初雪 伏木蔵目線※伏木蔵の過去を捏造しております
今日はお昼寝をしたからか、変な時間に目が覚めてしまった。
顔がいつもより冷たいと感じ、もしかしたらと外を見に行くとチラチラと雪が降っていた。地面は湿ってる程度だったので降ってからそんなに時間はたっていないのだろう。
「寒いはずだよ。」
ぶるっと身体を震わせ、押し入れから半纏を取り出していそいそと袖を通す。
なにか暖かい飲み物を飲みたいと思い、医務室へ向かう。
「ひぇ~寒い~」
早く温まりたいので、角火鉢を出して手際よく準備をし、火打セットで火を起こす。
カリカリと音が聞こえてうまくついたみたいだ。
まだ暖まるには時間がかかるので、その間になにか用意しなければと思ったが、思いの外寒くて動く気にはなれず、じっと炭を眺めてしまう。
音だけが時間が進んでる気分になった。
だんだんと身体の表面が暖かくな程度までに火力が強くなってきた。
冷えた手をかざしてジンジンと暖まっていくと、その感覚は乱太郎を思い出した。
忍術学園へきて、この時期に初めて乱太郎と医務室で当番をしていると、今日みたいな雪が降ってきて、当時はまだ火鉢の使い方がわからなくて、先輩達が戻ってくるまで二人で寄り添って待ってたんだよなぁ。
寒くてガタガタ二人で震えてたら、不意に乱太郎が、僕の手を取って温かい息をかけてくれて、ジンジンと手が温かくなって…。すごいスリル~。
思い出して頬を赤くして身体の芯も暖かくなってきた。
(きっとその時から意識してたんだろうなぁ。)
気持ちは言わないつもりだけど、一緒にいればいるほど好きになって、苦しくなってしまった。
向こうは全然気がつかないから、無意識に手とか繋いでくるし…。
「(乱太郎は僕の事なんとも思ってないからだよね。)」
そんな事を思っていると、急に外気がはいってきた。
暖まった熱がすぅっと冷めていくのを感じ、風が入ってくる方を向くと
「あ、乱太郎」
まさか考えていた本人が来てくれるなんて思いもよらなかった。
「伏木蔵、起きてたんだ。」
嬉しくておいでおいでと手招きをして呼ぶと当然のように隣に座ってくれるのが嬉しくて、少し冷めた所がまた熱をもつ。
「伏木蔵も寒くて起きたの?」
「うん。変に目が覚めちゃったから、何か暖かい飲み物を
飲もうと来たのは良かったんだけど、暖をとってたら動けなくなっちゃって・・・。」
改めて言葉にするとバカらしくてあははと笑うと乱太郎も合わせて笑ってくれて
「わかるよ。暖かいと動けなくなくよね。」
と同調してくれた。
それが嬉しくて顔を見合いあってふふと笑う。
(そんな所も好き。)と心で呟きながら。
二人しかいない時間なんて、そうそうないから、ちょっとでも長く起きて乱太郎と一緒に居ようと頑張って起きてたが、暖かさと乱太郎の心地よい空間が眠気を呼ぶ。
少しうとうとすると「もうそろそろ寝ようか。」
と乱太郎の声が聞こえてハッ!した。
「ごめん。」
「なんで謝るの?」
と聞かれたので正直に
「僕がうとうとしたから気を使ったんでしょ?乱太郎まだ寒いんじゃない?」
と聞いてみた。
まだ乱太郎は身体の表面しか暖かくなってないはずだ。
「もう暖かいから大丈夫だよ。ありがとう。もう遅いから寝よう。」ね?と同意を求められたが、納得してない。
でも、無理に誘うと乱太郎も困るだろう。普通に授業があるし、自分だけ帰ろうとしても、結局乱太郎もと合わせて帰るだろう。
だったら仕方ない、としぶしぶ納得した。
片付けをして二人で部屋を出るとひゅうと冷たい風が二人のせっかく暖まった体温を奪っていく。
「うう寒い・・・」
「ほんとだね。スリル〜。」
シンと静かな夜に二人だけ。
雪がハラハラとゆっくり落ちて、少しずつ地面が隠れていく。
外も本格的に寒くなったのだろう。
「寒いはずだね。」
「だね~」
すると乱太郎がヘブシ!とクシャミを一つ。
「やっぱりまだ暖まってなかったんじゃない?」
「うーん、大丈夫だと思ったんだけど。」
鼻水をずるっとすすり、暖かくしようと体をさする乱太郎を見て、
やっぱりもう少し暖めさせるべきだったと後悔した。
「ごめんね。」と謝ると
「伏木蔵のせいじゃないでしょ?早く戻ろう。」
と行こうとする乱太郎の前に出て、
さすっていた両手を手に取った。
多分、二人の時間を少しでも伸ばしたかったと思う。
先ほどの乱太郎との思い出のように口元に持っていき「はぁ〜」と温かい息をかけた。
「あ、いいよ。」
すぐに手を引いていこうとしたので、ぐっと掴んで「ちょっとだけだから。」と再度はぁ〜と息をかけた。
「ありがとう。もういいよ。」
また手を引いて戻っていく手が、名残り惜しくて一緒についていってしまい乱太郎の胸の中に飛び込んだ。
「え?」
と乱太郎が驚きながらも自分を受け止めてくれたからすっぽりと胸に収まった。
「伏木蔵?」
頭の上から乱太郎が困ったような声が聞こえる。
自分でもこんな事をするつもりがなかったので、多分自分の顔は真っ赤
に確実になってるのであげられない。
(困ったぞ)と固まっていると
「もしかして暖めてくれてるの?」
と聞こえてきた。
ここまでしても、そんな考えしか浮かんでくれないのか。と先ほどまでの顔の熱が引いていく。
頭を撫でる乱太郎の手が、こんなに嬉しくないと思うのは初めてだった。
気づいてほしい訳ではない、だけどこの行動にはもっと特別な感情があることをわかって欲しい。
「ありがとう伏木蔵。」
(苦しい)
お礼を言われる事なんてしてない。
なんで気づいてくれないの。自分の気持ちが一切伝わってないのがとても悔しい。
そう思うと悔しさでギュウと胸の服をつかんでしまう。
するとそれに答えるように抱きかえされたので、思わずびっくりして肩が揺れてしまった。
「もしかして伏木蔵も寒いんじゃない?早く戻ろう。」
身体を剥がされるのがいやでぐっと力をいれて乱太郎を見る。
伝えるつもりがなかった言葉を呟くと向こうは「なに?」と自分の目を聞き返された。
そう簡単には伝わらないか。
だったら、今度は乱太郎が僕を気にしてよね。
「おはよう乱太郎。」
目の下の隈が気になったけど、あえて無視した。
一瞬動きが止まった乱太郎だったが、こっちを改めて見て「おはよう」と返してくれた。
じっとこちらを見てるに、多分夢ではないか?と考えてるな。
「風邪ひかないように気をつけるんだよ。」と乱太郎の横を通り過ぎる際に言ってやった。
絶対に逃がしてやんない。
後ろからきり丸しんべえが
「座り込んでどこか悪いの?」
「大丈夫?お腹空いたの?」
と聞こえてきたので満足しながら食堂へむかった。