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    小野😴

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    小野😴

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    研磨くんと日向くん/間男不在会議

    翔陽くんが二股だか三股だかで週刊誌にスクープされてしまい関係者が研磨くんちに集まって作戦会議をする話。カプはないのですが侑→日と影日のキスがあります。
    ※間男は出てきません

     俺ほど理解のあるスポンサーってそうそういないんじゃない?

     よほどのことがない限り私生活にも口出ししないし、お金の面ではもちろん苦労させないし、苦手な法律とか税金とか面倒な手続き全般任せてくれたらいいし。好きなコト好きなだけしなよ。だって、そしたらもっと面白いことできるでしょ?俺はいつもそれを最前列で見たいと思ってる。もし、世界中の人から非難されるようなことをしたとしても、なるべく全部揉み消してあげる。
     ──と、口に出したことはないけどホントは内心そう思ってる。


     *


     そう思っていたけどさすがに今回は無理かも。今日はSNSもwebニュースもテレビもこの話題で持ちきりだ。下世話な見出しが各所で踊る。

    『セッターキラー日向翔陽ゲスの極み二股不倫』

     うわ、ガレソくんに見つかっちゃたか。あとで一応DMしておくけど、これは本当に無理かもね。そんなゲス二股不倫?問題の渦中の人物は今まさに俺の家で鼻歌を歌いながら料理に一球入魂している。

     状況を整理する。
     週刊誌に翔陽のスキャンダルが載った。

     記事にはあることないこと好き放題書かれていてその内9割はウソ。1割はなんでそんなこと知ってんの?ってちょっと引くような誰も知らないはずの本当情報が載っている。それより問題は写真の方。SNSに流れてくるモノクロ写真の内一枚はどう見てもラブホ街にあるラブホそのものにしか見えない建物…ていうかラブホから出てくる翔陽。とその横に非常に態度と目つきと性格が悪そうで驚くほど軽薄を体現したゴツくてきれいめな金髪のゴリラががっしり翔陽の腰を抱いてる。
     もう一枚はどう見ても影山にしか見えない男とどう見てもキスしている翔陽。
     どっちの翔陽もお気に入りらしいONIKUのTシャツを着ているのがかなり厳しい。



    「………翔陽って不潔」
    「研磨ごめーん!ちょっと聴こえにくいーなんて〜?」
     出しっぱなしの冷たいこたつに当たりながらスマホを見てひとりごちる。翔陽は台所で何やらバーナーまで取りだしてなんらかの食材を火で炙っている。バーナー…そんな物ウチにあったんだ…と感心する。


    「え……」
    「研磨お待たせ〜!こっちは羊のシュラスコで、そっちはフェイジョアーダ!ブラジルの国民食って言われてる日本のカレーみたいなもんだよ。このパステルは言っちゃうとブラジルの揚げ春巻き。今回隠し味に梅干し入れてみた!ポン・デ・ケージョはもちろん知ってると思うけど、研磨んちのオーブンレンジめっちゃデカいからスッゲーでっかいのつくれちゃった!あれいいオーブンだね〜!あとコシーニャは初めて作ったからちょっと自信ないけど、まーいい感じに揚げれたかも?俺のアホス・コン・フェイジャオンは絶品だってみんな褒めてくれるから研磨にも食べて欲し〜」

     なんて?
     この短時間で、しかも一人で作ったとは到底思えない量と品数のブラジル風満漢全席が並ぶ。翔陽って料理界隈にカチコミする気?あ、次の動画のネタにはいいかも。ていうか俺らふたりで食べ切れる?不安しかない。
     
「心配しなくてもムケッカも今仕込んでるとこ!」

     ムケッカが何かわからないけどさらに心配が募る。胃袋の容量的な意味で。途方に暮れた様子を察した翔陽がエプロンを外しながらフォローする。
    「残ったらタッパーに詰めて冷凍しとくからからだいじょうぶ!研磨んちの冷蔵庫めっちゃ賢いからしっかり日持ちするよ!」

     久しぶりにノーガードで本物の太陽の直射日光を最前列で浴びてしまい無事死亡。せめて骨くらい残るといいんだけどクロがかわいそうだから。

    「……翔陽っていい旦那さんになりそうだね」
    「そう?アザース!研磨と結婚できたら毎日楽しそう!」

     いや、消えかけのHPを振り絞ったらLPを根こそぎ奪われるのはちょっときいてないんだけど。
     やっぱり翔陽って変。面白い。
     信仰と課金をブーストしかけたところで、「しょうようく〜〜ん」と、玄関の方からドンドンと扉を叩く音としょぼくれたゴリラがもの悲しげに鳴く声が聴こえてくる。


    「宮…おにぎりの方?」
     渋々玄関に行くと予想通りの人物がいた。佇まい言動オーラ性格の悪さその他諸々は金髪の方なのに今日は髪が黒い。髪が黒くておにぎりじゃない方の宮がスーツ姿で玄関でもじつく。

    「あれ!侑さん?!髪!どーしたんすか?」
     ひょいと俺越しに翔陽が顔を出す。
    「翔陽く〜〜〜ん!今回のブンシュンはホンマにごめんなー。でも俺は本気やねん!」

     翔陽の顔を見つけてホッとした侑の方の宮が家主に断りもなく勝手に家に上がりこもうとするので咳払いして駆逐を試みる。


    「あーコヅケンくん!この度はお宅の翔陽くん巻き込んでもうてホンマすんませんでした!…これ…つまらんものですが……俺も好きでよくこうとるやつです…」
     宮と好みが被るとかあり得るだろうか?半ば義務感で渋々土産を開封すると好みドンピシャのアップルパイが鎮座する。
    「………」
     元がマイナス99999999の宮金髪の方の好感度がマイナス99に急上昇する。
     仕方なく居間に入れてやろうかと思った瞬間「ちわす」とこれまた綺麗な顔した第二のゴリラがガラガラと勝手に扉を開けて断りもなく侵入する。

    「あ、影山じゃん!」
    「ボゲ日向ボゲ。あ……おに…宮さん?ウス」
    「ウスじゃないよ。いつもの侑の宮さんですぅ。飛雄くんホンマやばい。わざとちゃうん?あざとが過ぎるて」
    「ねー影山お土産ないの?侑さんはアップルパイ持ってきてくれたぞ!」
    「………ねぇ」
     影山がしまった顔して悔しそうに唇を噛む。
    「もー!!人んちにお邪魔する時は手土産いるよって!なんべんも言ってんじゃん!俺はお前をそんな子に育てた覚えはありませんよ!!」
    「…………育てられてねぇ」
    「ママさんプレイもワルないなあ…♡」

     叱る翔陽、悔しがる影山、よからぬ宮。
     我が家の玄関にモンスターしかいない動物園が開園した。

    「あのさ、みんな入るか帰るかしてもらっていいかな……」


     *


     宮侑の方は釈明と今後の対策を相談しに、影山は単に翔陽に会いにきたらしい。宮の方はいつになく神妙な顔つきだが、影山は自分がニュースになっていることすら知らずいつものふわふわした顔をしている。ちょうど良いので翔陽のブラジル風満漢全席でもてなすことにする。


    「ほな、第一回今回の記事をどうもみ消すか会議を始めます」
    「…おい。これうめぇな」
    「ほんと?!」
     影山はブラジルのカレーことフェイジョアーダだかを気に入ったらしく一気食いして早々おかわりを翔陽にねだる。俺は宮侑の持ってきたアップルパイにちびちび食べる。

    「俺の話も聞いてもろてええですかね〜」
    「あ、すみません!侑さん。ブンシュン?の件ですよね」
    「おん」

     例の週刊誌のオンライン版をタブレットPCで開く。どう見てもラブホから出てくる翔陽と宮。おそらく深夜の歌舞伎町あたりなのだろうが、オンライン版はカラーでふたりの顔がより鮮明に写っている。
    「この写真なんなの?宮はうちの商品を傷モノにしてくれたわけ?」
    「えっ!?違います…!違わないけど……」
    「どっち」
    「研磨ぁ…ごめん…その日さ、俺急に体調悪くなっちゃって…そこで休憩しただけなんだ」
    「いやっ!翔陽くんはナンモ悪ないっ!俺が東京なんかの個室肉寿司行こ♡なんて誘ったから…全部東京のせいや!!」
    「フーン」

     もし、宮と翔陽の間に“ナニカ”があれば、もっと「俺の物!」みたいに宮はオラついているだろうから、本当に休憩しかしてないのはこの残念な様子からして嘘ではないのだろう。まあ、よりにもよってラブホで休む必要はなくない?とは思うけど。世間もそう思うだろうけど。

    「もみ消すって言うたけど〜俺の方は全然構わんよ?ホンマは順番は守らなあかんけど。つーか、消したいのはそっちや!」
     と宮は翔陽と影山が抱きしめあってキスを交わす写真をピシャリと指す。

     こっちはこっちで嘘みたいに綺麗な真夏のビーチとヤシの木を背景に翔陽と影山がガッツリ口と口のキスを交わしふたりだけの世界が出来上がっている。アドビーストックで『ハワイ 恋人 男の』で画像検索したら引っ掛かりそうな一枚。逆にかなりチープなAI生成画像にも見えた。
    「翔陽、念のため確認するけどこれに身覚えある?」
    「んーーーー? あ、ある…?」
    「え」
    「なんやって?!」
    「……おかわりくれ」


     翔陽がウウーンどこだっけな〜と腕を組み記憶を辿る間も影山はマイペースに三皿目のフェイジョアーダをアホス・コン・フェイジャオンして黙々とコシーニャにかぶりつく。宮もつられてパステルを齧れば意外な味わいに驚く。

    「あーーアレだ!千葉…いや和歌山!!」
    「ああ……アレだな。和歌山の」
    「なんなん?!アレて!ふたりだけの秘密の暗号やめてもろてええかな?!」
    「ええと、和歌山で地元のビーチの大会?にコイツと参加して、そんで優勝しちゃったんで思わずグワっときて」
    「きた」
    「思わずキス?しちゃいましたねーー」
     よくあんですよ俺ら。あははははーとあっけらかんと話す翔陽。
    「トスもキスもまあ…似たようなもんですし」
     影山が追い討ちをかける。
    「そんなわけあってたまるかーー!!!!」
     宮が吠える。どうしよう。今にも築35年の木造の自宅が破壊されそう。クロか上野動物園のどちらに緊急要請を出したら良いかと思いあぐねる。

    「ちなみになんで侑さんは髪染めてるんですか?」
    「染めてるっていうか、こっちが地毛やねんけど。こーゆーことになったから、まず保護者のコヅケンくんにはちゃんとご挨拶せなと思って」
    「侑さん、研磨のこと俺の保護者って思ってたんですか?」
    「あーー保護者っつーか……最恐のパトロンというか…」
    「へーそれいいですね!研磨!最強のパトロンだって!なんか強そう!」
    「ただのスポンサーだよ。翔陽が面白い間限定の」
    「こえ〜〜」
     アハハと笑う翔陽を見て宮は「あかん、この子が最狂やん…」などとうっとり彷徨する。

     世間がそれをヨシとするかはさておき、ラブホと熱烈キスの二股ゲス不倫の真相は概ね理解した。二股はまあそう思われてもしょうがないけど“不倫”の方は解せない。そもそも翔陽は結婚などしていない。本人に確認したら「してないよ!」とのこと。知ってた。
     しかし世間はそう思っていないらしく、週刊誌の記事によるとバレー日本代表選手日向翔陽は密かに某YouTuber兼某CEO兼某トレーダーとパートナーシップを結んでいる。らしい。……………つまり、翔陽に不倫されたNTR夫は俺ってコト?それこそあり得ないんだけど。


     まさか自分まで巻き込まれているとは1ミリも思わず、多少の面識しかないが、会社員として生活をしながら「暴露系インフルエンサー」もしくは「ネットの情報屋」としてある意味日で一番恐れられている某インフルエンサーに裏から手を回してもらった方がいいか…代償が高くつきそうだけど。と算段をはじめる。


     デデンデデデデデンと翔陽のスマホから軽妙なメロディが鳴る。たぶんデデデ大王のテーマソング。というか今日一日中なんらかのバイブ音がひっきりなしに鳴っていたけど翔陽は全てスルーしていた。

    「あ、及川さんだ」

     ちょっと失礼!と言ってはいはーいと2コールでテレビ電話の通話を始める。へー及川徹のには出るんだ。

     宮は翔陽の肩を抱きスマホ越しにマウントポーズを決めてスタンバイ。影山は少し身がかめて俺の後ろに身を隠そうとする。体格的に無理があるだろう。

    『ショーヨー!ニュース見たよ〜ウケる〜』
    「ですよね〜!記事はほぼ嘘なんですけど写真は全部本当なんです!」
    『どういう状況だよ笑』
    「アハハハ」
    『アハハハて。てかそこどこ?ゲ!ミヤアツいんじゃん!』
    「オイカーさーーんアンタのミヤアツです〜〜ゲってなんですかーー」
    『態度わる!あーーショーヨー落ち込んでなさそうだしもーいいよ!じゃあまたね」
    「はい!またオンライン飲みで!」
    「ミヤアツも!今度帰ったらオサムのお店行くからよろしく伝えといて!バーカバーカ!』
     及川徹は宮に小学生のような悪態をついて嵐のように通話を切り上げた。


     この間男不在の真相究明イベントで、もしかすると及川徹こそが真の間男かと思いきやどうやらそうではないらしい。

     及川徹との通話中、霊圧を消していた影山が俺の服をちょいちょいと引っ張る。相変わらず目つきが鋭い。宮はフツーに嫌いだけど、実のところ影山も影山で少し苦手だ。こっちは真性のいい奴だから余計困る。そして今日はなんだか様子がおかしい。

    「影山なに」
    「あの…孤爪さんのフェイントってどこで身につけましたか?普段動きが遅いのに、試合の時は結構速いじゃないですか?あれってあえてそう見せる演技ですか?」

     いつの話をしてるんだ。

    「研磨ー影山ね、今でも研磨のことセッターとしてスゲー尊敬してんの。だから前から色々話聞きたかったんだって。でも一人じゃ恥ずいから俺いる時狙ってたみたい。わりーけど相手してあげてくんない?」
    「ボゲ日向ボゲアホ」

     野生の黒豹に懐かれたらこんな感じなのかなと、無い体験の想像をする。宮は「何コレうっまぁ!翔陽くん結婚しよ♡」とムケッカに舌鼓を打ちつつ、しれりとプロポーズをしている。

    「あ、今回の記事をどうもみ消すかの件ですけど、別にやましいことしてないし、そのまま放置じゃだめですかね?」
    「え〜まあええんちゃう?どーせすぐ別の芸能人とかのスキャンダルで有耶無耶なるて。ま、俺は飛雄くんの方のやつだけ揉み消せたらむしろ好都合なんやけど」
     うま!やば!コヅケンくんも食べっと宮はアホス・コン・フェイジャオンを勧めてくる。ひとくちいただく。翔陽本人が自賛するだけあってほんとに絶品。

    「…そういえばさっき孤爪さんちの前でブンシュン?のキシャデス?って人に声かけられました」
    「え」
     影山は何皿目かわからないフェイジョアーダをおかわりしながら爆弾を落とす。俺と宮は唖然とするが、翔陽はいいこと思いついた!って顔をする。

    「ちょうどいいじゃん!せっかく記者さん来てくれてんだだったら侑さんと俺と影山で直接説明しましょ。実際やましいことなんにもしてないんだし!」

     そう言って翔陽はコシーニャを手土産に両手にゴリラを抱え颯爽と出ていった。


     *


     後日、日向翔陽ゲスの極み泥沼三股セッター殺しの件は一部誤報であったと火元の週刊誌の紙媒体にのみ小さな小さな小さなお詫び記事が載った。そして、どういうわけだか、ビギニにエプロン姿の翔陽のグラビアが同じ号の巻頭を飾った。いや『み〜んなのひなぴ♡初めての…コシーニャ♡』じゃないんだよ。

     さすがに今回のはちょっともみ消すのは厳しいかもと思ったけど、蓋を開けると翔陽が自分で勝手に解決してた。俺は理解のあるスポンサーなので、定期的に予想外の事件が起こることも想定内といえば想定内。


    「面白いままでいてよ」


     そう伝えると翔陽は、昔は怖がったり強張ったりしていたのに、最近はニイっと不敵に笑って「おう!見てて!次もっと面白いヤツ見せてあげる!」と頼もしい返事が返ってくる。

     絶対守ってあげるとか、そんなたいそれた約束はできないから俺は最強のパトロンってやつにはなれないかもしれない。でも困った時は声くらいかけてよ。どんなに離れていても、それこそ地球の反対側でも、隣で話を聞きに行くくらいはするよ。だって、ともだちだからね。


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