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    takanawa33

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    takanawa33

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    タレ飯 誘拐if

     ああ、最悪。
     死にたい気分で目が覚める朝。朝と言っても時計がそれを定義しているだけで太陽なんてどこにもないけれど。
    死にたい、それを何度も繰り返しているのになぜかまたヤってしまう。悟飯は宇宙船から見える星々をぼんやり見つめながら隣で寝こけている憎きサイヤ人のおでこを力の限り指で弾いた。

    「いってぇなぁ。なんだよ昨日はあんなに俺に抱き着いてきたってのに」
     おでこを押さえて呻く男。この宇宙人に攫われてもう十年以上の月日が流れた。犬も飼えば情が移るというが、さすがにこの歳月を共に過ごせば憎しみの感情以外も持ち合わせるようになってきた。きてしまった。
    「うるさい、さっさと服きろバカ」
     投げつける戦闘服。悟飯はとっくに着込んでいる。
     もう17になった。短かった手足も、低かった身長もすでに大人のソレとなり、この誘拐犯と同じ程度の体格になっている。
    「おーおー、粗末なモン見せてすまなかったなぁ。お姫様はどうすればご機嫌が直るんで?」
    「うるさい、ほんとヤダ。あっち行くからしばらくこの部屋から出てこないで」
     謝っている癖にまだベッドで大股を開いている男。ターレスに指を突き付けてから悟飯はデッキに向かう。嗅覚も鋭いサイヤ人の血が憎い。色濃く残る情事の名残が分かってしまうのだから。
    「お早いですね、お嬢さん」
    「おはよう、いつも言ってるけどソレやめないと今度の補給のとき船から降ろすから」
     管制室の星図を見る。ここらへんは最近までフリーザの手下が縄張りにしていた宙域のはず。そのぶん補給物資は潤沢にあるが。
    「ああ、ほら、来た」
     悟飯は赤い点がこちらに点滅しながら近づいてくるのでクルーの肩に顎を乗せて眉を顰めた。小さい宇宙船ならいざ知らず、こんななりのでかい宇宙船が近づいてくれば略奪目的で接近されるに決まっている。フリーザの部下は未だ宇宙では恐れられている存在、ちょっと脅せばいくらでも資材が手に入るのだから。
     けれどもちろん悟飯がそんな相手に怯むわけがない。宇宙にきてからもう10年以上。野蛮なこの世界のルールは身体に染みついている。
    「拡大して。ああ、やっぱりフリーザ軍の残党か。話し合いは? 通信切られてるんだね。わかった。じゃああっちが攻撃してきたら僕がでる」
     言うや否や、好戦的な相手は脅しのつもりか、はたまたただの下手くそか、当たらない光線をこちらに向かって撃ってくる。
    「あーあ、ほんと宇宙のヤツらってバカ」
     マントを脱ぐ。戦闘服のインナーだけでポッド脱出口から、体一つで、悟飯はスルリと出ていった。
    「え!?  あ、あの! 宇宙服」
    「はぁ? お前新人か? お姫様にそんなモン必要ねぇよ」
     先日、救難信号を出していたところを拾われた新人は真っ青な顔でモニターに噛り付く。そこには平然と宇宙の中を移動する悟飯の姿があった。そして宇宙船の前までやってきて手信号。
    『戦闘をやめろ、敵意はない』
     いつ標準になったのか分からない宇宙式手信号。それを器用に繰り返す悟飯に向け、人間一人には十分すぎる光線が発射された。瞬間、宇宙の暗闇の中に火花のような熱が弾ける。
    「あ、あ、あ!」
     新人は思わず目を瞑った。救難信号に気付き、この船に保護してくれたのは悟飯なのだ。恩人が死ぬ姿なんて見たくない。しかし、周囲はそんな彼を気遣うでもなく「あ~~~」だの「死んだなぁ」だの呟くので、そんなクルーたちに目を剥く。しかし。
    「ちがうちがう、俺たちが言いたいのはあっちの戦闘船がってことよ」
     指さされ、光の収まっていく宇宙の一点を見つめる。そこには、朝と同じ不機嫌そうな顔で手を組んでいる悟飯がいたのだ。
     人間が蒸発するには十分な熱量。鉄を溶かし、宇宙船を落とす攻撃力。それを生身でくらって、生きている。
    『ほんと、最悪』
     真空では言葉は通じない。けれど新人は分かった。朝、コーヒーをマントに零した時と同じテンションでそう呟く悟飯の口元が。そして、戦闘船に向け、差し出された人差し指に集まっていく、さっきの光線とはくらべものにならない質量のエネルギーの塊。それが、宇宙の中で裁きの光のように弾けたのだった。



    「へぇ? 俺が二度寝してる間にそんな面白いことしてたのかよ。つれないなぁ、ほんとに。俺はお前の美しい姿がいつでも見たいのに」
     ターレスはさっきの戦闘船が備蓄に使っていた小さな星に降り立ち、使える物資を探す悟飯の肩に手を置いた。
    「うるさい黙って手を動かせ」
    「しかしわかんねぇなぁ。俺には強奪ダメとか殺人ダメとか難癖つけるのにお前がヤるのはいいのか?」
    「あのなあ、敵意がない一般人を攻撃して殺して奪うのとあっちに悪意があって攻撃してきたのを正当防衛でどうにかするのはまったく別の話だろ」
    「そうなのか? サイヤ人にはよくわからん」
    「僕も半分サイヤ人ですけどわかりますぅ」
     そして手を動かせとターレスを蹴り上げる悟飯。口は動かしながらも真剣に物資をひっくり返す姿をしばらく見つめたターレスはそっと近づき、油断している白いうなじに歯を立てた。
    「ぎやぁ!!!」
    「アッハッハッハ、色気ねぇ叫び」
    「……ッ! バカバカバカ! ほんとにバカ! この星に置いてくから神聖樹農家にでもなってろバカ!」
     思い切りぶん投げてくる缶詰を避けながら、ターレスは目尻の涙を拭きながら笑い続けたのだった。

     再び、暗闇の中に飛び出す。
     一瞬の補給を済ませたらまた当てもない宇宙の航海だ。
     いや、昔なら目的はあった。生命力に溢れた星を見つけ、そこに樹を宿し、奪う。下級戦士が身に着けた姑息な手段だ。仮初の上級になるための。
     しかし今はちがう。いつからかこの船の全権はターレスが気紛れに拾った子供が担っていて、その子供は殺すのも戦うのも好きじゃないという。それならこの船を降りてさっさと自分の星に帰り、夢だった『学者さん』になればいいものを、ターレスと実力が並ぶまでの数年ですっかり情が移ったらしい。
    「僕がいないとお前はなにしでかすか分からないから」
     唇を尖らせ、心底不服そうに言うけれどターレスは知っている。
     本当は、もし悟飯が本気になれば、この船のクルーを皆殺しにして地球に帰ることなんて造作ないのだ。自分も含めて。
    「クックック……」
     笑ってしまう。きっと悟飯も気付いている。神聖樹を禁止されて以来、下級戦士らしくパワーアップできていない自分に対して、その力がどこから湧いてくるのか分からない『異物』はとっくにターレスより強くなっている。なのに、ターレスの元にいて、あまつさえ抱かれているのだ。
    「なんだよ、不気味だな」
     邪魔だからと切りそろえた短い髪を少しだけ無重力の空間に揺らしながら怪訝な顔でターレスを見つめる。
    「いや、本当にお前といると飽きないからな。自分の先見の明に驚いているところだ」
    「……謙遜って言葉知ってる?」
    「もちろんだ小僧。むしろお前は知りすぎている」
     なぜ、あの時、地球でこんな小さなか弱い生き物を拾ってしまったのか、ターレスは始めこそ分からなかったが、今になって思う。きっとあの魂のざわつき、産毛に引っかかるような違和感、それがあの小さな生命から溢れていたのだ。
     ああ、まさに運命。この生き物が愛しくて仕方ない。



     地球にいこうか、なんて言ったのはただの気紛れだった。
     でも今にしてみれば、あの時の予知にも似た脳のざわめきがターレスに囁いていたのかもしれない。今なら、会えるのだと。
    「……なんか、おかしくないですか?」
     クルーの一人が目を細める。
     地球、それは美しい水の星。清らかな大気と大いなる海、そして溢れる自然に恵まれた宇宙でも有数の好条件が重なる宝石―――だったはず。
     それが一点、禍々しい光を放ちながら黒色へ変化しているのだ。
    「面白そうなことが起きてるじゃあねぇか」
     ターレスはスカウターを放り投げた。こんな機械で測れる次元を遥かに超えた化け物が、そこにいるのは明らかなのだ。
    「里帰りはやめておくか? お嬢ちゃん」
     まあ、もしここでやめたらきっとこの星はもう二度と元の姿には戻らないだろうけれど。ターレスは分かる。一度地球を滅ぼそうとした侵略者なのだ。あの黒点がどういった意図で地球を侵食していってるのか。
    「降りよう。どうせ惜しむような命じゃないだろ」
     言うや否や、悟飯は脱出ポッドからスルリと抜け出し、流星より早く地球へ降下していく。
    「気が早いねぇ」
     ターレスも抜け出した。クルーは無理してこなくていいと悟飯が伝えている。けれど、大半は悟飯に命を助けてもらった乗組員だ。定員を遥かに超えたポッドがいくつも地球に向けて降り注いでいく中、ターレスは先陣を切って大気圏を抜けた。二度目に訪れた地球は、お世辞にも美しいとは言えなかった。

     地面は割れ、空は圧縮された雲から雷が降り注ぐ。
     その中心にいるのは悟飯が見たこともない生き物だった。生き物、あれをそう定義していいのかは分からない。
     身の丈は小ぶりの山ほどあって放射状のエネルギーを雨のように降らせる。着弾したらかなりの痛手だろう。もしかしたら、最悪一発で死ぬかもしれない。
    「その気……悟飯か!?」
     その中心で戦う異星人に悟飯は思わず目を見開いた。
    「ぴ……ころ、さん」
     悟飯も待ちあげるはずがない。大きさも色合いも多少異なるが、気を感じれば分かる。しかし再開を喜んでいる場合ではない。暴れる生命体は新たな敵と認識したのか、悟飯に向かって拳を振りあげる。
     図体に対して早い攻撃、悟飯は両手で防ぐも後方の崖まで簡単に吹き飛ばされる。
     そしてもう一度降り注がれるエネルギーの塊。熱に溶ける地面、変動する地層。水が蒸発し、草木は枯れていく。そして、着弾するピッコロの命もまた、散る。散ってしまう。
    「あぁああああ……!」
     心臓が潰されるような、肺から四肢に巡る酸素一つ一つすべてが『怒り』に包まれていた。
     瞬間、悟飯の意識がブツリと切れる。



     ターレスは地球に降り立ち、すべてを傍観していた。
     自分が手を出す義理もないしそもそも太刀打ちできる相手ではない。
     悟飯でもそうだ。所詮は下級戦士の息子、遺伝子の変動があったせいで多少力は上でも、あんな化け物の相手はできまい。地球に降りようと言ったのは自分だが、なにもこれが最最期にならないでも。
     僅かな後悔があった。ターレスにとって他人は欺き、蹴落とし、利益のためにいくら犠牲にしてもかまわないもので、それは生まれた時からそうだった。けれど、孫悟飯という子供を拾い、彼が成長するたびにターレスの倫理は少しずつヒビが入ったのだ。
     愛しい子供、アレをもう少し見ていたかった。勿体ない、こんなところで終わりなんて。
     降り注ぐ熱線がターレスにも、降りてくるクルーのポッドにも直撃する、その時。

     ターレスは、神をみた

     白銀の髪、ガーネットの瞳。
     粉塵の中、静かに立つその神は音もなく右手を差し出した。
     そこから、満ち満ちていく生命、命、この世の理を捻じ曲げる狼藉。
     弱い、強い、すべてが関係なく収束される裁きの光。
     名前なんてない、技量なんてない、研鑽を磨き到達した英知の集大成でもない、ただそこにあるのは圧倒的な『力』のみ。
     ターレスは理解した。あの子供は、神様がくれたギフトなんかじゃない、神そのものが生まれた姿だったのだ。
     弱い自分、下級戦士に生まれた自分、修行しても伸びない実力、神聖樹に頼っても到達できない力の壁。そんなもの、そんなゴミのような劣等感なんて一切粉微塵にするような神聖なまでの暴力。
     音さえも切り裂くのか、キンとするほど冴える光の中、ターレスは生まれて以来初めて、瞳から透明な雫を落としたのだった。
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