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    ❤️‍🔥さんの家でメイドさんのバイトする🐯さんの話の続きの続き。🐯さん視点。

    メイドイン俺ん家③ あの日アイツに出会えたのはチャンスとしか思えなかった。

     おれはずっとコラさんを探していた。前世での恩人、ドンキホーテ・ロシナンテ──コラソンとも呼ばれていた人だ。
     おれは生まれた時から前世の記憶があった。大海賊時代──今となっては遥か昔のお伽話のような扱いをされている頃の記憶だ。現代に生きているとその扱いも然もありなん、あの頃の悪魔の実とか覇気とかと言った特殊な力は失われて久しく、魚人族やミンク族もあの時代ほどの能力は有してない。世界情勢もかさね平和そのもので、一部の国や地域では争いもあるが、世界政府や天竜人、海賊共が幅を利かせまくっていたあの時代と比べれば、何の罪もない人々が突然全てを根こそぎ奪われちまうような可能性なんて殆どない今の方が断然過ごしやすいだろう。
     そう全部、全部覚えているんだ。
     だからかつておれの日常がひっくり返った日と同じ歳がすぎても父様も母様もラミも、皆が穏やかにそこにいる事実が涙が出るほど嬉しかった。それにベポ、ペンギン、シャチ、ヴォルフ、他にも多くの知り合いにだってもう一度巡り合うことも出来た。
     知り合いの中にはおれの様に覚えている奴もいれば、朧げな者、全く覚えていない者、様々だ。年齢差とかも変わっていたりするので「おれもキャプテンと学生生活したかった……!」とおれよりも五歳年上になっていたシャチに嘆かれたりもした。ペンギンとおれは同い年、ベポは一つ下だったから余計に仲間外れになったようで悔しかったんだろう。そんなシャチの為にもアイツが働いてるカフェを溜まり場としてよく利用しているのが再会してからの常だった。

     「コラさん、どこにいるんだろうねー」
     いつもの様に学校帰りに溜まり場へと向かう道すがらベポが呟く。ベポは所々抜けはあるものの記憶がある方だ。おれに関する事は取り分け覚えていたようで初対面で泣きながら抱きつかれたのは今だに仲間内では笑い草になっている。だからおれがコラさんを探している事もすんなり納得していた。
     「前世の人達の出会うタイミングって基本前世と似通ってんでしょ? あーでも記憶ないパターンだとズレるっぽいって麦わら達が言ってたんでしたっけ? そしたらコラさんもやっぱり記憶ないパターンなんですかね」
     相槌を返すペンギンは記憶が朧げだ。しっかり覚えているシャチから色々話は聞いている様で偶に本当に朧げなのか疑いたくなるほど話を合わせてくれるためその気遣いには頭が下がる。
     「アイツらも出会う順番違ったようだからな。ゾロ屋と黒足屋が幼馴染だったってぇのは笑ったが」
     「幼馴染でずっとあの調子なんですから凄いっすよね……」
     見慣れたいがみ合いを三者三様思い浮かべながら歩いていると、ふと視界の端にチカリとなにかを捉えた気がした。
     それはきっと取り分け目を惹くような事象ではなかっただろう。それでもおれは不思議と導かれるように視線をそちらに向けた。その先に──
     「キャプテン?」
     「え、ちょ、ローさん!?」
     身体が跳ねるように駆け出す。ほぼ反射の行動で思考はあとから追随してきた。アイツはアイツはアイツは!
     「ッなあ、アンタ!」
     がしっと掴んだ腕に男が振り返る。男の側にいた奴が「おい!」と叫んでいるが気にしていられない。見上げる程の体躯と、逆光に透ける逆立った金髪。目元を隠す特徴的なサングラスがギラリと光っておれの方を向いた。
     「お前…………ロー、か?」
     ドンキホーテ・ドフラミンゴ──コラさんの実の兄はおれをしっかりと見据えて、まだ名乗ってすらいないおれの名前を口にした。


     店から出て車に乗るところだったドフラミンゴを奇跡的に捕まえたおれは、心配するベポとペンギンに大丈夫だからと言い含めてなんとかその場で別れ、ドフラミンゴがよく行くという見るからに高そうなレストランに来ていた。
     「それで、コラさんはどこにいんだよ」
     「フッフッフッ、あんな熱烈におれの腕を取っておいて早速別の男の話か? 相変わらずツレねえガキだ」
     「はぐらかすんじゃねえ、さっさと答えろ」
     向かいのソファに座った男をじろりと睨め付ければ何がおかしいのかさらに笑みを深めやがる。今は個室に通されて二人っきりの状態だ。あの時ドフラミンゴと一緒にいた男、ヴェルゴはあんまり覚えていないのか渋ってはいたものの上司であるドフラミンゴに言われるまま席を外している。まあおれの事は本能的にいけすかないのか殺意すら篭ってそうな目を隠しもせず去り際に睨んできやがったが。
     「全く我慢が効かねえのは変わんねえな。しかし、コラソンか……」
     「?」
     ニヤニヤ笑いで手を組む仕草は記憶にある通りに不遜で堂に入ったものではあるが、多少の躊躇いをわずか滲ませており、珍しいなと首を傾げる。
     「勿論コラソン──ロシナンテも生きているしなんなら一緒に暮らしてる」
     「それなら!」
     「だが、記憶は無え」
     「ッ」
     「記憶は無い、筈なんだが……」
     「…………?」
     コラさんの記憶が無い想定をしていたとはいえ、現実にそうだと伝えられると思った以上にショックを受ける。だがその後続いた煮え切らない言葉にどうにもさっきからコイツらしく無いと眉を顰める。
     「なんだ? 完全な記憶は無いが、多少覚えている事でもあんのか?」
     「覚えている、あれを覚えていると言っていいのかどうか……」
     「はっきりしねえな」
     「フッ、フッフッフッ! そうだなこれに関しては実際に見た方が早えだろう。……丁度いい、おいロー。お前、ウチで働く気はねえか?」
     「ぁあ?」


     そっからトントン拍子に話が進んでコラさんの部屋をバイトとして掃除する事になり、まずは当人と顔合わせだとその日の内にコラさんと再会して(向こうからしたら初対面だが)、色々あってドフラミンゴとコラさんの家をあとにした車の中、頭を抱える羽目になった。
     「あの時代を題材にした作品なんざ沢山あんのになんでよりによってアレ……!」
     「フッフッフッ! どうだ? おれが言い兼ねた理由もよーくわかったろう?」
     未成年をこんな時間まで拘束してそのまま帰す訳にいかないという口実でドフラミンゴの車で家まで送られている最中だが、愚痴を存分に吐けるというのは正直有り難かった。
     漸く巡り会えたコラさんは……オタクだった。
     それもおれ達が過去に生きた時代をベースにした美少女ゲーム──そう、歴史上の人物を敢えて"女体化させまくった"美少女ソーシャルゲーム『百花繚乱!ワンピース〜サラダ食べて海賊王〜』に登場する、おれを元にした女キャラを推すオタクだったのだ。
     何が悲しくて恩人が過去のとはいえ自分モデルの女キャラのTシャツ着てるのを間近で見なければならないのか。つかあれキャラデザ考えたヤツ誰だマジ。忌々しい記憶が蘇るほど外見といいなんといい見覚えがあるんだが!?
     前世の知り合いの関与が疑われるほど手持ちの端末で急ぎ調べたゲーム内容は、野郎共全員女体化という色物具合とは反比例して歴史に忠実に、なんなら現在解明していない部分さえ見てきたかのように精巧に作られているようで歴史マニアにすら一目置かれて確固たる地位を築いているらしいというなんとも言えないものだった。
     まあ、まあ、一万歩譲ってコラさんがおれを元にした美少女キャラに懸想してるのは良いとしてもだ。まさかコラさん専属メイドとして潜り込む羽目になるとは思っていなかった。
     「なあ、本当にメイドじゃねえとダメなのか?」
     「なんだ嫌なのか? だとすると高校生のお前に紹介できる仕事はウチにはねえなあ?」
     「チッ、白々しい」
     「おいおい、実際アイツに近付ける口実と言ったら本当にこれくらいしかないぜ? なにせロシィはおれの傘下で働いてる訳じゃねえ。そしてお前はポッと出の他人だ。いくら名前も見た目もロシィのハマってるヤツにそっくりったって現状それだけだ。おれにだってお前を雇うメリットなんざどこにもありゃしない。当初は専門業者に頼む予定だったんだぜ。それをド素人の学生一人に任せようっつーこれ以上ない提案のどこに文句があるってんだ? なあ?」
     「…………ああ、そうだな。アリガトウゴザイマス、ドフラミンゴサン」
     「わかれば宜しい」
     いつものあの笑い声をあげて上機嫌に運転する姿を助手席から睨み付ける。それすらも愉快といった風の男の態度が業腹で、ついっと反対の窓へと顔ごと視線を背けた。
     コラさんに記憶がないのは正直ショックだ。だけど記憶がなかった奴にある日記憶が戻ったという例も知っている。だからコラさんももしかしたらそれかもしれないし、おれと接している内に思い出してくれるかもしれない……そんな願いが無いとは言わないけれど、でもそれよりも。

     おれの目の前に、あの人が元気な姿で、生きて暮らしている。

     それを側で見ていられるのならば、多少不本意な目にあっても耐えられると思ってしまう気持ちの方がずっとずっと強かった。
     「精々親に反対されない様、上手い事やれよ高校生」
     「わかってる。速攻連絡してやるから準備でもなんでも進めてろ雇用主」
     家の近くで停めてもらい車から降りる。家の前じゃねえのは流石にこの如何にもな高級車から降りてくるのを見られたくなかったからだ。絶対話が難航する。
     日も暮れた静かな住宅街のなか去っていく車を見送って息を一つ吐き反転、家路を急ぐ。まずは両親の説得、これが出来なきゃ始まらねえ。


     そうして帰宅してすぐに「後で相談がある」と父様と母様に持ち掛けて夕食後に時間を作ってもらい交渉に挑んだ。
     バイトする事自体は平気そうだったが、やはり簡単に経緯と勤務地と仕事内容を告げた辺りで予想通り難色を示された。経緯の部分は多少嘘も織り交ぜているとはいえ、勤務地と仕事内容で嘘を吐くのは同意を貰う契約書にも記されている手前得策ではない。なので「メイド」という部分だけ「清掃業務」に置き換えて説明した。ドフラミンゴにも契約書はそう書いて欲しいと頼んで流石にそこは同意してもらえている。ただそうは言っても店やビルでの清掃とは訳が違うのだ。あくまでも個人宅での清掃なんて、それも高校生に個人的に頼むなんて何かあるのではと疑われても仕方ない。そこで経緯を詳しく語る際に少し盛り、バイトがしたいおれに知人が紹介してくれた依頼主で、依頼主の弟の部屋は汚いのに掃除しろと言っても聞かず業者に任せようにも「自分の収集品の価値をよく知らない他人に任せられない」と断固拒否する気難しい弟にほとほと困っていた事、今回おれがその弟と実際に会って収集品関連で盛り上がったことでおれなら任せられると言ってもらえた事を話した。そして契約段階でおれが高校生だとわかった瞬間に驚かれて親の同意がなきゃダメだと追い返された、頭固いよなと語った辺りで両親の反応は徐々に軟化し始め、トドメにその契約書と依頼主の身元証明として預かってきた名刺を出せばほぼ決まったようなもんだった。ただ意外だったのは父様がドフラミンゴの事を知っていた様で「依頼主はどんな人だった?」と尋ねられて「金髪に変なサングラスのデケエ男」と答えたら「ああ……またとんでもない人と知り合ったねロー」と遠い目をされ、母様にも「ローだからねえ」とどこか諦めた顔されたのはちょっと解せない。今生は海賊みてえな事もしてねえし真っ当な人生歩んでる筈だが?
     
     こうして親の同意も無事もぎ取り、意気揚々とドフラミンゴに連絡をし、万一両親が探りを入れた時用に友人知人にも根回しをして改めて訪れた二人暮らしにはデカすぎる豪邸の一室。いざ本格的なメイド服を目の前に掲げられて一瞬気が遠くなっちまったのは正直大目に見て欲しい。
     「……本気か?」
     「ああ本気だ」
     「正気か?」
     「正気だな」
     フッフッフッとそれはそれは楽しそうに笑う相手と示された服一式を交互に見て「狂気の沙汰だろ……」と途方に暮れる。メイドと言ってもまさか女物ではないだろう、流石にそこまではしねえだろうという淡い期待は見事に裏切られた。どう見たって女物のメイド服、それも正統派とかクラシカルとか言われるヤツである。この生地からして安物とは思えず、そもそも週一〜二日の数時間勤務とはいえ高校生アルバイトの平均時給の五倍くらいの賃金を提示された時からコイツが今生でも金持ちだろう事はもうこの家からしてもわかりきっている為、最悪オーダーメイド疑惑すらあるのだ。男に着せるメイド服に。絶対にツッコミたくないけど、これが狂気でなくてなんだって言うんだクソ!
     「……趣味悪ぃなアンタ」
     「おれの趣味じゃねえよ。これも歴としたロシィの要望そのまんまだ。どうしてもメイド雇うならこんな衣装が良いってな」
     「酔っ払いの話だろう……いや酔っ払いの話だからこそ本心なのか?」
     「さてな。ただ悪ノリするならとことんやった方が、信憑性は増すってもんだろう? 幾ら注意しても全然やる気をみせねえ弟に腹を据えかねてる兄っていう体の、な」
     存外本当にキレてるんじゃなかろうかと思わなくもないがそれは敢えて突っ込まないでおく。チラッと見えたコラさんの部屋、マジで汚かったし。そのくせ自分の部屋に他人を入れたくねえとか我儘をかまし「いつかやるその内やる」と言って早数年経つそうなので、堪忍袋の緒もほぼ千切れてんだろう。流石にそこは同情する。同情する、が! やっぱ腑に落ちねえ!
     「で、その本心は?」
     「めちゃくちゃ楽しい」
     「ックソが!!!」
     同情なんてするんじゃなかった!
     マジで愉快で堪らねえと言ったその顔面をサングラスかち割る勢いで殴りたい衝動に駆られながらもなんとか耐える。一応、仮にも、建前上、こうしてチャンスをくれたのは他でもないコイツなのだ。記憶の無いコラさんの側にいられる理由をどんな内容であれ用意してくれた事実は変わらない。あの人ともう一度知り合う機会を作ってもらったのだからここは大人になるべきだ。ガワは未成年でも精神年齢は前世と合算させたら十分すぎるほど成熟した大人だろう、飲み込めおれ。広い心で懐の深さってもんを示してみせろ!
     「ああそうだ、勤務中はおれとロシィの事は『ご主人様』と呼ぶように。折角の面白ぇ機会だからな」
     「もう一度インペルに落ちろ色眼鏡鳥野郎!」
     思わず手が出るも全く頭には届かなくて余計腹立たしくなった。マジありえねえパワハラで訴えてやろうか!クソ!

     まあこの後、おれのメイド姿を見たコラさんの反応があまりにも良かったもんだからご主人様呼びも悪くないなと認識を改めてやった。ただあくまでも、コラさん限定だ!
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