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    hiyoko_2piyo

    @hiyoko_2piyo

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    hiyoko_2piyo

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    ゆえとしいなと周りの人と。流れを書きたかっただけだから、時間の流れは繋がってるけど書きたいところしか書いてない。
    ちょい道徳なさげ。個人創作物でありフィクション。実際の人物団体とは関係ありません。

    登場:ゆえ、しいな、小鳥遊両親、ゆえのマネちゃん

    小鳥遊家同じくらいの身長の女の子。目がくりくりと綺麗で、瞬きをする度にキラキラ光る宝石のよう。茶色の髪は肩まで伸びていて、風を撫でるようになびいている。

    綺麗な子だな、と思った。
    幼い頭では、それ以上の事は思いつかなかったけれど。
    頭を撫でられながら言われる。「今日から家族になるんだよ」って。「2人とも同じ歳だから、きっと仲良くなれるよ」って。


    ─────

    「ゆえちゃん。髪のリボン、曲がってますよ」
    「えっ?あ、本当だ…!しいなちゃんありがとうございます…!」
    「2人とも気をつけて行ってらっしゃいね。お父さんとお母さん、それぞれ入学式行くから!」
    「うっうっうっうっ…お母さん…ゆえちゃんの写真沢山撮って…僕はしいなちゃんの中学生デビュー沢山撮るから…余すことなく…撮るからね…!!」
    「不審者と間違われないようにね。それじゃあ、終わったらご飯食べに行きましょ!」
    「うん!行ってきます…!/はい、行ってきます」

    ゆえとしいなは偶然にも同い年だ。けれど、学校は同じじゃなかった。
    小学生の時の出来事以来当時ほどではなくなったものの、それでも男性に恐怖心を強く持ってしまったゆえは私立の女子中学に。しいなは、環境の変化の事を思い元の小学校から近い共学の中学校へと行くことになった。
    両親に手を振り、途中までの道を2人で歩く。他にも

    「しいなちゃんは中学で何か部活とかするんですか?」
    「しないと思いますよ。特にしたいものがないので。ゆえちゃんは何かするんですか?」
    「私はちょっと迷ってて…吹奏楽とか楽しそうですし…やってみたいなって思ってはいるんですけど、出来るかなって…」
    「いいと思いますよ」
    「え、えへへ…ありがとうございます…!」
    「…」
    「…」

    実のところ、ゆえとしいなちゃんの仲が良いかと聞かれると、この通りだ。しいなが小鳥遊になってから早くも数年が過ぎた。最初こそ慣れない環境への変化で、たどたどしい所はあれど、今は友人くらいまでは近付けているだろうとゆえは思っている。しかし、どこかよそよそしい雰囲気も感じていた。家族と言えど他人。さらに言えば血が繋がってるわけでもない。
    友達というところからであれば、きっと順調に友好関係を築けているかもしれない。それでも、ゆえは家族は仲良くが良いと思っていたのだ。両親から愛してもらったゆえがしいなへやれることといえば、そういう方法が身近だったのだ。

    「友達沢山できるといいですよね…!」
    「そうですね」

    しいなにとってはただの世間話だ。


    ───────

    中学生に上がっても何か変化があるかと言われると、しいなはNoと答える方だった。特段自分に何か変化があった訳じゃない。
    しかし、しいて上げるなら、周りの目に映るしいなが変わっていた。
    言ってしまえばしいなは顔が整っている方だ。可愛いとも言えるだろうし、美人とも言えるだろう。とにかく、中学生にしては周りから頭1つ抜けていたのだ。新入生となれば上級生に見守ら入学式をするのが大半だろう(少なくともしいなの学校はそうだった)。可愛らしい新入生を眺めていれば自然と視界に入ってしまうだろう。
    何はともあれ、しいなが何をしなくても話題の中心になった。人によっては興味から。人によっては欲から。人によっては、本当に友達になりたい人も居ただろう。
    数ヶ月も経てば、しいな本人も自分がどう振る舞うべきかが分かっていった。話しかけられれば微笑み、運動も程々に出来て、成績も人に教えられるくらいには出来ている。年頃の女の子にしてはお淑やかなのも拍車をかけたのか、しいなは周りから少し違う目で見られがちだった。

    入学式から随分と経ったある日、しいなは別のクラスの男子に呼び出され告白された。よく知らない人だったから、ごめんなさいと言えば相手はそれならこれから知っていってほしいと言い、その日は2人で話しながら帰った。とりあえず、友好関係の幅が増えるのは悪いことでは無いと思ったから。

    次の日、しいなとそれなりに仲が良かった同じクラスの女子が泣きながら言った。
    「どうして彼と一緒に居たの」「私の気持ち知ってたでしょ」
    それを言われて、初めてしいなは機能の告白してきた男子生徒が、目の前の友人が気になっている彼である事に気が付いた。流石に別のクラスまで…ましてや交流もないのに覚えろという方が無理な話だ。何せ、目の前の友人だって、彼にろくに話しかけたことなんてないのに。
    涙をとめどなく流す友人は他の女子生徒に慰められながら背中を押されていく。

    「気持ちを知ってて近寄るなんて、サイテー」

    そう言ってきた女子生徒は、しいなをキッと睨むと踵を返した。
    この間、しいなは一言も言っていない。
    否、言わせて言わせて貰えなかったとも言う。

    「…」

    ただ普通に話して帰っただけだった。
    好きとかは分からないけど、仲良くするくらいもダメなものなの?
    話していた彼だと気付かなかったのだから、仕方ないでしょう?
    そんな言葉が口からこぼれることはなく、ただしいなは困ったように微笑んで「ごめんね」とだけ返した。
    その日から、しいなは友達を作るのをやめた。

    ─────────

    存外、話は早く広まっていった。しいなに声をかける人は女子から男子に変わっていった。しいなが集めたノートを持っていれば「一緒に持つよ」と手伝ってくれて、掃除が長引けば「危ないし、一緒に帰ろうよ」と誘われ。別にそんな気は無いのに、困ったとちいさく声を漏らせば「助けてあげる」と言わんばかりに寄ってくるのだ。
    しいな自身、困っていた事が解決するのは助かる。しかし頼んでもいないのにあれやこれやとやられるのは、どうにもモヤモヤする。まるで割れ物を丁寧に扱うかのように、自分から色んな物が取られていく。選択する余地が、選択を見る前から離れていくのだ。
    できないやつ、とでも思われているのだろうか。
    今だってそうだ。本来の日直は私なのに。普段はやりたがらないのに。そう思いながらも、手伝ってくれた事に水を差す様な野暮なことは言わなかった。あれから、女子とは話せていない。これ以上学校での無視の居所を悪くしてもいいことは無いだろうという結論だった。

    ふと、前を歩いていた男子生徒が振り返る。

    「ねぇ、しいなちゃんって好きな人とかいるの」
    「…居ません、けど」

    そっか、と言われてしいなは手を掴まれる。どこに行くかも告げられないまま引っ張られていった先は、ほとんどの人が使わないという階段裏。放課後という事もあり、余計に人がわざわざ来るようなところでは無い場所へと連れていかれ、思わず眉が動く。

    「あの、何か用事でもあるんですか?」
    「ねぇ、キスしてよ」
    「…は、」

    何を言ってるのか、一瞬回らなかった。
    男子生徒は続ける。手伝ったんだからお礼してよ、と。
    1歩相手が近付く度に1歩距離をとる。しかし神様は味方に放ってくれなかったのか、制服越しに背中が壁までたどり着いてしまった。
    せめて何か言わないと、としいなが顔を上げた時の相手の目を見てまた言葉は出なくなった。
    相手の目が、自分を見る目が、欲と熱しか映していなかったからだ。
    そのときにしいなはなんとなくだが察しがついた。自分はただの男達にとっての"花"でしかないのだと。きっと、さぞ綺麗に生けられるのだろう。隣にでも置いて。こんなに綺麗に出来るのだと見せに回って。そしたら、その後は?
    その日から、しいなは愛想を振りまく花になった。

    見た目のお淑やかさから一変、2人きりになれば抵抗せずに受け入れられるのを嬉しく思った人達がいる反面、面白くないと孤独にさせる人達もいた。次第にしいなの周りに近寄る人は少なくなった。しいなとしても、その方が都合がいい。ずっと人に合わせないといけない、というのは面倒だったから。
    みんなの前では都合のいい人で微笑んで、1人の時には影を刺す。中学生となったしいなの青春は、それがデフォルトだった。

    ふいに影から1人の先輩に声をかけられる。ニヤニヤとはしたなく口を開いてはしいなの名を呼び、それに微笑みながら近寄る。

    「前の話さぁ、考えてくれた?」

    前、というのは付き合おうという話。ため息をつきたい気持ちをぐっと飲み込み、困った様な表情を浮かべる。

    「ごめんなさい。今は付き合うとか、ちょっと分からなくて…でも、"仲良くしたい"とは思ってますよ。先輩、優しいですから」

    チラリと相手を見れば、わかりやすいほどに口角が上がっていた。心を黒いモヤで覆いながら、2人は影をひとつにした。

    ────────

    それから2年経ち、ゆえとしいなは受験生になった。お互いに勉強に追われながらも普通の家族のように過ごしていた。相変わらず父親は過保護でゆえやしいなの影に男が居ると知ると泣きながら男はやましい生き物です!と説き、そんな父親を母親がみぞおちで黙らせた後に2人に笑顔で「彼氏でも出来たら紹介して頂戴ね♡」と念を押してくるのだ。
    ゆえもしいなも内心は驚きはしているものの、下手に返せばどちらに転ぶか分からないのでいつも「あはは」と流していた。
    まぁつまり。夕飯時にみんなでご飯を囲みながら話をするくらいには、仲は別に悪くないのだ。
    現に今だって、2人で高校入試の勉強をしていた。

    「…?あの、しいなちゃん。ここの問題って、この公式で解くんですよね…?」
    「…あぁ、これはひっかけですね。こっちを答えさせたいように見えて、本当はこっちの答えを求められてるんです」
    「あっ!じゃあこっちの公式使えば…!」
    「はい。解けますよ」
    「解けた…!ありがとうございます、しいなちゃん!」
    「何よりです。ちなみにゆえちゃん、ここの登場人物の気持ちの問題って分かりますか?」
    「あっ、そこはこの人の言ってる文章を追っていくとわかると思います!ここではまだ行動を描写しただけなので…」
    「…あぁ、なるほど。ここからこの範囲でしぼっていくと…」
    「はい!あとは、それを組み替えるだけです!」
    「そういう事だったんですね。ありがとうございます」
    「い、いえ!役に立てて良かったです…!」

    幸いにも2人はあれから少しずつ話すようになったし、どうやら進学先も同じレベルに行けるようで、父親が「どうせなら、2人とも一緒の所に進んでみたらどうかな?」と提案したのだ(しいなはその裏に「2人とも可愛いからめちゃくちゃ心配」と言う副音声が聞こえたような気がしたが気にとめなかった)。
    ゆえは妙案だ!と言わんばかりに首を縦に振った。

    「しいなちゃんとお揃いの制服!着てみたいです!」

    にこー!!!と笑顔が咲いたように言うものだから、しいなも首を縦に振るしかなかったのだ。まぁ仮に言われなかったとしても、否定する理由がないからどちらでも良かったのだが。あまりにも嬉しそうに話すゆえに、まぁいいかと思ったのである。
    ふいにしいなのスマホが震える。画面にはメッセージが入っていた。慣れた手つきでスマホを弄るしいなを見守っていれば、しいなは表情を変えずに「少し外に出てきます」と言った。

    「えっ、でももう夜ですよ…?」
    「友人に貸していたノートなんですけど、返したいと言ってて。明日早朝に提出しないといけないノートなので、受け取りに行こうかと」
    「それなら明日でも…」
    「その子、明日は朝から大会で学校には来ないんです」
    「そう、なんですね…あの、気を付けて行ってきてくださいね…!」
    「はい、ありがとうございます。いってきます」
    「いってらっしゃい」

    カーディガンを羽織り、財布とスマホを持って部屋の扉をしめるしいなの後ろ姿を見送る。時計は22時半を過ぎたところを指している。
    本当は、引き止めた方が良かったかもしれない。でも心配だったのだ。行くまでに何か事件に巻き込まれたりしたら。悪い人とたまたま出くわしちゃったら。でも、引き止めてしいなを困らせたいわけでもない。
    ゆえはそこでハッとして、自分の頬をペチペチと叩いた。また悪い方へと考えすぎてしまったと反省をした。昔の1件以降、何事にも悪い方へと考えて引っ込み思案になっていったのを、最近親戚に言われたのだ。悪いことの逆はいい事があると言われたし、言われてみてばゆえの心配していた悪いことが起こったことはない。頭をフルフルと横に振って拳に力を入れる。

    「悪い方に考えちゃったら、余計に悪くなっちゃうかもですよね…!よし…!」

    帰ってきたら疲れているかもしれないし!と、思い立ったが吉日。秋と言えど夜は冷える。何かいい紅茶がないか、鼻歌を歌いながらリビングへと向かった。



    はぁ…と夜空に一瞬、白い煙があがる。一応カーディガンは着ていったものの少し軽装過ぎたかもしれない、としいなは少し後悔していた。
    今会いたいとスマホに連絡が入り、若干の面倒くささはあれど行くことにした。これから会うのは、高校の学校説明会の時に会った高校3年生の先輩。委員会の仕事で駆り出されていた所にしいなと会ったのがきっかけだ。最初こそ普通に色々と教えてくれていたが、後に連絡先を交換し頻繁に会うようになっていた。
    ただ、最近は会う度にボディタッチが多くなったり、際どいところを触られそうになったりされていて、うんざりし始めたのだ。
    有益な情報でも聞けるかと思って友好関係をはかりにいったのは間違いだったかもしれないと今更ながら思った。
    指定された場所は人が通っても気付きにくい裏。一瞬顔を訝しめるも、数歩先に逃げれば人の目がある。逃げ切れれば問題ないのだ。
    裏に入れば、相手は片手を緩く振った。

    「こんばんは」
    「はいこんばんは。よく来れたな、なんて言ってきたんだ?」
    「先輩が呼び出したんじゃないですか。…普通に。貸してるノートを取りに行くって言いました」
    「貸してるねぇ…まぁ間違ってはいないけどな。貸してるじゃなくて借りるであって」
    「用が済んだら帰りますよ?」
    「まぁまぁそんな焦らなくたっていいじゃん。少し話してこ」

    とりあえず先にお返し頂戴?
    その言葉を聞いて一瞬身体が固まるが、ゆっくりと相手に近寄りしゃがむように催促する。相手の唇に少し触れるくらいのキスを落とし、すぐに離れる。

    「…それだけ?」
    「不満ですか」
    「結構大変だったんだけどな〜、過去問整えたりするの。ましてや俺周りには結構いい人で見られてるし?」

    どの口が、という言葉は飲み込んだ。モヤモヤと黒い感情が出てくるも、漏れ出る前に再び自分の唇を押し付けておいた。これで文句はないだろうと離れようとした時、腰に回された腕が邪魔をした。思わず小さく驚きの声をあげれば、その間をするりと抜けて口内に滑り込まれる。腰に回ったいた手は段々と下に下がっていき、衝動的に相手の舌を噛んだ。

    「った…何すんだよ」
    「流石にやりすぎです!ちゃんとお礼は後日にしますから、なっ、!」

    両手を簡単にまとめられて壁に体ごと押し付けられる。足の間には相手の足が滑り込まれて、いよいよ自分の状況に危機感を覚えた。

    「…やめて、ください。こんなことしてバレたら、困るのは先輩ですよ」
    「じゃあ黙ってろよ」

    口に再びキスを激しく落とされる。短い言葉が漏れる中、下への違和感に声が上がる。
    その反応に気分が良くなったのか、相手はそのまま自分のいい様にしいなを弄る。
    涙目を溜めながら見上げた相手の目を見て自分が求められている価値を察した時、1粒の雫が落ちた。

    ─────────

    「…あれ?しいなちゃん?」

    友達と勉強会をした帰り。ゆえは視界に見知った影が見えてそちらに足を進めた。
    受験も大詰めで、家とは別に学校でも勉強の時間を取っていたゆえはいつもより少し遅めの帰宅をしていた。
    しいなも似たようなものなのか、ゆえと同じような時間に帰ってくる。もしかしたら今帰る途中なのかな?と思い声をかけようとするが、しいなともう1人いることに気がつき思わず身を隠す。
    距離があるから内容までは聞こえてこないものの、どことなくしいなの声が強ばっているような気がしたのだ。
    もう1人を見ると、相手は男だった。相手が1歩進む度にしいなが下がる。雰囲気があまりいい場面とか言い難い。
    気がつけば声よりも先に、ゆえの身体が動いていた。しいなの腕にぎゅっとしがみつき相手からゆっくりと距離を置こうとする。

    「はぁ?誰だよお前」
    「あ、ぁあ、あのっ!しいなちゃん、こまっ、てると、思うのでっ、ご、ごめんなさい!!」
    「え?ちょ、っと!あの、」

    しいなの言葉を聞く余裕もなく、勢いよく相手に頭を下げるとゆえはしがみついたままその場を足早に移動する。目の前に出て改めて恐怖が勝ってしまったのだ。大きくて声が大きい男の人。威圧的で、言い返させないような感じが、ゆえは凄く怖かった。あれから時間も経っているからもう大丈夫かなって思っていたけれど、根付いたそれは簡単には取り除けていなかった。
    とにかく早くあの人から離さないと。あと少しで人通りが多いところに出る、と言うところでしいなが痛みを訴えた。

    「おい待てって。なんなんだよお前。邪魔しないでくんない?」

    しいなの空いてる腕を掴み上げて引き止めていた。かなり無理な腕のあげられ方をさせられているからか、しいなが苦悶の表情をしている。
    何か言わないと。どうにかしないと。私が腕を離せばいい?でもそれだとしいなちゃんがまた。でも人を殴るのはダメ。殴ったら同じになっちゃう。誰か人を呼ぶ?その間に何かあるかも。どうしよう。どうすればいい?
    声も出すことも出来ずに頭の中でぐるぐると文字だけが出てきては消えていく。恐怖と焦りでゆえが動かなくなったのをいい事に、男がしいなを連れていこうとした時だった。

    「こンの…うちの娘達に何手ェ出してくれてんだガキンチョがァ!!!!!!!」

    しいなと男の間を過ぎ、勢いを受け止めた壁がパラパラとヒビを作る。

    「おいテメェ…うちの娘達に何手ェ出してんだって聞いてんだ。答えろ」
    「…え、は?いや…おばさん誰だ、」
    「あぁん?聞こえてなかったか?何うちの娘達にちょっかいかけてだって聞いてんだよ」

    そう言いながら今度は足を壁に叩きつける。さっきより大きめな風圧と共にまたひとつ壁が悲鳴をあげるかの如くヒビが入る。

    「それとも何か?もっと分かりやすく話た方がいいか?あ?」

    そう言いながら男に向き合い拳をゴキリッと鳴らせば、男は挙動不審な動きと上手く言えてない言葉を叫びながら去っていく。
    くるりとしいなとゆえに向き直った時には、いつも通りの"2人の母親"が立っていた。

    「はぁ〜もう、久しぶりにガチギレしちゃったわ!歳は取りたくないわね!」
    「お義母さん…どうして…」
    「どうしても何も普通に買い物よ。お父さんったら、昨日お豆腐買ってきてって言ったのに忘れてたのよ?ひどくない?…それはさておき。2人とも怪我ない?」

    ゆえもしいなも首を横に振ったのを確認してから母親はふぅ、と息を吐く。そして、2人を大きくぎゅっと抱き締めて背中をさすってやる。

    「よく頑張ったわね。とりあえず帰りましょうか。それからしいな、今回のことも含めて話してもらいます。いいわね?」

    視線を合わせてしいなに優しく問う目の前の人物は、とてもじゃないが先程のガンを飛ばしていた同一人物とは思えない。
    しいなは少し言葉を詰まらせた後、こくりと頷いた。


    「さて、色々聞きたいことが多いわね…とりあえずしいな、あの男は彼氏かしら?」
    「…いいえ。違います」
    「よかった〜!これで彼氏って言われたらあんなことしちゃったしどうしようかと思っちゃったわ!それじゃあ、あいつとはどういう関係かしら」

    家に帰ったあと、紅茶を人数分用意したあとリビングで母親としいなは対面に座り話を切り出した。ゆえはなんとなく心配になり、しいなの横に座って静かに話に耳を傾けていた。

    「あの人とは、学校でお世話になっていた先輩で、時折会ってお話をしてて」
    「とてもお話してたようには見えなかったけど」
    「それは…」

    すかさず入ってくる言葉に珍しくしいなはたじろぎ、慌ててゆえが言葉を付け足す。

    「お、お母さん。もしかしたら私がお邪魔をしてしまったからややこしくしちゃったのかも…」
    「じゃあ、ゆえから見てしいなとあいつは話してるように見えた?」
    「えっと…」

    思わず言葉がつまり、チラリとしいなを見る。しいなの目が不安そうに揺らいでるのを見て、そっとしいなの手に自分の手を重ねた。急なことにしいなが目を丸くしてゆえを見つめる。

    「わ、私にはあまりに仲良くお話してる様には見えなかったです…けど、しいなちゃんは、危ないことをしたりしません。私が困ってたら、いつもお母さんやお父さんが話を聞いてくれるように、しいなちゃんも話を聞いてくれました。助けてくれました。だから、きっとあの人ともお話しようとして、えっと、お話が上手くいかなくて…?こ、困ってたんだと思います!だから、思わず…」
    「助けに行っちゃったんだ?」

    こくりと頷き、そろりと不安そうに母親を見る。母親は、はぁ…とため息をつき2人に向き直る。

    「別に私はね。危ないことをしてるとは思ってないわ。2人ともよく出来た自慢の娘たちだもの。頭が良いからちゃんと危なくなる前に引いてくれると思ってる。でも逆に、頭がいいから、危なくないと判断したらそのまま突っ走りそうなのがお母さんは嫌なの。苦しいことだって人生なんだからあるわ。でも、辛い思いをして欲しいわけじゃないの。それは分かってくれるかしら?」

    2人がこくりと頷くのを確認して話を続ける。

    「きっとお父さんも同じ。大切だからこそ、思いっきりやりたいことをやって欲しい。でも同じくらい心配もしてるわ。大切な家族だもの。ねぇしいな」
    「…はい」
    「お母さん今、怒ってると同じくらい心配もしてるわ。さっきみたいな事に巻き込まれてるんじゃないかって。しいなの人付き合いにとやかくを言いたくないけど、もし危ない事に足を踏み入れそうなら、やめて欲しい。自分でもどうしようも出来ないのなら、相談して欲しい。お母さんも一緒に考えるわ。だから、言って欲しいの。もし不安なことがあるなら。もしお母さんを信じてくれるなら。お母さんじゃなくても、信用出来る人が居るのなら、しいなが抱えているものを言って欲しいわ」
    「わ、たし…は…」

    言葉を続けようとしたしいなの口が閉じる。ちらりとゆえを見たあと深呼吸をし、母親に凛とした言葉が届く。

    「…心配してくれてありがとうございます、お義母さん。それからごめんなさい。受験で少し余裕がなかったかもしれません。でも、お義母さんが思っているような危ないことはしていないです」

    それを聞いて母親は薄く微笑んだ後、分かったわ、と一言だけ零した。

    「さてと…じゃあこの話はおしまい!ご飯の用意しようかしらね。2人とも服着替えてらっしゃい。それから、この話はお父さんにはまだ秘密ね。あの人が聞いたら口から泡吹いちゃうから」

    パンっと手を叩き空気を切り替え、2人の背中を見送る。少し戸惑ってはいたものの、言われた通りに2人が2階へと上がっていくのを見て、困ったように微笑む。

    「全く。2人とも隠すのが下手なんだから、心配になっちゃうのよ」

    今日はお仕置の意を込めて凄く辛い麻婆豆腐にしてやるわ。と、イタズラ心が疼いていたのは、秘密である。




    「あの、ゆえちゃん。もう手を離しても大丈夫ですよ」
    「へ?あっ、ご、ごごごめんなさい!!」

    2階の部屋の前まで来たしいなは、未だにぎゅっと手を繋いでいるゆえに少し苦笑しながら伝える。言われた本人と言えば無意識だったのか慌てて手を離すが、まだ何か言いたそうにしいなの顔色を伺っていた。

    「…何か言いたいのとがあるんですか?」
    「あ、えっ、と…。…あ、あのっ!」

    ギクリと固まったゆえは一瞬迷った表情をするも、次の瞬間にはしいなの手を両手で包みぎゅっと握りしめる。普段のゆえなら想像し難い行動に、しいなも少し驚きの声を漏らす。
    短いような長いような、ゆえはすぐ口にはせずに深呼吸をしてしいなの目を見る。

    「あの、私、しいなちゃんと同じ学校に行きたいです」
    「え?あ、はい…?」
    「しいなちゃんと同じ制服着て、クラス…は、同じか分からないですけど、行事とかしいなちゃんと一緒に回ってみたいですし、体育祭とかあったらしいなちゃんと一緒にやるのも、敵同士で戦うのもきっと楽しいだろうなって思います!」
    「…?」
    「えっと、上手く言えないんですけど…。もし、しいなちゃんが困ってるなら、たすけたいです。もっとしいなちゃんと色んなことをしてみたいです。勉強会もまたしたいですし、しいなちゃんとおでかけ、してみたいです…!だから、えっと…!」
    「…どうして、みんなそんなに色々してくれるんですか。私、お義母さん達やゆえちゃんに何を返してるわけじゃないのに。ましてや、私は別に家族なんかじゃ…」
    「家族です!!」

    段々言葉が母音のみになっていくゆえを見て、ずっと疑問だった事を口した時初めてゆえが声を荒らげた。少し肩を揺らしながらも見つめてくる緑色の目から視線を外すことが出来ない。

    「家族ですよ。血が繋がってないとか、引き取ってもらったからとか関係ないです。お父さんもお母さんも私も、しいなちゃんが大好きだからなにかしてあげたいんです。返して欲しくてしてるわけじゃないの」

    少し強ばった声を和らげながら包んでいた手を離し、しいなに差し出す。

    「私ね、しいなちゃんと仲良くなりたいです。あっ、い、今が仲良くないとかじゃなくて…!誰かと何かをすることがこんなに楽しい事なんだなって…。大変な事だってあります。どうしようもなくなる時だってあります。けど、きっとあのままの私だったら、1人だけだったら私は今も膝を抱えて蹲っていたかもしれない。けどね、話を聞いてくれた子が居たから、私も変わりたいって思えたんです。1人じゃないって分かったから、出来ることが増えたんです。だから、次は私が、私がしいなちゃんの話せる家族(ひと)で、友達になりたいの」

    優しい微笑みを向けられ、しいなは思わず顔を下にする。初めて、悪意も何も無い綺麗な感情を向けられた。初めて、裏表なく友達になりたいと言われた。
    初めて、ゆえの顔をちゃんと見た。
    ずっと溜まっていた黒いモヤが少し薄れるのを感じる。ずっと抱えていた荷物が軽くなったような気がする。今まで抑えていた感情が溢れ出てきて、しいなの目からはあの日とは違った雫がぽたぽたと落ちる。

    「かぞくなのに、友達っ、なるんですか?」

    言葉は情けなくなるほど震えていた。それでも伸ばされた手に自分の手を重ね、弱々しくも小さく握り返す。じわじわとゆえの温かさとゆえを通して両親の愛情が伝わる。
    こんなに愛されて、大切にされて、挫けそうになってもそれをバネにして生きてきたのかなと、長らく他の人への興味がなくなっていたしいなは止まらない涙とは裏腹に冷静な頭で思った。
    言われたゆえもハッとした顔になるが、にへらと笑いながら「友達にもなります!」と告げる。
    指で涙を拭いながらつられるように微笑むしいなは、初めてゆえに誰でもないしいなの顔を見せた。

    「…うん、なります。なりたいです。私も」
    「!…はい!」

    その日から、初めて友達と家族を知った。

    ───────

    「結局クラスは離れ離れですね…」
    「まぁ、一緒にするとは考えにくいですからね。…あ」
    「どうかしました?」
    「ごめんなさいゆえちゃん。委員会の先輩呼ばれちゃったので、先に帰ってて下さい」
    「あ、なら待ってましょうか?」
    「ううん。結構長引きそうなので大丈夫です。帰りに行こうって言ってたところ、行けなくなっちゃいました…ごめんなさい」
    「き、気にしないで!いつでも行けますから!委員会頑張ってください!」

    カバンを持ち直したしいながちょっと悲しそうな顔をしながら教室を後にする。…かと思えば再びドアから顔を出し、ゆえにひらひらを手を振ってパタパタと去っていく。
    小動物みたいな感じで可愛いなと思いながら、ゆえもカバンを手に玄関口に向かった。


    少し時間が出来たからと本屋さんに寄って帰ろうと思った矢先、ゆえは今自分よりも小柄なセミロングの初めましての女性に熱烈なアピールをされていた。

    「ぜひ!!!ぜひアイドルになりませんか!!!!!」
    「へっ、あ、あの、えっと…!!」
    「あっ!怪しいものじゃありません!!本当です!!少しお話!!お話だけでも!!!!あそこのカフェで何か奢るので!!!!」
    「あっ、いや、奢られるのは…!」
    「せめてお話だけでも〜〜〜〜!!!!!」

    街中の大きな本屋さんへと足を進めていたゆえに声がかかったのはついさっき。「あの、すみません」と言われて迷子の人かな?と思い話を聞こうと耳に意識を向ければズイズイっと距離を詰め「どこかの事務所に入ってますか?」とか「アイドルに興味ありませんか?」と聞かれ、思わず頭にはてなマークが浮かぶ。相手はそれをどう捉えたのか流れに流れていき、さっきの会話のようなことになっていた。
    結局のところ押しに負けたゆえは、その女性と一緒に近くのカフェに入る。ちょうど夕飯前だからか店内には人が少ない。
    お互いに飲み物を頼み、さて、と女性が話を切り出す。

    「改めて自己紹介させて頂きますね。私の名前は真田あんずと言います。アイドル事務所のプロデューサー兼マネージャーを仕事としています。…とまぁ、堅苦しい感じにはなっちゃいましたが、ぶっちゃけてしまうとスカウトです」
    「あ、これはこれは丁寧にありがとうございます…!えと、小鳥遊ゆえです。それで、えと…誘ってもらって嬉しいんですけど、特段可愛い顔?とかではないですよ…?」
    「そんな事ないです!ちなみに小鳥遊さんは学生さんですよね?高校生?大学生?」
    「えと、高校生です」
    「なるほどなるほど…」

    手を顎に当て何かを考えたあと、真田はメモ帳を取り出す。

    「小鳥遊さん、写真とかカメラを向けられる事に抵抗はありますか?」
    「い、いえ。よくおと…えと、父や母が写真を撮るのが好きなので、よく撮ってもらってます」
    「知らない人と触れ合ったり、お話したりするのはどうでしょう?」
    「あっ、えと、女性なら大丈夫、です」
    「答えたくないなら大丈夫なんですけど、男の人は苦手な感じですか?」
    「…みんなそういう人じゃないとは分かってるんですけど、ちょっと、だけ。身構えちゃいます」
    「なるほど…ちなみに、お父様ともそうなってしまいますか?」
    「あ、いえ!お父さんは大丈夫です!普段もお話したりとかは大丈夫なんですけど、触られるのがちょっと、苦手で…」
    「なるほどなるほど。人前で歌ったり踊ったりするのは苦手ですか?」
    「うーん…合唱コンクールくらいしかそういった場面がないので…ちょっと緊張はするかもしれません」
    「ちなみに、フリルついてるスカートとかに抵抗はありますか?」
    「あ、お父さんが普段からそういった服を着させてもらって写真撮ったりするので、それは大丈夫そうです!」
    「凄く多趣味な方なんですね!」

    笑顔で父親を褒めてもらったゆえは、えへへ、と控えめにニコリと笑う。
    その表情を見た真田はおお!と感嘆の声を上げる。何せ、ここまでゆえは困ったり申し訳なさそうに眉を八の字にしていたからだ。よっぽどお父さんが好きなんだろうな、と思うと同時に再びゆえの手を両手で包み、探しものを見つけたようなすっきりした顔で見つめられながら出会った時と同じ言葉を言う。ただ少しだけ違いがあるとすれば

    「やっぱり私の目にくるいは無かった…!ぜひアイドルになりませんか!?」
    「えと、えと…!あの、どうして私なんですか?特別可愛いとかじゃないですし、自分にも自身はない方ですし…」
    「笑顔が凄く可愛いです!」
    「え、笑顔…?」
    「はい!モデル映えするとか、パッと見た時に目立つとか色々ありますが、最初に見た時に笑顔が似合いそうだなって思って…知ってますか?誰かを思った笑顔って、凄く輝いて見えるんですよ。だから、私はあなたをアイドルにしたい。あなたの笑顔を見た人もきっと輝くくらい笑顔になります!私がそうなんですから!」

    そう言ってにぱ!とゆえに笑顔を向ける真田は、社交辞令の顔ではなく本当に心から笑っているように見えた。
    今までそう思った事はなかったゆえは、握られた手からじわじわと熱を感じて、照れた様に笑いながら感謝を述べる。

    「あ、もちろんあくまで小鳥遊さんの意思を尊重しますので!これ私の名刺です。御家族と相談して、もしそれでやりたいなってなったら連絡をください!」

    結局、ゆえは真田に奢られる形で話は終わることになった。別れ際に何度もお礼をいうのに対し、「むしろ話を聞いて貰えただけでもありがたいので!ここはかっこいい顔させてください!」と言われては言葉に甘えるしかなかった。
    家に帰れば、先に帰ってきていたしいながリビングから顔をのぞかせていた。どうやらまだ両親は帰ってきてないから、代わりに晩御飯を作っているらしい。

    「おかえりなさい。珍しいですね、ゆえちゃんが遅くなるの」
    「たはは…ただいまです。途中でお話?をしてたので…」
    「お話?」

    不思議そうなしいなに先程までのことを説明すれば、あぁなるほど、とあっけなく告げる。

    「いいと思いますよ、アイドル」
    「えぇ!し、しいなちゃんまで…!?」

    予想外の反応に珍しく驚いた声を上げるゆえを他所に、しいなは続けた。

    「ゆえちゃん身長が高めなので、スタイルが良いんですよ。写真慣れもしてますし、お義父さんからこういうポーズして欲しいって言われた時、素人目ではありますけど雑誌で見るモデルさんみたいに見えました。それによくお風呂で歌歌ってたりするじゃないですか」
    「あ、あれ聞いてたんですか…!?恥ずかしい…!!」
    「結構お風呂から響いて聞こえてますよ。多分お義父さんもお義母さんも知ってます。それに、笑顔が可愛いって言うのも分かりますね…その真田さんって方は見る目があるとみました」
    「し、しいなちゃんの方が可愛いよぉ…!」
    「私はあまり愛嬌を振りまいたりとかするのが苦手ですから…でもゆえちゃんが笑ってる時はなんというか、つられて笑っちゃうんですよね。笑顔をおすそ分けされた感じでしょうか?」
    「お、おすそ分け…」

    言われて自分の頬をふにふにと触るゆえにくすりと微笑み、ゆえの手先を小さく取る。

    「私は誰が可愛いとかかっこいいとか。あまり感じたことは無いですけど、ゆえちゃんの笑顔はなんとなく気分が良くなります。笑顔が見れるのも、向けられるのも。もちろん、ゆえちゃんにはゆえちゃんの悩みがある。アイドルになるってことはきっと、男の人と話す機会も接触する機会も増えると思います。だから、いいとは思っているけれど、ゆえちゃんが嫌だと言うならやらなくていいとも思ってます…わっ!」

    言い終わるやら否や、ゆえは思わず抱きついた。急な事にしいなも驚くもののしっかりと受け止める。

    「私、今みたいに怖いって思いながら道を歩くのはもういやです。疑いながら生きていくのもいやです。きっとずっとこのままだと、楽しいことも嬉しいことも見過ごしちゃうから」

    少し喉と肩を震わせるゆえの背中に、ゆっくりと手を添えてポンポンと優しく撫でる。

    「それに。それにね。小さい頃にも、私が笑顔じゃないのがもったいないって言ってくれた子が居て」
    「うん」
    「今ならね、わかる気がするんです。ずっとあのままだったら私、きっと楽しいこととかしてても、下を向いてると思うから」
    「うん」
    「でも、今は、怖いって思ってしまう時もあるけど、お話も少しずつ出来て、みんなと何かやるのが楽しくて、悪いことだけじゃなくて、うぅ〜…!」
    「うん、ゆえちゃんは凄く頑張ってますよ。えらい、えらい」

    ついに泣き出した背中をえらいと褒めながら摩る。
    本当に優しい子。自分のことだってあるのに、人を想って、誰かの為に笑うことも自分の為に泣くことも出来る素直で優しい女の子。私にはないものを沢山持ってる、可愛い子。少し羨ましいなと思うほどに、しいなはあの日以来ゆえや家族をちゃんと見るようになった。
    ゆっくりと落ち着かせて、再びゆえに向き直る。

    「私はゆえちゃんのしたい事をして欲しいと思ってます。もしアイドルをするなら凄く応援します。ライブだって行きます。嫌なこと言うやつが居たら、お義母さんから教えてもらった格闘で殴ります」
    「な、殴っちゃダメです…」
    「冗談です。でもそれくらい応援します。だから、ゆえちゃんはゆえちゃんの納得のいく答えを出してください。今まで通りに学校に行って友達と勉強したりするのだって、いい事なんです。きっと。それでも不安があるなら、お義父さんとお義母さんに聞きましょう。2人とも芸能界の事なら知ってるはずですし」
    「うん…しいなちゃん、ありがとうございます」
    「いいえ。私がしたいからしてる事なので」




    「ほんっとうにしてくれるんですか!?アイドル!!!!!」
    「は、はい…!あの、私でよければっ、よ、よろしくお願いします…!」

    ペコペコと頭を下げるゆえにワタワタとする真田。2人は休みが会うタイミングで再びカフェに来ていた。流石に休日なので周りの目が気になるが、2人ともそれどころでは無い。

    「〜〜〜ぜひ!!!よろしくお願いします!!!とりあえず、近々事務所に行って仕事内容とか沢山擦り合わせしましょう!どんな風にお客さんに見られたいとかありますか!?カワイイ系!?ドジっ子系!?ほんわか系!?」
    「あ、え、んと、そ、そのままが良いです…?」
    「なるほど、素に寄せて売り込む形…なら、下手に飾るよりは年頃に合ったシチュエーションやデザインが…いや、どうせなら小鳥遊さんの武器を遺憾無く使っていきたいところ…モデル映えしそうな身体は活かすべき。かつ、小鳥遊さん本来の可愛らしさも取り入れて…」

    メモ帳を取り出しザカザカと書き進めていく真田を眺めながら、未来の自分がどうなっているかを想像する。しかし、テレビでよく見る歌って踊る可愛いアイドルの想像が出来なくて苦笑する。
    ただ、しいなに応援すると言われたこと。自分の笑顔を見て、悪い気がしないと言われたこと。ゆえにとっては、大きな後押しになった。ずっと下を向いていた自分にも、何か出来るかもしれない。あの時最初に背を押してくれた子のように、しいなみたいに悲しい顔をしている誰かに笑顔が咲いてくれたら。自分も、そんな人間になりたいと思ったのだ。
    だから、これはゆえにとって人生を変えてやるくらいの大きな一歩。家を出る前の両親から受け取った言葉を小さく復唱して、真田に声をかける。

    「真田さん、これからよろしくお願いします…!」

    大変なことも辛い想いもするかもしれないけど、その先にある嬉しいことや楽しいことに胸を踊らせずにはいられなかった。




    ゆえ
    闇も抱えた上で光を行く女。スタートはこんなだけど、次第に応援してくれた人がいたから自分はアイドルとして立っている→だから、今度は私がみんなを応援したい!に変わっていってるんだろうなと。ゆえは誰かのためにの力が凄そう(コナミ)
    普通の感性だからこそ、ファンと近付ける何かがあると思うねん、私は。
    逆に、男性問題にはしばらく戦っていたかもしれない。話は出来るとはいえ、逢いに来てるのに!とかあったかもしれない。ただ、ゆえもやる以上それは分かっていたことなので親身になれるようにあれこれと頑張っていたと思う。今では1部のオタクでは「1回でいいから殴られたい」とか言うやつがいるかもしれない…?
    ちな、最近は手の甲にちょん、て指を少し置くくらいには触れるようになってきました。なんで手の甲なのかと言うと、急に握られてきても予備動作があるからです。多分触って欲しい男性ファンには両手を机につけてくださいって言われます。特殊すぎるねんな(自覚あり)
    思えばゆえが立ち止まった時って、周りに絶対誰かは居てくれてるんだよな。暖かい限りやで。
    ゆえにとって手を触れ合う事は、支えであり繋がりであり共有だと思っている。
    だから。寂しくなったら、道に迷ったら、手をつなごう。きっと君を光り輝くもとまで連れて行ってあげるから。

    しいな
    小鳥遊家に引き取られてからのしいなさん。前までの記憶はほぼないものの、本能が他人を警戒しているので、小鳥遊家に来た時もどこか他人行儀。追い出されない程度の対応をしていた感じ。顔がいい方で外では作り笑顔が多い為、だいぶ厄介な事に巻き込まれる。多分本人は上手く対処してると思ってるけど、そこは幼さゆえに詰めが甘い。
    ただ自分の価値は分かっているので、ある日を境に自分が主導権を握って完全に操って仕舞えばいいにシフトチェンジ。相手を自分の土俵に上手く乗せる様な技を極め始めたりする。ちなみに、お母さんに叱られたあとから護身術ということで、格闘を教えてもらう事になる。
    小鳥遊家を巻き込みたくない+それ以外の振る舞い方を知らないから結局相談は出来てない。ただ、自滅するつもりもないけどどうせならこの人達に恩は返したいと思っているので、自重してはいる。最悪巻き込まなければおk!が波音さん達に会う前のしいなです。
    小鳥遊家と和解してこの人達なら大丈夫と分かってからは、小鳥遊家は基本的に信用する女になっております。お父さんに塩対応して笑う時もあれば、お母さんと一緒に出かけたりすることも増えたりする。
    余談ですが、ゆえの笑顔が可愛いうんぬんは本心ですが、実はゆえがアイドルしてるのを見たかったりする。というか、推しを正式に推せる場面が出来たので内心ちょっと喜んでたりする。後にゆえに悪い男がつくかもしれないことを懸念して厄介オタクになりつつある。ゆえがアイドルになった時からのファン。1桁会員を自力で取った女。活動してる時からの雑誌円盤特典全てをどうにかして買っている女。なお転売ヤーは絶対に許さない。

    小鳥遊母
    (ガチ)元ヤンのプロ武道家選手だった人。今は現役引退して、護身術を教えている先生。普段は元気で明るいお母さんだけど、自分の家族に手を出す輩がいたら昔の血が騒ぐ。
    自分で大概どうにか出来てしまうので懐も広いし、自分の意思がはっきりしてる人なので物怖じせずにズバズバ言う。ただその人にはその人の考えや思っていることもあるだろうから、あくまで言うまで待ってくれる。ちなみにゆえがスレンダーなのは母親譲り。脂肪が付きにくいが、身長はそれなりに高めだったりする。ちなみに料理とか手先が細かいものをするのはちょっと苦手だったりする。

    小鳥遊父
    現役のカメラマン。それなりに知名度があり、その人の魅力を引き出すのが上手いとか何とか。中学生の時からずっと写真を撮っていて、作品数で言えばちょっと普通の一戸建ての家では収まりきらない。趣味を仕事にしたような人で、人を撮るのも風景を撮るのも好き。綺麗なもの見たらテンション上がっちゃうよね!それに写真に収めればその時を思い出せるのもあって写真が好き。家族はもっと好き。ただ人付き合いがちょっと下手で、慣れてない相手には緊張する。ただ人のいい所を見つけるのも上手い人なので、仕事は問題なかったりする。ただちょっと心配性が強い。娘ができてからはちょっと度が超えかけそうになって母に一晩叱られた。ゆえの性格はお父さん譲りだったりする。
    余談1だけど、お父さんもゆえがアイドルになりたいと聞いた時「え!?ゆえちゃんアイドルになるの!?!?やったー!!!!沢山かわいい服着て写真撮ろうね!!!」てテンション上がってたけど、悪い男の人とかに付きまとわれたらどうしよう…!と思い始め母にお叱りを受ける。ゆえの頑張る姿を収めたいので仕事のない日は応援しに行く。グッズも沢山ある。会員1桁を自力で取った父。初めてゆえとの握手会()に行った時にゆえの成長にガチ泣きして母に引きずられながら帰った歴史を持っており、その時を知っている古参勢からは「お父様とお母様」と認知されてる。
    あわよくばでしいなちゃんもやらないの?アイドル!て聞いてみたら、この人何言ってるんだろうみたいな顔で「やらないです。ゆえちゃん追いかける事に全力を注いでいるので」と断られた。ちょっと悲しかった。ちなみにゆえの幼少期とかによくゴスロリを着せていた張本人のため、ゆえも特にフリル衣装とかに抵抗はなかった模様。

    真田さん
    どっかで聞いたことある名前ですが私がなにも名前思いつかなかっただけで特に因果簡易はないです!
    あんずPでゆえのマネージャー。社長は別にいる。仕事マンなのでなんでも自分でやりたくてPもマネージャーもやっている。ゆえを街中で見た時にビビっとインスピレーションが湧いてきて思わず声をかけた。ゆえが頑張ってるところ見てニコニコ笑顔になっちゃうし、やっぱりアイドルがイキイキとしているのは嬉しい。
    ちなみに、のちにゆえのお父さんが有名な写真家である事を知り挨拶をする。いつも他のアイドル共々お世話になっております!!
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