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    choko_bonbon

    @choko_bonbon

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    choko_bonbon

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    此の世に五さんを縛りつけてくれる七さん。
    ということで。

    五七ワンライ「縛」「アナタ弱いんですから。別のにしたらいかがです?」
    腕組みをした七海が、とす、とやわらかく肩を傾けおしつけてきた。そうは言うが、下戸であることを重々知っていてなお、ブランデーの香りに包まれたケーキの色やかたちは、魅力的に映る。
    ショーケースのなかはまるで宝箱だった。どれも一度食べたことがあるぶん、味はお墨付き。では今日はどれを土産に、家へ連れて帰ろうか。これから家で、七海の淹れる紅茶を主軸に午後のティータイムと洒落こむ算段で。どうせなら、お墨付きの中でもとびきりを選びたくていたのに。目移りしてばかりで困る。
    五条とは反対に、七海はオーソドックスなチョコレートケーキを選んだ後、こちらがケースを見渡せるようにと、一歩さがって見守ってくれていた。のだが。五条がいざ、じっと見つめた先、ブランデーをふんだんに含んだケーキにだけは、ちょっと、と咎めを入れた。
    「僕が一口食べて、ダメそうなら七海が食べてくれればいいじゃん」
    「カロリーオーバーなので、遠慮します」
    「なぁに面倒くさいオンナノコみたいなこと言ってんだよ」
    筋肉ゴリラのくせに。今更カロリーもなにも、関係ないじゃんか。
    拗ねてみせると、彼はやれやれと目を閉じ、眉間を揉みしだく。
    「夕飯のあとになら、食べれないことも……ない、かもしれません」
    「んじゃ決まりだね。すみません、このサバランもいれて」
    すでに頼んであった分も含めると、相当量のケーキの詰まっていた箱の、ちいさなスペースに最後のワンピースがおさめられ。レース模様の包装が見事な箱を、おずおずと手渡される。
    ずっしりとした重量は、これからパーティだと勘違いされているのだろう。
    「七海、カロリーとか気にするタイプだったっけ。意外なんだけど」
    「そうですか? 年のせいですかね。段々と、意識的に動かないと肉がつきやすくなった気がして」
    「あぁ~……」
    たしかに、最近抱き心地に変化がついたような。
    そう言いかけ、公衆の面前で適当な事を言うと、鉄拳制裁を喰らうことはすでに経験済みである故、押し黙る。不穏な発言の空気を察知した七海が、斜め下からじろりと目尻を釣り上げて、ちいさな瞳を向けてきた。それにはとびきりの笑顔で答え、ケーキ屋を後にする。
    「でも七海、少しくらい体重増えたくらいが丁度良いんじゃない? 打撃も重くなるし」
    「動き易い筋肉量、体重、というのが私にはあるんです。それが今なので」
    「そんなもんかね」
    「なんなら、常にベストは尽くしているつもりですから。無下限切って立っていてもらえれば、お披露目しましょう」
    生憎と、極プライベートなお出かけ。つまりはただのデートであって。本日は、緩めのニットの下に襟付きシャツという出で立ちの七海だ。普段ならゾッとするが、かのネクタイさえ持ち合わせていないこの状態では、ほんの冗談である。
    と思いたい。
    「遠慮しとく。ま、今日食べた分は、今日の夜で挽回しようよ」
    街行く人の目が、こちらに向いていないことをコンマ何秒の世界で確認し。腰を少し屈め、七海のうすい耳たぶへ唇を押し付ける。響かせたリップ音に、こら、と怒りを露わにする彼の。
    「耳、赤くしてやんの!」
    そこを指差し笑って、そっと絡ませた手を引き、家路へと急いだ。

    ある日のこと。
    受け持ちの一年生を相手に、実技の授業を終えて。高専内をぶらつく道中、ぐうっと長い腕を天に向けて伸ばし、背中を伸ばす。普段の任務なら、片手で終えてしまう事が多い。それが授業となると、若人連中に向けて全身の使い方を授業するため、節々の痛むことがままある。
    まぁ、そこいらの同年代からしたら、普段の生活からして五条の動きは到底、真似の出来っこないことばかりなのだが。
    「身体、硬くなっているんじゃないですか?」
    「あっれ~、七海。どうしたの、いま帰り?」
    「えぇ。ついでに報告書を提出しに」
    振り返ると、呆れ顔の男がこちらに見下す視線を投げていた。柔軟さとは、戦いにおいて基本中の基本だ。七海はそのあたり、見かけによらず肉弾戦に特化しているため、身体はかなり柔らかい。五条に勝てている部分があると知れて、得意気な顔。それはなかなか、大人びた七海の気概を知っているからこそ、より可愛らしく映った。
    「硬くなっちゃうよ、どうしてもさ。だってほら、僕は最強だから。どんな相手も、指先ひとつなんだよね」
    無駄に身体を動かす必要のないことを、ようく含めた物言いに。七海はそれでも、はっ、と鼻で笑ってみせる。
    「たとえ最強だとしても、自分の生徒を相手にして身体を痛めているようでは。その名も地に堕ちているのでは」
    流石の五条も、その言い方にはすこし、ほんの少しだけ、頭に血が上った。なにせ七海は、近接打撃を主としてのスタイルだけでなく。それ以上に柔軟性を発揮する場所を持つ身だろう。
    「だって僕、七海みたいにベッドで脚おっぴろげたり。イくのに仰け反りまくったりしないも~ん。七海はその分、やわこくて当然なんじゃん?」
    べ。と、長い舌を出し。
    七海を充分あおってから、勢い、駆け出した。予想した通り後ろから、では好きなだけ脚を広げさせてあげましょう、とかなんとか。鬼気迫る表情で叫ぶ男が追いかけてくる。スプリンター走りで空気抵抗をなくした身は、目にもとまらぬ速さで長い長い廊下をどこまでも。かるく一足飛びに駆ける五条の背を追ってくる。
    「だ~いじょうぶ! 今夜も七海に、たのしい柔軟体操させてあげるからね」
    言い募っただけ、異国情緒あふれる顔に青筋を立てる男の、なんと美しいことか。ついには高専内であるにもかかわらず、背中に手を向けた彼を見て、追いかけっこは一時中断。
    鍛錬場へと誘いをかけた五条に、追いついた七海の激闘は。ふたりの怪我を、なんの見返りもなしに治す羽目となった家入に、しこたま怒られる形で終わりを告げる。それは一時間ほどあとの話だ。


    事務処理に忙殺されていた。高専内に用意されている五条のための一室で、棒付キャンディを唇でもてあそびながら、判子やらサインでてんてこまいな頃。控えめなノックの音がして、暫くぶりに活字から顔を上げた。
    「なに?」
    「すみません、少し、いいですか?」
    「あ、七海」
    ドアの隙間からひょっこり顔を出したのは七海だった。
    久しぶり(といってもまだ三日程だが、五条にとっては永遠とも言える時間越し)に会う顔へ、無意識の内に頬が緩まる。
    来て、と判子もペンも放って腕を広げると。はぁ…と深い溜息をついた彼が、結局は五条の座る椅子の、すぐ隣にまでやってきてくれた。
    「ちゃんと寝てますか? くまを作るなんて、アナタらしくない」
    「そう? 硝子にだって、いつもどおりだって言われたばっかだよ?」
    「睫毛が白いから目立つんですよ。でもまさかアナタみたいなのが疲れを知っていると、皆さんから認識されていないのでは?」
    座っているからこそ、七海の腹部が目の前にあって。喋り続けながら抱き寄せた腰。すがりつく腹部は、ジャケットなどの衣服を挟んでいても温かい気がした。
    「まぁ……僕ともあろう男が疲れてるところなんて見せたら、恰好の餌食だろうから。丁度良いんじゃないかな」
    「それもそう、ですがね」
    ぽすんと七海の腹部に顎をつけるようにして見上げた顔には、幾分か憂いの心情が混じっている。そんなものより、労いが欲しい。にっこり笑ってみせると、七海からもごくわずかに緩い眉根の下がりと、ほんのりとした口角の上りを向けてくれた。
    「なにはともあれ、お疲れ様です。明日には帰って来られるのでしょう? 一応、ちゃんと仕事をされていらっしゃるみたいなので、アナタの好きなものを作りますよ」
    「ほんと? じゃあ……もうすこしだけ頑張ろうかな。その後は無理。甘えるからね」
    年上らしからぬ宣言を、くすくすと鼻先で笑われたとてなんのその。うりうり額を押し付ければ、七海の大きな手の平が後頭部を掻いてあやしてくれる。
    「あ、で、ごめん。なにか用があって来たんじゃないの?」
    「えぇ。これなんですが」
    七海が、手に持っていた紙、五条が昨日提出した報告書を、眼前に掲げてみせた。
    「伊地知君が困っていましたよ。速記すぎて読めない、と。お疲れなのは充分わかりますが、二度手間になるので。こういうのはきちんと書かれた方がいいかと」
    「あぁ~、うんうん。まぁ、今回くらいは見逃してよ」
    ひらひらと振られる紙には、そのもの踊るような黒の筆跡。書いた本人にさえ難読難解なる線が引かれてあったので、語尾は濁った。
    いくら疲れていようとも、ある程度は読める字を書いていたつもりであって。相手がなんでも汲んでしまう伊地知であることが災いし、そんなのたくった字になったのだろう。書き直すよ、と伸ばした手だが。七海はその報告書を、律儀に角を合せて畳んで、胸の内ポケットに隠してしまう。
    「先程、私が書き直して提出しましたので。どうぞ、これからの書類で気を付けて下さい」
    「まじで? オマエ読み取れたの?」
    癖の強い殴り書きを、根気よく、目を皿のようにして解読しながら書き写す七海の姿を、脳内で思い浮かべると。それだけで五条の身体から嬉々とした笑いが込み上げた。くつくつと喉と肩を震わせる五条を抱き留める七海は、突然の反応に些か困惑を露わにしながらも。とんとんと背を叩き、労ってくれる。
    「ン。休憩おわり。ありがとね、七海。顔見せてくれて」
    「別に……コレの文句を言いに来ただけですので」
    「うん。でも、ありがと。顔見れたから、明日は早く帰れそうだよ」
    こく。と頷き七海は、それなら良かった、と呟くだけ呟く。そしてさっさと踵を返し、部屋を後にしていってしまった。
    立つ鳥跡を濁さず。とはまさにこのことか。照れていただけだろうけれど。
    シンとした部屋で一人、カラコロとキャンディを転がす間も五条の口角は、始終上がりっぱなしだった。


    七海の存在が、いかに自分にとって重要な存在であるかを証明したい。
    「七海は凄いよね」
    言えば虚を突かれたのか、七海の切れ長である目が少し見開かれ。海色をした瞳が、双眼のなかでまあるく浮かび上がる。その色は、ふと右を見上げ、記憶を探るような表情になった。凄いと褒められる心当たりは、彼本人にないらしい。
    「七海は唯一、僕を人間扱いできるんだ。だから凄いの」
    「はぁ……?」
    こて、と首を傾げる仕草が愛しい。そのままなにも分からず、無意識の内で、また自分を人間扱いしてくれたらと願うばかりだ。
    七海の、どうしようもない人、とこちらを戒める言葉と視線と態度があって五条は、今にもふわふわ浮いて行きそうな人間離れを、地上に抱き留めておかれる。
    「好きだよ、七海の、そういうところ全部が」
    「それはどうも。私もまぁ、最強らしからぬところを見せてくれるアナタが好きです」
    「そっか。じゃあこれからも、みせてあげるね」
    やわらかな笑顔を浮かべた七海の手首をとって、引き寄せ、血管の浮かぶ分厚い手の甲にキスを贈った。総てを言わずとも、不理解であろうとも。愛には愛で返す七海からも、頭頂部にキスを受け。
    今日も五条は、ただ唯一、彼の前でだけ人間でいられることを幸福に思う。
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