Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    pnpn_dx

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 51

    pnpn_dx

    ☆quiet follow

    ❤️‍🔥さんの家でメイドさんのバイトする🐯さんの話の続き。

    メイドイン俺ん家② 帰宅したら天使がいた。
     「おかえりロシィ。遅かったな」
     いやおれの天使はこの世でただ一人ローちゃんだけなので違う、天使はダメだ、天使はダメだけど、じゃあなんて表現すれば……? 妖精? 女神? いや女神もダメか性別的に。ああ的確な言葉が見つからねえ。語彙力、語彙力が来い!
     「……ただいま二人共。あとドフィ。とりあえずまず先に話、良いか? 良いよな? っつー訳で、おれとドフィ少し話してくるからちょっとここで待っててくれ。な?」
     有無を言わせぬ勢いで戸惑い気味な彼の了承をもぎ取り、ドフィの腕を引っ掴んでズンズン部屋を移動する。
     深呼吸深呼吸、落ち着け〜〜落ち着けおれ。うん。
     辿り着いたおれの部屋、扉が閉まるのをしっかり確認してから思いきり息を吸い込んだ。
     「どういう事だよドフィ! あれ、あんな、あの、そんな、ぁぁぁぁ男の子だぞ!? なんでメイド?! メイド服! クラァシカル!?」
     ダメだ全然落ち着けてねえわ。
     「フッフッフッ、良かっただろう? アレもお前の要望通りだぜ」
     「いやだからそれは酒の席の話で、しかもあくまでローちゃんみたいなメイドさんだったらなあっていう妄想みてえなもんで……いやあの子もローだけどッ!」
     「その様子だとお気に召したようだな」
     「話聞いてる!?」
     おれの喚き声も兄上にとってはなんのその、ニヤニヤ告げられた言葉に図星を突かれてこちらがダメージを負う羽目になる。
     ああそうなのだメイドさんだったのだ。
     今日が彼の初出勤日だからと、早めに退勤して待っている予定がイレギュラー対応で遅れに遅れ、急いで帰ってきたらクラシカルメイドの衣装を身に纏った彼──トラファルガー・ロー君がそこにいたのだ。しかもちょっと恥ずかしそうに。もうグッと来た。いや違う、今はこんな事考えてる場合じゃない違う!
     「それに制服を着て働いてもらう旨はこの間お前も同席した契約の書面にも載っていたし口頭でも読み上げたろう。制服はこちらで支給、クリーニング代もこっち持ちだってな」
     「あんなんツナギみてえな作業服だって思うだろ普通!」
     「メイド服だって立派な作業服だろう? 仕事内容としてもロシィ、お前の専属メイドとして働いてもらうと記載もあるんだ、想定されるべき範囲であり確認しなかった方が悪い。違うか?」
     「そ、れは、そうだけど……ッ」
     正直、頭も口もよく回る兄上に口論で勝てた試しなんて殆どない。結果的におれの言い分がほぼ通る形になったとしてもそれは『譲ってもらった』場合が大半を占める。それでもこれだけは、これだけは言わねばならない。
     「でも流石に、男子高校生にアレは駄目なんじゃねえか!?」
     そうあの日、ロー君も交えてそれじゃあ契約しましょうと各々席に着いて発覚したのだが、なんとロー君は高校生だったのだ。すごく大人びて見えるからてっきり大学生くらいだろうと思ったらまさかの未成年。これにはドフィも想定外だったようで「マジか」と呟いていた。未成年を働かせるには親の同意が必要で、世の中には知らぬ存ぜぬで年齢詐称させて同意無しで働かせてる店もあるらしいけれど、ドフィはそんな無駄にリスキーな事はしない主義だ。だからその日は契約内容の確認を双方行ったのち親の同意を貰って来いと家に帰していた。
     ぶっちゃけおれが親ならどこの馬の骨とも知れない怪しい男の専属メイドなんつーめちゃくちゃ怪しい仕事させられないと、許可なんて出さないんじゃないかと思っていたら、後日きちんと親御さんの同意を貰ってきた上でロー君が正式契約にやって来てびっくりした。どうやって言いくるめたのだろうか……専属メイドだぞ? というかマジでやりたいこの仕事? まあ賃金面では高校生の出来るバイトの中じゃ破格だろうけど、社会勉強になるかっつーと微妙だし身の危険とかそういうのはさ、大丈夫なの? もうちょっと警戒した方が良くない? ロー君めちゃくちゃイケメンだし、世の中には野郎が好きな変態だっているんだぞ? おにいさん心配!
     「ただでさえメイドなんつー男子高校生にやらせるには微妙な仕事なんだ、これで女装までさせてるなんて親御さんに知れたら……風俗だと思われたっておかしくなくねえか?!」
     「そこはバレなきゃ良いだけの話だろう」
     「兄上ェ!?」
     「あの格好で外に出たり本人が親に言わない限り、おれとお前の二人しか住んでねえこの家でバレる心配なんざぁ来客や宅配くらいのもんだ」
     「いやそうかもしれないけどさ……」
     「それに本人も納得尽くでああしてキッチリ着てやがるんだ、──ああ、誓っておれは脅しなんざやっちゃいないぜ? 確かに最初こそ渋っていたがおれにあれこれ聞いた上で最終的に袖を通したのはローだ。心配だって言うのならお前が直接本人に聞けよロシィ。アイツは今日からお前の専属メイド、お前の好きにすればいい」
     「う、まあそうだよな、本人に要望聞くのが一番だよな。……でも言い方ァ!」
     もう風俗じゃんそれ。専属メイドだから服装すらおれの一存次第で好きにして良いなんて、おれがいたいけな男子高校生にむりやり女装させてゲヘゲヘしてる変態になっちゃうじゃん!?
     おかしいな、主に部屋の掃除しに来てもらうだけの筈なのに……おかしいな。
     愉快で仕方ないといった表情を隠しもしないドフィをど突きながら話は一応決着したということで応接室に戻れば、勿論のようにメイドさんが三人掛けのソファに一人ちょこんと座って待っていた。
     可愛い〜〜って違ぇ! おれ、違ぇからおれぇ!
     「待たせて悪ィ! お茶のおかわりとか大丈夫か? なんなら持ってくるけど」
     「いえ、大丈夫です。まだ残ってますし、お気遣いありがとうございます」
     「そうか? 欲しくなったら遠慮なく言ってくれよ。また後で説明するけどさ、台所にある冷蔵庫の中の飲み物は今後好きに飲んで良いからな。あ、酒はダメだけどな!」
     「はい」
     おれ達が部屋に入って来たのに気付いてすぐに立ち上がったロー君とあれこれ言葉を交わしながら、改めて彼の姿をマジマジと眺める。
     これぞTHE・正統派メイドといった黒を基調としたロング丈のワンピースにフリル付きの白のロングエプロンが眩しい。頭にはヘッドドレスも着用してる徹底ぶりで、足元はチラッと見えた感じ流石にウチの来客用スリッパだったけれどそれも『おれん家のメイドさん感』があって最早エクセレントだ。
     あ〜〜可愛い。もう諦めますよ可愛いよ!
     男の女装なんて普段なら「うわあ……」と思って終わりなのに、ロー君の女装はなんでこんなに可愛いんだろう? 顔だって整ってはいるけれど可愛い系というより断然格好良い系だし、なんなら顎髭だって生えてるのにおれの脳みそは可愛いカテゴリとして認識してやがる。しかもキラキラエフェクト付きで。
     もう一つ考えられるのは身長差だけど、おれ達兄弟が大柄すぎて基本的に他人がちいこい生き物に見えるのなんていつもの事だし、ロー君とだって目測で一メートル位は離れてるけどそれも大した事じゃない。なんならおれの腹辺りに頭があるロー君は日常生活で出会う人達より身長高いくらいだ。
     だからもう俺の脳みそも心臓もこうしてバグっちまったのは、単純にロー君がめちゃくちゃ好みだった、と結論付けるしかないのかもしれないが、が、まだ待って欲しい。
     おれのマイスウィートエンジェルはローちゃんだけの筈だ!
     「……、……………さん」
     人生の推しだと、もうこの子以外本気で愛せないと、そう思ったあの日の衝撃はまだ色濃くおれの中に残っているし、今だってローちゃんの事を思えば熱く込み上げる愛しさは健在である。
     「…シ………さん?」
     だからおれは浮気をする訳にいかないのだ。いや他人が色んなジャンルでそれぞれ推しを作っている事を否定するつもりはない。ただおれは推しをただ一人と決めているというだけで、ローちゃんだけを生涯愛し抜くと誓った思いを無かった事にする訳にはいかない! だから、だから……!
     「ロシナンテさん!」
     「え!? あ、……え?」
     「やっと反応してくれた……」
     ハッと意識が現実に戻ってくる。どうやらおれは考え事に耽りすぎていた様で目の前のロー君にいらぬ心配をかけ……って近ァァァア!? 高解像度! 上目遣い! 手が、手が、おれの腕に!? 待って!!!! 三次元怖い!!!!!!
     「ロシナンテさん、何度呼びかけても反応しないから体調でも悪いのかと」
     「あ、あー、ごめんな。ちょっとボーッとしちまった。ははは、もしかしたら多少疲れてんのかもしれないけど元気だから」
     「そうですか? その、それじゃあやっぱり、ダメ、でしたか……?」
     「ん?」
     「その、おれの姿をじっと見てからだったので、男のメイド姿なんてやっぱり気持ち悪かったんじゃないかと思、」
     「え、んな事ねぇこんな可愛いのに! ……あっヤベ!」
     咄嗟に漏れた本音にキョトンと見上げてくる顔が心臓にダイレクトアタックをかましてくる。
     エーーンッ可愛い! たすけて! この子可愛い!
     もう完全におれが変態で確定しちゃったよ。いたいけな男子高校生に女装させてゲヘゲヘしてる変態男がおれで確定! 刑務所で会おう!
     「そう、ですか? ……………なら良いです」
     「よくなくなくなくない!?」
     「え?」
     待て待て待て待てーー!?
     「冷静に考えろ。男子高校生に女装メイドさせてそれを『可愛い』なんて言ってる男の下で働かなきゃいけないんだぞ!? 危機感とかこの仕事危ねえなとかそういう意識しっかり持て! 自分を真っ先に守れるのは自分だけなんだぞ!」
     またしても不思議そうな顔で見上げてくる彼にバッキュンバッキュンしながらも何とか言葉を絞り出す。あまりにも無警戒すぎてこっちが焦る。立ち居振る舞いはしっかりしてるのに、どうしてこうも無防備なのか。会って間もない人間に気を許しすぎじゃねえか?
     そんな焦燥感に似た感情に突き動かされるままガシッと掴んでしまっていた両肩に、彼がチラリと視線を落とした。
     あ、もしかしてこれもセクハラに含まれたりします?
     「……ふふ、大袈裟ですよ。そもそも専属メイドの仕事なんですからこれを着る事になるのも想定の範囲内です」
     「いやでもよぉ、流石にそうは言ってもそのぉ、嫌じゃねえの?」
     おれが肩を掴んだことで自然と外れてしまっていた彼の左手がゆっくりと持ち上がると、もう一度おれの腕に添えられた。ん?
     「まあ男なんで、慣れない格好に思うところが無い訳じゃないですが……」
     そう言いながらも伏目がちだった瞳をゆるりと合わせる様におれの顔を覗き込みつつ、添わされた指先がつつつーっとおれの手の甲までなぞり上がる。え、え?
     「こんな破格の待遇で雇用主にも気に入ってもらえると言うのなら、──これくらいどうとでも」
     ささめくように、手の甲をするりと指先で一周なぞったのち、ゆるくキュッとおれの手を掴んでから小首を傾げてイタズラな猫の微笑みで告げるその姿に、おれの心情がえらい事になった。
     こ、こ、こ、小悪魔ちゃんだーーーー!!!! 天使でも妖精でも女神でもなく、小悪魔ちゃんだったこの子! 最近の若い子って皆こうなの!? 怖い!!
     「それに相手を見て判断してますし、一応もしもの時の事も考慮しています。おれ、人を見る目はあると自負してますから」
     魔性のアンバーに視線を縫い止められて、もうおれはハクハクと言葉を紡ぐことすら出来ずに彼の一挙手一投足を見守る事しかできない。そんなおれを、楽しそうに掴んだ手をにぎにぎしながら見詰めていた彼は、ふっと気を緩めたかと思えばニコリと微笑んでこう告げた。

     「だからどうか、このまま御勤めさせてくださいませね────ご主人様?」
     「ひゃ、ひゃい」

     それではどこを掃除すれば良いのか早速ご指導ください、とおれの手を引く彼にもうなにか言い募ろうなんて気持ちは欠片も沸いて来なかった。
     ──もしかしておれは、とんでもない子をメイドさんにしてしまったのではないだろうか?
    そんな憂いが脳裏を過りつつ、ドキドキと脈打つ心臓がこれからの日々に期待と喜びを見出してしまっている事はどうしようもなく明らかだった。

     とりあえず、さっきから笑いを堪えてヒーヒー震えまくってるドフィの事はド突き倒した。
     倒れなかったけどッ!
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator