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    みつしば

    @shibamitui
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    みつしば

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    天上天下三井独尊8開催おめでとうございます。
    祭りなので過去作の洋三SSここにも転載します。ここだと読みづらかったら、ピクシブかサイトでも読めます~。
    あらすじ:体育祭を頑張っている三井と水戸の話。まだ付き合ってません。軍団がうるさいです。

    新作はまだ書いている途中なのでそのうちUPします~

    #天上天下三井独尊8
    #洋三
    theOcean
    ##すらだん洋三小説

    尊敬する人 おみくじを引く時のように粛々と封筒から取り出したB5サイズのカードを確認した三井は、凍りついたようにその場に立ち尽くした。
     カードは綺麗にパウチされ、ご丁寧にも紐が付いていて、首からかけられるようになっている。首にかけた時に表側になる面には、ただ一言『尊敬する人』と書いてあった。
    (なんだよ、それ!?)
    「どうしたミッチー! 止まってる暇なんてねえぞぉ!」
     飛んできた野次に、電池が切れたかのように動けなくなっていた三井は下を向いていた顔を上げる。
     確かに止まっている場合ではなかった。ただ、どこに向かって動き出せばいいのかが分からないのだった。
    「なんて書いてあんだよ、こっち向けて見せてくれミッチー」
    「オイ、もしやミッチーもうバテたんじゃねーか?」
    「マジか、まだ十メートルも走ってねえぞ?」
    「やはり体力が……」
    「いや待て、まさか漢字が読めな──」
    「うるせーよおまえら!! いま考えてんだよ!」
     他の出場者はとうに目当てのモノを探しに動き出していて、封筒が置いてあった事務机の前で立ち尽くしているのは三井ただ一人になっていた。こうしてただ突っ立っていても始まらないのは解かっている。行く当てもないままカードを首から下げて、三井は野次の飛びかう生徒席に顔を向けた。


     三井にとって高校最後となる体育祭は、雲一つない晴天の中で進行していた。
     クラスのくじ引きで負け、三井はやりたくもない借り物競走にエントリーする羽目になった。正確には、借り物競走neoというのが正式名称だ。カードに書かれたモノをただ探してゴールまで持っていけばいいというわけではなく、借り物を保持しながらハードルを飛んだり平均台の上を通過してゴールしなければならない。要するに殆どただの障害物競争なので、大きくて重い借り物を持って走るのはとてつもなく不利である。なるべくコンパクトで、誰かが必ず持っているような探し易いモノ──たとえばメガネだとかタオルだとか──が当たるようにと願っていたのだが、祈るような気持ちで選んだ封筒の中身は、『尊敬する人』と記された明らかなハズレカードであった。
    「くっそ〜、こんなのモノって云えんのか!?」
     思わず口汚く叫んでしまうが、叫んでみても策はなく、難しいお題を引いてしまった自分を恨むしかない。しかし三井にとってもっとも不幸なことは、ハズレを引いたことよりも、借り物カードを引く机がちょうど一年生席の真横に設置されていることだった。桜木を中心とした桜木軍団と呼ばれる幾人かの仲間たちが固まって見物していて、試合の見学の時とは違って羽目を外した奴らは、遠慮なく盛大に野次を飛ばしてくる。
    「さすがミッチーだわ、なんかすっげえおもしれーの引いてるぜ」
     首にかけたカードを見て、大楠が指を差しながら大声で云う。周辺に座っている一年生も三井を見てクスクスと笑っている。
    「うるせえ指差すな大楠!」
     変な注目を浴びて、三井は顔を赤くして怒鳴った。だが、桜木軍団にそんな威嚇が通用するわけがない。
    「尊敬する人ぉ? ラクショーじゃねえかミッチー」
    「なにを悩んでいるのだ、ミッチー」
    「先生たちの席ならあっちだゼ」
    「一位いけるぜミッチー!」
     彼らが思ったように、三井だってカードを見てすぐにある人物の仏のような姿形が頭に浮かんだ。尊敬する人物は、教員席に行けば借りてくることが出来るだろう。三井がこの世で一番尊敬している顧問の安西が、そこに居るからだ。
     しかし、それは出来ない。何故ならば──。
    「バカヤロウ、安西先生を走らせられるか! 先生はダメだ」
     この夏、安西は心臓発作を起こして入院した。退院したからといって完治したわけではなく、こんな競技に引っ張り出すわけにはいかない。
    「おお、そりゃそーだ! ワリィ、ミッチー」
    「そもそもあの体型で平均台やらハードルもきっついよな! 絶対」
    「ミッチー、どーすんだ? 早く尊敬する人とやらを探さねえと、だいぶ出遅れてんぞ!」
    「わかってら! しょうがねえだろ、他に誰も思いつかねえんだよ!」
     他の選手があちこちに散らばって借り物をしている様子はチラチラと視界に入っている。早い者はすでに次の障害物へ向かっているようだ。
    三井にとって尊敬する人物は安西しか思い浮かばない。だから悩んでいるのである。担任や他の教員は問題外だ。
    「安西先生一筋かよミッチー! しょうがねえ、俺の出番が来たようだ」
    「その手の中のじゃがりこ置いて痩せてから云え、つかおまえを尊敬してねえ!」
     菓子を片手に腰を浮かせかけた高宮を一蹴していると、その高宮の後ろからひょっこりともう一人の桜木軍団が顔を見せた。
    「なに騒いでんだ高宮」
    「あ」
     三井は思わず短く叫んでいた。生徒席で野次る面子が一人足りないことには、最初から気づいていたのだ。その足りなかった男が、三井を見て笑う。
    「あれ、三井さんなにしてんの。その札もしかして借り物きょ──」
    「いたわ! おまえだ!」
    「え?」
     理屈は抜きで、身体が動いた。三井は一年生席に突進するように駆け寄っていた。
    「いねえと分かんねえだろ! てめーどこ行ってやがった」
    「へ? どこってちょっと買い出し」
     水戸は手に持った白い買い物袋を軽く持ち上げるようにして見せてくる。近所のスーパーの名前が入っていた。
    「水戸ぉ、それ置いて今すぐ俺と来い」
     封筒の中のお題を見た時は水戸と結びつけて考えたりはしなかったし、桜木軍団の中に水戸の姿が見えなくてなんとなく物足りないとは感じたが、ただそれだけだった。それなのに、顔を見た瞬間に三井は直感的に確信していた。安西を別として、今この場にいる人間の中で自分が一番尊敬している人間はこいつしかいないと。
     自分の方に来い、と手でゼスチャーするも、状況が読めているのかいないのか、水戸は持っていた袋を仲間に渡して、空いている椅子に座ってしまった。
    「って、落ち着くな! 来いつってんだろ」
    「おおいミッチー、正気か! 洋平でいいのか?」
    「洋平より俺のほーがおススメだよ!」
    「もうそんなこと云ってる時間ないぞお!」
    「洋平、ミッチーが困っているのだ。ちょっと行って来てやってくれ」
     桜木が振り返って水戸を説得する。これは心強い力添えだった。三井は桜木に追従してぶんぶんと首を縦に振った。桜木と三井を交互に見た水戸は困惑の表情を見せた。
    「……切羽詰まってる状況は、なんとなくその札で解ったような気がするけど……いや、まさかね、もっと他に誰か、いるよね?」
     頭の回転はおそらく良いのだろうから、徐々に水戸は、自分が『尊敬する人』として求められているこの状況を正しく理解していったに違いなかった。その上で怯んだ様子を見せているのは、三井としては不味い展開だ。
     このままでは埒が明かないので、三井は並んだ椅子の間を強引にすり抜けて水戸の前に立った。
    「俺がおまえだつってんだからおまえなんだよ!」
     ただ必死で云い放った三井の一言に、水戸が目を見開いた。
     せめて頭でも下げればまだ可愛げがあるのかもしれないが、生憎とそんな殊勝さとは無縁で生きてきたので、こんな方法でしか頼めない。
     呆れたのか、俯いた水戸が額に手を当てて「あーもう」と抑揚のない声を洩らすのを見下ろしながら、立場が真逆であったならきっと俺も同じような声を出すかもな、と三井は思った。だが、同情している時間はない。
     自他共に認める諦めない男だ。凝視する圧が強すぎたか、周りを取り囲む桜木軍団の後押しもあったおかげか、渋々といった風情で水戸が立ち上がると、周囲から声援が飛んだ。
     トラック内に引っ張り出した水戸はまだ戸惑いを見せていたが、並んで走り出すと三井に尋ねてきた。
    「今まで知らなかったんだけど、三井さんて俺のこと尊敬してたの?」
    「俺も知らなかったけど、顔見たらおめーだと思ったんだよ。一番は安西先生に決まってんだ。おめーは二番だからな」
    「……へえ、それってすごい光栄だね」
    「……世界のバスケット選手も入れたらおまえは二十番目くらいな」
    「あ、なるほどね。けど、それでも悪くないね」
     悪くない、と云う水戸の顔色を窺うと、彼はついぞ見たことのない表情をしていた。笑ってはいないが、怒ってもいない。正確に云えば、緩む表情を気にして意識して力を入れているように見え、まさか照れているのか、と三井は内心狼狽した。お題をクリアすることで頭がいっぱいだったとはいえ、後先を考えない行動に出てしまった自分の軽率さが浮き彫りになったような気がする。
     だが、人間的に彼を尊敬しているのは本当だし、どうであれ、今は前に向かって走るしかないのだった。
    「とにかく、前の奴に追いつくぞ」
    「あー、俺ね、実は走るの苦手」
    「いきなり弱音かよ。いいから全力出せ」
     前方の様子を確認すると、大きなスコップを抱えてふらふらと平均台を攻略する生徒の姿が見え、その次の網くぐりに数人の生徒が引っかかっていた。更に前にも何人かいるようだが、まだゴールした生徒はいない。ビー玉を箸で運ぶという障害が一番の難所らしく、それより先には誰も進んでいない。
    「三井さん。やっぱ、どうせなら一位目指そっか」
    「たった今、苦手つったろうが」
    「けっこうみんな障害で止まってるみたいだし、いけるかもよ」
    「狙う気か?」
    「こんな機会はもう二度とないだろうしね」
     水戸と一緒に走ることなんて、確かにもうないのかもしれない。三年生にとって最後の体育祭で、尊敬する男と一位を獲れたら気分が良いだろう。
     三井が速度を上げると、水戸もついてくる。抱えなくても自ら走ってくれる借り物は思いのほか便利で、スムーズに平均台を超え、網くぐりではスコップを引っかけている生徒を悠々と抜いた。その瞬間に大袈裟なまでの鳴り物とひときわ大きい歓声が上がったのは、桜木軍団が元凶だろう。野次なのか応援なのか、もはやよく判らない声も聞こえる。なんだか笑えてきて、前を向いて走りながら二人して笑った。
    「ちなみにだけどさ、俺にとっても三井さんは尊敬する人だよ」
     三井は驚いて、水戸の横顔を窺った。自分にだけ向けられたよく通る声が、生徒席からの声援をかき消した。腹の奥がくすぐったいような、心が浮き立つ感じがして三井は返事が出来なかった。息が切れたわけではないのに呼吸が乱れ、自分の鼓動がさっきよりも速くなったように感じた。
     返事をしない三井の様子をどうとったのか、更に畳みかけるように、水戸の口から爆弾のような発言が飛び出した。
    「もっと云うと、別の感情も持ってる」
    「……は?」
     含みのある台詞だったので、反射的に聞き返す。どこか甘い響きを孕んでいるような。いや、甘いってなんだ?
     軽く混乱した三井は、平衡感覚を失いかけながら、横顔だけをこちらに見せる水戸を質すように見つめた。
    (別の感情って……なに?)
     そんな簡単な問いかけを躊躇って押し黙ってしまった三井の前方に、難関のビー玉運びが迫っていた。


    「水戸ぉ、おまえ一位狙うって確か云ってたよな」
     ゴール後に係から貰ったタオルを乱暴に首にかけて、三井は恨みがましい声を出した。云ってからすぐに二回ほどくしゃみを繰り返し、涙目になってタオルで口元を拭う。これは汗を拭くためのタオルではない。
    「三井さんこそ……運動部のわりに、だよね」
     生徒席へと並んで戻る道すがら、三井の軽い嫌味に水戸が応戦してくる。
    「大体さ、俺は帰宅部だからね。帰宅部なんてみんなこんなもんだよ」
     自分だけを棚に上げようと帰宅部を強調する水戸に三井は反論する。
    「運動部とビー玉運びは関係ねえんだよ。あんなつるつるしたの掴んだまま速く走れるか」
    「俺だってあんなのやったことないし」
    「口だけだったな」
    「そっちこそ、ちょっとカッコつかないよね」
    「あ? 大体、誰のせいだよ」
    「誰だっけ?」
    「おめーだよ」
     むくれた表情を隠さず三井はタオルを振って白い粉をふるい落とした。気を抜くとむせそうになるので、慎重に息を吸って吐く。
     競技は散々だった。ビー玉運びは何度やっても走るとすぐにビー玉が落下した。反則だが、借り物である水戸にもやらせてみた。だが水戸も何度もビー玉を落とした。三井も水戸も箸使いが下手なわけではないのだ。技術よりも精神面の安定を欠いていたことが主な失敗の原因だ、と三井は改めて思う。『別の感情』という言葉が頭から離れなくなって著しく情緒が乱れた三井はおろか、云った本人の水戸までもが明らかに精彩を欠いていた。彼が意味深なことを云わなければ、ここまでひどい結果にはならなかったはずだ。そういう意味で、責任はやはり水戸に有ると三井は声を大にして云いたい。
     途中でスコップ男にまで抜き返された時は、焦燥に駆られるままに三井も水戸も声を合わせて思わず叫んでいた。威嚇のための奇声を発して相手の足を止めさせようともしたが、上手くはいかなかったし、その分の時間をロスした上に生徒席の笑いだけは取れたことが虚しい。
     最後のほうに、第二の難所があった。食用粉の中に埋もれている飴玉を手を使わずに探し出さなければならないという、太古の昔から存在する障害だ。三井は顔を白粉だらけにしながら頑張ったが結局巻き返すことは出来ず、結果的に三井は八人中八位という不名誉な順位を受け入れる羽目になった。つまるところ、ビリだ。
    「元はと云えば、三井さんが俺を欲しがったのが悪いよ」
    「欲し──人聞きワリィんだよ。借りてったと云え」
     三井はタオルで顔全体を覆い、決まりの悪さを誤魔化した。水戸を指名した時は切羽詰まっていたし、顔を見た瞬間こいつしかいないと思ったのは事実だが、今にして思えば、みんなの前であんなにきっぱりと指名したことが気恥かしい。『別の感情』の効果が今になってもまだじわじわと波及しながら作用しているのだ。一度意識してしまったら、もう元に戻れない。
     三井は再びタオルで顔全体を拭い直してから、意を決して水戸の前髪を見下ろした。
    「……なあ、さっき云ってた『別の感情』ってやつだけどよ」
    「ああ、あれ」
     水戸が顔を上げる。
     まるでなにかの覚悟を決めたような、いつになく真面目な表情に見えるのは、気のせいだろうか。
     いま訊くしかない、と三井は思った。答えを知りたい、と強く思ったのだ。
    「あれってよ、つまりどういう意──」
    「洋平〜! おつかれ!」
    「よ、尊敬する人」 
    「いやーすごかった、感動したよ 特にあの、最後の飴探すやつな」
     突如、沢山の祝福の声が湧く。そして、三井と水戸を囲むようにはらはらと紙吹雪が降ってきた。周りの状況を考えられず、桜木軍団がすぐそばまで迎えに来ていることに気付かなかった。これでは、答えを聞けるような状況ではない。
    「おまえら……仕込んできてんじゃねえよ!」
     ビリだったことを考えると、紙吹雪はただの嫌味である。
    「やっぱさあ、その前の、二人がかりでビー玉を何度も落とすとこが最高だったよな! サイレントコメディみたいでさあ」
     人の話をまったく意に介さない連中が、嫌味を連発する。
    「俺は飴の後のハードルを倒しまくりながら顔真っ白なミッチーが走ってくんトコで腹筋が死んだわ」
    「必死の形相だったな」
    「だああああ! うるせえなっ! おまえらもやってみろっつうの!」
    「いやあ、俺らがやっても面白くないって。ミッチーだから面白いんだって」
    「俺、一緒に走ってるほうだからハードルの三井さん見れなくて悔しい。誰かビデオ撮ってねーかな」
    「撮ってる奴はコロスし、見てもコロスぞ、水戸」
    「はは、まだ死にたくねーな」
     喚く三井とは対照的に水戸は落ち着いた様子で、捲っていた体操着の裾を伸ばしている。
    「洋平、ビー玉下手だったな!」
     遅れてやってきた桜木が、三井と水戸にペットボトルを手渡してきた。大して疲れてはいないが、喉は乾いていたので軽く礼を云ってありがたく受け取ることにする。
    「あんなこと人生最初で最後かなあ、いい経験になったわ。ありがとね、三井さん」
     マイナーな名前の清涼飲料水を飲みながら礼を云う水戸は油断しているように見えた。まだ話は終わっていないと、三井は水戸の腕を掴む。細いけれど硬くて、少し引いただけではビクともしない、そんな腕だった。足は大して速くはなかったが、年下であることを感じさせず、男性的な逞しさを意識させる頑丈な腕であることに不意を突かれて、三井の胸は震えた。
    「え、三井さん?」
    「汚れたろ。洗いに行くぞ」
     邪魔が入ったが、三井は答えを聞かなくては気が済まなかった。大恥をかいた後では、もうなにが来ても怖くない。だが、ここでは到底無理だ。もう一度、二人きりになる必要がある。
    「そーだなあ、なんかあちこち砂っぽいよね。網くぐったせいかな」
     三井の意図を知ってか知らずか、何食わぬ顔をして素直に水戸がついてくるので、自然にこの場を離れるのは簡単だった。
    「三井さん、洗い場あっちだよ」
    「もっと人がいねえとこ行くぞ」
    「──えーっと、今日はなんかすごい日だな」
    「おまえもそう思うか? 俺もそう思うぜ」
     体育祭でビリを獲ったのなんて初めてだったし、水戸と二人で走ったことだって『すごい』ことの内に入るだろう。心臓がさっきから秘かに早鐘を打っているのは水戸の腕を掴んでいるせいだし、彼の口から『別の感情』とやらについての詳細を説明させるまでは、きっとこの胸の高鳴りを止めることは出来ないと三井は確信していた。


     三井と水戸が校庭に戻ったのは二十分ほど後のことで、自分のクラスの場所へ真っ直ぐに帰る三井を見送って水戸も自分の席へ戻った。
    「ミッチーは戻ったのか」
     桜木花道が、退屈そうにしていた。他の連中はどこかへ遊びに行ってしまったのだろう。
    「ああ。用あったか?」
    「用はないが……洋平、口んトコになんかついてるぞ」
    「え?」
    「白いぞ。粉みてーだ。飴探しやってないのによ。やってたのはミッチーだろ? さっきはついてなかったような──」
    「いや──ええと……これはさっきそこで余った飴を係に貰ったんだよ。もう噛んじまった。それより、晴子ちゃんがあっちにいたぞ、重いもん持ってなんかの係やってる」
    「なにィ!? 今すぐこの天才がお手伝いしますよハルコさん!!」
     椅子を鳴らして桜木が立ち上がった隙に、迂闊にも唇に付いたままだった白い粉を水戸は手で拭うと、桜木以外の目に止まらなかったことに安堵の息を吐いた。


    おわり
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