修学旅行へ行ってきます(二日目)二日目
雑渡の部屋から出て、仙子たちとはトイレで待ち合わせた。
部屋全員が出たところを先生たちもそこまで確認はできないはずだ。
朝食はホテルのレストランらしく、そのまま向かっていった。
それを遠目で見送り、雑渡も朝ごはんを食べにレストランに入る。
早速いさ子にバレて、しかもエッチまでしてしまったら、もう隠れてる意味はないなと思った。
ただ、だからと言って尾行は辞めない。今日はいさ子のパンツを守らなければと言う使命感が雑渡を動かした。
相変わらずの柄シャツ(と自身の火傷の跡)のせいで周りから避けられているが、そんなこと雑渡は気にならずもぐもぐと朝食を食べている。
周りは刺激を与えないように、と食べてるので、まるでお葬式のようだった。
バスで移動し、目的地についてみんなが降りてそれぞれのグループで歴史の展示やら、建物に入って見たりしている。
昨日のキャップと、今日の柄シャツを着ていさ子達のグループにある程度距離を空けて見守る。
いさ子がチラッと雑渡を見て手で少し合図を送る。
(もう少し離れて)
それを見て、仕方ないと少し歩くスピードを遅くすると、「トン」と背中に何かぶつかって来た。(なんだ?)
見ると昨日の男に怒鳴られていた女の子だった。
「あ、あ・・・」どうも何かに怯えるとなんも言えなくなる子らしい。
昨日は浴衣を着ていてわからなかったが、制服が違うので別の学校の子らしい。
雑渡の火傷と図体のでかさで足が少し震えている。
怖がらせてしまったと、その子の目線に少し合わせて「大丈夫?」と聞いて見ると、
女の子は一気に顔面が赤くなった。
「あ、だ、大丈夫です・・・。」
「それなら良かった。気をつけてね。」
そう言うとさっとさとその場から去って、いさ子の後についていく。
雑渡が行ったあとで、女の子二人が遅れてやってきた。
「ちょっと山吹。先に行かないでよね。昨日の二の舞になるよ。」
「もう〜昨日は別の学校の人が助けてくれたから良かったけど、あーそれと忍者っぽい変なひと。」
「井吹(いぶき)、紫吹(しぶき)、私王子様見つけちゃった…。」
「あんた昨日助けてくれた人たちのこともそう言ってたじゃん!何人王子様いんのよ。」
「そう言わないであげてよ井吹。この子惚れやすいんだから・・・。」
「あの人たちはプリンスなの!!さっきの人は王子様!」
後から来た二人はげんなりしていて、
唯一山吹だけがイキイキと雑渡の去っていく姿を眺めていた。
お昼を食べ、各自グループの自由時間がやってきた。
これからは時間内に指定された場所に戻ってくれば好きに動いていいとのこと。
「じゃあ、どうする?いさ子は別行動する?」
「うーん。」
雑渡とも一緒に居たいが、やはりクラスメイト達とも一緒に居たい。
「…途中まで一緒に居てもいい?」
「いさ子の旦那さんがいいって言うなら。」
仙子がやれやれと言った表情でいさ子に確認を促した。
「ありがとう!」
早速雑渡を探して見るが、どこを見てもいなかった。
「ちょっと携帯にかけてみる。」
雑渡の携帯にかけてみると、案外すぐに出た。が、「いさ子ちゃん…」となんだかいつもより弱気な雑渡の声に驚き「雑渡さん?」と呼び掛けた。
「どうしました?なんか、いつもりより声が…」
「いさ子ちゃん助けて…」
「雑渡さん?!」
「これはどういう…??」
「いさ子ちゃ~ん」
雑渡をぐいぐい身体を押している山吹に
どうにもできずに涙目でいさ子に助けを求めていた。
「あ!昨日助けてくれた人!」
「てか、え?!この人と知り合いなんですか?!」
紫吹と井吹も一緒にいる。
「あの、どういう状況ですか?」
「「実は…かくかくしかじかで」」
見学が終わり、お昼いさ子達は学校が予約していたお店に入っていたため雑渡は適当に入ったお店に山吹たちがいた。
山吹は雑渡を見つけて相席をし、自由時間に入ったのでここまでついてきた。
「なるほど。だいたいの話はわかったよ。」
「すいませんうちの山吹が…」
「何度も離れるように言い聞かせてるのですが…」
「いや、あの子山吹ちゃん?の気持ちはわからなくもないよ。かっこいいもんね。」
「あの、あの人とはどういう関係なんですか??」
紫吹が恐る恐る聞いてきた。
伊吹も気になるみたいでうんうんといさ子を眺める。
「あの人の婚約者なの。私。」
「「え」」
思わぬ返答に驚きすぎて二人の制服が少しズレた。
「え?それは大丈夫ですか?なにか事情が?」
「なにか犯罪かなにか…」
「事情はあるけど、別に貴女達が心配してるような事ではないから安心して。」
あははと力なく笑う。
「い、いさ子ちゃん助けて…」
ヨロヨロしながらいさ子に助けを求める雑渡になんだか新鮮な気持ちになったのでとりあえず携帯で写真を撮ってみる。
「あ!昨日助けてくれたプリンス!」
山吹が気づいていさ子にちかづいてきた。
一旦いさ子は携帯をしまい、山吹に身体を向けた。
「昨日はありがとうございました。
あのあと先生達が対応してすぐに行ってしまったのでお礼が云えませんでした…。」
「いえいえ、なにもなくて良かったね。」
お礼を言い終わるタイミングで井吹と紫吹が山吹の両腕をそれぞれ抱えて身動きがとれないようにする。
「あのね!この方は助けてくれた人の婚約者なんだって!だから離れな!」
「あんたどっちにも迷惑かけてるのよ!」
二人に怒られてもそんなにダメージがない山吹。
「え?!お二人とも婚約者同士なんですか!」
「「うん。」」
山吹が真顔で二人を交互に見て、はぁとため息をついて「すっごいお似合い…」と呟いた。
大きいタンコブをこさえた山吹がシクシク泣いている横で
「本当にすいません・・・。お邪魔して・・・。」「せっかくの修学旅行なのに・・・。」
二人に深々と頭を下げられ「「では!」」と山吹を回収して行った。
「な、なんだったんだろ・・・。」
「ごめんねいさ子ちゃん付き合わせて。」
ちらっと雑渡をみて、先ほどの泣きそうな顔を思い出して笑いそうになったが我慢する。
するとそれに気づいた雑渡は恥ずかしそうにキャップを深く被り直した。
しかし、一つの不安を口する。
「まさか、泊まるホテル一緒ではないよね・・・?」
「あははは」
いさ子は笑うことしか出来なかった。
(その不安は当たらないといいな)
「いさ子!」
「ごめんね。時間かかっちゃった!」
仙子達といさ子は合流をして、予定のお店へ行くのに大盛り上がりだ。
それを遠くから見てる雑渡。
やはり悪い虫は居るようで。
階段を上ってる時や、エスカレーターなど上る際に、明らかに見ていこうとしてるやつらがいた。
なので、その度に雑渡が邪魔をする。
わざと転ぶふりをしてズボンを下げる。
わざと横に並ぶ。話しかける。
などなど。
「やっぱりあれはだめだよなぁ。」
いくらパンツが見えない、スカートを押さえていても覗こうとしてるやつを見ると腹が立つ。
たとえ見えなくてもいさ子になんかしらの邪な気持ちを抱かれるのは嫌なのだ。
普段の生活も気になってしまう。
こうやって守れればいいのだが、常に一緒にいない自分がなんだか許せなくなってくる。
なぜそもそもスカートなのかまで考え初めてしまったが、
いさ子達を見失わないようについていく。
時間が決まっているのか様々な店に歩き、話ながらなのか、女子高生の特有なのか歩いても歩いても楽しくて笑っている感じだ。
結局、途中までと言ってたが最後までいさ子たちのグループと遊び回ってしまった。
(雑渡さんと少し回りたかった…)
すると仙子がいさ子に気まずそうに話しかける。
「あとで旦那さんに謝っておいて。
」
「え?!いや、いいよ。私も楽しくて時間気にしてなかったし。」
「…まぁ色々ごめんねって。」
「素直じゃないなぁ。」
仙子が少し罪悪感を感じてるらしく、そんな仙子が可愛く思えた。
ホテルに着くと、案の定というか、やはりあの不安は当たったみたいだ。
「あ!プリンス!」
「あっ…やっぱり。」
「あれ?昨日の?」
仙子も一緒にいたので山吹はテンションがあがる。
いさ子がその場で山吹を紹介して、事情を説明した。
「そういえば、あの二人は?」
「お土産コーナーを見てくると言ってました。」
「一人で行動してたらまた誰かにぶつかられちゃうんじゃない?
まぁそういうときはいさ子がいるから大丈夫か。」
「勘弁してよ…。」
「その時はお二人方お願いします!」
(やだなぁ)とは言えず「「とりあえず気をつけて」」としか言えない。
「やはり居たか…」
雑渡は遠くから眺めているため、まだバレてない。
しかし、時間の問題だろう。
「あー苦手だあの子…。」
だいたいなんでこんなおっさんにそんな幻想いだけるんだ…。
(出会った頃のいさ子ちゃんはあんなんじゃなかったなぁ。)
あからさまに怖がったり、嫌がったりしなかった。
自分が普通に生活をしていた頃のように穏やかに過ごせるいさ子の存在はでかいのだと再認識する。
(やっぱり私にはいさ子ちゃんしかいないんだな。)
少し昔を懐かしむと、やっと学生達が移動する。
「夕飯か。」
その間に自分の部屋へ避難した。
バラバラと夕飯を食べ終わった生徒達は自分の部屋へと移動する。
いさ子達ももう少しで食べ終わるみたいだ。
(あの子達は…)
山吹たちを探してみるが、いない。
「良かった。」
胸を撫で下ろすと、とんとんと背中を叩かれ、ひぇっと声が出て後ろを向くと「やっぱり居ましたね?」
にこりと笑う山吹がいた。
「美味しかった~。」
「いさ子は相変わらずめちゃくちゃ食べるね。」
いさ子はお腹いっぱいで満足そうだ。
(雑渡さんはちゃんと食べたのかな?)
と歩きながら探してもどこにもいない。
(あれ?)
またいない。どこに行ったのか?
すると曲がり角から山吹の声が聞こえた。
(あ、雑渡さんと一緒に居るのかな?)
他人のふりをしなければならないが、角を曲がると思わず足を止める。
山吹が雑渡の腕を掴んでなにかを叫んでいた。
「離してほしいんだけど?!」
「だめです!」
(なにが、なにが起きてるの?)
いさ子は口を噛んで言葉が出ないように我慢している。
紫吹、井吹に身体を捕まれ「離せ!」と言われても山吹は離さなかった。
仙子がいさ子が止まってるのを見て連れ戻しにきた。
「行くよいさ子。」
「ん。」
雑渡がいさ子の存在に気がついていさ子を見ると、
顔が雲っていて雑渡の横を通っていった。
(あ)
雑渡は顔面に縦線が垂れる。
完全にいさ子の顔はこの光景を見て表情を変えてた。
(しまった。)
「あの、ホントに大丈夫だから離してくれるかい?」
「逃げませんか?」
「うん、大丈夫だから。」
できるだけ落ち着いて表情を変えないように言い聞かせて、山吹の手をはずさせた。
井吹と山吹が雑渡に頭を下げる。
「すいません、私達がちゃんとついていれば。」
事が起きたのはこうだ。
山吹に見つかった雑渡が、早足で部屋に戻ろうと階段を上るさいに、山吹もついていこうとして足を踏み外してしまい、それを雑渡が手を引っ張り逆に落ちてしまった。
別に、雑渡は受け身がとれていたのでそんな大した怪我はしなかった。
山吹も倒れただけで怪我もしてない、なのだが、
自分の学校の先生に見てもらおうと一生懸命引っ張りつれていこうとしたが、
雑渡はそれを拒否。さらにヒーットアップし、あとからかけつけた井吹、紫吹にも剥がすのを手伝って貰ったが、運悪くいさ子に見られたのだ。
「ホントに大丈夫だから…。ちょっと今はいさ子ちゃんのところ行かして…」
「え?!もしかして見られました?!」
「ガッツリ…」
山吹も顔を青くする。
「すいません…」
「私達が行って説明しても余計に拗れますよね…」
井吹、紫吹が申し訳なそうに顔を伏せた。
「いさ子ちゃんはそんなことで怒るような子ではないけど、きっと明らかにこの状況がわからないから不機嫌になっただけだと思うよ。」
とりあえず3人に再度大丈夫だと言ってその場を後にする。
「どうしよう。」
「あんたいっつも一人で行動するからでしょ?!」
「反省しな。」
「うぅ…。」
「部屋ってこっちか?」
携帯にかけてもいさ子は出なかったので雑渡はこそこそしながらいさ子を探した。
せめて、と付近でいさ子を待っていると、肩に手を置かれた。
(まさかまた?!)
山吹かと思ったが、振り返るとそこには仙子がいた。
浴衣をきてこれからお風呂へ入るのだろう。道具をもって雑渡を見つめている。
「え?確かいさ子ちゃんの友達の?」
「…いさ子は携帯を置いて、ちょっと周りを散歩してくるって言ってましたよ。私は先にお風呂へ行っててって言われてたのですが。」
「はぁ…」
「いさ子はさっきの事でそんなに悩みませんから安心して下さい。
でも、早く説明しに行った方がいいですよ。多分◯階の裏の階段から降りたので追えます。」
「あ、ありがとう…。」
「いえ、あなた達には口を出さないように気をつけますんで。」
「(なんの話だ?)」
「あと、これいさ子に渡して下さい。」
手渡して渡されたのは小さめの飲み物の缶だ。
いさ子が時々飲みたいとよく買ってる所を見たことがある。
「あの子、これ飲みながら行ってくるって言ったのに置いてってたので。」
「わかったよ。色々ありがとう。」
「いえ、じゃあよろしくお願いしますね。」
長いサラサラ髪をなびかせてさっさと行ってしまった。
さっそく雑渡は言われた階数の裏の階段から降りていさ子を探しに行く。
(なんでこうも次から次へと。)
いさ子は見つけてたが、もう一人例の男がいる。手紙をだしてきたやつだ。階段の上から雑渡は降りてきてたので、二人には気づいていない。
いさ子は手を捕まれて言い合っていて、若干少し焦っていた。
それだけでも腹が立つのに、もっと腹が立つのは顔が近いこと。
しかも、徐々に近づいてないか?
「いい加減にしろよ。」
これ以上腹を立たせないでほしい。
手にもっていた缶を思いっきり投げた。
空中でくるくると回転しながら、二人の顔の空間のど真ん中に缶が投げ込まれた。
カーンと缶はものすごい音で当たり、缶の中身が飛び散りうまいことに男の子に顔にかかったため、目を瞑り怯んでいさ子の手を離す。
いさ子が雑渡の方を向き、「雑渡さん!」と言うと階段を登ってきた。
「助かりました!ありがとうございます!」
雑渡の手を握って階段を一緒に登っていく。
学生が泊まってる階とは二階高い所に避難した。
「ここだとあまり人が通らないですね…。」
「そうだね、いさ子ちゃん大丈夫?ごめんね、思わず仙子ちゃんから預かってたのに投げちゃった。」
「別に構いませんよ。むしろ良かったです。」
いさ子はほっと肩をおろしてため息をついた。
「この上に私が泊まってる部屋があるからそこに行かないか?」
「そうですか!入っていいですか?」
「どうぞどうぞ。」
雑渡は今までの経験で、人の前では感情を出さないよう出来るようになっていた。
しかし、いさ子の前ではそれはギリギリの理性で、人の目が届かないのなら話は別だ。