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    takanawa33

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    takanawa33

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    悠七 シリアス 呪霊ミン

     その日、不思議な夢を見た。
     ふわふわした夢の空間に会ったこともない金髪の男性がいて、その人はなんだか変なサングラスをしていた。西洋人か? いや、北欧系かもしれない。分からないけど見たことはない。もしかしたらテレビとか、映画に出てきた人かもしれないけれど生憎覚えていなかった。あともちろんだが俺の親戚にこんな整った顔立ちの人はいない。
    『どうも、夢の中にお邪魔してすいません』
     はあ、どうも。律儀な人だ。年のころは俺より少し年上か、いや、分からない。なんといってもイケメンだ。俺の知る年齢区分けのカテゴリーに入らないほどキレイな顔立ち。しかも声までいいときたもんだ。声帯まで整ってるのかしら。
    『虎杖くんと仲良くしていただいているようで、これからもあの子をよろしくお願いします』
     深々と頭を下げてくるその人に俺は「いえ」だの「えと」だの歯切れの悪い返事をしているうちに、ピピピピピ、煩わしいアラームが鳴った。

    「……変な夢」

     それで、俺は大学の同級生、新入生オリエンテーリングで隣同士だった学内のモテ男、虎杖悠仁を鍋に誘うことに決めたのだ。

    * * *

    「あの、そこからは、特級の呪霊が」
     新人の呪術師についた新人の補助監督。どう考えてもこのペアでなんとかできる相手ではない。そんなこと上も分かっているだろうに何しろ今は人が少ないのだ。先の日本の大災害、それ以降呪術師は減って、その割に呪霊は未だ蔓延っている。
    「いいのいいの、俺たちに任せて」
     虎杖悠仁は大学帰りのパーカーのまま髪をかきあげた。乙骨は仙台、五条は京都へ向かっている今、この東京を守れるのはこの青年しかいない。
    「あの、でも」
     恐怖に足が竦んでいる補助監督。きっと中学を卒業してすぐ程度の年齢だろう。悠仁は今の呪術界の人材の薄さに長い溜息を吐いてから背中側に手を突っ込む。パーカーの内側に仕込んでいるホルスター、そこにぶら下がる硬い感触。
    「ペアの子は中? 階級は?」
    「に、二級です」
    「そ、じゃあまだ生きてるかもね」
     ずるりとホルダーからひしゃげた鉈を取り出して呪力を込めた。その時、ようやく新人の補助監督は気付いたのだ。目の前に立つ人間が……いや、人間と区分していいのか分からないそのヒトが、特級呪術師の虎杖悠仁だということを。
    「じゃ、いこっか、ナナミン」
     愛しそうに囁く特級呪術師は背後に現れた呪霊に目を細める。
    (こ、これ、こんな、こんなモノが……ッ!)
     瞬間、顕現する異形を見て、彼女はこみ上げてくる禍々しい呪力と姿に、たまらず吐瀉物をアスファルトにぶちまけた。

    * * *

    「ええ? うちで?」
     虎杖悠仁は顔がいい。そして振る舞いもまた上品だ。
     先の大災害で壊滅的な被害を受けた日本の、数少ない子供の通う数少ない大学でひと際異彩を放つ存在感。多くの女子学生はそんな虎杖を憧れだの、恋慕だの、崇拝だのの視線で見つめている。
     そんな中、特攻していくのはかなり視線が痛いのだけど、俺はあの夢の人に背中を押される気持ちでこの同級生を誘った。
     まあ、普通に気になるしな。なんでも再区画化された中でも一番っていっていいくらいの高級住宅地に住んでいるらしいし、噂によると一人暮らし、家族なし。野次馬根性丸出しで申し訳ないけどなんでこんな一介の学生がそんなとこに住んじゃってるのか、聞けるのなら聞いてみたい。
    「いいじゃん、白菜安かったし、でもうち広くないからさ」
     お願い、と両手を重ねて拝むと虎杖クンはジイっと値踏みするように俺をみて、そんでため息一回「あんま詮索すんなよ」と言ってから太陽のようにカラリと笑った。そんなわけで、俺はゼミの仲間を募っていざ虎杖悠仁のご邸宅へ伺うこととなったのだ。

    「酒、ここでいい?」
    「いいよ、好きにして。でもキッチンは入らないでほしいかな」
    「お、お料理系男子ぃ?」
    「この時代家事に男女とかなくね?」
     虎杖は五人もやってきた男衆に怯むことなく真っ白な一軒家に迎え入れてくれた。なるほど、一度すべてを壊して建て替えたこのエリアの住宅はすべて白に統一されていて、なんというか、ちょっと居心地が悪い。金持ちってこういうのが好きなのかな。
    「鍋、これでいい?」
     奥から出してきたガスコンロと鍋は煤がついてるくらい年代物でこの空間に突如現れた庶民派なアイテムにちょっとほっとする。
    「ポン酢で食う? それともごまドレ?」
     ほいほい、と出してくる瓶もやっぱり俺たちが知るブランドのもので、なんだ虎杖って案外普通なんだなとどこか拍子抜けしてしまう。
    「俺はポン酢派」
    「ゴマもらっていい?」
     わいわいと準備しながら、虎杖は奥のキッチンで白菜を切っている様子だった。
    「手伝おうか?」
     声をかけるとストンとやたら切れのいい包丁で白菜を真っ二つにした虎杖がこちらを見る。その二つの相貌が、ぼんやりと光って、喉の奥がヒュっと冷たくなった。
    「ん~、いいよ、ありがと。キッチンはあんま入らないでほしいんだよな」
    「そ、そっか、わかった」
     ストン、白菜が切れる。俺は虎杖が渡してきた紙コップと紙皿を持って鍋を囲むテーブルにそそくさと戻っていった。
     そんな空気を忘れるためにも鍋のコンロをつけ、煮立たせ、虎杖が運んでくれた野菜と肉を投入していく。クツクツと煮立ってきたソレを紙皿にいれる。
    「虎杖の家、こんな豪華だからもっと緊張するかと思ったけど案外落ち着くな」
    「そう? まあ、俺がここに住まわせてもらってるのも周囲のおかげだし」
    「なんか、ひとつひとつが普通だよな、紙皿とか。酔って割ったりしないからありがたいけど」
    「ここ、人を呼ぶ想定で暮らしてないから。別にきてもいいんだけど」
     虎杖は肉を並びのいい歯で齧りながら酒を飲み込んでいく。飲みなれてるなぁ、と思う。サークルにも入ってないし大学の飲み会に参加したって話も聞かないけど。
    「あ、そういえばさ、林の講義、明後日レポート提出じゃん、課題どれにした?」
    「俺は一番の都市開発について」
    「俺は三番の流通経路の確保」
     虎杖は? と聞けばしまったって顔を顰める。
    「やっば、明後日だっけ?」
    「なに? 忘れてた?」
    「最近ちょっと忙しくて。それに林教授って最後の試験でいい点とればレポートの採点低めじゃん」
     虎杖は「どうしようかな」と目を瞑る。それって課題をするかしないかってこと? こいつ振る舞いは上品だけど中身はけっこうヤンチャよね。
    「あ、ごめん、ちょっと電話」
     尻ポケットのスマホを取り出し、虎杖が席を外す。階段を上る音、二階にいったようだ。聞かれたくない話なんかね。
     クツクツと煮える鍋が蒸気を出し続ける。なかなか帰ってこない虎杖に痺れを切らしたのか、囲んでいた一人が立ち上がった。
    「なあ、もうちょいなんか食いたくね?」
    「まあ、そうだな。コンビニいく?」
    「いやいや、なんかあるだろ。ちょっと冷蔵庫見せてもらお」
     のしのしと歩くソイツのズボンの裾を摘まむ。
    「虎杖がキッチンに入るなって言ってたぞ」
    「料理するなってことだろ、冷蔵庫の食べ物見せてもらうくらい別に普通だって」
     制止も聞かず、入っていくソイツの背中を睨みつけるも、止められなかった俺も同罪かもしれない。それにまあ、確かに冷蔵庫の中をちょっと拝見するのなんて普通かも。もしかしたら冷え冷えのローションとか入ってたらゴメンだけど。そのとき。
    「……っうぁあああああ!」
     悲鳴に鍋を囲んでいた四人が集まった。そして、尻もちをついて後ずさるソイツの指さす先を、見る。

     手首だ。
     人間の。
     多分、成人男性、右手だ。
     それが、透明なケースの中、薄い橙色の水に入って、置いてある。
    「なん、だ……これ」

    「だから言ったじゃん。友達なんていらないよ、ナナミン」
     背後で聞こえた声に振り向く暇もなく、俺の視界は真っ暗に染まっていた。
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