聖歌で寝かしつけてくれる七海手足の付け根からじわじわと、身体の末端へかけて筋肉の弛緩していくのがわかる。湯船に浸かるだけで凝り固まった身体の至るところから、それこそ溶けてしまいそうな感覚に見舞われて、五条は思わず、声をだしては肩までを湯で包んだ。
「あー……くそっ」
いつまでも話の通じない上の連中を相手に、とことん言葉を尽くしてみても、なおも奴らは惚け。それがわざとであればいくらか良かった。実際には、本当に五条の言うことが想像の範疇外のようで、話はいつまでも堂々巡り。血管が二、三本は切れた頃になって言われたのは「そう怒るな。しかし、若いと血の気が多いから苛つくのも仕方がないか」などとの無自覚の煽り言葉。このまま空間ごと消し飛ばしてしまおうとは何度も頭のなかに浮かぶも、それこそ奴らの狙いどおりと理性で捩じ伏せた右手。それが湯のなかでじんじんと熱を持ち、やたらと強く握りしめていた拳が傷ついていたことを訴えていた。
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