Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    sheera_sot

    @sheera_sot

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 34

    sheera_sot

    ☆quiet follow

    書きたかったもの:家では皐月さん呼びされる英さん/家では母様呼びしている英さん/着物で生活する(以下略/化粧品は資i生i堂をライン使いする(以下/日傘をさしている(以 全て妄言かつ捏造

    英さんの朝の話 朝が来る。まだわずかに開き切らない目のまま、庭の草木に水をやった。向日葵の葉の上、弾かれて玉になった水が艶々と涼しげで良い。太い茎がまっすぐに伸びている。数日もすればこぼれんばかりの大輪を咲かせてくれるはず。それを思うと少し楽しみだ。
     裸足で歩く縁側はまだわずかに夜の冷たさを残しているけれど、もう少しもすれば日が差して、温まるを通り越して暑くなってしまうだろう。日光は植物の生育に欠かせない要素だけれど、日の当たり過ぎは良くない。暑さは苦手なもののひとつだった。汗をかくと化粧も崩れるし、髪が首筋にまとわりついて鬱陶しい。

    「おはよう皐月さん」
    「母様、おはようございます」
     丁度、化粧水を顔に塗っているところだった。花に肥料をやるように、顔の皮膚にも適切な栄養を与える必要があるらしい。ヤナギの人が言っていた。植物みたく水を与えて日光に当たるだけで済んだら楽なのに。
     母様はきちんとした人だ。自分が起きて姿を見る時には必ず化粧をしている。着物が崩れているところを見たことがない。常に整った美しい姿勢には厳格さすら感じるけれど、花に向ける笑顔が慈しみに溢れているのを知っている。
    「水遣りをありがとうね。今日はお仕事でしょう。遅れないように」
     それだけ言って、庭へと向かっていく。今日も昼からフラワーアレンジメントの教室があるから、いくつか花を見繕ってくるのだろう。

     下地はオシロイバナの種二つ分くらい。丁寧に伸ばして、上から粉をはたく。筆で余分な粉を落としてから目元に色を。生命の力を感じる赤い色、まぶたの下に薄く伸ばして馴染ませる。
     アイラインは黒、まつ毛の際に細く細く引いていく。ひどく繊細な作業だ。思わず息を詰めてしまう。いつまで経ってもこれには慣れなかった。それからマスカラ。これも技術が必要で、まぶたにつかないように慎重に行う必要がある。きちんと塗ることができれば睫毛が下がらず、目の下が汚れることもない。
     ここまでくると残す手順は二つ。頰紅をブラシにとった後、手の甲で少し粉を落としてからつけるものだと聞いた時には面倒臭さと勿体無さを感じたけれど、やってみると確かに仕上がりが異なるのだから不思議だ。何度か筆を頬に滑らせていくと白い肌に温かみが差して見える。
     そうして、最後に口紅を塗る。黒のケースの天面には椿の刻印。口紅の色はとても難しい。時期によって似合う色だけではなく、質感まで異なる。暑い季節だから、少しだけ透け感と艶のあるものをこの前選んで買ってきた。本来何かを選ぶのは苦手なことだけれど、蓮の名前を冠したそれは、つけてみた自分を想像することができて楽しかった。数ミリ繰り出して慎重にラインをとりながら塗っていく。テクスチャが柔らかくて塗り心地がいいのも好みだ。
     終わりにもう一度鏡の中の自分を見て、変なところがないか確かめる。いつもと同じ手順だからそうそう間違えるはずはないけれど。生気のない顔をした自分はそこにいなかった。問題はない。

     着物から着替えて、髪を結える。髪を整えると一気に外出の気持ちに切り替わった。ただの出勤ではあるけれど。
    「皐月さん、行ってらっしゃい。気をつけて」
    「はい。行って参ります」
     わざわざ見送りに玄関の外まで出てくれた母様に挨拶をして歩き出した。斜めに差し込む陽の光が眩しくて日傘の内側に隠れる。今日はきっと、暑くなりそうだ。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works

    kinotokko

    DOODLEいつもの突然始まって突然終わる。自分以外置いてきぼりメモ。帰りの電車が暇だったのがわるい。

    ツラアズへのお題は『君の「大丈夫」が、大嫌い』です。
    #shindanmaker
    https://shindanmaker.com/392860
    色々問題は山積みだったが、いつも通りアズサには笑って「大丈夫、大丈夫」と答えた。その途端、今まで心配そうに困り顔をしていただけのアズサが
    「は?『大丈夫』?今のツラヌキが大丈夫なわけないでしょ!何処をどう見たら大丈夫だって言えるわけ?頼りなさいよ?みんなも、私もいるでしょ?大切だから迷惑掛けたくないって思ってくれてるのかもしれないけど……でも私も大切だから間に合ううちに頼ってほしいの私は。……ツラヌキだって大切な人が頼ってくれたら嬉しく、ない?」
    怒るみたいに叱るみたいに烈火の如く喋りだしたが段々と声が詰まり、最後の方は不安そうに涙目でコチラを伺いながら「それとも、大切ですら……なかった?」と聞いてきた。脳裏に父親が『大丈夫、大丈夫!』と自分の頭を撫でる姿を思い出した。大丈夫では、なかったのだ。あの時は自分が頼りないのが腹立たしかった。頼ってもらえないのが悲しかった。あの時のオレは今のアズサみたいな顔をしていただろうな。
    512