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    葉月ひな

    @alice_in_t

    ハッピースカラビア!
    ジャミカリかきます

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    葉月ひな

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    ワンドロ「赤い糸」の続き。
    両片想いなジャミカリ。すれ違ってる。最後はハピスカ。
    もう1ブロック続きます。

     「運命の赤い糸ってあると思うか?」

     寝る前のハーブティーを飲み干したカップをかちゃりとソーサーに置き、カリムは独り言のようにぽつりと呟いた。

     「……なんだ、急に」
     
     怪訝そうに眉をひそめジャミルはカリムに問う。
     運命の赤い糸――やがて結ばれる運命の相手とは目には見えず、決して切れない赤い糸で結ばれていると言う。そんな迷信があることはジャミルももちろん知っていた。
     (迷信だ、そんなもの。)
     ジャミルとジャミルが密かな想いを抱いているカリム――従者と主人、それも男同士の自分たちの間には存在し得ないその糸が、カリムと誰かの間に結ばれているなんて絶対に認めたくない。もしそんなものがあるならば、どんな手段を使ったってその糸を引きちぎってやりたい。ジャミルの物にならないカリムなんてずっとひとりぼっちでいればいいんだ。
     そんな秘めたジャミルの思いなど知る術もないカリムは、ジャミルの歪めた表情を見ることもなく言葉を紡ぐ。
     「今日クラスの奴らが話してたんだ。運命の人が誰なのか知りたい、そんな思いを叶えてくれる魔法薬があるって。それで……オレも、知りたいなって」
     「俺はそんなもの信じていないし、仮にあったとしても運命なんてものに従う気はないね」
     ジャミルはカリムの言葉を遮るように吐き捨てる。
     そうさ、そんな誰かわからない奴に決められた運命なんて、自分の力で変えてやる。
     カリムはジャミルの勢いに続けようとした言葉を飲み込む。
     (そうだよな……。ジャミルは決められた運命なんか嫌だよな。自由になりたいって言ってたじゃないか……。)
     カリムは己の左手の小指をじっと見つめる。――本来見えるはずのない赤い糸が、カリムには見えている。 
     ――切らなければ。切れないと言われるこの糸を。どんな手を使っても、カリムがどれほど大事にしたいと思っていても。大好きなジャミルが幸せになるためにはこの糸があってはいけない。

     決して解けないように小指に絡みついた赤い糸のその先は、ジャミルの小指へと繋がっている。



    *



     運命の赤い糸が見えるようになる魔法薬。
     そんな夢のような魔法薬を手に入れたと意気揚々に語るクラスメイトの声に耳を傾ける。曰くモストロラウンジに足繁く通い、アズールに用意してもらったらしい。
     「一滴目に垂らせば3日間、赤い糸が見えるようになるんだ。自分のだけだけどな。それで、自分の赤い糸の先を辿っていけば運命の人がわかるんだ!」
     手のひらにある小さな小瓶が目に入る。入手先がアズールならば、きっと確かな効能なのだろう。
     「でさ、早速試したら――むふふ、1日で相手わかっちゃったぜ!」
     いいなー、とか誰だよ教えろよ、とかまさかこの学校の奴か!?とか、皆大いに盛り上がっている。この学園に来るまで知らなかったことだが、この年代の男女は恋の話が大好きみたいだ。
     「それでさ、予想以上に余ったからお裾分けしてやろうと思ってさ。もちろんタダで、ってわけには行かないけどな。――あ、アジーム!」
     ニヤリと悪い顔で笑うクラスメイトが、カリムに声をかけてきた。
     「お、なんだ?」
     「いやーアジームにはさ、モストロラウンジで奢ってもらっただろ?それで貯まったポイントも含まれてるからお前にはタダでやるよ!」
     「そんなことしたっけ?憶えてないな!なっはっは!」
     「金に余裕のあるやつは違うね〜ほら、補習の手伝いしたお礼にって奢ってもらったんだよ。――興味ないか?お前の運命の相手が誰なのか」
     「うーん……興味は、あるけど……。体に入れるものはジャミルに相談しないと……。」
     口に入れるものではないが、点眼したり皮膚に触れるもの、空気とともに体内に入るもの、全てに注意するようジャミルとも約束している。
     「俺も使ったし、ここにいる他の奴らが使うとこ見たら大丈夫だろ?」
     うーん、そうかも?ジャミルとの約束は気になったが、使ってみたい好奇心が勝ってしまう。――カリムには密かに恋している相手がいた。その相手には嫌われてしまっているけれど、もしかして運命の人だったら。長い年月はかかるかもしれないけど、いつかは結ばれる運命の相手かもしれない。その祈りにも似た願いを胸に、カリムは魔法薬に頼ることにした。



    *



     魔法薬を挿したカリムはゆっくりと目を開けパチパチと瞬きをする。普通の目薬と変わったところはない。
     段々と鮮明になってきた視界に己の左手を映すと――小指に赤い糸が巻き付いていた。
     「あっ!本当に赤い糸が見える!!」
     「だろー!ほら、早速辿ってみろよ!」
     周りにいた皆もまた嬉々として自分の運命の相手に思いを馳せているようだ。
     カリムも不安と期待を胸に赤い糸が伸びる先を目指す。
     (――大丈夫。きっと繋がってる……!だって、オレとお前はずっと一緒に、)
     自然と駆け足になり、糸の行方を追う。早く、早く彼に会いたい。
     「カリム!!!」
     会いたかったジャミルの声が廊下に響く。
     「廊下を走るんじゃないといつも言っているだろ!!まったく……いつになったら落ち着いた行動を取れるんだか……。」
     「なはは、次は気をつけるぜ!」
     走ったからか緊張しているからか、渇く口でおざなりに返事をしながら赤い糸を追う。


    ――あっ!!!


     カリムの指から繋がる糸は、ジャミルの指へと結ばれていた。



    *



     生涯離れることなく結ばれるという赤い糸が大好きなジャミルと繋がっているとわかって嬉しかった。幸せだった。今は嫌われてしまっているけれど、もし運命の人がジャミルなんだとしたら。何年何十年かかるとしても、例え心が交わるのが死の直前だとしても、カリムはその希望だけで頑張れると思った。
    (オレと繋がっていたらジャミルは自由になれない。幸せになれない。ジャミルを不幸にするくらいなら――こんな糸いらない)
     魔法がなければ見えない上に触れもしないこの糸を切る方法はあるのだろうか。物は試しと指に絡む糸に触れようとするが……やはり叶うことはなく触れたのは己の指の感触だけだった。



     魔法薬をくれたクラスメイトはアズールに融通してもらったと言っていた。それならばアズールならこの糸を切る方法もきっと知っているだろう。ジャミルからはアズールと喋るなと口を酸っぱくして言われているが、ジャミルの幸せのためなんだから仕方ないよな。

     翌日各々部活へ向かうために別れてから、カリムはジャミルに見つからないように教室棟へ引き返す。アズールには事情を掻い摘んでメッセージを送っておいた。準備はバッチリだ。
     「カリムさん、ジャミルさんには見つかりませんでしたか?」
     「大丈夫だ!ジャミルは部活に行ったし、オレも軽音部に行ったことになってるからな」
     ジャミルとの約束を破っているのは正直後ろめたくて胸の内側がゾワゾワする。バレたらきっと、もっと嫌われてしまう。それでもカリムはジャミルの未来を邪魔したくなかった。
     「……このハサミを使えば、赤い糸が切れるんだな」
     「ええ。視えている時に、自分の糸のみ、という条件付きですけどね。」
     曰く、昨日分けてもらった目薬で赤い糸が視えている間に自分の糸のみ干渉できるハサミらしい。そもそも自分の糸しか見えないし、他人の運命までそうやすやすと捻じ曲げるような代物があるのはよくない。
     「いいですか。これは気軽に切っていいものではないんですよ。一度切ってしまった赤い糸が他の人と再び繋がる確率は低く、運命の相手を持つことなく一生を終えることが多いそうです。」
     どうしても嫌な人との繋がりを断ち切るためのもの――そうアズールは言った。
     「うん。それで、切られた相手は一年以内に新たな運命の相手と結ばれる。そうだったよな?」
     「そう言われていますけどね。実際にはわかりませんよ。切った人間からは相手の糸は見えないんですから」
     ジャミルは運命に従いたくないと言っていた。優秀なジャミルだから、伝承通りにいかなくてもきっと自力で運命の人と結ばれるだろう。少なくとも大嫌いで自由を奪う存在のカリムと結ばれているよりはずっといい。
     「まあ一晩じっくり考えてください。点眼薬の効能は明日まで。報酬は使った時で結構ですから」
     「ありがとな、アズール。恩に着るぜ」
     納得のいかない表情のアズールだったが、目的のものを手にしたカリムには迷いなどなかった。




     (ふざけるな!そんな馬鹿な話があってたまるか!!!)
     ジャミルは足早に鏡舎へと向かう。部活を終えカリムを迎えに行くために着替えているとスマホにメッセージが届いているのに気付く。一つはカリムから――先に寮に帰るという連絡と、もう一つはアズールから(連絡先を交換した覚えはないが)――カリムが赤い糸が見える点眼薬を使用していること、そして赤い糸を切ろうとしていること、その相手はジャミルであること、そういった情報が記されていた。
    『僕は慈悲深いですから、親友のジャミルさんやお得意様のカリムさんに悲しい思いをしてほしくないんです。カリムさんは貴方の言葉を何よりも尊重しています。大切な友人たちが表面上の言葉に流されて不幸になるところを見たくないんです。』

     それならそんな怪しげな点眼薬なんて作るな、危険な物をカリムに渡すなと言いたいことはたくさんあったが、とりあえずカリムを止めなければ……!あいつは昔からこうと決めたら簡単には諦めないし即行動に移す。ずっと側で見てきたから――カリムの行動は手にとるようにわかる。

    (俺が嫌だったのはお前が他の誰かと結ばれていること――俺とお前が繋がった赤い糸なら、)
    「大切に決まってるだろ!!バカカリム!!!!」

     綺羅びやかなスカラビア寮の中でも一番豪奢な部屋、カリムとジャミルしか入ることの出来ないその部屋の扉をノックもせずに開ける。目論見通り目的の人物は部屋の中央に座っていて急に大きな音を立てた扉にびくりと肩を震わせた。
     「ジャ、ミル……?どうしたんだ、そんなに慌てて……」
     「カリム!おまえは本当に余計なことしかしないな!!今すぐ馬鹿な考えをやめろ!!!」
     カリムの右手には怪しげな気配を纏ったハサミが、左手は透明な何かをつまんでいた。きっと、今まさに大切な繋がりを断ち切ろうとしている。ジャミルはそう直感した。カリムに駆け寄り怪我をさせないようにハサミを奪い取る。カリムの大きな瞳が真っすぐにジャミルを見据えた。
     「ジャミル、それ返してくれ。……使い終わったから、返さなきゃ」
     (…………使?は?こいつ今何を、)
     「……切ったんだな?俺の、俺とお前の、」
     大切な。
     「本当は言いたくなかったんだけど、その様子だとアズールからなにか聞いてるよな?……大嫌いなオレにずっと縛られるなんてそんなことあっちゃいけないから、」

     「ジャミル。お前はもう自由だ。神様だってお前を縛りつけることは出来ない、オレがさせない。」
     そう言って朗らかに笑うカリムに虫酸が走った。

     「ふざけるな!誰が頼んだ?誰が願った!?」
     俺がずっと大切にしてきたお前を誰かに盗られる、そんな運命なんか糞食らえだが、お前がいつの日か俺のものになる未来なら喜んで享受するのに……!なんでお前はいつも一人で突っ走るんだ!
     「で、でもジャミル言ってたじゃないか。決められた運命なんか嫌だって」
     「お前と俺以外の誰かが結ばれる運命なんかぶっ壊してやるって言ったんだ!」
     ああ、最悪だ。最低な気分だ。ずっと欲しかったものが最初から己の手の中にあったのに気付かないうちに取り上げられてしまったなんて。
     (――それも本人の手で。ああ、くそ。俺とカリムは本当に噛み合わない。……お互い、なんで大事なことこそ隠してしまうんだ。)

     「ジャミル……?大丈夫か?」
     急に黙り込んで唇を噛み肩を震わせるジャミルにカリムはおずおずと声をかける。ジャミルにまるで仇の様にカリムは睨まれ何も言えなくなってしまう。今のジャミルはあの時のような瞳をしていて体が竦む。
     なんでだよ。オレはジャミルを幸せに、自由にしたかっただけなのに。なんでうまくいかないんだろう。
     「……俺は、お前を絶対許さない。俺はもう遠慮しない。お前の望みなんて知るもんか」
     「ジャミ」
     「どんな手を使っても必ず取り返してやるからな!」
     吐き捨てるように叫びジャミルはカリムの部屋を飛び出した。



    *



    もうちょっと続く
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