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    choko_bonbon

    @choko_bonbon

    メモ代わりの、あらすじズラズラ。
    練習絵。などなど。

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    choko_bonbon

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    ⚠モブがすっげ~でしゃばる。
    団地妻の七さんを描きたかった。
    続く予定です。

    お化けマンション①通称『お化け団地』。
    元は白亜の。今では茶色く錆の浮いたような外壁がうら寂しい、三棟連なる六階建て。上下の度に小煩く鳴る遅いエレベーターを挟んで、左右に四部屋ずつ重たい鉄製の扉が嵌るそこは、地元の小中学生の間では、怖い話の発信源になっている。
    やれ、髪の長い女が夜毎、階段を行き来している、だの。真ん中の棟にあるエレベーターに乗ると、優しそうな男によって魔界に連れ去られる、だの。毎晩インターフォンが三度鳴る部屋がある、だの。
    社会人二年目のオレですら知っているのだ、それらの噂は十年単位で流布され続けている。
    とはいえ、俺もだいぶ大人になって。そして、子供心に分かっていたものだ。噂は噂でしかなく。お化けマンションとは、うらぶれた見目ばかりがそれを主張する、ごく一般的なマンションであることを。実際、俺の同級生にも数人ばかり、このマンションを実家にしている奴がいる。小中学生の頃であると、隣室で、上階、もしくは下階で、そういった階段めいた事柄に遭遇した住人がいて。と話を聞いては怖がって楽しんだものだが。高校生ともなれば誰しも、そういった話題に消極的となって。そういえばあのマンションを怖がっていた時期もあったなと、幼い自分が更に幼い自分を可愛がるようになっていた。

    この辺りの地区の配達担当になって、はや二年ちかく。この団地にも、ほぼ毎日通っているおかげで、すれ違う住人とは挨拶以外の言葉を交わすこともしばしば。待ち時間の方が長いエレベーターに対して住人の大多数は、両脇に備え付けられた幅広の階段を使っているらしい。今日も、上から降りてきた顔見知りと頭を下げあい挨拶をして。小脇に抱えた小包と伝票とを見比べながら、階段に脚をかける。
    「二号棟、四階……五〇五号室、ね」
    管理人だか所有者だかは、縁起を気にするタイプらしい。四のカウントの抜かれた伝票を見て考える。
    この地区の担当になって初めて、というか、入社以来変わらずの担当地区であるので、この仕事を始めてから。初めて訪れる部屋番号だ。午前の配達指定になっているが、この団地に住んでいるのは多くがファミリー層。平日の午前中なんて、殆ど無人のはずなのだが。本当に居るんだろうか。再配達はごめんだ。
    かるい小包みを抱え直し、階段を駆け昇る。配達仕事ゆえに、体力には多少なりと自信がある。午前中ということもあって、一段飛ばしで四回まで一息。部屋番号を確認していくと、該当の五〇五号室は、ちょうどエレベーターの脇の部屋だった。
    古式ゆかしい、音符マークの可愛らしいチャイムを押し、キンコンと鳴らした。さて、出てくるのはどんな人物だろう。待つ間にざっと、推測してみる。
    鉄扉の前は綺麗に掃き掃除がなされており、物はない。空き部屋がぽつぽつとある団地だが、入居者は概ね小さな子供の居るファミリーが中心ということもあってか、右を見ても左を見ても、花の咲いたプランターや、可愛らしい動物の置物のあることが多かったので、すこし珍しい気がした。表札のプレートは無記名のまま。これから名字を入れるのだろうか。防犯のために、わざと抜かしているのか。
    『はい』
    考えていると、ふいにインターフォンから声がした。慌てて人好きのする明るい声を意識し、名乗る。
    「あ、わしたか運送です~。お荷物のおとどけです」
    『いま出ます』
    機械を通した独特のザラつきをもってしてもわかる低い声は、腰にクるほど良い声。だが。
    ――男か。
    オレは少しだけ落胆した。なにせ配達担当が男というだけで、客には雑で横柄な態度をとられることの多いのが現実。せめて優しい人であるよう、扉が開くまでの数秒間。心中で祈りを捧げる。
    「お待たせしました。すみません、ハンコが見当たらなくて」
    「いえい、え?」
    出てきた男を見てオレは、我が目を疑った。
    一七〇前半のオレを見下ろすとなると、男の身長は一八〇を超している。そのうえ一番に目を引くのは、瞳にわずかかかるほどの長さを持つ前髪の、その色。光りに透ける金色だ。彫りの深さからして、十中八九、このなめらかな黄金は地毛だろう。
    オレの確信を裏付ける証拠は、すぐ傍に植え付けられてあった。睫毛までが金色なのだ。それに縁どられた瞳は、青緑に澄んでいる。なんていうか、昨年の年末に配られた会社のカレンダーに起用されていた、どこぞの世界遺産の湖を思い出させる色で。男はその瞳を、ちらとこちらにくれた後、ばか高い鼻頭へずりおちていた色つきの丸眼鏡を、ぐいと持ち上げる。
    それで美しい瞳の色は隠れてしまった。だが、その、丸眼鏡の押し上げ方ひとつとっても、オレの目は釘付けだった。体格に見合ったでかい指を広げ、嵌るレンズの外と外を、中指と親指で持ち上げるのだから狡い。
    そんな、おまえは海外俳優かっ、とツッコミを入れたところで。はい、そうですが。と鼻先でいなしそうな男がやったら狡いだろう。その仕草、オレだってしてみたいさ。
    「あの……」
    「あ、すみません。お荷物、一件です」
    「どうも」
    いつまで経っても荷物を脇に抱えたままで、訝しがられてしまった。ずいと差し出し、笑顔を向けて場を取り持つ。包みを受け取る男の手が大きくて、小さかった包みがより小さく映る。
    男のオレから見ても美形と断言できる男が、こんな寂れた団地に住んでいるなんて、どう考えてもおかしい。彼が外人かどうかの区別はつきかねた。なにせ日本語は上手いし、応対時のイントネーションだって普通だ。もしかしたら、日本で生まれた外国の人。それか、ハーフとか。そんな線だろう。
    それにしたって、なんだこの美形。外国の血が流れているからと言って、正直、腹の立つほどの美形だ、畜生。想像力の貧困なオレだって、パツ金で長身、色つき眼鏡の似合いまくる気怠げな異国の人、なんては。エントランスばか広の、静かで早いエレベーターは二台完備。コンシェルジュだったかのいる受付が備わる、高層マンションに住んで然るべきだと思う。
    「ここに、ハンコかサインを頂けますか」
    「はい」
    頭のなかで、羨みと妬みとがぐつぐつ煮えたぎる間も、つつがなく仕事をこなす。二年もやれば、身体は自動的に動いてくれた。
    さて、サインを書くのに伝票を受け取った手元を見て、やっと気がついたことがある。手元から腕を通り、男の上半身をこっそり確認。
    あぁ、これが、縦リブニットってやつか。
    お気に入りのエロ漫画サイトで昨日も見たそれ。隣に住んでいる女子大生が、必ず着用していることでお馴染みの、おっぱいの大きさをリブの幅の違いで強調するスケベ服だ。
    それがいま目の前で、たわわなおっぱい、もといふたつに張った胸筋のおかげでリブを押し広げ。みっちり詰まった胸と、細まった腰の幅の差異を、リブの太さと細さで本当に表している。
    職業がら、扉の開いた先から目のやり場に参る格好のオネーチャンが出てきたことは何度かあるが。まさしく、視線を誘引させられるなんては初めてだ。
    あれ、オレ、男もイケたんだ~。
    みたいな? ハハ。いや、笑えねぇって。
    客の前で慌てる素振りは禁物。歯を食いしばって耐え忍ぶ。しかし神様とはなかなかに意地の悪い存在だ。縦リブニットを、豊満な胸筋、いや、おっぱいをもった人間が。生で着用しているのを見られただけでもすごいのに。さらにサービス全開。今年の運は、ここで使い果たされてしまうのか。
    受け取られた伝票が、男の抱える小包みのうえにのせられてペンを宛がわれる、のだが。小包みは大きな手にぐっと、おっぱいに押しつけて抱えられるものだから。段ボールの長辺にある角が、そのもっちりしたおっぱいに食いこみ。むちっと肉がのりあげる格好になったのだ。
    そんなん、見るだろ、全人類が。
    もしも見ないと断言できる人間がいるのなら、インポを疑う。病院に行け。
    「はい、どうもありがとうございました」
    サラサラと筆跡をのこした伝票を引き取り、礼に頭を下げ……ることで、胸に目線を近づけた。近くで見ても、美しい曲線だ。お客さん相手に申し訳ないけれど、見るだけなので、どうか許してほしい。
    「あぁ、そうだ」
    では、と一歩後ずさりしようとしたところを、男が手の平あげて制した。そのまま後ろ向きにしゃがみ込んで、靴箱の横にあった段ボールから、カフェオレの缶を取り出してくれる。
    なんていい人なんだろう。それを、くれるというのだな。
    感謝の意に堪えないこの時も、オレは相変わらず釘づけだった。なににって、ピタッと男の下肢に吸いつく生地によってわかる、見事な尻のまるいかたち。おっぱい同様、まるんとした塊は膨らみ豊かだ。
    おっぱいはたゆんと下方に大きく、尻はぷりんと上向きに。
    どうやったら、そんな魅惑の美乳と美尻とが出来上がるのだろう。グラビアの女の子を相手にだって、見るのは稀な極上のライン。ついつい、生唾を呑み込んでしまった。
    「お仕事、お疲れ様です」
    「あ、もう、ほんと、すみません。ありがとうございます」
    渡された常温のカフェオレが冷たく感じられる。下半身に湧く熱が、手の平にまでせりあがって来ているのだろう。猛烈な暑さは、胎内から生み出されるものだ。
    「どうもありがとうございました」
    ばっと頭を下げ、ばっと頭を上げ、ばっと玄関ドアをこちらから閉めてやる。こちらの身体の変化が表沙汰にでもなったら大変だ。貴重な職を失うことになる。
    そそくさと階段まで小走りで移動し、握りしめてしまっていた伝票に、ようやっと目を落とせたのは一階に着く頃だ。
    「五条さん……か」
    伝票の受け取りサインを見て惚れ惚れする。トメハネの律儀な字は、真実、あの人の性格を表すような美しさ。外面の麗しさなら充分に伝わっているところでの、この達筆具合。男であって惚れてしまう。男も行けたんだ、という自己解釈を笑えないと思っていたが。この気持ちは、むしろあの人を見れば男だろうと誰だって惚れる、という大きな間違いだった。俺が可笑しいのではなく、あの人が凄いのだ。
    受取人の欄を見て、下の名前も確認させてもらった。なんと読むのかは、車中に戻った後にスマホで確認しよう。黒のインクで描かれた名字の二文字が、心をくすぐった。
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