おてんばな弟子が神様だった師匠に甘やかされる話 北の国の朝はゆっくりと始まる。厚ぼったい曇天の空がだんだんと明るさを増して、森に僅かな光が差し込む。樹々の枝に夜の間に積もった雪が溶け落ちていく音で目が覚めた。随分と長いこと寝ついてしまった気がしていた。身体を起こすとぎしぎしと油の足りない歯車になったように悲鳴を上げたけれど、いつまでも寝てばかりいられないと持ち前の根性でなんとかベッドを降り、部屋を出た。
廊下はしんと静まりきっていて、まるで音のない雪の中を歩くようだ。北の国の寒さは容易に命を奪いにくる。身に覚えがありすぎる底冷えに魔法を使いたかったが、試しにぱちんと指を鳴らしてみたものの殆ど精霊の反応はなく、ただため息をついただけだった。仕方がない。
6166