美少女ビマヨダ ワンドロ
服装でわかるよって話だけどスルーしてください
◆出会い
遠くからでも輝いて見えた、あの一瞬の会合。目があったのは一瞬で、逸らされたのもすぐだった。それでもビーマは感じたのだ。
あ、こいつだ、と。
華やかな装いを華麗に翻して王宮へと消えた姿に、ビーマは心を奪われた。誰だろう、名前は?すきなものは?きらいなものは?
もっと知りたい、とごく自然に思った。
◆勘違い
名前も知らぬ"美少女"を、ビーマは毎日探し回っていた。とてもきれいだ、と思ったのだ。己とは違う色をした紫の髪、涼やかな目元、凛とした立ち姿。広い王宮の中で姿を見ることは稀で、それも遠くからしか伺えない。目があったのは初めて見かけたときだけ。いや、あちらは目があったとも認識していないかもしれない。それでもビーマは諦めなかった。
「あ!」
長い廊下の先に目的の美少女を見つけて、ビーマは瞳を輝かせた。彼女は庭へと続く通路へ曲がって姿を消した。
ビーマはぐっと脚に力を入れると、風神の力を使って一気に駆け出した。
◆悩み
ドゥリーヨダナは悩んでいた。最近になって見た目を褒められることが増えたのだが、どうもドゥリーヨダナが望んでいるのとは違う方向に褒められることが多い。ドゥリーヨダナは「格好いい」と言われたいのだが、「かわいらしい」と言われることが圧倒的に多い……というより、すべてだった。目標とする言葉に近づこうと武術に打ち込んでも、挨拶の時に言われるのはかわいいですねをひたすら修飾した長ったらしい台詞。
己の見目が良いことは自明の理だが、ドゥリーヨダナはそれでも気に食わないのであった。
◆捕獲
「つかまえた!」
ひとりで庭を歩いている時に、ドゥリーヨダナは突然後ろから腕を捕まれ、驚いて立ち止まった。
「なんだ?」
「やっとつかまえた!」
振り返った先には瞳をキラキラさせた少年が一人。年の頃はドゥリーヨダナと同じくらいだろう。
「お前……」
こいつは最近俺の周りをうろうろしているやつだ、とドゥリーヨダナはすぐにわかった。以前一度目があってから、しつこいくらい視界の端に写り込んでくる。遠くからでもすぐに分かる濃い紫色の頭が煩わしいと思っていたところだ。
苦情を入れようと口を開きかけたドゥリーヨダナだったが、少年のほうが先手を取った。
「お前、すげーきれいだな!」
「は?」
突然の告白に眉を寄せる。何を当然のことを。
しかし、続く言葉がドゥリーヨダナの神経を逆なでした。
「"美少女"って、お前みたいなやつのこと言うんだな!」
「違うわボケ!」
ニカッと人好きのする笑顔に、ドゥリーヨダナは拳を一発お見舞いした。
◆発覚
「……ということがあったのだがお前は覚えているか?」
ビーマの部屋のベッドでピロートークの最中、ドゥリーヨダナはそう言ってフフンと鼻で笑いながらビーマの顔を覗き込む。ビーマは両手で顔を覆って肩を落として小さくなっていた。
「ビーマ?ん?おぼえているのかいないのか」
わざとらしく耳を近づけてやると、ビーマは細い声でドゥリーヨダナに答えた。
「…………覚えてねぇ」
「いや覚えてるだろその反応は」
「覚えてねぇ!」
「うぉっ、おい、勢いで誤魔化そうったって……んんっ」
無理やりドゥリーヨダナの口を自分の口で塞いで、ビーマはかつての失態をなかったことにした。
こいつだ、と思った直感だけは、勘違いではなかったことは置いておいて。