刀さにお題80分派生ネタ「うさぎ」審神者視点ver. ──よくあるバグに、獣耳が生えるとか、身体が大きくなったり小さくなったりとかがあるのは知っていた。
でもさぁ……でもさぁ……!
まさかうさぎになるとは思わないじゃん……!?
納屋に仕舞っていた備品の在庫チェックしに来て、なんか一瞬ちょっと目眩がしたなと思ったらこれだ。
偶然あった鏡に映ったもふもふなうさぎを見た瞬間、叫んだはずなのに「ぷー!」という可愛らしい鳴き声しか出なくてがっくりとうなだれていた。
……さぁ困った。納屋の扉は閉めちゃったから自力じゃ出られない。このままだと「主がいない」って本丸が騒ぎになってしまう。なんとかしてこの状況を誰かに伝えなきゃ。
えっと、携帯……は、執務室に置いてきたわ。はい詰んだ。
携帯で助けは呼べない。しゃべれない。自力で外にも出られない。どう考えても詰んでるこの状況に再度がっくりうなだれた。……私が一体何したって言うんだ……。
とりあえず助けを待とうと、納屋の隅で丸くなってみた。思ったより寒くないのが助かる。そういえば、うさぎは冬の寒さに強いって言ってたっけ。
このままじゃなーんにも出来ないな、どうしようかな……と考えを巡らせていると、カラカラ……と納屋の扉が開く。
「う~ッ、寒い寒い!」
入ってきたのは浦島。庭の掃き掃除をしてくれていたようで、箒を片付けに来たらしい。
浦島の視界に入るよう移動し、いつもはちょっと見下ろすはずの浦島の顔をじーっと見上げてみる。頼む、気づいてくれ……!
ぱち、と目が合った。翡翠色の瞳がじっと私を捉える。
「あれ? どこから迷い込んだんだろう……」
やった、気づいた! よかった……よかったぁ……!
自力じゃどうにもならなくて不安でどうしようもなかったから、ここで浦島が来てくれたのはめちゃくちゃ助かる。
ひょいと抱きかかえられると、海風のような爽やかな香りと、蜂須賀から移ったお香の香りが、いつもより強く香ってくる。……そうだ、うさぎってすっごい鼻が利くんだっけ……!
ヤバい、めっちゃいい匂いする。うさぎすごい! ……いやうさぎすごい、じゃなくて!
いけないと思いつつも鼻は勝手にひくひく。いやだってめっちゃいい匂いするし……。
可愛いと呟いた浦島に頭を撫でられた。いつもは刀を振るう、ちょっとゴツゴツした手。その手で頭撫でられるの気持ちいい……。
「うーん、どうしようかなぁ……ここじゃ寒いよな。主さんに言って、ここで飼えないかな?」
飼うも何も、私がその主さんですけど! って主張したいのに、悲しいかな言葉が話せない。
寒くないようにここに入って、と浦島が懐に私を入れてくれる。中に着てたのがいつもの薄手の内番着だったせいで、ふ、腹筋が……!
狭い空間で浦島のいい匂いがするわ、腹筋が目の前にあるわで頭がくらくらしてきた。やだな私、なんかヘンタイっぽいじゃん!
しかもうさぎは夜目が効く。つまり、暗くても、ふ、腹筋がしっかりハッキリ……ひえぇ……。
とにもかくにも、浦島という救世主のおかげで納屋からの脱出には成功。うーんこの状況、1秒でも早く元に戻りたいような、戻りたくないような……。
◆◇◆
「桑名さんのにんじん、すっごく美味しいのになー……」
うーん、ごめんね浦島。桑名のにんじんが美味しいのは知ってるんだけど、一応私、今はうさぎだけどホントは人間だし……生のにんじんは、今はちょっといいかな……。
食べないならしょうがないか、と笑う浦島。もう一度私を抱えて懐に入れると、どこにもいない私の姿を探して本丸の中を歩き回り始めたようだ。
「主さーん、ちょっと相談したいことがあるんだけど……」
ごめんね浦島! あなたの主さん、今あなたの懐にいるの!
おかしいなぁ、どこにいるんだろうなー、とうさぎの私に話しかけながら、浦島はぐるぐると本丸の中を歩き回り、どこにもいない私を探し続ける。
私を探し回りうろうろする時間は、なんだか小旅行のようだった。行く先々で「そのうさぎどうしたの?」と話しかけられ、頭を撫でられた。