雪に願えば「青木」
高校からの帰り道、背後から呼ぶ声に「んっ?」振り返るとウールコートごしの腕に冷たい感触が弾けた。何が何だかわからずキョトンとしていると、にんまりと口角を上げている井田に雪玉を投げられたのだと気づく。
「おま、やったな?!」
今日は冷え込みが厳しくここ埼玉でも雪が降り、足元には数センチほどが積もっていた。すぐそばの公園に井田が駆け出したのを合図に、二人きりの雪合戦が始まった。
植木の葉がたっぷり抱えこんだ雪を手早くかき集め、広い背中へ投げつける。それが当たると「うわっ」と声をあげる割に井田は終始笑顔で、こういう時だけ見せる子どもっぽさになんだか嬉しくなる。
「待てよっ」
チラつく雪が非日常感をかきたて、薄く積もった上を転ばないよう気をつけながら俺たちは走り回る。
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