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    soseki1_1

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    本丸傭占奇譚2

    「確かなのか」
    「短刀連中も最近ちょっとざわついてる」
    「どこかのお嬢さんの落とし物を拾ってやっただけとかでなく」
    「ここ三か月、護衛もつけない出掛けが何回もあった。今月はもう週一のペースで行ってる」
    「……学び舎への差し入れじゃないのか? 孤児だとか母子家庭だとか、そういうの見ていられん質だろう彼奴。気恥ずかしがって僕らを連れて行きもしないし」
    「服がさ、変わったんだよね」
     塗り終えたばかりの爪に目を下ろして加州が言う。
    「前じゃ絶対に着なかった服を着てた」
     赤い紅は照明の光を受けてちらちらと光った。
    「"俺"が良いって言った服」
     大佐と呼ばれる男は、刀剣男士を正しく武器として扱った。不用意に笑い掛けず、必要以上に褒めることなく、その切れ味を冴えさせた。愛されたいと願う加州清光に愛を囁かず、ただ武器として丁重に扱った。そういう愛し方をする審神者だった。服を選ぶときなんかもそうで、乱や加州が「こっちの方が絶対に良い」と指差す服を「機能性が足りない」と仏頂面で断るような人間だった。
     そんな男が。
    「そりゃあ」
     扇を広げる。バッと音を立てて華やかな赤色が開いた。左手でそれを持ち、にんまり笑った顔を隠す。
    「春だな」
    「だろ?」
    「服まで変えるなんて、存外本気なんじゃないか?」
    「俺もそう思う」
     頷いて、加州は息を吐く。肩の力を抜くように両手を後ろ手にして畳につけた。「どんな子なんだろ」呟く声には絶妙な感情が籠っている。審神者の春はめでたいことでもあったし気がかりなこともでもあった。則宗でさえ疼くような焦るような心地が堪らないでいるのだ。顕現して何年も経ち、審神者から不器用に注がれる愛情を正しく受け取っている加州にとっては猶更だろう。解って、則宗は扇いでいた扇子を閉じた。ぱちんと音を立てたそれを片手に立ち上がる。
    「どしたの」
    「この手の話はつまみがないとやってられんだろう。取ってくる」
    「俺アイスが良い。バニラの。ちょっと高いやつ」
    「これ、老体を使いっ走りにさせるんじゃない。菓子で我慢しなさい」
    「いいじゃん。ついでみたいなもんだろ~」
    「気が向いたらな」
     ふらふらと閉じた扇子を揺らしながらドアノブを握る。けち。そう文句を投げる声に笑いながら、殆ど音も立てずに戸を閉じて廊下を歩く。ちょっと高価なバニラアイスは厨の奥の冷蔵庫にある。菓子箱が入っている棚よりは手間が掛かる。それくらいの手間を惜しまない程度には、則宗は坊主と呼ぶ刀剣を可愛がっている。
     けれどその足は厨へと向かわない。バニラアイスも菓子にも足先を伸ばさない。切っ先が向くのはただひとつ。厨とは反対側にある執務室。
    「お前さん!」
     あまりに気が急いて、音を立てて執務室の扉を開けた。扉の向こうにいた男と刀がこちらを振り返る。今日の近侍は山姥切長義だ。近侍は、事務仕事ができる刀剣のうち幾振りかでローテーション制を組んでいる。銀髪の刀剣は則宗を見て、厄介なものがきたと言わんばかりに眉を顰めた。監査部にいた頃からの付き合いがあるからか、彼は則宗という刀剣のことを比較的よく知っている。仕事でもないのに現れた好好爺の顔は、完全に面白がっている顔だと理解していた。
    「春が来たんだって? ええ?」
     則宗はにんまりと笑っていた。笑みを前に、けれども大佐は何の反応もしない。ぴくりとも眉を動かさず、動揺せず、淡々と則宗へと目を向け口を開く。
    「用向きは」
    「僕は是非とも知りたいんだよ」
    「何を」
    「お前さんが週に一度妻問いをしている相手のことさ」
    「夢見の相手をしている暇はない。姫鶴にでも診てもらえ」
    「隠さなくたっていいじゃないか。さあその目に映った春がどんな色をしているのか、ジジイにちょいと教えてごらん」
    「長義、摘み出せ」
    「承知」
    「長谷部を呼んでも構わん」
    「不要さ」
    「いいや僕は退かんぞ。お前さんが口を割るまでここにいる」
     執務机の傍に置かれた椅子へとどっかり腰掛ける。肩肘をついて頬杖を突き、笑ったままの唇を掌の端から覗かせる。溜息を吐いた長義が立ち上がり、則宗の傍に来た。黒い菊模様の羽織ごと着流しの襟元をむんずと掴む。
    「何をもって恋なんて戯言を」
    「おやぁ? 坊主は気付いておらなんだか。いや僕もね、人伝に聞いてようやく確信した口なんだが」
    「今は執務中だ。後でいくらでも聞き出せばいい」
    「長義、そもそも聞き出すものはない」
    「嫌だ今聞きたい」
    「駄々を捏ねるな。早く、ちょっ、いや、強っ」
     引っ張り上げようとする力を他所に、則宗は机の端を手で掴んで座り続ける。ガタガタと机が揺れるが、金の人の体が持ち上がることはない。
    「うはは! 打撃は僕の方が勝るからなぁ」
    「いやこんなところで無駄使いするなよ」
    「で、主よ。お前さんを射止めた子というのは一体」
    「長谷部! 来い! 今すぐに!」
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    PROGRESS大佐🤕と喧嘩して家出した🔮を匿う副官🧲2
    /現パロ大占傭占
    「ああ、いるよ」
     携帯電話から届く声が誰なのかは判別がつかない。ただキャンベルさんの口ぶりと目線で彼だと解った。彼は眇めたような流し目で僕を見た。
    「僕の家に居る」
     裏切られたと思った。立ち尽くした足が後ろにたたらを踏んで、この家から逃げようとする。だけど裏切られたという衝撃が体の動きを固くしていた。そのうちに、彼は言った。
    「なんで? あげないよ。送り届けてなんてやらない」
     踵を返して走り出そうとした足が止まる。息を止めたままキャンベルさんを見ると、彼はもう僕の方を見てはいなかった。ただ、唇を歪めて厭に微笑んでいた。
    「飽きたんだろ?貰ってあげるよ。常々美味しいんだって聞いてたし」
     怒鳴られてる。とは、漏れ出る音で解った。そういう空気の振動があった。それに構うことなく、キャンベルさんは鬱陶しそうに電話を耳から離すと、液晶に指を滑らせて電話を切った。四方形のそれをソファに投げて息を吐く。僕の、何とも言い難い視線に気付いたのだろう。彼はもう一度目線だけで僕を見た。それが問い掛けの代わりの視線だと解ったから、逃げ出すより前に口を開いた。
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    PROGRESS求愛してる白鷹とそれに気づかない夜行梟/鷹梟/傭占
     そもそもの始まりは食事からだった。と、夜行梟は呟き始める。狩りのやり方を教えた頃から、やたらと獲物を取ってきたがると思っていたのだ。覚えたての狩りが楽しいのだろうと微笑ましく思えていたのは一、二年ほどで、そのうちどこからか料理を覚えて振舞うようになった。あれはそういうことだったのだ。給餌だ。求愛行動のひとつだったという訳だ。夜行梟はその真意に全く気付かず、私の料理美味しくなかったかな、悪いことしたな、なんてひとり反省していた。
     夜行梟の誕生日に三段の素晴らしいケーキが出された辺りから、つまりは今年のハロウィーンを終えた辺りから、いとし子は本領を発揮し始めた。まず、夜行梟の寝台に潜り込んだ。今思えばこのときに気付いてもよかった。よかったのに、夜行梟は布団の隙間を縫うように身を潜らせたいとし子に「怖い夢をみたのかい?」なんて昔と同じように声を掛けた。もうとっくに子供じゃなくなっていた白鷹は、このときは未だ我慢していた。「そんなものだ」とだけ言って隣に潜り込み、足を絡ませて寝た。今思い返すと完全に求愛だった。鷹族の習性だ。鳥型の鷹は空中で足を絡め合い、互いの愛情を深めるのだ。鷹族の遠い親戚からきちんと聞き及んだ話だった。のに、思い当たらなかった。まだ甘えん坊さんだな、なんて嬉しく思っていた。
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