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    choko_bonbon

    @choko_bonbon

    メモ代わりの、あらすじズラズラ。
    練習絵。などなど。

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    choko_bonbon

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    チュウしてます。
    人の気も知らず、しつこい五さんを遠ざけようと思ったのに……誤算でした。
    という話です。

    五七ワンライ「誤算」全くの誤算だった。
    面倒な先輩を遠ざける為の、ほんの冗談が、まさかこんな事態を招いてしまうなんて。一体誰が考え至ると言うのか。
    私は悪くない。絶対に悪くない。
    あの人も、きっと悪くない。
    誰も悪い人などはいなくて、私のとった選択が、間違っていただけなのだ。
    「七海、なに? 考え事? 集中してよ」
    「ん、は……ぃ、ン、む、ぅ、ぅ」
    押しつけられる唇の圧迫は、そのまま心の、精神上の圧迫につながる。
    なぜ。
    いったいなぜ。
    この男は、自分と、キスをしている。
    その疑問に答えを出そうとした頭に巡るのは、つい数時間前の記憶。

    「七海! 今日もシケた面してんな~。美人が台無しだよ。ま、僕ほどの美人じゃないケド……でもさ、折角綺麗な顔してるんだから、もっと笑えば?」
    「オイオイオイ、無視すんなよ。先輩だぞ? 先輩が、かんわいい後輩に、話しかけてあげてるんだよ? オマエも愛想よく、先輩が好きですってオーラくらいだせよ~」
    「建人く~ん? 仮にも社会経験がおありのくせに、会社でもそうだったの? お客様にもその態度なの? 大好きな五条さんに目を合わせてくれるくらいさ。会話をしてくれるくらいさ、しても良いんじゃないの?」
    高専内の、誰もいない廊下には、彼の声だけが響いている。
    深く溜息を吐き、サングラス越しに目をやると。つまんな~い、と顔に書いてある先輩の顔が、ぱっと華やいだ。
    「あ、こっち見てくれた」
    「アナタ、すこし、黙って」
    「あ、喋ってくれた。七海、七海、一緒にご飯行かない? パン食べ放題のさ、スパゲッティーのお店!」
    五条さんは言うなり、ずいいと明るい携帯の画面を見せてくる。幾年前までは四六時中むかいあっていた液晶画面も、身体を動かすことに慣れた今となると、明るすぎて目が痛い。サングラスをしていなければ、ぎゅうと瞼を閉じているところだった。
    「美味しそうですね」
    「でしょでしょ? ここね、これからオマエが行く任務地から、車で一〇分くらいなの。だからさ」
    ここで彼は、長すぎる腕を伸ばし、私の肩にどっかりと無遠慮に回し掛けてきた。
    重すぎる。そして、近すぎる。
    手の平で押し返すのは、すべやかな肌身を持った彼の頬。それから、ぶらりと胸元へ垂れ下がる腕。掴んだ手を、ぽいと後方へ投げてやる。
    「行きません。終わったら直帰しますので」
    「えぇ~なんでなんで? 前まではさ、いっぱい食べに行ってくれたじゃん」
    「それは、」
    アナタが一人だったから。
    いまなら、可愛い教え子が沢山居るし。
    なによりその子らは、腹を空かせた食べ盛り。
    それに、仮にも先生をしている五条さんと、生徒たちとの方が、話が盛り上がるだろう。
    こんな愛想の欠片もない男が相手より、充実した時を過ごせるはずだ。
    そう思って、断る。
    それでも五条さんは諦めず、めげずに何度も、今日だけでなく新入学生を迎えてからも、しつこく私を誘い続けてくる。いったい、なにが目的なのか。
    「そんなに僕のこと嫌い?」
    白い頭がふさりと右に倒れ、悲しそうな表情を向けたのがわかった。
    嫌いだったら、高専に立ち寄って、わざわざアナタのいそうな廊下を選んで歩くなんて真似するものか。
    落とされた眉尻を見て、いっそ叫んでしまいたくなる。
    けれど、ぐっと飲み干した。それを言うと、この関係が跡形もなく消失してしまうだろうから。私は存外、臆病者なのだ。
    学生時代からこの身には、延々と燻っているものがある。それは、まぎれもない、五条さんへの恋心。
    私は五条さんに、淡い期待と、甘ったるい恋心を常々抱き続けている。
    立場、周囲の目、一番は五条さんからの拒絶を恐れて、噤んでいる口を。今日こそ総てをぶちまけようかと開きかけては呆気なく閉じる。
    「僕、七海に、なんかした? しつこいのは認めるけどさぁ、前みたく、一緒にご飯食べに行きたいだけだよ?」
    「……しつこいのは、認めるんですね」
    だから、困るのだ。
    純粋な誘いに、こちらは不純な期待を持ち合わせて飛び込むなど、良心が痛む。いや、恐れているだけか。こうして誘いをうけることすらなくなってしまうことを。
    気持ちを押し隠すのに必死になっていて、半面、彼からしつこく迫られることを嬉しく思ってしまう自分は狡い人間だ。
    そろそろ、彼を解放させてあげたい。
    自分の醜い心と向き合わなくては。
    そう思ってはや数年。
    そろそろ潮時だろうと、いつになく真剣に、アイマスクの下にあっても分かる、輝く瞳を正面から見つめ返した。
    「アナタ、そんなに私のことばかり構って、食事に誘って、一緒に居てくださいますけれど。他にも後輩は沢山居ますよね? もしかして、私のことが好きなんですか?」
    最後まで意気地のないのが私だった。
    ――そんなことないさ。
    そう言われるにしても、自分の恋心を拒まれるより、彼本人の気持ちを否定して終わらせてほしかった。とどめを刺されるにしても、せめて脈無しと判る程度の終止符を待ち望み。
    そして五条さんは言う。
    「え、わかんない。好き……好きって、七海の事を? え、どうしよ、僕、七海の事、好きなのかな?」
    「…………は? それ、悩むところなんですか?」
    「あぁそうだよね、迷うなんて失礼だよね。でも待って、そっか、僕、七海の事が好きなんだよ!」
    「…………ん?」
    「だから僕、オマエのことがずっと気になってるんだ。だから戻ってきてくれたのが凄く嬉しくて、強くなってくれたのも凄く嬉しくて、一緒に居てくれるのが、堪らなく嬉しいんだ」
    「あ、の。五条さん?」
    「七海、わかった。僕、七海のことが好きだよ」
    それを聴いた瞬間。私は全速力で廊下を走り。あの五条 悟の置き去りに成功し、任務地へ向かう車に飛び乗ったのだ。

    それから数時間もしない内のこと。
    あっさりと、男は任務終わりの現場へ、単身やってきた。
    花束をもって。
    それはもう、照れくさそうに、頬を染めながら。
    「七海、好きだよ。七海の恋人に、僕、なれないかな」
    あとのことは、あまり記憶にない。
    気付けば長年積もり積もった想いを吐露していた口が、男の唇によってふさがれていた。

    「七海のくち、ふかふか、きもちぃね。マシュマロみたい」
    それを言うなら、アナタだって。ふかふかと肉厚な薄桃色の唇は、見目からして美味しそうであって、触感は体温でゆるくほどけるやわらかさ。ほどけて開いたその先、唇の合間から恥ずかしげに覗いた舌先だって、ふかふかと肉厚だ。
    自分のそれとは違う温度と質感に加え、動きはまったく予想の範囲外。ぬるりと蠢くそれに、嫌悪感を感じ取れたらどれほどよかったろう。学生時代からこじらせていた恋心が、やっと日の目を見ることが叶って浮足立つ。つまり、めろめろ、というやつで。
    「ッ、ぃ! ぃはい……。噛ま、ないでくらさい、よ」
    白く磨かれた歯がちらりと、唇の合間より顔を出して。私の薄い下唇を噛んでいる。
    片手以上の年数を燻らせた恋心を持っていても、痛みを伴う付き合いはごめんだ。これまでさんざ、無意識の彼に痛めつけられてきたのだから。
    「だって、集中して、ないから」
    「集中します、から。おねがいです。痛くはしないで」
    「うん。ごめん。ごめんね、七海」
    「いえ」
    しょんもりと眉を落とした姿に胸が疼く。これだから、恋心を殺すことが出来なかったんだ。
    はやく、これに気がついた時点で気持ちを殺していれば。無かったことにしていれば。まさかこんな、現代最強と謳われる特級呪術師であって、誰もが崇め奉き男と、抱き合ってキスをすることなど、無かったのに違いない。
    自分は幸せだ。ずっと求めていた人と、こうして密着していられる。
    けれど彼は?
    五条という大きな家柄。
    常に死と隣り合わせの呪術界。
    そも、男同士。
    彼の幸せは、いったいどこに産まれる。
    にゅる…と唾液のすべりを駆使して入り込む舌を迎え入れ、ここも唇同様に肉厚な、長い舌に吸いついてみせた。さもなくば、また集中を欠いているとして、噛みつかれるのではと危惧したのだ。
    「ン、ふ……ぁ、」
    「んむ、む、ぁ、」
    ――ずいぶん積極的じゃん?
    腰元に回されていた手の輪がキツくなって訴える。こっそり目を開けると、蒼く光り輝く瞳とかち合った。血管の浮いた薄い瞼、雪のように白い睫毛、その合間から身を出す瞳は燃えている。
    炎は、温度を上げると蒼くなるのだったか。その色の温度に触れた目が、灼けるように熱くなる。
    「なぁみ、ぼく、ちょう、しゃわせ」
    「ん、……ふ、え、なんて?」
    唇を離し、問い質す。
    「だから、僕、幸せだって言ったの」
    「なぜ」
    「なぜって、だってさぁ。実家が用意したヤツと結婚して? 子供作って? 五条の血を注げってさ。そんな未来しか見えてなかったわけ。それなのに、こんな強くて、あ、僕よりは弱いけど、」
    「それ余計です」
    「あぁ、ごめん。で、綺麗で、しっかり者の恋人が出来た上、キスはきもちよくって、オマエからも抱きしめられたら、幸せ感じるじゃん」
    にったりと笑う男に、頬が熱くなっていく。
    こちらも重ねて誤算だった。
    彼ほどの男が、その場の雰囲気に流されて、恋人になろう、とか言うはずがないのだ。私の思い至れる心配事など、彼の頭をもってすれば処理済みのこと。
    「七海、もっかい、ちゅうシよ」
    「えぇ、まぁ、良いですけど。それより、アナタの言っていたお店に、まずは食事しに行きませんか」
    「うん良いよ。ケーキたのも。お祝いに」
    つぎこそ、彼との関係における選択肢において、誤算のなきよう。
    彼が常に幸せの渦中で生きていられるように、唇を重ねて祈る。
    臆病者の恋は、甘ったるいキスで、愛に変わる。
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