Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    rinkokonoe

    @rinkokonoe

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 31

    rinkokonoe

    ☆quiet follow

    戦後復員ifな塚橋のお話
    続きます
    最終的にバラック建てて暮らしてほしいと思いながら書いてます

    これからの話あの日聞いた玉音放送は忘れられない
    呆然とする暇もなく、徹底的に証拠隠滅をして俺達は故郷に帰れと言われた
    できるだけ自分の物を背嚢に押し込むと基地だった建物から外に出る
    もう俺達は軍人では無くなったのだ

    一夜を共にした塚本と一緒に、復員する事になった
    誰かと一緒にいなければ、どうにかなりそうな程、心細く不安な現実が突きつけられている
    「和さん、いや、橋内中尉」
    「うん?もう軍人じゃないんだ」
    よければ名前で呼んでくれ、そう言ってぼう、としている橋内さんは今までとは比べものにならない位、小さく見える
    それもそうだろう、誰よりも誇りを持っていたのだこの人は
    それが無くなってしまった、乗っていた飛行機はもう俺の手でばらばらになってしまったのだから
    大切な物を奪い取ってしまったような罪悪感に苛まれる
    俺達は、どうしていったら良いのだろうか

    どたばたと引き上げてゆく仲間達と別れを告げて、俺達も何処かに行く事にした
    ここに残っていても、何もない
    「船が出るそうです、東京まで行きませんか」
    「東京は、焼け野原らしいじゃないか」
    「もう、俺達なにも無くなってしまったからいっそのこと良いじゃないですか」
    着いてから、考えましょうよ
    そう言って橋内さんに手を差し伸べる
    少し悩んだ表情をしてから、握り返された
    そのまま一緒にいけなかったらどうしようか、不安に思っていた事が吹き飛んだ

    人でごった返す船の切符を死に物狂いで手に入れると、ふかし芋を多めに買って乗り込んだ
    船内は人が溢れているので入ることはできなかった、仕方ないので甲板で凌ぐしかない
    引き上げのときに持ってきた外套を羽織ってから二人で一枚の毛布を使って隣り合って暖をとった
    「お芋、食べましょう」
    「食欲がないんだ」
    そんなこと言わずに、と冷えて硬くなっているふかし芋をちぎると橋内さんの口に運ぶ
    柔らかい唇がカサついている
    食べたら、元気出ますから
    腹が減っては戦はできぬです、もう戦は終わりましたけど
    そう言うとふ、と橋内さんが笑った
    「あーんしてください」
    あ、と薄く開いた口に芋をそっと入れる
    もぐもぐと咀嚼している姿を眺めながら、俺も芋を大きく千切って口の中に入れた
    ぱさついているが、噛み締めれば甘い
    「もっと、食べてくださいね」
    ほら、とまた口元に運ぶと口が開く
    なくなるまで同じことを続けていると、こつんと肩に頭の重みが広がった
    「俺起きてるんで、寝てください」
    「すまんな、太郎」
    眠りかけている橋内さんにぐい、と体を近付けると見えないように額に口付けをする
    もう少し頑張りましょうね、そう言ってすうすうと寝息をたて始めた橋内さんが冷えないように、毛布を撒き直した

    数日経って、ようやく港に着いた
    そこから電車に乗って上野までやってきた
    バラックやマーケットができている
    案外人間というものは強いのかもしれない
    手を取り合いながらマーケットまでやってくると、あたり一面からいい匂いが漂ってきた
    ぐう、と腹がなる
    生きているのだと自覚する
    「太郎、うまそうな匂いがするな」
    「ええ、本当に」
    和さん、どこのお店にしましょうか
    シチュー、何が入っているのかわからない汁、すいとん屋
    「すいとんがいい」
    スリに合わないように背嚢を前抱きにして椅子に座ると、すいとんを一つ頼んだ
    金は先払いだよ、と言われたので素直に金を出す
    少し待っていると丼が差し出された
    受け取ってから、箸で食べる
    熱い、それでもちゃんとした食事は久しぶりだ
    「美味いな」
    和さんが嬉しそうにすいとんを噛み締めている
    ああ、少し元気が出たようだ
    安心した俺もゆっくりと噛み締めて食べる
    なんせ一杯しかないのだ、大切に食べなければならない
    「太郎、俺は腹一杯になったからあとはお前が食べなさい」
    「でも和さんが」
    いいんだ、と丼を目の前に差し出されると断るわけにはいかなかった
    汁を残さず綺麗に食べ終える

    「この後はどうしようか」
    「住むところ、探さないとですね」
    とりあえず当面の金はあるが節制する事に越したことはない
    しばらくは雨風の凌げる地下道での暮らしになりそうだ
    働ける仕事も見つけなければならない
    先行きは不安だが、なんとなると信じて生きて行かねばならぬのだ
    「もし、うまくいかなかったら俺の家に来ないか」
    「俺の家にも来て欲しいですねぇ」
    弟達が喜びそうで、なんて二人で言い合っているとだんだんと暗くなってきた
    身を寄せ合うようにして、背嚢を抱きしめて眠りにつく
    東京での暮らしはまだ一日目、まだまだ先行きは長い
    期待と不安を胸にしながら、二人は眠りについた
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🙏😭👏👏💴🙏💯❤❤🙏❤💖💞👏😭
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works