雨降り雨降り


朝から続いた雨が激しくなってきた。

歌仙「洗濯物が生乾きだよ。各自後は自室で干してくれ」

（だい兄とちい兄の分も預かろう。だい兄は出陣だしちい兄は厨で忙しい）

誰か「雨が酷くなってきましたね」
誰か「いち兄の出陣先も雨だと主様に聞きました」
誰か「風呂でも沸かしておくか」

（だい兄も一緒だ、濡れているのか）
（そこは寒くないか？ああ、冷たくても笑うのだろうな）

（オレが居ればだい兄の代わりに濡れてあげるのに）


部屋
（ちい兄のは大分乾いてるかな）
（さすがにだい兄のはまだ濡れている）

端っこに座り込む
（濡れて冷たい衣を着せたくないな）
（あの笑顔を水の中に沈めたくない）

（オレはあなたの影だ、冷たい水に沈むのも、苦しい思いをするのもオレが変わってあげるのに）

（…抱きしめて、暖めてあげるのに）

（苦しいよ、どうして、あなたのひんやりした手にこもるわずかな温もりをこんなに求めてしまうんだろう）
（あの僅かな温もりをこれ以上冷たくさせたくないんだ）
（…オレのこの身で、あなたが隠す寂しい笑顔を温めるなんてことは）

「オレには、無理なんだろうな」
「苦しいよ、どうして」
「だいにーにー」


ポツリ、と雨が止み、部屋に夕日が差す

兄の衣を抱きしめたままうずくまる治金丸の側に影一つ
そっと冷たい手が頬に触れる
顔を上げると夕日に照らされた眩しくて優しい笑顔が目に入る

「どうした？治金丸」

呆然としたまま抱きしめられる

その体はひんやりと冷たくて、衣はぬれているけど。
それでも感じる確かな温もり。

そっと背中に手を回すと千代金丸はふふ、と笑い
「暖かいなあ、治金丸は」
何も言えずに
泣きながら縋るように
オレの体温をあなたに少しでも分けてあげられるのなら

この気持ちは　ああ
これが、恋というものなのか