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    soseki1_1

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    大佐🤕に優しくされて大困惑のノワ🔮(傭占/大ノワ)

    やっと終わる。
     薬がとっくの疾うに切れて痺れるみたいにぼんやりしている頭が夢見心地に思った。僕は、ここが地獄だと知っていた。孤児院から出た後、僕は地獄に連れられたのだ。だから鞭で打たれるし、体を滅茶苦茶にされる。人も殺すし、何度も殺されかける。殴られるのも罵られるのも仕方がない。それでもこの地獄には僕を家族と呼んでくれる人がいる。どうにか役に立ちたかった。メロディー家に役立たずはいらないから。何より、兄さまが好きだから。あの人の為になることはなんでもやりたかった。僕を弟と呼んでくれたあの人が、とても。だから体の全てを、心の全てを、精神の全てを使ってでも尽くした。魂だって尽くしたかった。でも、魂はどうやって使えばいいんだろう? この魂だけ、無為なまま終わるんだろうか。そんな絶望的な予感を抱いていた。地獄の果てに相応しい予感だった。
     そんなところに彼は来た。
     保護と観察と銘打った尋問と拷問の日々だと、僕じゃなくても想像しただろう。当然の予想が覆されたのはほんの一日のことだ。彼の家に連れられた僕は、まず部屋に案内された。ゲストルームと記された札がぶら下がった扉の向こうには暖かな匂いのする一室が広がっていた。綺麗に整えられたベッドや机、絨毯を差し出して「君の部屋だ。好きに使うと良い」なんて彼は言った。良くて倉庫か、悪くてほぼ野外かとばかり思っていた僕は面を食らって「はい」と乾いた声でなんとか頷いた。それからシャワー室に洗濯機、台所、リビング、家中を丁寧に説明される。「刃物や鋭利なものは仕舞ってある」彼は馬鹿みたいに正直に言った「君の状況を確認し、安全だと解り次第面に出す予定だ」この人は本当に保護と観察をするつもりなのかと、僕はこの時ようやく思った。思えば、この人は牢の中の僕を迎えに来たとき、吐き掛けられて付着した唾をハンカチで拭ったのだ。血と怪我と埃で汚くなった頬や手も拭っていた。真新しいハンカチをわざわざ汚すことを、何の躊躇いなく行っていたのだ。それをようやく思い出していた。打たれた頬には湿布が貼られている。鈍く痛むそこは冷たくて心地いい。家に連れられる前に施されたこれらの治療も、体裁を取り繕うためではなかったというのか。
    「優しくされても何も吐かない」
     驚くままにそう呟くと、食器棚を開けて皿の説明をしていた彼が振り返る。
    「私の仕事は君の保護と観察だ。拷問ではない」
     言いながら、彼は食器棚から何かを取り出した。
    「珈琲は好みか?」
     皿で殴られるのかと思ったのに、彼が取り出したのはドリッパーとマグカップだった。
    「知らない」
     僕は、馬鹿みたいに正直に答えた。知らなかった。こんな優しさも、自分の珈琲の好みも、穏やかな生活も。全部。
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    PROGRESS大佐🤕と喧嘩して家出した🔮を匿う副官🧲2
    /現パロ大占傭占
    「ああ、いるよ」
     携帯電話から届く声が誰なのかは判別がつかない。ただキャンベルさんの口ぶりと目線で彼だと解った。彼は眇めたような流し目で僕を見た。
    「僕の家に居る」
     裏切られたと思った。立ち尽くした足が後ろにたたらを踏んで、この家から逃げようとする。だけど裏切られたという衝撃が体の動きを固くしていた。そのうちに、彼は言った。
    「なんで? あげないよ。送り届けてなんてやらない」
     踵を返して走り出そうとした足が止まる。息を止めたままキャンベルさんを見ると、彼はもう僕の方を見てはいなかった。ただ、唇を歪めて厭に微笑んでいた。
    「飽きたんだろ?貰ってあげるよ。常々美味しいんだって聞いてたし」
     怒鳴られてる。とは、漏れ出る音で解った。そういう空気の振動があった。それに構うことなく、キャンベルさんは鬱陶しそうに電話を耳から離すと、液晶に指を滑らせて電話を切った。四方形のそれをソファに投げて息を吐く。僕の、何とも言い難い視線に気付いたのだろう。彼はもう一度目線だけで僕を見た。それが問い掛けの代わりの視線だと解ったから、逃げ出すより前に口を開いた。
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    PROGRESS求愛してる白鷹とそれに気づかない夜行梟/鷹梟/傭占
     そもそもの始まりは食事からだった。と、夜行梟は呟き始める。狩りのやり方を教えた頃から、やたらと獲物を取ってきたがると思っていたのだ。覚えたての狩りが楽しいのだろうと微笑ましく思えていたのは一、二年ほどで、そのうちどこからか料理を覚えて振舞うようになった。あれはそういうことだったのだ。給餌だ。求愛行動のひとつだったという訳だ。夜行梟はその真意に全く気付かず、私の料理美味しくなかったかな、悪いことしたな、なんてひとり反省していた。
     夜行梟の誕生日に三段の素晴らしいケーキが出された辺りから、つまりは今年のハロウィーンを終えた辺りから、いとし子は本領を発揮し始めた。まず、夜行梟の寝台に潜り込んだ。今思えばこのときに気付いてもよかった。よかったのに、夜行梟は布団の隙間を縫うように身を潜らせたいとし子に「怖い夢をみたのかい?」なんて昔と同じように声を掛けた。もうとっくに子供じゃなくなっていた白鷹は、このときは未だ我慢していた。「そんなものだ」とだけ言って隣に潜り込み、足を絡ませて寝た。今思い返すと完全に求愛だった。鷹族の習性だ。鳥型の鷹は空中で足を絡め合い、互いの愛情を深めるのだ。鷹族の遠い親戚からきちんと聞き及んだ話だった。のに、思い当たらなかった。まだ甘えん坊さんだな、なんて嬉しく思っていた。
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