【夏五】結局は2人ならどこでもいいんだ「もう帰ろうか?」
5回目。
夏油は苦笑した。
「そんなにひどい顔してる?」
「そりゃもう。その辺の人今にも殺しそうな顔」
ぽんぽん戸惑いもなく出てくる冗談。以前は洒落にならない内容をあっさり口にする。それが許される関係だ。
大丈夫さ、と半歩前にある背中を叩く。
「ちょっと人に酔っただけだ。来たかったんだろう?初詣」
周囲には大勢の猿――もとい人間がひしめいていて、みんな同じ方向に流れている。夏油たちもその波に乗っていたのだが、あまりの人の多さに少々気持ちが悪くなって、無意識にスピードが緩んでいたらしい。
大勢の非術師たちを憎んでいたときがあった。けれどそれは、「今の」夏油には関係ない、はずなのだ。
この世界に呪霊はいないし、夏油は「呪術師」ではない。なのに、あの頃の記憶だけが鮮明で、だからときどき境界が曖昧になってこんなふうに混同する。
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