好きだった。踏み込み過ぎず、深入りしない、この絶妙な距離感が、今では心地良い。だから、するりと心の内が溢れていく。
    「…あの月が襲来したら、どうなるんだろうって考えてました。」
    「どうなるって、滅亡するんじゃないのか。」
    「スノウとホワイトからは、そう言われました。だから一層、世界が終わる日について、考えてしまって。」
    「へぇ。」
    元の世界でも、よく映画や小説で描かれていた。けれどそれは、恋愛や友情、憎悪や復讐多々あれど、あくまで空想に過ぎない。
    本当に世界が終わる日を迎える事なんて、ないのだから。
    「俺の世界では…いえ、少なくとも俺の国は、平和で豊かだったので、世界が終わる日というのがピンと来なくて。けど友達同士で、明日世界が終わるとしたら、何をする?って話で盛り上がったことがあります。」
    「明日世界が終わるなら…ね。」
    ネロは頬杖をついて、晶の話を静かに聞き入る。縁起でもない話題なのに否定せず、むしろ面白がっているようにも見えるかもしれない。
    ホットミルクを一口含むと、束の間の静寂が訪れる。
    「賢者さんは、なんて答えたんだ?」
    じっと探るような黄金色の瞳が、晶を見つめる。幼い頃の記憶を辿るが、あの時自分はなんて答えただろうか。今となっては朧げとなってしまい、思い出せない。
    「小さかったので、あまり思い出せません。あの頃は、家族と近くの友達だけが、俺の世界だったから。会えなくなるのが嫌だから、最後まで一緒にいたいとかそんな感じだったかな。」
    「はは、あんたらしいよ。」
    微かに溢れる笑いが、食堂に反響する。
    「ネロは?」
    「え?」
    「ネロは、明日世界が終わるなら、どうしますか?」
    ほんの意趣返しのつもりだった。いつも余裕で落ち着きのある彼の、ふと崩れてしまう姿が見れるかなという、淡い期待。
    だが予想に反して、ネロは晶に問われると、すいっと視線を逸らした。
    「……さぁな。案外、何もしねぇかも。」
    「何も?」
    「そう、何も。いつも通り、朝の仕込みをして、昼飯作って、酒のつまみを見繕う。最後だからこそ、特別な事なんてしねぇよ。」
    彼の視線の先を辿ると、青白く浮かぶ月が在った。次に彼が、戦うべき相手。そしてこれから長い時間、見続けることになる存在。
    まるで月に囚われたかのようにすら思えるその姿に、言い知れぬ不安が過ぎる。
    「ネロ。」
    晶は、彼の名前を呼んだ。こちらを見て欲しくて、彼に手を伸ばす。
    「ん?」
    そのまま頬に手を添えるが、ネロは嫌がらずに、顔を傾けた。晶の手の上から、自身の手を重ねて。
    「あなたは月に選ばれた魔法使いじゃなくて、賢者である俺の魔法使いです。」
    月に奪われたくないと、晶は言葉を重ねる。ネロは黙って聞いていた。
    信用するなと、彼は言う。
    境界線を誤ってはいけない。
    これ以上踏み込んだら、戻れなくなる。
    だが、それでも。
    「…もし、明日世界が終わるなら。」
    仮定の話を、また続ける。
    今度は、ネロを真っ直ぐ見て。
    「俺は、ネロの食事が食べたいです。」
    この世界で出来た、当たり前の生活を過ごしたい。焼きたてのパンの香りで目覚め、温かなスープを楽しみ、美味しいご飯を皆で楽しむ。
    「そして、ネロとまた、こうして二人で話したい。」
    震えた声でそう告げると、ネロはほんの少しだけ目を見開く。曖昧だった境界線が、今この瞬間にも溶けてなくなってしまいそうだ。
    距離を取られるだろうか。引かれるだろうか。
    耐えきれずに、晶もまた視線を月へと向ける。
    そして、頬に添えた手を離そうとしたところで。
    「なんで離すの、賢者さん。」
    ネロは面白そうに、晶の手を握り返す。
    彼は水仕事もこなしているはずなのに、垢切れひとつない綺麗な手だ。けれど紛れもなく男の人の手で、今でも晶の手を簡単に覆ってしまう。
    晶の心中を知ってか知らずか、優しくて繊細な、気遣い屋の彼は、もう月を見ない。
    黄金色の瞳は、晶だけを見据える。
    「それ、すげえ殺し文句だから。」

    明日世界が終わるとしても、共に過ごしたいと思える日々を。
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