猫の日クラファ ※非カプ「あ、猫だ」
「え?どこ?」
レッスン後、3人でコンビニに寄った帰り道、秀が急に声を上げた。秀が指さす方を先輩2人で探すと、電柱の影、見えにくいけれど日向ぼっこしているらしき猫が座り込んでいるのが見えた。
「よく見つけたな」
「わ、かわいいね」
そんなことを言いながら3人で猫に近づいていっても、猫は3人を全く意に介さず大あくびをした。人に慣れているのかなんなのか。170越えの大きな男3人で囲んでも逃げないのは、危機管理に欠けているようにも思える。
思いつつもかわいいものはかわいいので、その首輪をしていない顎を秀がくすぐると、猫は満足げに目を細める。
「アマミネくん、上手だね」
「こいつが人馴れしてるだけですよ」
秀はそういいながら猫を撫でていたが、先輩2人がこちらを眺めるばかりで寄ってこないことにしばらくして気がついた。猫の真向かいに自分が陣取っているからかと思いすこし横にずれてみたが、先輩たちは近寄ってはこなかった。
「あの、先輩たち、もしかして、アレルギーとかでした?すみません」
猫を撫ぜた手を2人に近付けないようにしながら声をかけてみると、2人はほぼ同時に秀の言葉を否定した。
「いや、そういうわけじゃない」
「ううん、そうじゃないよ」
お互いが突っ立ったままだったのに初めて気が付いたように顔を見合わせると、改めて鋭心が恥ずかしそうに続ける。
「車から見られるサファリなどはよく行っていたんだが。あまり、小動物に触れるのに慣れていなくてな」
「……僕も。アレルギーとかじゃないんだけど、うちは動物だめだったから。だからあんまり得意じゃない、かも」
ほおをぽり、と掻くと、百々人は意を決したようにしゃがんで猫に視線を合わせた。そっと指先を伸ばして猫に触れたが、恐る恐るな百々人の雰囲気を察したのか、するりと逃げられてしまった。
「うーん、やっぱりアマミネくんみたいには上手にできないなあ」
百々人は、伸ばした手をごまかすようにひっこめると、すっくと膝を伸ばした。秀はそのまま、百々人と交代に猫をひと撫でしてから立ち上がった。
「満足しました。そろそろ行きましょうか」
それを見た鋭心が組んだ腕で自分の顎をさすり、感心したように言った。
「秀、さすがだな。俺も動物くらいあやせるようになったほうがいいだろうか。今後バラエティなどで動物と触れ合うこともあるだろうしな」
「動物が得意じゃないのはそれはそれで需要がありそうですが……じゃあ、猫カフェにいくのはどうですか?」
「猫カフェ?楽しそう」
百々人はすぐ反応したが、猫カフェという単語が耳慣れなかったのか、鋭心が不思議そうな顔をした。
「あ、猫カフェっていうのは、たくさんの猫と触れ合えるカフェだよ」
「こんな感じです。エサとかおもちゃで釣ることもできるんで、猫苦手でもハードル低いと思います」
百々人が説明し、秀がスマートフォンを素早く操作して猫カフェに関する投稿を鋭心に見せた。鋭心は、秀が自分に向ける画面をしばらく見つめた後、得心した様子で頷いた。
「秀が一緒なら心強いな」
「ね。猫撫でるの得意だし」
秀は先輩2人に期待の眼差しで見つめられたのがくすぐったかったのか、少し目を逸らしたあと、じゃあそろそろ行きましょう、と小さく呟いてから歩き始めた。鋭心と百々人は、その自分たちより小さく、頼もしい背中を少し後ろから慌てて追いかけたのだった。