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    soseki1_1

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    物騒な恋人の猟犬🤕を宥めようとする一般人🔮くん(傭占)

     体が揺らめいたときから、しまったなあとイライは思っていた。肩にぶつかった身体は色の派手な大ぶりなジャケットであったし、傍に見えた髪も明るい色をしていた。このまま舌打ちだけで通りすがってくれますように。傾いた体をどうにか持ち直しながらそう祈るように思ったイライの心とは裏腹に「あ?」という物騒な声が聞こえた。しまったなあ。胸の裏を冷やしながらぎこちなく声の方を見れば、頭も衣服も派手な、見るからに素行の悪い男が、カラーコンタクトの入った目でイライを睨んでいた。
     それからは厄介なお決まりの通りに話が滞った。男はぶつかった衝撃で肩が痛む宣い、慰謝料だの治療費だのをイライにせびる。言い渡された額は到底支払えないもので、イライは首を横に振るしかなかった。ならば財布ごと置いて行けと男はがなる。両手を胸の前で擡げ、降参だと言わんばかりにさせながら、イライは視線をうろつかせた。休日の噴水広場は人通りが多い。男とぶつかる前までは、幾らかの人々がちらほらと前を通りかかっていた。のに、男に絡まれた今となっては、イライの周辺に誰も寄り付こうとしない。離れたところを迂回する者、少し距離を開けたところで連れ合いと囁き合う者、中には携帯をかざして動画を映す者もいる始末。解っていたことだが、誰の助けも得られなさそうだ。しまったなあ。内心にて一人心地ながら、イライは男のすぐ後ろにある中央の時計へ目を向ける。長針は待ちに待っていた時間には未だ至らない。けれど"彼"のことだ。早めに来るに違いない。その前にどうにか話を終わらせなければならない。しかしどう言ったものか。これからの予定を鑑みると財布を渡すことはできない。どうすれば。
    「テメェ! 聞いてんのか!? アァ!?」
     焦燥に満ちたイライの胸倉を男の手が掴む。周囲でさざめきが生まれ、怒りに満ちた男の息が鼻先に触れた。
     そうして揺れた視界に黒が見えた。
     だからイライは思わず目を伏せたのだ。しまったなあ。
    「なあ、兄ちゃん」
    「ぶっ」
     瞬く間もないことだった。男の首に腕が回り、後ろに引っ張られる。唐突に急所を締め上げられた男は手を緩め、イライはたたらを踏みながら地に足の底を全て付けた。息苦しさの余韻に首を抑えながら顔を擡げる。そうして思わず息を吐いた。男の首を後ろから締める腕、肩口から見える顔。その全てに見覚えがあり過ぎていたから。
    「オレの連れになんか用だったか。ン?」
    「ひ、ぃ……ぐっ…」
    「悪いがオレが先客なんだ。だがまあ、話くらいなら聞かんこともない」
     穏やかなふりをしているわざとらしい声音と同時に、ぐっ…と、腕に力が入る。それは男のジャケットの首元がぎゅ…と苦しげな音を立てた為によく理解できた。肩口から覗く赤と黒の双眸が、恐ろしい程の眼光を携えて男を見ている。目つきだけで人殺しを果たそうとするかのような有り様だ。はたまた、事実そうなのだろうか。彼はちょっと、少し、かなり、やりすぎるきらいがある。
    「で? オレの連れになんの用だ?」
     イライの恋人……猟犬というコードネームを持つナワーブは、その名に相応しい牙のような声音で、男に問うていた。
    「……ナワーブ」
     穏やかな声を作る。わざとらしい声音だ。けれどその裏にあるのは物騒な意図ではない。殺意だの憎悪ではなく、恋人への気遣いと甘えに満ちた心を包んで告げる。確かに、デートの待ち合わせの最中に無粋を投げられて不快ではあった。男の怒る振りをする態度は慣れたものであったし、懲らしめられるべきだろう。でも、止めないといけない。止めないと確実に彼はやり過ぎる。
     ナワーブは一瞥をイライに傾ける。その瞬間だけ、相貌に宿っていた憎しみと殺意が消え失せていた。この世でイライにだけに注がれる不器用で暖かな眼差しだ。けれどそれもほんの一瞬のことであった。視線は直ぐに冷たさを取り戻し、男へと向き直る。呼びかけだけで止まる気はないらしい。これはかなり怒っている。察して、イライはその後ろへ回り込んだ。周囲の緊迫は増し、ざわめきは静かになりつつも増えている。しかし周りの目を気にする余裕はない。このままだと人がひとり死にかねない。
    「ナワーブ」
    「……」
    「ね、時間がもったいないよ」
     黒いジャケットで覆われた背に、イライは両手をぴっとりと触れさせる。いつものフードで覆われていない栗色の髪に頬を摺り寄せ、耳元でそうっとおねだりを紡ぐ。微かだが、喉で息を詰める音が聞こえた。手は解かれない。あと少しだろうか。
    「レストランの予約がもうすぐだったはずだよ」
    「オーナーとは知り合いだ。融通が効く」
    「私のお腹が空いちゃったんだ」
    「…………」
     解りやすい嘘だ。男を手放させるための虚言だ。お腹はそこまで好いていないし、レストランの予約だってまだ余裕がある。けれどきっと無視はされない。ナワーブが思っている以上に自分を好いていることを、イライは知り得ていた。押し黙るナワーブの様からしてもそれは明らかだ。だからあと一押し。嘘ばかりではない真実を織り交ぜる。
    「折角のデートなんだ。早く君の可愛い顔が見たい」
     言って、数秒。たっぷりと沈黙した後、ナワーブの口から深いため息が吐き出された。同時に、男の首を絞めていた腕が緩みむ。引き摺られるようだった男はどさりと地面に尻を突き、情けない声を漏らした。その背を一度足蹴にして、ナワーブが振り返る。そのまま抱擁せんとする男を、イライは両手を広げて受け止めた。
    「……遅くなって悪い」
    「少し早いくらいだよ」
     背中に手を伸ばし、髪に頬を寄せる。先程と同じ、けれど先程とはくらべものにならないほど愛欲を込めて頬擦りをする。最中、足元に転がっていた男が、情けない悲鳴を上げながら逃げ去る足音が聞こえた。前に同じようなことがあったとき、彼はその男を半殺しにした。イライが止めなければそのまま殺めていたかもしれない程に止めようがなかった。そう言った行為に慣れていようとも、不必要な殺しは見たくないし、させたくもない。だからどうにか止めたけれど、でも嫌悪している訳ではない。
    「私の為に怒ってくれてありがとう」
     制止の裏に隠していた本心を告げれば、抱擁の力がいっとう強くなる。少し苦しいくらいに強く暖かな腕にうっとりと瞼を伏せながら、イライは褒めるように、その頭を撫でてやっていた。
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    soseki1_1

    PROGRESSハネムーンクルージングを満喫してるリズホワ/傭占
    (この後手マ♥でホワ🔮を5回はイかせるリズ🤕)
     麗らかな金色に白いベールを被せるハムエッグ。傍らに鮮やかに彩られたサラダを横たわらせた姿は、実に清々しい朝を連想させる。大皿の横に据えられた小皿にはフルーツドレッシングが揺蕩っており、そこから漂うさわやかな香りもそのひと役を買っていた。焼き立てのパンを詰めた籠を手渡したシェフ曰く、朝食時には一番人気のドレッシングらしい。客船に乗ってから数日、船員スタッフは慣れた風に微笑み「良い朝を」とだけ言って、リーズニングをレストランルームから見送った。
     依頼人から報酬代わりのひとつとして受け取ったクルーズは、リーズニングに思いの他安寧を与えている。慣れ親しんだ事務所には遠く及ばないものの、単なる遠出よりは幾らも気軽な心地で居られている。「感謝の気持ちに」という依頼人の言葉と心に嘘偽りはないとは、この数日で理解できた。クルージングの値打ちなど大まかにしか理解出来やしないが、おそらく高級な旅を与えられている。旅行に慣れない人々を満喫へと誘うスタッフの手腕も相応だ。乗船前は不信感すら抱いていたリーズニングも、今はこうしてひとり、レストランルームへ赴けている。満喫こそしているものの、腑抜けになった訳ではない。食事を部屋まで配膳するルームサービスは今なお固辞したままだ。満喫しつつ、警戒は解いて、身なりを保つ。この塩梅を上手く取り持てるようになった。
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    soseki1_1

    DOODLE知らない間にフル⛏になって教🧪を愛でてる探🧲と、それを受け入れてる教🧪と露見 探教/フル教
     白いシャツが似合う人だった。だからその下にある青黒い痕がよく映えていた。
    「ムードがないね」
     いきなり服を剥かれたあの人は、切り傷を伴った痣を腹に晒したまま、慣れたふうに微笑んでいた。
    「相変わらずだ」

     少しずつ可笑しいと気付いた。最初は記憶が飛ぶ夜が続くこと。その夜の後はいつも決まって部屋にいると気付いたこと。それからあの人の様子。僕が記憶を飛ばして、自室のベッドで目を覚ました日。あの人はいつも決まって悪い顔色をしていた。この荘園には肌も何もかも髪だって白いやつもいて、片目の上に青痣を引っ付けてる奴もいる。試合が終わった後は大抵悪いもので、それを次の日に持ち越す奴だって稀じゃない。でも僕は、あの人の肌色だけはよく覚えていたから。だからあの人の、海に輝る太陽に焼かれた方がもっと似合うだろう肌が、部屋に篭っているからいつまでも白い肌が、首元辺りに宝石みたいな鱗が浮き出ている綺麗な肌が、その日だけ決まって悪いことにも気付いた。で、何でだろうと考えた。ハンターの中に苦手な奴がいるのか、それとも薬でもやり始めたか。規則性を見出そうとして、見つけられたものが僕の記憶の欠落と目覚めのことだった。それまでは、酒に溺れて酔いに感けたのだろうと思った。安酒には慣れているけど、それなりの品にこの体はちっとも慣れていない。だから食堂だとか談話室だとかに集まって飲んだ後は記憶が朧げなときも稀にあって、その程度がひどいんだろうと思っていた。でも思えば、僕は記憶が霞むことはあっても、飛ぶくらいに酷い酔い方をしたことなんてなかった。そんな無警戒な真似はするはずがなかった。じゃあなんで記憶が飛んでるのか。僕の体がおかしくなったのか。それがどうしてあの人の青い顔色に繋がるのか。色々考えて、僕は、体に埋まった石ころのことを思い出す。
    2002

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