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    choko_bonbon

    @choko_bonbon

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    choko_bonbon

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    をご覧ください。

    7から5を誘うときの仕草任務終わりの車が、自宅マンションの下に滑り込む。見れば前方に、同じ車種で同色の車が一台、ハザードをたき停車しているのが見えた。すぐ後ろに車を着けてもらったところ、こちらより瞬間はやく、前方車両のドアが開くのが目に入る。
    「あ、五条さんですよ、七海さん」
    「……ですね」
    ハンドルを握っていた補助監督と同時に、後方ドアから現れたる長い脚の一本で、降りてきたのが五条 悟であることを認めた。彼ら補助監督には、自分達の関係性がおおかた気づかれていると知っているから、こう二人で会う様を見られるのは余計に気恥ずかしい。
    顔が赤くなっていたらどうしようかと不安になり。手の平をゆるく広げることで、表情の下半分を覆い隠しておいた。
    ――七海は、表情が耳に出やすいよね。
    とは恋人、五条の言葉だが。こんな薄暗がりなら、耳の縁に宿る赤などは、上手くはぐらかせるはずだと楽観視。そそくさと、貴重品を入れたバッグ片手に、バックミラーに映る顔へ頭を下げ、ドアを開く。
    「では。私もこれで」
    こういうときは、さっさと退散するに限る。
    運転席の彼と互いに労いの言葉をかけあい、地面に革靴の先をおろすと。
    「やっほ、な~なみ。お疲れサマンサぁ~」
    呑気な声が頭上より降りかかった。
    見上げた顔には満面の笑み。ひらりと手を振る男は、背景に花でも背負っているのか。ぶわりと甘さの滲む香りが、鼻をついた気さえして。
    いつも通り、元気そうでなにより、と思う。
    きつい仕事が続けば、いくら呪術界最強の男と言えども、言葉の端々や表情の隅に、疲れが滲むもの。今日のところは、声の通り安らかな気分であるのが容易にうかがえた。心身共に良好。よいことではないか。
    「お疲れ様です。五条さん、夕飯は?」
    立ち上がり、後部座席に忘れ物が無いことを横目で確認し、ドアを閉めて車に別れを告げる。彼ら補助監督だって、はやく帰りたい思いは一緒だろう。五条の乗って来ていたのと続けて二台が、郊外を目指し走り去るのを見送って。ネクタイのノット部分へ人差し指を差し込み弛めながら、エントランスへ向かう。労働時間に限らず肉体労働は疲れる。はやく帰って、最強の男を抱き枕代わりに寛ぎたい。
    「僕、今日の現場がまぁまぁ変則的な時間で始まったから、昼が遅くってさぁ。お腹ぜんぜん空いてなんだよね」
    「そうですか。私も先程かるく食べてしまったので、丁度良いのかもしれません」
    「へぇ。何食べたの? 美味しいパン屋でも、任務先にあった?」
    ふにゃふにゃとだらしのない笑顔で、飼い犬よろしく尻尾をフリフリ、擦り寄ってくる男を引き連れエントランスを抜け。向かうのはエレベーター。一応はこちらの自宅であるが、五条はもう何度も訪れ、なかば同棲に近い頻度で過ごしているが故に。連れだって乗った箱のなかでは、五条の指先と七海の指先とが、同じ階数ボタンの上で重なる。どちらも無意識、普段の動きをなぞっていたことでの、偶然の接触だ。
    「やだ……こういうの、キュンとしちゃうね、七海♡」
    「それは良かった」
    言葉尻は照れ隠しのために無愛想ながら、わずかに見上げる長身には、耳の赤さで気持ちがばれている。目隠しをした状態であろうと、それに隠された瞳が山形になっているのはようくわかる。すらりと細身の眉も、瞳と同じく山なりなのだろう。たったこれだけの触れあいで、そう嬉しがられたら悪い気はしない。むしろ、七海の心にも喜びがやってくる。ほわんと胸の奥が暖かいのが、その証拠だ。五条の言った『キュン』がどんなものであるかは、不勉強で想像に難いものの、この暖かさはそれに似ていると思う。
    「七海、嬉しそう」
    階数ボタンから外れた五条の指先が今度、七海の耳へやってくる。皮膚の薄い縁どりが、幅広の親指の腹と、節だつ人さし指の側面に挟まれてスリスリ擦られれば。そこへ更に熱を持った血液の集中するのが感じられる。
    「今日は機嫌良いんだね」
    「好きな人が、自分を見て嬉しそうにしてくれたら……まぁ、それなりに」
    「七海の上機嫌は僕のせいってこと? ふハっ……七海は、僕のご機嫌取りが上手だね」
    今度は肩に腕が回され、ぎゅうと抱きしめられる。彼の愛情がたっぷり詰まった強い力は、自分でなければ肺が潰れたことだろう。愛を伝えるために殺しにかかる、なんて、とんだ恋人だ。
    「まだ公共の場ですよ。こういうことは、部屋に入ってから」
    絡みつく腕をとんとんと叩き窘めると、腕は素直に言うことをきき、ゆっくり離れて行ってしまう。
    自分で促しておいて、寂しさに狼狽えそうになった。
    思う存分抱きしめあえる玄関先までは、たった数分後のこと。それでも寂寥感に震える我儘な心を慰めるのは、猫の尻尾を想わす、流れるような動きの上手な五条の手。するる…と二の腕から前腕に降り、七海の手の平に吸いついてくる手の平はあたたかく、すこし汗ばんでいた。この男が緊張しているとは到底思えぬので、単純にこちらへの愛情が、体温と発汗とに現れているのだろう。七海からは、指と指の間に五指をそれぞれ差し込み返事とする。
    「っ、お?」
    「黙って」
    エレベーターの箱がぐんぐん上に向かう速度に合わせ、鼻先は静かに下げた。やってみてわかったのだが、これはとてつもなく恥ずかしい行為だ。握る手の力が強まってくれたのが、この場で唯一の救い。柄にもなく照れている心地をからかわれる前に、はやく部屋につけばいいのに。

    玄関扉を開き、部屋に招き入れた五条が。重いドアの閉まりきる前、靴を脱ぐのも忘れて振り返る。長い腕が横一杯に拡げられたかと思うと、胸の中へしっかり迎え入れられる。
    「ただいま七海。おかえり、七海」
    「はい。五条さんも、お帰りなさい。ただいま」
    ここぞとばかり、目隠しに人さし指がかかり、布地が首に下ろされた。堂々現れたる、天をつく青に、まじまじと見つめられるのは気持ちが良い。彼にも理解不能な物があると言われているようで。それが、自分であることに、仄暗い優越を感じてしまうのだ。
    こんな気持ち、純粋な愛とは違うのでは。
    そうも思うが、どうせ、すこし歪んでいる程度が二人にとってお似合いなのだ。五条だって充分に狂っていて。自分だって存分に狂っている。
    「お夕飯はとりあえずおいといて……お風呂にしようか。僕、準備してくる」
    「では私は飲物でも。五条さんは、ココアで良いですか?」
    「うん。冷たいココアが良い!」
    「はいはい」
    廊下の途中で別れ、五条はバスルーム。七海はキッチンへ。あちらでもこちらでも同時に、まず手を洗う音が聞こえた。うがいまでをざっと済ませた七海は、さっさとケトルに水をそそぐ。
    どちらかが先に帰って来ていれば、玄関先で出迎えを受け、洗面所で清潔にした手と唇とでとる濃いめのスキンシップ、が恒例だけれど。今日はなかったな。と、うすら寒い心地に苛まれ。寒さを癒す為、水を火にかける。
    ココアの粉がたんまり詰まった缶は、海外メーカーの大きなもの。五条専用の大きなマグに、親の敵とでもいうようにこんもりと粉を入れる。自分のマグには紅茶を。時間があればポットを温めたり、マグも温めたりと気を遣っただろう。いまは違う。ティーパックの簡易的な紅茶だ。
    「ななみ~、今日はお湯、何度にしようか」
    風呂を洗ってきたのが一目でわかる、ズボンの裾をまくって裸足を晒す五条が、キッチンへ顔を出した。お湯はりはボタンひとつ。いつもの温度で結構と告げれば、五条の仕事は終わってしまった。足裏が濡れていることを気付かせる、ぺたぺたと湿った音をたてて近づいてくる彼を、困った笑顔で七海は迎えた。
    「ココア、まだなんです。すみません」
    「それだけ僕のお風呂洗いが早かった、てことだね。さっすが、僕じゃん」
    ふつふつと、小さく音を発し始めたケトルを見つめていた七海の背に、大きな身体が寄り添ってくる。後ろ手に手の平を差し出すと、こうみえて家では良い子ちゃんの五条は、七海の分厚い手の平に細い顎を、ちょん、とのせてきた。
    「火傷しては大変ですから。悪戯しては、いやですよ」
    すべる動きはエレベーターでなされた時から健在。ジャケットを脱いだだけで、未だスラックスにベルトという、仕事モードから脱せぬ七海の、シャツとベルトの境目、腰の括れに巻き付く腕を撫でる。七海だとてキスをしたいのは山々だが、それでこの大事な逸材、大切な恋人が傷つきでもしたらことである。しかし五条は、七海の心配をよそに。にんまりと笑いかけてくる。
    「ン。僕に危ないことがあるとすれば、七海に命を狙われたとき、くらいだから。大丈夫だよ」
    肩を掴んで振り向かされると、正面から見つめあう格好に。捕らわれた七海の手は、五条の胸に導かれる。とくとくと逸る心音が手の平に伝わり、喜ばしい感触に火照った額を、彼の肩へぐりぐりと押しつける羽目になった。熱さが瞬間で湧きだし、一足先に沸騰した心地に晒される。
    「ココアも出来上がっていないのに、すみません、が。今日は私、風呂が長くなります、ので……五条さん、お先にどうぞ」
    「うん。はい。ココアくらい、良いけどさ。長風呂になるなら付き合うよ。僕は長風呂好きだから、全然待ってられる」
    肩に置かれていた手がまたも腰に下り、静かに抱きしめられる。
    それで、五条は本当に腰を掴むのが好きなのだな、と改められた。ことあるごとに。高専内であっても、なにかと腰に回した腕で引き寄せられるのが常だ。おかげで、外の匂いに紛れていても、五条が持っている匂いの甘さがすぐわかってしまうようになった。いまもふわりと香るものに、知らず鼻をヒクつかせてしまう。
    「い、え……ココアは、お風呂まで持って行ってあげますから。どうぞ、お先に、」
    「そんなこといいって、大丈夫。それより……ね、ね、ちょっとは一緒に入れる? すこしも嫌? もしかして、怪我したの?」
    ひっついていた肩を、べりっとつよく剥がされた。自然と見つめあうことになった男の、キラキラとした瞳が眩しすぎる。しゅわしゅわと湯の沸騰しはじめる音がしなければ、七海は五条の瞳に四六時中見惚れていたはずだ。
    「てか七海、そもそも長風呂は好きじゃないよね? なんか、お気に入りの入浴剤でもみつけたとか? それとも、ちょっと疲れた? ほんとうに怪我してるなら、見せてごらん」
    「平気です。どれも違いますよ」
    男の目と手から一時逃れて火を消した。シュンシュンと弾ける音のするケトルを持ち上げ、ココアの粉が満載になったマグの、きっかり七分目を目指して湯をそそぐ。首だけで振り返ると、五条は待ってましたと冷蔵庫から氷を取り出し、ココアのマグにぼとぼと落としいれた。それを見守りながら、次いで自身のマグにも湯をそそぐ。
    「七海どうしたの? 具合悪いとかじゃないなら良いケド。長風呂、なんで?」
    とうとう片言に足の先を突っ込んだ喋り口で、ご自慢の六眼を煌めかせてじろじろと、こちらの身体を見て回る大きな男を。七海は自分の背中から抱きこめと呼び込んだ。なあに、と可愛らしい声で疑問を発し、懐いた犬猫のように肩に顎を乗せてくる五条の、ふわふわと左右に跳ねがちな髪ごと頬を引き寄せてやる。
    「私が長風呂をする理由、ほんとうに思い当りませんか?」
    横を向き、肩に乗る顎から指先を滑らせて、なめらかな頬に手の平を添える。動きをそれで留め、骨ばった頬の張り出しへおずおずと唇を押し付けた。不細工なキスにも関わらず、五条は鼻先で細かく息を震わせて悦んでくれる。ほっと胸を撫で下ろしたのは、言うまでもなかろう。
    「あ~……、うんうん、はいはい。なるほどね。そゆことか」
    紅茶のマグへ手指の向かう先を変えると、今度ほそい顎先を撫でるのは、彼自身の節だった指が。唇をすりすりと撫ぜる動きによって、七海の目には艶やかな薄桃色が強調される。
    「お分かりでしたら、やはり、お先にお風呂どうぞ」
    「はぁ~い」
    最強の男の頬に、ふっと赤い色が差し、五条が長風呂の理由を正しく理解してくれたことを知る。華々しく染まり始めた頬は目を見張るほど美しい。
    互いにマグを傾けあう。そうっと横目で盗み見た五条は、だらしなく唇を弛めては朗らかな甘さへ浸っているよう見受けられた。

    それから数分、シンクに凭れかかって任務の話に花を咲かせていると、お湯はり完了を知らせる音色が二人を急かす。すっかり空になった五条のマグを受け取り、湯上りにもう一杯ほしいとのねだりに頷き、ココアの缶を持ち上げて彼を見送るが。耳で追っていた、素足でフローリングを行く足音が、廊下へ出かけたところで不意に、慌ただしく戻ってくる。
    「あのさ! 僕、身体も髪も洗い終わったら呼ぶから、ちょっとだけ一緒に湯船に浸かるってのはどう?」
    自分より上背があり、そのほかの体格すべてで一回りは大きく、なにをするにも最強を自他ともに認められた男は。こと顔の造形のみで言えば、愛らしさも他の追随を許さない。かるく一九〇を超していてなお、上目遣いがお上手だ。きらきらと目そのもの、豊かな睫毛による瞬きでも輝きを示されて、心臓が高鳴る。
    これが一度、寝室という密室に雪崩れこみ、ベッドの上に倒れこめば。猛獣もかくやの凶暴さを全身で体現させるのだから、その差異にヒリヒリと皮膚を炙られた。
    「わかりました、スーツを片付けてきます。綺麗になったら、呼んでください」
    正面から見つめあう格好で、指を軽く絡ませてキスをひとつ。お互い、何度したところで口づけに飽きない。人目のある場所での濃密な触れあいを避けているせいで余計に、二人きりになるとどちらも甘えたくなってしまう。
    「ソッコーで呼ぶから」
    「はいはい。呼ばれたら、すぐお伺いします」
    「やっ、たっ!」
    歯を見せ笑う男の耳元をくしゃりと掻き混ぜ、プラチナの輝きに、照れ隠しの苦笑を返して。るんるんと上機嫌になったからには、足取りが浮かれたリズムに変わって風呂場へ一目散。すぐ呼ぶね、と彼は言うけれど。五条が長風呂を好いているのはよく分かっている。せっかく同じ家に居て離ればなれになる寂しさが本音。疲れをすべて湯に溶かしてほしいのも本心だ。ごゆっくりなさって、と手を振ってやった。
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    DONEキスの日の五七
    五条サイド
    「……七海?」

     授業を終え、苦手な事務作業も終えて、ふっと気を緩めたと同時に愛しい呪力を感知して五条は伸びをしかけた身体をぴたりと止めた。

     基本的に五条の持っている能力値は多方面に亘って非常に高い。だから書類仕事が溜まりに溜まっていたのは、単に面倒という理由だけで放置していた結果だった。頼むから提出してくれと泣きつかれて、ようやく着手したのだ。その作業に思いのほか集中していたらしかった。おそらく少し前から訪れていただろう恋人の気配に気づかなかったとは。帰ってしまう前でよかった、と五条は勢いよく椅子から立ちあがった。

     気配は昇降口に向かっている。彼ももう帰るところなのだろう。その前に捕まえて、食事にでも誘いたい。あわよくばそのままお持ち帰りを……などと考えながら五条は恋人──七海の呪力を軽い足取りで追いかける。きょう七海が高専に来るとは聞いていなかった。面倒なことを片づけた自分へのご褒美のようで、五条の心は自然と弾む。

    「?」

     昇降口を挟んで対極の棟からこちらへ向かっていた七海の気配が、とつぜん進行方向を変えた。もうすぐそこの角を曲がれば逢える、と相好を崩していた五条は 4195